第25話
途端に東雲さんがトコトコと駆け出す。
「お久しぶりです、高瀬さん」
「東雲さんは相変わらずのようで」
久世さんに向けるのとはまた違った表情をする東雲さんに、『高瀬さん』は柔らかい笑顔で東雲さんを見ている。
「おや、そちらはもしかして宮内さん?」
「いえいえ、久世さんに同行をお願いされた井上くんです」
高瀬さんと言われた人は、関係性がよく分からないという顔でこちらを見ている。
情報量が多すぎる……けど、ここは自己紹介をするべきなんだろうと空気を読んでみた。
「初めまして、井上といいます。東雲さんは家事代行の仕事で関わらせていただいてます」
「家事代行……そうですか、東雲さんの私生活は私も心配していたところなんですよ」
「私は高瀬といいます。この会社の代表取締役をさせてもらってます」
畳み掛けるように自己紹介をされて、雰囲気に圧倒された。
就活の面接とは空気が違う。これがビジネスの空気なのだろうか。
「さて、立ち話もなんですから」
と、中に案内される。
高瀬さんがエレベーターに向かい、東雲さんが後に続く……
いや、俺は?
「あの!」
と呼びかけると2人して振り返る。
「俺はここのロビーで待ってるんで」
え?という顔で東雲さんが俺の方を向く。
いや、忘れてたっしょ、俺の存在。
「ここで大丈夫?上にも待合スペースはあるけど」
見たこともない場所で待たされるより、ここの方が幾分かマシな気がする。
「はい、ここで待ってます」
そうして2人はエレベーターに乗り込み、上の階に登って行った。
なんか、……本当はついていけなかったんだよな。




