第39話
「今の家事代行に行ってるお客さん、病気みたいで……」
ただならぬ俺の様子に、兄貴もじっくり話を聞く姿勢になった。
「気分?テンション?を自分ではコントロール出来ないっていう病気なんだって」
「うん」
「最初に行った頃はいつも元気で明るくて、でも出張に行ってからすごく元気なくなっちゃって、なんか……」
「うん」
「兄貴はそういう人っていたりした?俺はそんな人に接したことないんだ。どうしたらいいのか分からなくなっちゃって」
「メンタルに病気を持ってるってことか?」
ベッドに寝転んでいたけど、上半身だけ起こして頷いた。
「蒼真はあくまで”家事代行”の仕事に行ってるだけだろ?それ以上に関わらなくて良いと思うぞ。仕事相手に何を悩む必要があるんだ?」
確かに正論だ。
「そうだけど、でも……」
「でも?」
続ける言葉が出てこない。
「正直に言うと、メンタルに病気を持ってる人になんてあんまり関わってほしくない。ろくなことにならなそうだし」
「何だよ、それ」
心配してくれているのは分かってる。
けど、さすがにそんな言い方はないじゃないか。
東雲さんのツラさや怖さがちょっとだけ、ほんのちょっとだけだけど分かったような気がした。
話をしただけで、『腫れ物扱いをされるんじゃないか』『気を使われてしまうんじゃないか』『支援モードになってしまうんじゃないか』そんなふうに変わってしまうのは、確かに怖いよな。
「ちょっと一人にさせてほしい。少し考えたいんだ」
「俺も母さんも、お前のこと心配してるんだからな」
「ご飯はちゃんと食べろよ」
そう言いながら兄貴は部屋から勝手に去っていった。
……兄貴になんて話すんじゃなかった。




