第10話 窯が壊れた日
【巻ノ一・残頁拾:工部・事故報告】
「龍窯が炸膛し、御用磁器三千点が破損。
現場検証:火勢が制御不能に陥った模様。原因は……燃料が過度に『活発』であったためと推測される。
備考:あの狂人、窯の主人を中に放り込みやがった。これは労災として処理すべきか、それとも燃料費として処理すべきか?」――『司天監・雑項科・経費精算書(却下済み)』
【司天監内部メモ】
「火耗」――焼成過程において不可避とされる損耗のこと。だが雑項科においては、通常「敵を焼き灰にする」プロセスを指す。
†
衝突は、謝必安が「徴発する」と叫んだその瞬間、何の前触れもなく爆発した。
これらの半完成品の磁器人間たちには足がなかったが、地面を引きずる速度は驚異的だった。同時に「カシャカシャ」という耳障りな摩擦音を立てながら、白い磁器の殻を持った蠕虫の群れのように、四面八方から二人に押し寄せてきた。
「沈様、仕事の時間だ!」
謝必安は一歩後退し、そのまま流れるような動作で沈無の背後に隠れた。微塵の罪悪感もない。
「そいつらを斬り砕くなよ! 全部薪なんだからな! 蹴り飛ばして窯の中へ放り込め!」
沈無の口角が引きつった。
いくらなんでも、注文が難しすぎる。
だが彼の手にある刀はすでに動いていた。清澄な金属音と共に、黒い刀の軌跡が薄暗い窯元に完璧な半円を描く。沈無は刃で斬りつけるのではなく、峰打ちを使って、先頭に突っ込んできた磁器人間を正確に叩き据えた。
「ドスッ」という鈍い音が響き、凄まじい力で弾き飛ばされた磁器人間は、白い流星のごとく宙を舞い、後方の黒々と口を開けた窯の中へと正確に吸い込まれていった。
「ギャアアアーッ!!」
窯に落ちた磁器人間は、瞬時に内部の猛火に飲み込まれ、凄惨な悲鳴を上げた。直後、それは一団の明るい炎へと変わり、窯口の火柱を一段高く燃え上がらせた。
「見事! 火が入ったぞ!」
謝必安は背後で手を叩いて喝采し、手にした扇子を勢いよく扇いだ。
「火勢が強くなった! どんどん燃料を放り込め!」
これには背の曲がった老人の窯主も呆気にとられた。
一生を窯焼きに捧げ、死を恐れる者も、命懸けで向かってくる者も見てきたが……自ら進んで薪をくべ、火力を上げてくれる奴など見たことがない。
「貴様ら……死にたいようだな!」
老人が怒号を上げ、両手を猛然と地面に叩きつけた。
地面が「ゴゴゴ」と轟音を立てて激しく震動し、地中から無数の真っ赤に焼けた鉄の鎖が飛び出してきた。それは焼けたニシキヘビのように、沈無の両足と刀の柄に死に物狂いで巻き付いた。
同時に磁器人間たちも狂乱し、体表に赤い光を帯びて、なんと自爆の構えを見せ始めた。
「しまった!」
沈無は振り解こうとしたが、鉄鎖には高温と怨念が宿っており、「ジジッ」と肉を焼かれ、全く身動きが取れない。
だが磁器人間の数が多すぎる。腹をパンパンに膨らませた一体が、今にも目の前で自爆しようと突っ込んできた。
「阿奴、糸を切れ!」謝必安が淡々と命じた。
銀色の寒光が素早く走ったかと思うと、薄暗い窯元に正確な「十字」が描かれた。
何が起きたのか誰の目にも見えなかった。ただ「チャキッ」という澄んだ金属音が数回響いたのみだ。
沈無に巻き付いていた真っ赤な鉄鎖が、瞬時に数段に切断され、地面に落ちた。
銀猫の阿奴は優雅に沈無の肩に舞い降り、前足についた存在しない埃を嫌悪感たっぷりに振り払い、脳内で冷たく言い放った。
『汚い。この鎖、あのジジイの唾液の臭いがする』
自由を取り戻した沈無は心中で大いに驚愕した。この猫の爪は一体何でできているのだ? 玄鉄の鎖を豆腐のように切り裂くとは。
だが感嘆している暇はない。磁器人間はすでに目の前だ。
「デブ、火を消せ!」謝必安は平然と袖を振った。
「ニャオオオーッ!!」
金色の残影が謝必安の袖から飛び出した。風を受けて巨大化した銜蝉は、大口を開け、あろうことか自爆寸前の磁器人間の頭に直接噛み付いた。
喉の奥で「ゴクリ」という鈍い音が鳴る。銜蝉はまるで小籠包でも食うかのように頬を膨らませたりしぼませたりし、磁器人間の体内の「火気」を強引に飲み込んでしまった。
「ゲフッ……」銜蝉は口から黒煙を吐き出し、「ペッ」と嫌そうに吐き捨てた。
『この火、腐ってやがる! 死体油が混じってるぞ! 阿奴の言う通りだ、マジで汚ぇ!』
二匹の猫が前衛と後衛に分かれ、一匹が状態異常解除を、もう一匹が攻撃吸収を担う。
