第32話
「驚かせてすまなかったね」
歩きながら久世さんが話し始めた。
「こうなるだろうとみんな言ってたんだけど、行くと聞かなくてね」
困ったように笑っていた。
「病院は距離があるから、俺が週3で来ることになったけど、井上くんもよろしくね」
一緒に頑張ろう!と言わんばかりの笑顔だが、
「あの、すいません。俺、事情がわかってなくて……」
久世さんの頭上に雷が落ちたようだ。
「え?うそ……井上くんの対応を見てたらてっきり……」
そう言うと久世さんは右手を口元にあてて、何かを考え始めた。
「ということは、改めて聞いて申し訳ないけど、”何も事情を知らないのに”あんなふうに対応できてたってこと?」
「あ、はい……」
俺の態度に何か問題でもあったのか?そうだったら謝らないと。
「なんか……すみません」
「え?なんで謝るの?」
久世さんがキョトンとしてる。
東雲さんと関わってからいろんな人に出会ったけど、みんな大人で、俺もいつかはって思うけどそのステップが見えてなくて。
だから久世さんにも東雲さんにも何か失礼なことをしたんだろうって素直に思った、思ってしまった。
「井上くんはすごいな。才能ってやつかな」
え?
そう言うと久世さんは優しい顔になった。
「……東雲さんに事情を話していいか、聞いてみるよ」
「しばらくは体調悪そうにしてるだろうけど、井上くんには”いつも通り”にしてて欲しいんだ。大丈夫かな?」
「あ、はい」
そうして、いつもとは違う1日が終わった。
けど俺は”いつも通り”にしないといけないらしい。




