第9話 人面をした磁器
【巻ノ一・残頁玖:工部・窯務志】
「磁器の美しさは『窯変』にあり。窯に入るときは一色、出るときは万彩。それは炎と泥土の駆け引きである。だが、若し泥土に混ざるべきではないモノが混ざったならば……
備考:近頃、磁器街が出荷した『美人瓶』から、夜半に泣き声がするとの報告が絶えない。返品率が極めて高い」――『建康商会・苦情記録摘要』
【司天監内部メモ】
「活俑」――ある種の変態的な収集家が、活人を泥の胚に封じ込めて焼き上げることを好む。そうすることで『魂』を留められると信じているのだ。
評価:審美眼が奇形であり、かつ極めて陰徳を損なう。
†
建康城の西。一年中煙塵に覆われている通りがある。磁器街だ。
まだ近づいていないというのに、焦燥する熱気が顔を打つ。空気は喉から煙が出るほど乾燥し、呼吸のたびに真っ赤に焼けた砂を鼻腔に吸い込んでいるかのようだ。
地面には厚い白い微粉が積もっている。一見すると雪だが、踏みしめるとギシギシと乾いた音が鳴り、舞い上がる粉塵は言葉にできぬ生臭く甘い匂いを帯びていた。
謝必安は前を歩いている。沈無からくすねた扇子を手に、気怠げに風を送っているが、この焦燥感はどうしても払えない。
「ひどい火の気だ。陰気も重い」
目を細め、指を伸ばして袖口に落ちた白い粉をひとつまみ拾い、鼻先で嗅ぐ。「沈大人、深く呼吸するな。この地面の白い粉……骨灰だ。しかも焼かれたばかりの新鮮なヤツだ」
「骨灰だと?」
沈無は背後に続き、刀の柄から手を離さず、警戒して周囲を見回している。その二文字を聞き、無意識に息を止め、胃が激しく波打った。
大魏最大の官窯の所在地。普段なら人声が沸き返り、人夫、陶工、商人が絶え間なく行き交っているはずだ。だが今日、通り全体が空っぽで、鬼の影すら見えない。
ただ数十本の巨大な煙突が墓石のようにそびえ立っているだけだ。吐き出しているのは黒煙ではなく、不気味な暗赤色の煙。空中で渦を巻き、陽光さえも血の色に染め上げていた。
通りの両側の店舗は固く扉を閉ざしている。戸板には魔除けの黄色い護符がびっしりと貼られ、熱風に煽られてバサバサと鳴る。声なき悲鳴のようだ。
「沈大人、緊張するな」謝必安は扇子で一軒の店のショーウィンドウを指した。「見ろ、商売はまだ続いているじゃないか。この店の『商品』、随分と綺麗に並んでいる」
沈無は視線を向ける。
「玉壺春」という老舗の磁器店だ。扉は閉ざされているが、窓の格子越しに、中には多種多様な精巧な磁器の瓶が並んでいるのが見える。
沈無は数歩近づき、詳しく見ようとした。
瓶は全体が雪のように白く、釉薬の色は玉のように温潤で、造形は奇特だ。一つ一つの瓶の胴体に、微かに人間の顔の輪郭が浮かび上がっている。
よく見ると、目を閉じた美人の顔のようだ。線は柔らかく、生き生きとしている。
「この細工は……」沈無は眉をひそめ、顔をガラスに近づけ、釉薬の表面の紋様を見極めようとした。
突然、瞳孔が収縮する。
半透明の青白釉の表面越しに。青い血管が、ミミズのように磁器の胎の下で微かに脈打っているのをはっきりと見たのだ。
「これは磁器じゃない……」沈無は頭皮が痺れるのを感じた。背中の冷や汗が瞬時に服を濡らす。「これは……人間か?」
「人の皮を剥ぎ取って、そのまま泥の胚に貼り付けて焼いたのか?」
