第37話 山の狩人③
すみません、かなり短いです
前回の話に含めればよかったですね
段取りが固まると、ベルントは焚き火を即座に消した。
濡れた苔を上から押し付けただけで火はあっという間に消え、空気の中に煙の匂いがほんの少し残るだけになった。それも闇夜の冷たい風がすぐに運び去ってしまった。
火が消えると、再び世界は深い闇に包まれた。だがアルベルトの目はすでに、その闇に馴染んでいた。
「行くぞ」
ジョスランの低い声が夜気を震わせた。
十二人の影が無言で立ち上がった。
アルベルトの組――断崖の上から下る役――には、ベルントの組の中から、岩登りに慣れた二人が割り当てられた。その二人とアルベルトと、合わせて三人で断崖の上を回り込む形だった。
ジョスランは正面に押し寄せる本隊を率いる。カーラは岩棚の上に陣取って、弓で全体を支援する。役割は明確だった。
出発の前にジョスランがアルベルトに近づいてきた。
「エルマー」
「なんだ?」
「ひとつ、聞いておきたい」
ジョスランの声はいつもより少しだけ低く、しかし真剣だった。
「お前は人を斬ったことがあるか?」
唐突な問いだった。
だが、アルベルトはわずかも迷わずに答えた。
「ある」
「何度も、か?」
「軍で戦場に出たことがある。望んで斬ったわけではないが、斬らねば自分が斬られる場面で、何度か斬った」
「そうか」
ジョスランは頷いた。
「念のために聞いておきたかった。今夜の相手は賊とはいえ人だ。お前が躊躇って迷えば、その瞬間に味方が一人死ぬ。だからお前がその覚悟を持っているか、確かめておきたかった」
「なるほどな」
アルベルトはジョスランの目を真っ直ぐに見て答えた。
「躊躇わない」
「いい返事だ」
それからジョスランは少しだけ、視線を地面に落とした。
「ついでに、もう一つだけ言わせてくれ」
「ああ」
「俺たちは今夜の戦で、何人かを失うかもしれん。山の民とはいえこちらも生身の人間だ。賊の刃が誰の体を貫くか、それは戦の最中に決まる。だがもし、俺たちが誰かを失ったとしても――それはお前の責任じゃない。組んだ以上、最後まで戦って、お前は自分のなすべきことを果たせばいい。それでいい」
その言葉にアルベルトはしばし黙した。
戦に出る者として、これほど真っ当な言葉はなかった。誰かが死んだとき、生き残った者は無意味な自責に囚われる。それを最初から戒めるのが、本物の指揮官というものだった。ジョスランはそれを承知している。
「お前はいい男だな、ジョスラン」
思わずアルベルトは口にしていた。
「お互い様だろう」
ジョスランは少しだけ口角を上げると、それだけ言って本隊の方へと歩き出した。
アルベルトは少しの間、その背を見送った。
あの幼馴染のグレイなら、こんな質問はしなかっただろう、と思った。だがそれはアルベルトのことを、グレイが何年も見続けてきたからだ。ジョスランは今夜知り合ったばかりの男に、命を預ける形になる。だからこそ確かめたのだろう。当然の問いだった。
その当然を無駄に飾らずに口にするのが、ジョスランという男だった。
好ましい男だと改めて思った。




