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厄災魔女の転生後。〜黒猫に転生したら大好きな飼い主が悪役令嬢にされそうなので、それなら私が幸せにします〜  作者: As-me・com


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3:我慢の限界は突破した(オリヴィア視点)

「はぁ?」



 あまりにも唐突な発言に、思わず口をついて出てしまったのは渾身の「はぁ?」でした。


 おっと、いけないわ。決して淑女の口から出ていい「はぁ?」では無かったですわね。それよりもなんだか一瞬、声が重複した気がしたけれど……気の所為かしら。いけない、誰のせいとは言わないけれどきっと疲れているんだわ。


 わたくしはさっきの「はぁ?」を無かったことにして、再びにっこりと淑女の微笑みを顔に貼り付けました。それにしても、なぜレグルス殿下はあんなにもドヤ顔でこちらを見ているのかしら?婚約破棄……は、万々歳として、断罪?わたくしの罪を暴く?その男爵令嬢ってどなたのことなのでしょう?


 ────というか、わたくしの至福の時間を邪魔した殿下の方がよっぽど罪深いのではなくて?しかも、毎度毎度やって来る度にアタナシアのことを侮辱して……ご自分の罪を数えた方がよろしいのではないかしら。


 ああ、あのドヤ顔をぶんなぐっゲフンゲフン。いえ、暴力はいけませんわね。とにかく、冷静に冷静に……。よし、心の中で殿下の右頬に力いっぱい平手打ちをする妄想をしてなんとか心を落ち着かせることができましたわ。


 わたくしは軽く深呼吸をしてから静かに口を開きました。冷静に、にっこりと微笑みながらです。決して青筋を立ててはいけませんわ。



「……レグルス殿下、まず婚約破棄なさるなら最初に国王陛下から許可をいただいて来てください。この婚約は王命であり神殿も認めた正式な“国への誓い”ですので、まず話はそれからですわ。それと、わたくしは殿下に暴かれるような罪など犯した覚えはございません。その男爵令嬢についても今初めてお名前を伺いましたのでなにかの間違いかと思われます。そのご令嬢と親交を深めたいのでしたら、この婚約を破棄して落ち着いてからでないと外聞が悪いかと存じますわ」


 出来るだけ簡潔に伝えたいことをまとめて言ったつもりでした。この殿下に回りくどい言い回しをしても1ミリも伝わったことがないのですもの。さしずめその男爵令嬢とやらは殿下の浮気相手なのでしょうけれど、なぜわたくしがそんなものに関わらなくてはいけないのかこれまた意味がわからないわ。



 だってこんな男のことなど、毛先ほども好きじゃないんですもの。王命でなければ誰がこんなノンデリのアホと婚約なんかするものですか。というか、先にわたくしを婚約者にと望んだのって殿下でしたわよね?陛下と神殿まで巻き込んで無理矢理婚約させたくせに、なぜそんなに上からな態度でいられるのかしら?


 でも、まさか殿下から婚約破棄を申し出てくれるなんて思いませんでした。断罪云々は別として、このチャンスを逃すわけにはいきません。だから、是非とも陛下を説得してとりあえずこの婚約を無かったことにして欲しいですわ。それはもう切実にです。そうすれば、男爵令嬢だろうがなんだろうが好きに交際すればいいと思います。でも公表が早すぎると何かあったのではないかと裏を探られるのが貴族社会の常でもありますので、そこは慎重に動いていただかなければなりません。殿下の評価は心底どうでもいいですけれど、そのご令嬢が悪意に晒されるのは少し可哀想ですもの。


 つまり、このミッションが成功するかは殿下の手腕にかかっているといっても過言ではないのです。だからこそ、わかりやすく「今すぐ家に帰って、パパに頼んで書類に判子を押してもらってこい。浮気相手とイチャつくのはそれからにしろ」と伝えたつもりでしたのですが……。



「なにぃ?!自分の罪を認めない上に婚約破棄したくないと俺に縋り付くとは、お前には公爵令嬢としてのプライドはないのか?!しかもアンシェラと仲良くしたら悪評をバラ撒くと脅してくるとはとんでもない女だな!」








 はぁ?(特大)







 もし、わたくしの微笑みが崩れてしまっていたとしても致し方がないでしょう。今の「はぁ?」を声に出さなかっただけでも褒めてほしいくらいですわ。一体、どんな耳で聞いたら今のわたくしの言葉がそのように脳内変換されるのか全くもって意味がわかりません。あの耳は飾りなのでしょうか?