謝必安は中央に立ち、的確に指揮を執った。
「今だ! 沈様、一掃しろ! このゴミどもを全部窯に蹴り込め!」
好機と見た沈無は、電光石火の動きを見せた。彼は刀を鞘に収め、代わりに両脚を使い、「ドスッ、バスッ」という一連の鈍い打撃音と共に、磁器人間たちをまるで鍋に餃子を放り込むかのように、大きく口を開けた窯の中へ正確に蹴り落としていった。
「ギャア! 熱い!」「燃やさないで!」
窯炉の中から無数の凄絶な悲鳴が響き渡る。「燃料」が絶え間なく投入されたことで、窯内の炎は暗紅色から明るい黄色へと変わり、最後には不気味な青白い筋すら混じり始めた。
窯主の老人は、自分の「心血」が薪として燃やされるのを見て、怒りで全身を震わせた。灰白色の皮膚が寸分ごとにひび割れ、中からマグマのように流れる血管が露出する。
「ワシの基盤を壊しおって……貴様らを灰にしてくれるわ!!」
老人が咆哮すると、その身体が猛然と膨張した。彼はあろうことか背後の龍窯と一体化し、無数のレンガや石が舞い上がって彼に吸着し、高さ三丈のマグマの巨人へと変貌を遂げた。
「面白くなってきたな」
謝必安はこの巨人を見て、恐れるどころか懐からあのリストを取り出し、筆で「燃料」の欄にチェックマークを入れた。
「千年槐樹の芯は見つからなかったが、この『窯鬼』……火気はさらに旺盛のようだな」
彼は振り返って沈無を見つめ、その目には狂気じみた計算が透けていた。
「沈様、阿奴、俺のために十呼吸だけ奴を抑えてくれ」
「何をする気だ?」沈無は荒い息をついた。手にある刀はすでに刃こぼれしている。
「俺は……火の加減を変える」
謝必安はあの氷のように冷たい琉璃の手を伸ばし、猛火を吐き出す窯口へと大股で歩き出した。
それは狂気の沙汰だった。
常人なら避けて通る猛火の窯口が、今の謝必安の目には、巨大な操作盤にしか見えていないのだ。
「デブ、護法だ!」
銜蝉が怒号を上げ、謝必安の傍らに立ち塞がり、金色の巨体でマグマの巨人が振り下ろした拳を真っ向から受け止めた。
「ズドォン」という轟音と共に金色の光が四散し、銜蝉は数丈ほど後方へ滑り飛ばされ、地面に二本の深い溝を彫ったが、死んでも退かなかった。
謝必安は窯口の前に立った。
熱波が顔に吹き付け、眉毛や髪の毛が瞬時に縮れ、皮膚に焦げるような痛みが走る。
だが彼の琉璃の右手は、この高温下で燦然たる光を放ち、内部の金糸が狂ったように流動し、まるで生き返ったかのようだった。
彼は右手を伸ばした。
その手は蘇小小の元で「修理」されたばかりだったが、彼が霊力を注ぎ込んだ瞬間、皮膚の下から再びあの眩い琉璃の金光が浮かび上がった。
退いたばかりの、骨髄にまで染み込むようなあの寒気が、再び潮のように押し寄せてくる。
謝必安は歯を食いしばり、心の中で悪態をついた。
(メンテナンスが終わったばかりなのに、また命を削るハメになるとは。このツケは後で絶対に鏡妖司に払わせてやる)
彼は大股で猛火を吐く窯口に近づき、炎の中に手を突っ込んだ。
「――回れッ!」
謝必安が一喝し、琉璃の手で窯口の虚空にある気眼を猛然と掴み取った。
彼が掴んだ瞬間、窯内の混乱し狂い猛っていた怨念の火は、突然、さらに強引な力によって無理やり方向を捻じ曲げられた。
フワッという音と共に、炎の色が変わった。
青白色から、純粋で透明な琉璃の色へと。
「グォオオオーッ!!」
マグマの巨人が惨叫を上げた。
彼は自身の身体を覆う炎が制御を失い、逆に強烈な吸引力に引かれるように、絶え間なく窯の中へと吸い戻されていくのに気付いたのだ。
「こ……これは何の火だ!?」老人は驚恐のあまり絶叫した。
「これは『文火』だ」
「そんな狂人を見るような目で見るな。俺は昔、工部の窯の修理を手伝ったことがあるんだよ」
謝必安の顔色は蒼白で、冷や汗は出たそばから蒸発していたが、その笑みは傍若無人に狂気じみていた。
「磁器を焼く時に重要なのは『還元炎』だ。お前の火気は荒っぽすぎるから、焼けたモノが全部脆いんだよ。今、俺が……温度を下げてやる」
「沈無! そいつを蹴り込め!」
沈無は好機を逃さず、空高く跳躍した。彼は空中で勢いをつけ、両足を揃え、全身の修為と体重を乗せて、マグマの巨人の胸板に強烈な蹴りを叩き込んだ。
同時に阿奴が銀光と化し、沈無の足首を掴もうと伸びてきた巨人の最後のマグマの触手を切断した。
「入れッ!」
