さりげない日々
「そうだ、悠介修学旅行に着ていく洋服決めてる?」
「ん?そう言えば来月か、時間が過ぎるって言うのは早いもんだな。」
「じゃあさ、お揃いの洋服にしようよ!一緒に買いに行こう?」
「良いのか?」
少しだけ時間が経って、十月の頭、そう言えば来月は修学旅行だ。
俺達が住んでるのが千葉、今年は修学旅行は沖縄だったはずだ、幸いな事に、積立金はは払い終わってて、行けないって言う事にはならなかった、ただ、来年からは奨学金を借りる事になる、その申請もそろそろしなきゃな、って感じだ。
浩介とペアルックって、そう言えばした事が無いな、って思うけど、俺はバイトをしこたま入れてるから良いとして、浩介は正月位しかバイトを入れてないのに、ペアルックなんて我儘言って良いのかな?なんて思いながら、今日は浩介はオフ、俺もバイトが無い日だから、買い物には丁度良い日だろう。
あれから、学校では腫れもの扱いって言うか、誰もいじったりはしてこないけど、陰口は言われてるな、って言う空気が流れてて、浩介以外ってなると、野球部のメンバー位しか交流がない、マネージャーにならないか、って言う誘いもあったけど、残念な事に、野球部の忙しさに付き合ってられる程、バイトが暇じゃないって言うのもあって、断った。
有難い話で、見守ってくれてるって言うのは有難いんだけど、今の俺はある程度は稼いでおかなきゃならないし、そう言うのにかまけるって言う言い方は良くないけど、でもそう言う事をしてる暇はないんだな、って。
「行こうよ、悠介とお揃いで、なんて初めてだから!」
「わかった、行こうか。」
浩介がそう言うのであれば、構わないか。
そう思って、家を出て駅に向かって、手を繋ぎながら歩いて行く。
「こっちなんでどう?」
「そうだな、こっちも良さげだぞ?」
大きい服の店に足を運んだ二人は、お揃いのパーカーを選んでいた。
普通のサイズの店では、悠介のサイズが無い、そして、こういう時位、良い物をと浩介が言い出し、少し値が張るが、大きい服の店に来た、というのが今日の様だ。
「悠介、こういうのにはこだわるもんね。」
「そうだな、こういう服って、たまにしか買わないだろう?しかもペアルックなんだから、こだわらないと駄目だと思うんだ。」
「それもそっか。」
悠介は、色々とこだわりがある様子で、唸りながらパーカーを眺めている、浩介は、普段無頓着とでも言うべきか、普段着る洋服には一切と言っていい程気を遣わない悠介が、ここまで悩んでいるのが面白い様子で、くすくす笑っている。
悠介は、そんな浩介の笑い声を聞きながら、洋服とにらみ合いをしている。
「これかな、これが良いな。浩介のサイズは……。」
「決まった?」
「これでどうだ?」
「うん、良いと思うよ。」
浩介は、悠介の選んだ灰色のパーカーを気に入った様子で、それを買おうと相談している。
値段としては六千円、そこそこの値段ではあるが、浩介としても、買えない額ではない、という感覚なのだろう。
「浩介、良いのか?俺が出そうか?」
「ううん、自分の分は自分で買うよ。それ位は余裕あるからね。勿論、普段は節制しないといけないけど、でもこういう時位、思い出としてちゃんと買っておきたいんだ。」
「そっか、なら良いんだ。」
会計を済ませて、たまには外食にでも行くか、と悠介が言い出し、二人は駅ビルに入っている蕎麦屋へと足を運ぶ。
ゲームセンターの中にポツンと店舗を出しているこの店は、悠介が常連で、高校入学の頃からずっと通っている店だった。
「こんにちはー。」
「はい、こんにちは!あら、悠介君じゃない!最近顔を見せなかったと思ったら、今日は彼氏さんとご一緒?」