謝必安がいつの間にか横に並び、同じようにガラスに張り付いている。口調に恐怖はなく、専門家特有の粗探しだけが透けている。
「いや」謝必安は首を振る。「ただ皮を貼っただけなら、高温で炭化してこんな『肉感』は出ない。これは……内嵌だ」
「内嵌?」沈無は呆気に取られた。
「活人を泥の材料にし、怨気で火を継ぐんだ」謝必安はガラスを指でなぞった。「肉と磁器の土を窯の中で互いに噛み合わせ、骨を支柱に変える。これを『活人祭窯』と呼ぶ」
「この工法は、極めて陰徳を損なう」謝必安は隅の破片の山を指差した。「見ろ、あれが焼き損ないだ。肉体が火に耐えきれず、磁器の胎を破って弾けたんだ」
沈無が視線を追うと、破片の中に、黒焦げの切断された指が何本も混ざっていた。顔色が一瞬で青ざめる。
その時。ショーウィンドウの中で最も大きな美人瓶が、突然目を開けた。
血走った、絶望と怨毒に満ちた目だ。高温で焼かれたため、まぶたはすでに眼球と癒着している。
ピシッという澄んだ音とともに瓶に亀裂が走り、細いヒビが広がる。唇のない口が磁器の表面で困難に開き、極めて微弱だが針のように鋭い声を漏らした。
「割れる……痛い……叩かないで……」
「中に……人がいる……」
「妖孽め!」
沈無の反応は極めて速かった。チャキッと環首直刀が鞘から飛び出し、鋭い刀風と満腔の怒りを伴って、不気味な磁器の瓶へ真っ直ぐに振り下ろされた。
ガシッという澄んだ音。鉄の万力のような手が、彼の手首をしっかりと掴んで止めた。
「衝動に駆られるな、沈大人」謝必安が前に立ち塞がり、氷のように冷たい右手で沈無を固く押さえている。
「止めるのか?」沈無は信じられないという目で謝必安を見た。目は赤く血走っている。「中に人がいる! 助けを求めているんだぞ!」
「もう助からない」
謝必安は磁器の瓶を冷ややかに見つめる。眼底には残酷なほどの冷静さが透けていた。「彼女の肉身はすでに磁器の土と焼き付いている。今瓶を割れば、彼女を千刀万剮にするのと同じことだ」
「それに……これは証拠品だ」
謝必安は瓶の表面を流れる暗赤色の紋様を指差す。「この中の怨気は生きている。こいつが道を指し示し、あの『火源』を見つける手助けをしてくれる」
沈無の手を離し、振り返って磁器の瓶を軽く弾いた。
チーンという澄んだ音が鳴り、微弱な金光が瓶に染み込む。怨毒の目はゆっくりと閉じられ、裂けた口も再び塞がった。慰撫されたように、ただの死物へと戻る。
「一時的に封じた。少なくとも少しは痛みを和らげられる」謝必安は淡々と言う。「この手の『生焼け』の処理が一番厄介なんだ。元凶を見つけてから、超度する方法を考えるとしよう」
沈無の刀を握る手が震えている。謝必安の平穏な横顔を見る。初めて、この男の冷静さの裏には、より深い悲憫が――いや、無力感が隠されているのかもしれないと感じた。
「行くぞ」
謝必安は説明することなく、通りの突き当たりにある最も高い煙突を見上げた。「元凶はあの中だ」
†
二人は通りを深く進む。
奥へ行くほど温度が上がる。空気が歪み変形し、呼吸すら焼けるような痛みを伴う。
謝必安の懐の銜蝉がようやく目を覚ました。
金猫は袖から頭を出し、鼻を二度動かし、目を瞬時に輝かせる。
『いい匂い!』
銜蝉は脳内で大声で叫んだ。『親父! ここ、「火精」の匂いがするぞ! それと……焼肉の匂いだ! ミディアムレアのやつ!』
