↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フォルティニア戦記  作者: 引田コウ
第二章 王太子と山の民

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/44

第37話 山の狩人③

すみません、かなり短いです

前回の話に含めればよかったですね

 段取りが固まると、ベルントは焚き火を即座に消した。

 濡れた苔を上から押し付けただけで火はあっという間に消え、空気の中に煙の匂いがほんの少し残るだけになった。それも闇夜の冷たい風がすぐに運び去ってしまった。

 火が消えると、再び世界は深い闇に包まれた。だがアルベルトの目はすでに、その闇に馴染んでいた。


「行くぞ」


 ジョスランの低い声が夜気を震わせた。

 十二人の影が無言で立ち上がった。


 アルベルトの組――断崖の上から下る役――には、ベルントの組の中から、岩登りに慣れた二人が割り当てられた。その二人とアルベルトと、合わせて三人で断崖の上を回り込む形だった。


 ジョスランは正面に押し寄せる本隊を率いる。カーラは岩棚の上に陣取って、弓で全体を支援する。役割は明確だった。

 出発の前にジョスランがアルベルトに近づいてきた。


「エルマー」

「なんだ?」

「ひとつ、聞いておきたい」


 ジョスランの声はいつもより少しだけ低く、しかし真剣だった。


「お前は人を斬ったことがあるか?」


 唐突な問いだった。

 だが、アルベルトはわずかも迷わずに答えた。


「ある」

「何度も、か?」

「軍で戦場に出たことがある。望んで斬ったわけではないが、斬らねば自分が斬られる場面で、何度か斬った」

「そうか」


 ジョスランは頷いた。


「念のために聞いておきたかった。今夜の相手は賊とはいえ人だ。お前が躊躇って迷えば、その瞬間に味方が一人死ぬ。だからお前がその覚悟を持っているか、確かめておきたかった」

「なるほどな」


 アルベルトはジョスランの目を真っ直ぐに見て答えた。


「躊躇わない」

「いい返事だ」


 それからジョスランは少しだけ、視線を地面に落とした。


「ついでに、もう一つだけ言わせてくれ」

「ああ」

「俺たちは今夜の戦で、何人かを失うかもしれん。山の民とはいえこちらも生身の人間だ。賊の刃が誰の体を貫くか、それは戦の最中に決まる。だがもし、俺たちが誰かを失ったとしても――それはお前の責任じゃない。組んだ以上、最後まで戦って、お前は自分のなすべきことを果たせばいい。それでいい」


 その言葉にアルベルトはしばし黙した。

 戦に出る者として、これほど真っ当な言葉はなかった。誰かが死んだとき、生き残った者は無意味な自責に囚われる。それを最初から戒めるのが、本物の指揮官というものだった。ジョスランはそれを承知している。


「お前はいい男だな、ジョスラン」


 思わずアルベルトは口にしていた。


「お互い様だろう」


 ジョスランは少しだけ口角を上げると、それだけ言って本隊の方へと歩き出した。

 アルベルトは少しの間、その背を見送った。


 あの幼馴染のグレイなら、こんな質問はしなかっただろう、と思った。だがそれはアルベルトのことを、グレイが何年も見続けてきたからだ。ジョスランは今夜知り合ったばかりの男に、命を預ける形になる。だからこそ確かめたのだろう。当然の問いだった。

 その当然を無駄に飾らずに口にするのが、ジョスランという男だった。

 好ましい男だと改めて思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。