「はい、来月の修学旅行の為に洋服を買ってたので、そのついでに顔出しとこうと思いまして。」
「丁度お昼時は過ぎたから、空いてるわよー?お席座って座って!」
「はい、ありがとうございます。」
浩介と悠介は席に着き、メニューを眺める。
居酒屋を兼用している、というだけあり、つまみ系のメニューが多いこの店は、悠介にとっては拠り所とでも言えば良いのだろうか、いても良い場所、という感情が強く、そして飯が美味い、という認識だった。
三人の女将がいて、その日その日によって誰がいるかはわからないのだが、悠介は三人ともと仲が良く、高校に入りたての頃から、バイト代を使ってこの店に食事を食べに来る、当時から蕎麦が好きだった悠介は、チェーン店ではなく、この店を選んだ、それは偶然の産物だったのだが、思いのほか気に入っている、というのが正しい感情だろう。
「どれにする?」
「うーん……。僕はあんまりこういう所来ないからなぁ。悠介のおすすめはどれ?」
「俺は基本的に上天せいろかとろろせいろだな。それにマグロの山かけと、飯を頂くのが普段だよ。」
「マグロの山かけ、良いね。じゃあ……。」
浩介がメニューで悩んでいる間、悠介はメニュー表の看板達を眺めていた。
もうかれこれ四十年程営業している、という話を何処かで聞いた覚えがあるこの店は、店主である男性がずっと蕎麦を作っていて、女将は最初一人だったのだとか。
「すみませーん!注文お願いしまーす!」
「はいはい!何にしましょう?」
「僕は天せいろを、後マグロの山かけと、ご飯をお願いします!」
「俺はとろろせいろにマグロの山かけ、半ライスで。」
「はい、かしこまりました!ちょっと待っててね!」
女将に注文を取ってもらい、二人は息をついて落ち付く。
「ねぇ悠介、本当に大学行かなくて良いの?父ちゃん達も、ずっと行ってほしいって思ってるよ?」
「……。いつか、自分の金に余裕が出来たら、通信制の大学に行こうと思ってるよ。それは今じゃない、今は、一刻も早く稼いで、お父さん達に恩返しをする事、だと思ってるから。ただ、夢を諦めた訳じゃない、夢を追いかけて、叶わなかったら、また新しい夢を見て、そう言う事を続けて、いつか納得のいく答えを出せたらな、って思ってるよ。」
「……。そっか、それなら良いんだ。ただ、悠介が我慢とか、諦めるとかっていう結果にならなければ、それで良いって父ちゃん達も言ってたよ。」
「心配を掛けてごめんな。」
悠介がバイトに行っている間、浩介は両親と何度かこの話をしていた。
悠介が家に来てから約三週間、大学には進学しない、就職をする、という悠介の選択肢を村長はするが、それが諦観や我慢の結果だったとしたら、それを諦めてほしくない、と両親も浩介も、ならばと悠治も考えていて、それをバックアップ出来るだけの余力はないが、応援はしたい、と願っていた。
ただ、悠介自身が、それに納得している、というのであれば、そして、夢を諦めた訳ではないというのであれば、それはそれで道なのかもしれない、とも言っていた、両親は、悠介の進路希望に対して、何かを言った事はない、まだまだ親として接しきれていない部分がある、というのもある、自分達の財力の無さが、悠介に遠慮をさせている可能性がある、と感じていて、それを言い出せずにいた。
ただ、浩介や悠治であれば、その遠慮もいらないのだろう、遠慮なく自分の意見を言えるだろう、と両親は考えていて、それを浩介達に託していた。
「はい、これサービスね!」
「はい、いつもありがとうございます。」
「わぁ、美味しそう!」
そんなこんなを話している内に、サービスだという里芋の煮っころがしが提供される、この話は一旦お終いだ、と悠介達は頭を切り替えて、これからの話をする。
