文化祭
「悠介、こっちも頼むー!」
「はいよー。」
あっという間に一週間が経って、今日は文化祭だ。
俺は芋をふかす係、調理実習室に籠って、ひたすらに朝っぱらから芋をふかしてた。
仲の良い友達、って言うか、噂話に振り回されてない子もいる、って言うのに気付いた俺は、そう言う子と関わる様になって、今一緒に芋をふかしてる良太は、そんな中の一人だ。
そもそもが仲が良かった訳ではない、ただ、同じクラスの人間としてなんとなくお互いを知ってる、程度だったんだけど、良太の方から話しかけてくれて、ずっと俺達と友達になりたかったんだけど、って言ってくれた、だから、それを信じて友達になった。
元々はグループが違うって言うか、良太は文系の類で、体育会系の浩介と、その浩介と付き合ってる俺とは肌が合わないだろう、って思ってたらしくて、でも俺の事情を知ってから、何かと面倒を見ようとしてくれてる、良いやつだ。
「良太、こっち出来そうだぞ?」
「わかったー!」
二人でシャカリキ芋をふかして、販売してる校舎入口の所まで持って行ってもらって、それをずっと繰り返しながら、気が付けば次にふかす芋で品切れだ。
「良太、次で最後だって伝えておいてもらって良いか?」
「わかったよー!じゃあ、行ってくるー!」
良太は鍋いっぱいの芋を運んで、向こうにおいてある蒸し器に詰める為に、調理実習室を出ていく。
俺は一人、芋をふかしながら、そろそろ秋が深まってくるんだろうな、って言う気配を感じてるって言うか、文化祭は秋の入り口、って言うイメージがあるから、ここから寒くなるんだろうな、って言う事を考える。
「悠介、調子はどう?」
「お、浩介。野球部の方は良いのか?」
「今は智也君がメインでやってくれてるから、ちょっとだけ顔を出そうと思ってさ。それで、良太君は?」
「今ちょうど、芋を向こうに届けに行ってるよ。」
「そっか。そろそろ売り切れそう?」
「まだ午前中なはずなんだけどな。去年もそうだったけど、この時期にじゃがばたって言うのは、やっぱり売れ行きが良いんだろうな。」
まだ午前は十一時、出店をやってる連中は休憩とか交代をしながらやってるけど、俺と良太は引き籠って朝の八時からずっと芋をふかしてる、それがそろそろ終わるんだから、もうちょっと時間が経っててもおかしくないな、なんて思ったけど、時計を見るとまだ十一時だ。
浩介は昼休憩を兼ねてここに来たんだろう、俺も昼飯を食べたいと思ってたから、丁度良かったかな。
「浩介、昼飯食うか?ちょっと早いけど、良太もそろそろ回りたいだろうしな。」
「うん、そうする。」
「ただいまー!あ、浩介君、部活の方は大丈夫なの?」
「うん、お昼食べようと思って、智也君に任せてきちゃった。」
そんな所に良太が戻ってきて、三人で弁当を広げて飯を食べようか、なんていう空気になる。
良太は文化祭を回りたいかな、なんて思ってたけど、バッグから弁当を取り出したから、そう言う感じではないんだろうか。
「僕も一緒に食べていい?浩介君達とご飯食べてみたかったんだー。」
「俺は良いぞ?浩介はどうだ?」
「うん、全然大丈夫だよ。」
「ありがとう、じゃあ、食べよっか。」
弁当を出して、浩介と良太と三人で昼飯を食べる。
そんな事をするのも久しぶりって言うか、高校に復帰してからは、基本的に浩介と二人で弁当を食べるのが当たり前になってたから、他の人と飯を食う、って言うのも久しぶりに感じる。
そんな事はない、って言いたいところだけど、事実浩介とか、いても智也と三人だったから、良太っていう新しいメンバーが加わるとは、良くも悪くも思ってなかった、って言うのが正解な気がする。
「そうだ、悠介君ってさ、浩介君によく色んなお話をするんでしょー?どんなお話をするのー?」
「ん?話って言うか、説教くさいだけだぞ?俺の癖って言うのかな、何かと説教をしたくなる人種なんだよ、俺。多分、聞いてたら鬱陶しくなるぞ?」
「そうかなぁ?悠介君のお話を聞いてる時の浩介君って、いっつも真剣って言うか、ちゃんと聞かなきゃな、って言う顔してた気がするよー?」
「良太君、よく僕達の事を見てくれてるんだね。そうだね、僕は悠介の言葉に意味がない事はないと思ってるんだ。悠介の言葉は、必ず僕達に向けた言葉がある、想いがある、心がある、そう思ってるから、僕はちゃんと聞かないと、って思うんだ。」
浩介は、俺の話をよく聞いてくれてる、それを良太は見てたみたいだ。
ちょっと恥かしい気もするけど、でも浩介はそう思ってくれてる、それを改めて理解出来た、それは嬉しい。
浩介にとってノイズじゃないか、鬱陶しくないか、それを心配してたから。
良太は良い話を振ってくれた、俺の不安だった所を、素直な気持ちで聞いてくれた、今まで関わってなかったって言うか、関わる事が無かった良太だけど、こんなにいいやつなら、最初から関わっておけば良かったかな。
