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世説新鬼 —神のゴミを拾う男—  作者: 仔猫(コネコ)
第二巻:乱法と残骨
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第74話 不可言《語るべからず》



【巻ノ二・残頁漆拾肆:『大荒異聞録(たいこういぶんろく)・妖物誌』残巻】


「大荒に山有り。名を不臣と曰う。昼は土石と為り、夜は血肉と化す。


呼吸すれば雲を成し、歩を行えば淵を震わす。凡人これに遇わば、螻蟻の蒼天を仰ぎ見るが如し。唯だ其の足の落ちざるを祈るのみ」


司天監(してんかん)内部メモ】


社畜にとって一番の幸せは何か、知っているか?


定時退社? いや、スケールが小さすぎる。


俺に言わせりゃ、本当の幸せってのは、いつか自分が「定年退職」できると知っていることだ。


だが俺は最近になってようやく気づいた。世の中には、入社しか存在せず、退職という概念自体がない職場もあるのだと。



防風提灯が風に揺れ、燭火が地面に伸びる影を不気味に歪ませている。


謝必安(シャ・ビアン)拾遺(しゅうい)の銅札を握りしめた枯れ骨を見つめ、長い間言葉を発しなかった。


時空を超えてやってきた異邦人である彼に対し、この大荒の世界は再び最も残酷な方法で、「超脱」という二文字に対する最後の一糸の幻想を打ち砕いたのだ。


修仙? 不老長生?


この世界において、力の行き着く先は羽化登仙ではなく、責任の終着点は世俗の超越でもない。それはただの、終わりのない苦役と呪い。場所を変えて、永遠に労働を続けるだけなのだ。


謝必安(シャ・ビアン)は深いため息をついた。


「どうりで、昔師父に修仙や長生について尋ねた時、いつも『こいつ頭がおかしくなったのか』って目で俺を見てたわけだ。最後には何も言わずにニヤニヤ笑ってやがったし……」彼はたまらず悪態をついた。「クソッ、そういう意味だったのかよ。あれは、新しいカモが自分から罠に飛び込んできたのを見る目だったんだな!」


彼はふと何かに気づいたように顔色を変える。


「まさか、あの老皇帝も知ってるのか? 監正のあの老狐も知ってるはずだ。ってことは、真実を知らずに騙されてるのは俺だけだったのか? ……マジで心が折れる」


彼が天に向かって恨み言を吐き散らしていたその時、背後の暗闇から沙沙という足音が近づいてきた。沈無(シェン・ウー)が刀を提げ、散歩でもしているかのような足取りで謝必安(シャ・ビアン)の背後に現れた。


「どうした? なかなか戻ってこないから見に来たぞ」沈無(シェン・ウー)の視線が謝必安(シャ・ビアン)の肩越しに、風化して黒ずんだ枯れ骨へと落ち、眉をひそめた。「どこから湧いて出た死体だ?」


謝必安(シャ・ビアン)は先ほどの遭遇と事の顛末を、かいつまんで説明した。


聞き終えても、沈無(シェン・ウー)の顔の冷たさは消えなかった。彼は一歩前に出ると、刀の背で緑の錆に覆われた銅札を軽く小突いた。大魏(たいぎ)の鏡妖司の千戸として、彼はこの世の残酷さに対して、すでに独自の冷徹な答えを持っていた。


「大荒において、人の命など元より草芥のように安い。天地の間を回すための消耗品に過ぎない。俺やお前だって例外じゃない。強大を誇る大魏(たいぎ)でさえ、この地獄の中でただ藻掻き生き延びているだけのことだ」


沈無(シェン・ウー)の声には抑揚がなく、生死を見透かしたかのような漠然とした冷たさが漂っていた。「お前はこの神がかった力を得た。なら、この世にタダで手に入る力などないことくらい分かっているはずだ。生前に返しきれなかった業の借金は、死して執念と化しても返し続けなければならない。天を恨むことも、他人を恨むこともできん」


その言葉は氷のように冷たかったが、この世界の最も真実で、最も残酷な描写でもあった。


謝必安(シャ・ビアン)はため息をつき、提灯を崩れかけた壁に掛けた。


「お前の言う通りだ。だが、一応は同業者だからな。老(シェン)、少し手伝ってくれ。この先輩を土に還してやろう。三百年も庭を掃き続けたんだ、もう休ませてやってもいいだろ」


沈無(シェン・ウー)は拒絶することなく、手にしていた刀を置いた。


二人は比較的平らな地面を見つけ、廃墟の中から硬い木片や割れた陶器の欠片を見つけて道具代わりにした。


大荒の秋の夜。土は冷たく硬く締まり、少しも柔らかくない。一人が掘り、もう一人が土をかき出す。どちらも一言も発しなかった。丸半刻かけて、ようやく三尺ほどの深さの穴を掘り上げ、あの枯れ骨を銅札と共に慎重に穴の中へ移し、黄土を被せて文字のない粗末な塚を立てた。


