第36話
「東雲さんに許可をもらわないと話すことができないからね」
場所を近くのファミレスに移して、ここでようやく名刺をもらった。
”訪問看護ステーション 所長 看護師 久世誠司”
「ほうもんかんごすてーしょん?」
「もちろん馴染みはないだろう」
久世さんから見たら、久しぶりの反応を見たようだ。クスクス笑っている。
「東雲さんみたいな人はあまり身近にいないと思うから、出来るだけ分かりやすく話すようにするよ。分からないところがあったら聞いてほしい」
そう言って、久世さんが話し始めた。
「普通の人でもテンションって上がったり、下がったりするだろう?
東雲さんはそれ以上の気分の波があって、自分ではどうしようもできないんだ。
完治しない、ずっと付き合っていかないといけない病気なんだ。
今までたくさん苦しかったり悲しかったり、いろんな経験をしてる。
そして、本当は家事みたいに出来ないこともたくさんある。
けど遠慮したりして助けを求めるのが下手みたいなんだ。
家事代行としてやってきただけって思ってるだろうけど、普通に接してくれる井上くんの存在に救われたと言っていたよ。
事情を知ってもどうか”いつも通り”に接してほしいと、俺としてもそう思っているんだ」
そうだったんだ……
「久世さんに頼まれた”いつも通り”って、実は難しかったです。
元気なときの東雲さんが俺にとっての東雲さんだったから、あまりの違いにびっくりして……」
ここで言葉が詰まった。
「ゆっくりで大丈夫だよ、今日は許可ももらってるし、ちゃんと話せるから」
久世さんはいつぞやに見た、意地悪な笑顔を見せた。




