第9話
新生活の慌ただしさが少し落ち着き始めた頃、ようやく俺も料理の品数を2つ3つまで増やすことができるようになってきた。
鮭のホイル焼き、きんぴらごぼう、大根の酢の物などなど。
毎回、品数を増やすためにサラダは欠かさない。ドレッシングは無難な胡麻ドレッシングを買ってきた。あまり被らないように作るって難しいもんだな。
そして東雲さんも約束通り、俺の作るものは残さず食べててくれている。
そろそろ言ってみようかな。
「東雲さん、鍋、買いませんか?」
「鍋?」
「煮込んだりする料理を作ってみようと思うんです。うちのは前に持ってきたけど母さんが使うようだったから、東雲さんち用で買えればって思うんです」
遠慮してる、遠慮してるんだけど、そろそろ鍋なし料理のレパートリーも少なくなってきたし、っていろいろ考えてようやく提案できたのに
「いいよー」
だよね。
「どんなのがいいですか?」
自然と聞いてしまった。だって東雲さんちの鍋だよ?自分のじゃない。
「どんなのでもいいよー、たぶん私じゃ使いこなせないし」
ぐ……そうだと思うけど。それなら……
* * *
「やっぱりそれぞれの好みじゃない?」
「母さんもそう思う?」
先輩の母さんにも聞いてみたけど、案の定の答えだった。
「んー、無難なことを言えば、16センチとか20センチの、深めの片手鍋がいいかと思うんだけどね」
「母さんが前に貸してくれたのもそれだったよね」
「そうそう、一番使いやすいのよ」
なるほど。
「私だったら、あとはお財布と相談して決めるわ」
……なるほど。
家事代行を週3で頼めるような東雲さん、お財布と相談なんてしているのだろうか。