謝必安(シャ・ビアン)は土砂にまみれた両手を払い、その簡素な土の膨らみを見つめると、腰から酒瓢箪を外し、残っていた烈酒をすべて墓前に注いだ。


「先輩。お名前は存じ上げませんが、どうかこの一杯で我慢してください」謝必安(シャ・ビアン)は低い声で呟いた。その口調には、彼にしか理解できない現代的な哀悼が込められていた。


「大事なのは、今この瞬間から、あなたの任務は終了したってことです。タイムカードを押して退勤してください。このクソみたいな世の中の仕事に、もう出勤する必要はありません。ゆっくり休んでください」


そばで聞いていた沈無(シェン・ウー)は、謝必安(シャ・ビアン)の口から飛び出す「タイムカード」や「退勤」といった奇妙な言葉に、ただ微かに首を横に振るだけだった。だが不思議なことに、最後の「このクソみたいな世の中の仕事に、もう出勤する必要はない」という言葉を聞いた瞬間、刀の柄を握る沈無(シェン・ウー)の指が、気づかれないほど微かに強張った。


「クソみたいな世の中、か……」沈無(シェン・ウー)はポツリと独りごちた。


彼はその粗末な塚の前に歩み寄り、謝必安(シャ・ビアン)を急かすこともなく、まずは全身から殺気を完全に消し去った。そして、名もなきその墓に向かって、声高に語ることもなく、静かに深く、大魏(たいぎ)の武者としての最上の礼を尽くした。


突然、銀白色の残影が崩れた壁の上から軽やかに舞い降りた。


阿奴(アヌ)だ。虚空を踏みしめ、舞い散るように塚の前に降り立つ。彼女は高い位置からその黄土の盛り上がりを見下ろすと、小さな口を開き、清涼な猫の鳴き声を一つ放った。


一筋の浄化の霊気が彼女の口から吐き出され、空を舞う透き通った氷霜へと変化する。それはまるで、塚の上に三百年間こびりついていた執念を、すべて無数の細かな氷の結晶へと凍結させ、風に乗せて完全に消し去っていくかのようだった。


すべてが終わると、阿奴(アヌ)は尻尾を振り、ピンと立てて優雅に背を向け、再び暗闇の中へと跳び去っていった。


二人が礼を終え、廃寺へ戻ろうとした時。草むらがガサガサと揺れる音がした。


銜蝉(シェンチャン)の肥満した身体が枯れ草の中から無理やり這い出してきた。この太った猫は腹が張り裂けそうなほど真ん丸に膨れ上がり、地面に擦りそうなほど垂れ下がっている。我が物顔でガニ股気味に、右へ左へ揺れながら歩いてきた。


『親父! こんなとこで何やってんだ? 俺様さっき村の外で大物を仕留めてきたぜ!』銜蝉(シェンチャン)は血の筋が残る爪で歯をシーシーと掃除しながら、得意げに尻尾をブンブンと振り回した。『足が四本生えた怪鳥を三匹、俺様の胃袋に全部ぶち込んでやった! あの肉、昼に食った羊肉よりずっと歯ごたえがあって美味かったぜ』


「食い終わったなら黙って寝ろ」謝必安(シャ・ビアン)は苛立ちながら太った猫の首根っこを掴んで持ち上げ、そのまま腕に抱え込んで野営地へと歩き出した。


帰り道でも銜蝉(シェンチャン)はベラベラと喋り続けていたが、疲労困憊の謝必安(シャ・ビアン)はたまに生返事をするだけだった。


廃寺に戻ると、彼と沈無(シェン・ウー)は消えかかっている篝火のそばに座り、簡単に夜番の時間を決めた。謝必安(シャ・ビアン)は服を着たまま横になり、泥のように深い眠りに落ちた。


前半の夜は静かだった。後半の夜になり、沈無(シェン・ウー)が歩み寄って謝必安(シャ・ビアン)を起こす。二人が交代した後、沈無(シェン・ウー)は綺麗な隅を見つけて横になった。


周囲は水を打ったように静まり返り、廃寺の外で蜃驪(しんり)が時折鼻を鳴らす音だけが響いている。謝必安(シャ・ビアン)は『驚蟄(きょうちつ)』を抱き抱え、腐りかけた柱に背を預け、屋根の破れた穴から夜空を見上げていた。