『黙れ』謝必安は猫の頭を叩き、厳格な口調で返す。『あれは無念の魂が黒焦げになった「毒火」だ。食ってみろ、帰って三日間は金砂を垂れ流す羽目になるぞ。そうなったら、どうやって阿奴に顔向けするんだ』
銜蝉はすぐに首をすくめ、嫌そうに頭を引っ込めた。『じゃあやめとく。この屋台は不衛生だ』
二人は巨大な窯場の前で立ち止まる。
これが伝説の「御用龍窯」だ。
窯場の大門は開け放たれ、中は真っ黒な巨獣の大口のようだ。門口に護衛はおらず、磁器で焼かれた二体の童子像だけがある。青白く、火の光の下で不気味な光を瞬かせていた。
「お二人の客人は……」
嗄れた、煙で声帯を焼かれたような声が暗闇から響く。「磁器を買いに? それとも……窯の試し焼きに?」
猫背の老人が歩み出てきた。
泥と石炭の灰にまみれた短い作業着を着ている。肌は不気味な灰白色を呈し、干からびてひび割れた陶土のようだ。
「懸賞の張り紙を見て来た」
謝必安は懐から張り紙を取り出し、揺らした。「ここで『火焚き』の職人を探していると聞いてな」
老人は顔を上げ、濁った両目で謝必安を一瞥し、最後に沈無に視線を止めた。
「鏡妖司の人間か?」老人はニタリと笑い、黒ずんで黄色い虫歯を見せた。「それに……司天監の匂いもする」
「最高じゃ」
老人は手を叩いた。二つの硬い泥の塊がぶつかるような音だ。
「龍窯はここ数日、ちょうど……腹を空かせておってな。普通の薪じゃ火が回らん。貢ぎ物の色が出んのじゃ。色が出ねば、上の御方が老いぼれの首を刎ねる」
老人は皇宮の方向を指差し、目に狂熱の光を閃かせる。
「国師の代わりに、誰かが先に窯を試している。時期も瑠璃の大典の直前でちょうどいい……お二人は『霊気が充満』しておられるようじゃ。さあ、窯へ入ってくだされ!」
老人の言葉が落ちるや否や、周囲の影から連続して密集した磁器の擦れるカサカサという音が響いた。
無数の半完成品の磁器の人間が、暗闇から歩み出てきた。
腕が欠けている者、頭が曲がって焼かれている者、身体から赤い釉薬を流している者。足はない。下半身の磁器の台座で地面を引きずり、耳障りな摩擦音を立てながら、二人を包囲する。
「沈大人」謝必安はため息をつき、扇子を閉じた。「どうやらこの五千両、簡単には稼げないらしい」
「この化け物どもは何だ?」沈無は刀を横に構え、謝必安を背後に護り、冷冽な眼差しを向ける。
「失敗作だ」
謝必安は磁器の人間たちを指差した。「あの老いぼれは『不朽の金身』を焼こうとしているが、手際がクソすぎて、焼けたのはパリパリのゴミばかりだ」
「ゴミなら……」
沈無の眼底に殺意が閃く。手の中の長刀が猛然と澄んだ龍の鳴き声を上げる。
「叩き割るまでだ」
「焦るな」謝必安は沈無の肩を押さえた。「割るのはもったいない。この龍窯の火加減はちょうどいい。このゴミども……燃料にぴったりだ」
顔を向けて猫背の老人を見る。悪鬼よりも貪欲な笑みを浮かべ、懐から身分を示す黒ずんだ腰牌を取り出した。
「老いぼれ、よく聞け」
謝必安は大声で宣言する。周囲の磁器の人間の摩擦音を圧倒する声だ。
「ここは官窯の資産だ。お前は違法な品を私的に焼き、穢気を漏洩させた。大魏の律例に基づき……穢物に遇わば即座に封ず。封じ切れぬ場合は、我が雑項科が臨時接収する!」
氷のように冷たい瑠璃の手を伸ばし、虚空を強く掴む。
「沈大人、証人になってくれ。この窯は今、俺に徴用された!」