さしあたっては修学旅行、沖縄に行くのに、飛行機に乗る事になる、悠介は、飛行機が苦手だと言っていた、それは、高所恐怖症から来るのだと言っていたが、それを堪える必要がある、そんな他愛のない話をする。
「ご馳走様でした。」
「美味しかったね。悠介、僕の分いくら?」
「良いよ、俺が出すから。」
「良いの?」
「良いんだよ。パーカーを選ばせてくれたお礼だ、と思ってくれれば。」
浩介と飯を食い終わって、会計を済ませて店を出る、荷物は忘れてないな、大丈夫だ。
パーカーは、まだ着るには少し暑いけど、多分修学旅行位になったら丁度良いと思う、ただ、沖縄についたら、脱ぐだろうな、って言う予感はある。
沖縄って暑いイメージがあるし、十一月だったとしても、あったかいんだろうなって。
「ありがとう、悠介。」
「良いんだよ。」
買い物の荷物を持ってない方の手を繋いで、一緒に歩く。
「そうだ、お父さん達にお土産買って行こうか。ドーナツが良いかな?」
「うん、皆喜ぶと思うよ。」
駅ビルから少し離れて、ドーナツのチェーン店に向かう。
昔馴染みって言うか、昔からあるチェーン店で、そこのドーナツが昔は大好物で、って言うのを悠治から聞いた覚えがあったから、そこで買って行こう、って言う事だ。
「悠治が好きなのってどれだっけ?」
「えーっとね、これだったかな?」
ドーナツ屋さんは休日だって言うのもあって混んで、イートインはお客さんがいっぱいだ。
ショーケースに展示されてるのを自分で取ってトレイに乗せるスタイルなこの店は、俺もよく使うって言うか、少し小腹が空いたな、っていう時によく利用してた。
学校から家までの乗り換え駅にある、っていうのも有難かったし、乗り換えは定期があるから自由だし、っていう理由で、ちょいちょい買い食いをしてたっていう、少し懐かしい話だ
ここ一か月位、生活に忙しくて、って言うのもあったり、心境的に疲弊してたって言うのもあって、買い食いとかをしてなかったなって。
家にお金を入れなきゃ、って言っても、ある程度自由に出来るお金がある位で良いってお父さん達は言ってくれてるし、それに甘える形にはなるけど、ある程度お金周りに余裕が出来る様に、って思ってバイトを増やしたんだから、それは良いのかなって。
「俺はどれにしようかな……。」
「悠介ってどんなドーナツが好きなの?」
「ん、どっちかって言うとクラシックなタイプのドーナツが好きかな。」
「じゃあこっちじゃない?」
久々って言うか、少し間を空けて来たもんだから、迷うっちゃ迷う。
浩介がさした奴は、俺がよく好んで食べてたドーナツで、それにするか、なんて思いながら、でも他のも食べたいな、って思って、今日位良いか、って感じで、選んでいく。
「浩介はどれが良い?」
「うーんとね、これかなぁ。」
「わかった。」
浩介が選んだのは、最新作って言う触れ込みのやつで、美味しそうだから俺も、と思って二つ取る。
「じゃ、後はお父さんとお母さんか。」
「どれが良いかなぁ。」
後はお父さん達の分を買って、買い物はお終いだ。
今日は珍しくバイトが休み、って言っても、浩介は勉強もしたいだろうし、そろそろ帰らないと。
「お会計こちらでーす!」
「あ、はーい。」
会計を済ませて、店を出る。
少し寒くなってきたかな?涼しい位かな?って言う空気の中、手を繋いで帰る、それは、浩介との変わらないスキンシップだった。
兄弟って言う事になって、関係性が変わるのかな、って思ってた時期もあった、良くも悪くも、兄弟として接する様になるのかな、って。
でも、浩介は俺に対する態度を変えなかった、俺も、浩介に対する態度を変えなかった。
お互い、戸籍上兄弟になったとしても、思いは変わらない、それにホッとしてた。