今の空には、薄暗い三日月が懸かり、周囲には無数の星々が散りばめられている。この数年間、彼はこの星空を嫌というほど見飽きていた。ここには自分がかつて親しんだ星座など一つも存在しないと分かっているのに、それでも無意識に、決して現れるはずのない北斗七星やオリオン座を探してしまう自分がいる。


この世界へ来て数年。大人の精神年齢という優位性を活かし、彼は早々に現実を受け入れた。姓が「(シャ)」であることにあやかって官僚組織に潜り込み、師父の太い足に必死でしがみつきながら、中途半端な武術と二匹の用心棒の猫を頼りに日々をやり過ごしてきた。自分はこの血生臭く奇妙な世界に完全に溶け込み、生死にもとうに慣れっこになったと自負していた。


しかし今夜。あの銅札を握りしめた枯れ骨が、この世界の暗がりに隠された絶望の一角を彼に見せつけた。


自分は本当に、この狂った世界で「退職」の日まで無事に生き延びることができるのだろうか? もし途中で死んだら、家に残してきたあの借り物の妹は、一体どうなるんだ?

血は繋がっている。だが、それはこの身体の話だ。

それでも彼女は、幼い頃からずっと俺を守ってくれていた。


彼が取り留めもない思考の渦に沈んでいた、その時。


地面の小石が、不意に微かに跳ねた。


目の錯覚かと思い、謝必安(シャ・ビアン)は目をこすって立ち上がり、寺の外を見た。


「ヴゥォォン――」


突然、低周波の重低音が、大地の奥底から轟然と響き渡った。


続いて、地面の揺れが急激に激しさを増していく。廃寺の腐った木の梁が耐えきれずにメキメキと悲鳴を上げ、無数の土埃と砕けた瓦がバラバラと降り注いだ。


「ヒィィィン――!!」


外に繋がれていた蜃驪(しんり)が、恐怖に狂った凄まじい嘶きを上げた。四つの蹄で狂乱したように地面を掻きむしり、首に巻かれた呪文の皮紐を今にも引きちぎらんばかりに暴れている。


車内では、阿奴(アヌ)が瞬時にオッドアイを見開き、全身の銀毛を鋼の針のように逆立てた。次の瞬間、一筋の銀色の流星が鋭い風切り音と共に車内から飛び出してきた。


廃寺の中では、沈無(シェン・ウー)が地鳴りと同時に猛然と跳ね起きていた。


彼は百辟喪門刀を握るや否や、何も言わずに鋭い刀花を散らし、清冽な月光の下で雪のように白い刀身を隙間のない網のように交差させた。ピチピチという小気味よい音が連続して響き、頭上から落ちてくる瓦や木材の欠片をことごとく弾き飛ばす。彼はその勢いのまま、刀の切っ先で道を切り開きながら寺の外へと狂奔した。


一方、いい夢を見ながら大ご馳走を平らげていた銜蝉(シェンチャン)は、突如の激しい揺れに驚き、車内で派手にすっ転んだ。寝ぼけ眼で空へ向かって爪を振り回し、ゴロンと起き上がると、怒り心頭で喚き散らした。


「なんてこった! 羊の足焼きに足が生えて逃げて行きやがった!」


「何が起きた!? 地震か? それとも本当に地龍でも寝返りを打ったのか?」謝必安(シャ・ビアン)は千鳥足で廃寺から転がり出た。


背後から沈無(シェン・ウー)も外へ出てきた。彼は答えず、ただ遠くを凝視し、少し震える人差し指でその方向を指し示しながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。


謝必安(シャ・ビアン)がその指さす方向を見た瞬間。たった一瞥で、脳の中が完全に真っ白になった。


遠方に見える、数十里にも連なる黒い山脈が……なんと、蠢いている。


天地をひっくり返すような轟音の連鎖の後、最も高くそびえ立っていた「山頂」が、ゆっくりと立ち上がったのだ!


無数の泥や岩石、天を衝く古木がその巨体から大規模に剥がれ落ち、滝のように大地へと降り注ぐ。雲の層でさえ、その測定不能なほど巨大な身体によって引き裂かれ、何重もの衝撃波となって四方八方へ遠く波打って広がっていく。


デカい。


あまりにも、デカすぎる。


それは現実的な意味において、真に天を支え、地を踏みしめる超弩級の巨獣だった。


奴に特定の顔のパーツはない。全身が蠢く暗褐色の何かで混ざり合って構成されている。微かに頭を動かし、何かを感知したかのように、天の柱のような巨大な脚を踏み出した。


「ドォォォン!」


一歩踏み出すだけで、数十里の距離を跨ぎ越える。足の裏が地面に落ちた瞬間、周囲にあった幾つかの小山が直接粉々に踏み砕かれ、猛烈な衝撃波が暴風を伴って廃村を吠え猛りながら吹き抜けた。廃寺の土壁の半分が、その狂風の中で轟音と共に崩れ落ちる。