轟音と共にマグマの巨人は重心を失い、巨大な体躯が後ろへ倒れ込み、火力を全開にして広がった窯口の中へ、見事に転げ落ちた。
「いやだぁああーーッ!!」
老人の最後の絶望的な嘶きが響いた。
謝必安は素早く手を動かし、琉璃の手で窯の扉の横にある仕掛けを猛然と叩いた。
ガチャンという凄まじい音と共に、分厚い鉄のシャッターが重々しく落下し、老人と窯一杯の炎を完全に封じ込めた。
「封窯!」
謝必安が大喝した。
直後、彼は全身の力が抜け、虚脱したように地面に崩れ落ち、荒い息を吐いた。
彼の右手は今や焼きごてのように赤く、血管の中の金色の線が狂ったように跳ねている。明らかに「古傷が再発」していた。
窯炉が激しく震動し、中から「ドスッ、ドスッ」という鈍い衝突音が響いてきた。まるで巨獣が中で暴れているかのようだ。だが時間の経過と共に、衝突音は次第に小さくなり、最後には完全に消え去った。
続いて、奇妙な香りが四方へ漂い始めた。
肉の匂いでも、花の匂いでもない。雨上がりの土の香りに、金属や石が冷え固まる時の匂いが混ざったような香りだ。
「終わったのか?」
沈無が刀を杖代わりにして、足を引きずりながら近づいてきた。
彼の雲紋の武官服はすでに黒焦げのボロボロで、顔も煤だらけになり、見る影もないほど狼狽していた。
「まだだ」
謝必安は窯口を指差した。
「まだ最後の一歩が残ってる……開窯だ」
†
半刻後。
窯の温度が下がった。
沈無が力を込めて前方の重い鉄のシャッターを押し上げた。
だが、熱波が飛び出してくることはなかった。
窯の中は空っぽだった。あの磁器人間も、マグマの巨人も、そして空を覆っていた怨念も、すべて消え失せていた。
ただ窯床のど真ん中に、握り拳ほどの大きさの珠が静かに転がっているだけだった。
珠は全身が赤く、表面にはマグマのような紋様が流れているが、触れてみると玉のように温かみがあり、火の気は微塵も感じられなかった。
「これは……」沈無が珠を拾い上げると、掌に温もりが伝わってきた。
「『火精』だ」
謝必安が歩み寄り、珠を受け取って複雑な眼差しを向けた。
「数百の無念の魂と、一条の龍脈の廃渣を焼き上げて作ったエキスだ。これがあれば、皇帝の『暖房器具』の目処が立ったな」
彼は珠を懐にしまい、店舗の中に並んだ、すでに目を閉じ、もう涙を流していない美人瓶たちへ振り向いた。
窯主が煉化されたことで、これらの瓶に宿っていた怨念も大半が散っていた。彼女たちの多くはすでに逝ったのだろう。残された者も、少なくとも……もう痛みを感じることはない。
「行くぞ」
謝必安は元のサイズに縮んだ銜蝉を抱き上げた。この猫は火の気を食い過ぎたせいでしゃっくりをしており、口から小さな火の粉をポフッ、ポフッと吐き出していた。
「この五千両、割に合わねえな」
謝必安は感嘆した。
「後で府衙に割増し請求してやる。こいつは立派な労災だ」
沈無は顔を煤だらけにしながら、未だに勘定の計算をしているこの男を見て、ふと思った。こいつはさっきのマグマの巨人よりも恐ろしいのではないか、と。
彼は人間を丹薬に煉り上げたのだ。
しかも、最も専門的で、最も非の打ち所のない「製造工程」を用いて。
「謝必安」
沈無は刀を鞘に収め、複雑な口調で問いかけた。
「貴様は昔……一体何をしていた男なんだ?」
謝必安は立ち止まった。
彼は冷え切った龍窯を振り返り、口元に薄い自嘲の笑みを浮かべた。
「俺か?」
「俺はただの……ゴミ拾いさ」
†
瓷器街を出る頃には、日はすっかり暮れていた。
謝必安は馬車に座っていたが、右手が酷く痛んだ。
掌を見下ろすと、あの金色の線が先ほどの酷使のせいで、さらに一寸ほど手首の奥深くへと潜り込んでいた。
「修理したばかりなのに、もう壊れやがった……」
彼は低くぼやいた。「蘇小小のアフターサービスに、これは含まれてないだろうな」
そして彼の耳元で、あの馴染み深い『エリーゼのために』の旋律が再び鳴り響いた。
だが今回は、旋律に混じって、はっきりとした「ピシッ」という亀裂音が聞こえた。
謝必安は猛然と振り返った。
背後に聳え立つ龍窯の煙突が、何の前触れもなく、真ん中から一筋の亀裂を走らせていた。
そしてその亀裂の奥深くに、巨大な目が一つあるような気がした。それが煙と土埃越しに、彼の去りゆく背中を冷ややかに注視しているような……。
謝必安は懐の熱い「火精」に触れ、心の中で悟った。
これは戦利品ではない。
次の博打の……賭け金なのだ。