「それで、悠介君のお話で最近気になったのとかあるのー?」
「うーん……。そうだ、あれかな。明確に敵味方が分かれる、って言う話。」
「敵味方ー?」
「うん。高校生になって、思春期を過ぎて、明確に敵と味方が分かれる事があるんだ、って悠治に言っててね?親方さんがおじいさんに言われた事がある事なんだって言ってたけど、悠介はそれを覚えてて、それを僕達に教えてくれたんだ。僕にとって敵は、悠介を傷つけようとする人、尊厳を傷つけようとする人、だから、僕にとっての味方は、悠介を友達って言ってくれる人達なんだ、って最近気づいたんだ。」
「じゃあ、悠介君にとって明確な敵ってどんな人ー?」
良太は、素直な子なんだろう、なんでも聞いて、吸収しようとしてくれるから、話す方として気が楽だ。
重たい話、なんて言わずに、素直に話を聞いてくれる、そう言う人も、この歳になってくると少ないから。
「そうだな……。俺にとっての敵は、俺の大切な人達にとっての敵だな。尊厳、友情、愛情、そう言った事を踏みつけにする奴、が俺にとっての敵だ。それがたとえ、かつての友だったとしても、かつて友だと思っていたとしても、敵になる事はある。逆に、敵だと思ってた、関係のない奴だと思ってた人間が、思わぬところで味方になったりな。良太だってそうだぞ?俺達とは関わりが無いタイプだと思ってたけど、今はこうして友達でいてくれる、だから、俺にとって良太は味方だ、って言う事になるな。」
「わぁ、なんだか素敵な響きだねー!嬉しいなぁ、ずっとお友達になりたいと思ってたから。でも、話しかけて良いのかな?ってずっと思っててね?勇気を出して、声をかけて良かったなー。」
「有難い話だ。良太が話しかけてくれなかったら、俺はその気持ちにも気づいてなかっただろうから。」
「そんな事ないよー!二人が良い人だから、僕も勇気が出たんだよー?」
良太は、ぱっちりとした目を細めて笑ってる、痩せ気味な体型にぱっちりした目をして、丸顔に近い良太は、何処となく浩介と悠治に似てる、って言っても、顔の雰囲気が、って言う話なんだけど、最初顔を合わせた時は、少しだけ驚いた覚えがある。
親戚か?って言う位雰囲気が似てて、それでいて喋り方とかは全然違うもんだから、それはそれで驚いたし、間延びした声、って言うのかな、待ったりした声を出す良太は、俺達とは結構対照的だ、とも思った。
文系、慢研に所属してる良太なんだけど、髪の毛を伸ばすとチリチリパーマになっちゃうから、って言う理由で坊主にしてて、それがまた見た目を浩介達に近づけてるって言うか、それを言ったら俺も坊主なんだけ度、俺の場合は髪の毛が伸びると寝癖がすぐについちゃうから、浩介と悠治は野球部だから、良太はパーマになるのが嫌だから、理由はそれぞれだ。
「悠介君って、難しい事をお話するんだねー。でも、なんとなく言いたい事はわかるかなー?全部がわかるって程、僕も頭は良くないけどさー、でも、なんとなくだけど、二人を見てるとその気持ちはわかるんだー。」
「そうか?」
「うん、そう思うよー?」
「良太君は、悠介のそう言う話を聞きたいと思ったの?」
良太は、俺達の話を聞いた事があるんだろうか、それが疑問だったけど、浩介が代わりにそれを聞いてくれる。
俺から、聞き耳立ててたのか、って言うのは角が立ちそうだったし、こういう時に、浩介の純粋さに救われる。
「うーんとねー。噂に聞いてた位かなー。悠介君って、時々うるさいって言われる位、お話が好きなんだーって、そう言う噂ー。でも、僕がちらっと聞いた時は、浩介君の事をよく考えてて、偉いなーって思ったんだよー?」
「噂になってたのか、俺は……。まあいいか。そのおかげで、こうして良太と友達になれたんだから、それも間違いじゃなかった、って言い訳をしておこうかな。」
「悠介君ったら、面白いねー!」
何処がツボだったのか、良太はくすくす笑ってる。
浩介もそれにつられて笑ってて、俺も自然と笑顔になる。
こうやって、友達と話すって言うのが久しぶりだった気がする、智也は友達として接してくれてたけど、事情を知ってる身だから、って言う理由で、深くは突っ込んでこなかった。
そう言うのを抜きにして、良太は友達であろうとしてくれてる、それが俺にとっては、俺達にとっては、有難い話だ。
「さ、食べ終わったら後ひと踏ん張りだな。」「そうだねー!浩介君は部活の方に行くんでしょー?」
「うん、智也君に任せっぱなしは良くないと思うし、僕だって部長なんだから、頑張らないと。」
「頑張れよ、浩介。」
浩介は、昼飯を食べ終わると、急いで部活の方に戻っていく、俺と良太は、後ひと踏ん張りだ、って言って、芋をふかす。
文化祭を回りたいって言う気持ちもなくはなかったけど、浩介は部活の方で忙しいわけだし、俺一人で回ってもつまんないだろうし、って思うと、ここの片づけをするのが正解かな、なんて思うんだ。