 もしや殿下の脳内にはお花畑でも詰まっているのかもしれませんわね。


 ……あら?今一瞬、殿下の体が強張ったように見えた気がしましたが……気の所為かしら。殿下本人も「?」って顔をしてから再びわたくしに向き直ってまたもや暴言を吐いておりますもの。ですが、わたくしだってやってもいないことを認めるわけにはいきません。それなのになぜ反論すると「婚約破棄を拒否」したことになるのでしょうか?勝手に破棄できるなら、こんな婚約などわたくしの方からとっくに破棄していますわよ?




 もちろん、殿下にはお帰りいただきました。我が家の執事が殿下にそう促すと、あまりに騒ぐので部屋の外で待機していた殿下の護衛たちが慌てて殿下を取り囲んでいます。どうやらわたくしに言いがかりをつけて来るつもりはないようでしたのでホッとしましたわ。これ以上の騒ぎは御免ですもの。



 さすがに使用人たちも我慢の限界だったらしく、なかば追い出すような形になってしまいましたが誰もわたくしを咎めませんでした。相手は王族ですから一歩間違えば不敬罪でしょうけれど、冤罪を受け入れるつもりはありません。


 確か殿下は学園では生徒会長の役職に就いているはずですのに、よく今まで務まりましたわね?ああ、耳だけではなくご本人もお飾りだからですね。


 あら、まだなにか叫んでおられるわ。えーと「お前の思い通りにはさせない」とか「アンシェラは俺が守る」とか「お前のような女のことを悪役令嬢と呼ぶそうだぞ!」とか……。



「……わたくしが悪役令嬢、ですか」



 その言葉が妙に心に残ってしまい、口からポツリとこぼれ落ちます。



 悪役令嬢とは、流行りの物語の中でヒロインを妬んで幸せを邪魔しようとする悪者のことですわね。殿下がそのような恋愛物語を読んでいるなんて驚きですわ。


 そうですか、悪役令嬢ですか。それなら、これまで殿下の代わりにやっていた生徒会のお仕事はもうやらなくていいかしら?女のくせに出しゃばるなと言って、わたくしの纏めた書類に自分のお名前を書いていたのに、これからはご自分で出来るんですわよね?だってわたくしは“悪役”なんですもの。


 面倒事は全部わたくしに押し付けて、我儘放題の殿下が本当にストレスだったのですけれど……もう我慢などしなくていいのかしら。そう思ったら少しだけ気持ちが楽になりました。



「殿下、婚約破棄についてはわたくしも“大・賛・成”ですので!そこだけは誤解しないでくださいませ?」


「なぁっ……?!」


 しっかりと念押しをして、笑顔のまま見送ってさしあげました。なぜ殿下がそんなに困惑した顔をなさっているのかはわかりませんが、せっかく同意してあげているのですからもっと喜んで欲しいですわね。


 ちなみにすでに侍女が中で起こったことを事細かく説明していたようで、護衛のリーダー的な1人が重い息を吐いて頭を抱えていますわ。


「アルジェント公爵令嬢に対して、まさかそんな失礼なことを……なんとお詫びしていいか……」


 殿下は待機していた馬車に押し込められながら「そいつらを不敬罪で捕らえろ」と騒いでいますが護衛たちは誰も耳を貸す様子はありません。



 きっとこの護衛たちも普段から殿下に振り回されているのでしょう。ちょっぴり同情しますわね。



「あの気味が悪い黒猫共々、絶対にお前を断罪してやるから首を洗って待っていろ!」


「……!」



 最後にそう捨て台詞を吐いて、殿下は馬のいななきと共に遠ざかっていきました。護衛たちは最後まで頭を下げていきましたけれど、きっと殿下はその意味すらわからないままなのでしょうね。



 どうやら殿下はわたくしを悪者にして、ご自分の正義を振りかざしたいご様子ですわ。でも、そうですか……わたくしの愛するアタナシアに手を出すおつもりだと……そうおっしゃるのね?


 ああ、なんだか頭の奥がスッと冷えた気がしますわ。







「……聞いての通りよ。すぐにお父様に連絡をつけてくれるかしら?」


「すでに手配済みでございます。もちろん、神殿にも」


 いつの間にか後ろにいた執事にそう言えば、にっこりと笑みが返ってきました。我が家の執事はとても有能なようで助かります。






 その時、オリヴィアは気付いていなかった。

 先ほどのやり取りを、あの王子がオリヴィアに吐いた暴言の全てを、紅い瞳が静かに見ていた事に。



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