第8話
翌日、平静を装って東雲さんちに出勤した。
そこでまた小さな事件が起こる……
「うそだろ」
冷蔵庫を開けると、そこには2日前の肉じゃが。
「東雲さん、食べなかったんですか?」
「う、うん……ごめんね」
「嫌いでした?」
「そうじゃなくて、えっと、」
「?」
「食べたい気分じゃなかった」
何だってーーー!?
好き嫌いじゃない、食べたい気分じゃないって何?
やばい、どうしよう、この人って今までの俺の常識範囲外の人だ。
クラっとしたけど、ふと気付いた。
いや、これは『気付くことができて良かった』とも言えるか。
「東雲さん、ちゃんと3食、食べてますか?」
「?」
いや待って、何でそんな顔をしてるんだ。
「お腹が空いたら食べてるよ」
違う!
「ダメですよ、身体を壊しちゃいますから」
「そうかな」
「そうです!3食しっかり食べないと!」
「井上くん、お母さんみたい」
満面の笑みで答える東雲さんに、マジかよと思わざるをえなかった。
俺はまだ一人暮らしの経験はないけど、そんな俺だって分かる。
『3食、決まった時間に食事を摂る』
これが生活の基本、なんだよね?
どうしよう、この人にちゃんと食べてもらうには……
「東雲さん、せめて俺が作ったご飯はきちんと食べてくださいね。じゃないと悲しくなってしまいますから」
頭をフル回転させて捻り出した言葉だったけど、素直に
「分かったー」と答えてくれた。
東雲さんは一人じゃない。久世さんや他にもいろんな知り合いがいるだろう。
けど、俺は……
「ほっとけない」
誰にも聞こえないような独り言をつぶやいてしまった。