先ほどまで狂ったように嘶いていた蜃驪(しんり)は、今や背骨を抜かれたかのように巨体を轟然と崩し、制御不能な震えに身を任せていた。この平素は傲慢極まりない妖獣が、目を固く閉じ、四肢を極限まで低くして地面に平伏している。巨大な頭を限界まで下げ、顔全体を黄土の中に埋めてしまいたいとでもいうように。鼻孔から永遠に吹き出し続けると思われていたあの黒煙すら、恐怖のあまり完全に引っ込めてしまっている。


いつも軽口を叩いてばかりいる銜蝉(シェンチャン)も、今はすっかり大人しかった。その肥満した肉の塊はとても素直に完全に平らになり、四足を天に向けて車内に崩れ落ちている。全身の金毛は冷や汗でぐっしょりと濡れ、皮にピタリと張り付いていた。猫の口は半開きになっているが、喉からは半分の音節も絞り出せない。いつもは得意げに揺れている尻尾は後ろ脚の間にきつく挟み込まれ、瞳の奥にはただ戦慄だけが残っていた。


この廃村だけではない。数十里離れた、一晩中妖魔の凄まじい遠吠えが響き渡っていたあの黒い森でさえ、今は墓場のような死の静寂に沈んでいる。


普段は凶暴で血に飢えている多くの妖怪や猛獣たちが、今は体長や階級の大小に関わらず、皆一様に天罰の降臨を感じ取ったアリのようになっていた。彼らは一斉に腐葉土や泥の中に頭を擦り付け、平素は誇示している牙や爪をことごとく隠し、大きな息の音一つ立てることすら恐れ、ただ巨大な影が森全体を覆い尽くすのに身を委ねていた。


直後。銀光と化して飛び出していったはずの阿奴(アヌ)が、なんと無様に車内へと逃げ戻ってくるのが見えた。皆は一瞬で悟った。この洪荒の巨獣を前にしては、呪文がびっしりと刻まれたこの馬車の周囲だけが、方円百里において唯一の安全な避難所なのだと。


謝必安(シャ・ビアン)沈無(シェン・ウー)は馬車へ向かって走り、天崩れ地裂けるような重圧の下で死に物狂いで車体にしがみついた。脳内は真っ白で、これからどう対応すればいいのか全く思いつかなかった。


しかし、相手は最初から最後まで、彼らの方を一瞥することすらなかった。


これほどの巨物を前にしては、妖骨の怪力も、錯金琉璃も、恐怖でさえ余計な感情だった。なぜなら、象がアリの巣を跨ぎ越す時、下にいるアリたちが何を考えているかなど気にかけるはずがないからだ。


巨物がゆっくりと近づくにつれ、その影が最後の一筋の月光を呑み込み、廃村全体を完全な暗闇で覆い尽くした。


奴はそのまま、傍若無人に廃村の横を一歩で跨ぎ越えていった。耳をつんざく足音は徐々に遠ざかり、荒野の深部へと向かって前進を続ける。あとに残されたのは、地形を完全に書き換えられた深く巨大な亀裂だけだった。


破滅的な威圧感が天の果てへ完全に消え去るまで、謝必安(シャ・ビアン)沈無(シェン・ウー)は力が抜けたように地面に座り込んでいた。互いの背中の衣服はとうの昔に冷や汗でびしょ濡れになっており、傷だらけになった周囲の惨状を前に、二人は言葉を失っていた。


これほどの恐怖を味わってしまえば、二人に睡魔など残っているはずがない。彼らは黙々と廃墟に散らばった木材を集め、再び篝火を熾し、馬車のそばに寄り添って、揺らめく火の光の中で静かに夜明けを待った。


早朝。


巨物の余波で見るも無惨に破壊された大地を、再び薄霧が覆い隠した。


沈無(シェン・ウー)は黒塗りの馬車を操り、砕けた残骸を轢きながらゆっくりと村の出口へ向かった。謝必安(シャ・ビアン)は御者台の端に座り、恐怖の余韻を引きずりながら背後を振り返った。


薄霧の中。廃村の門口に、背の曲がったぼんやりとした人影が微かに浮かび上がっている。


その影は手に古い箒を握っていたが、もう地を掃いてはいなかった。彼はゆっくりと身を真っ直ぐに立て、馬車が去っていく方向へ顔を向け、両手で印を結び、恭しく深々と一礼をした。


謝必安(シャ・ビアン)は何も言わなかった。彼がそれを本当に見たのかどうか、誰にも分からない。彼はただ黙って座り、車輪が前へ向かって軋む音を聞いていた。






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