第70話 荒野
【巻ノ二・残頁漆拾:『大荒異聞録・妖物誌』残巻】
「媪は、羊に似て羊に非ず、豚に似て豚に非ず。
渾身無毛にして、多々毒瘡を生ず。常に荒塚枯林に伏し、腐肉を食らうを好み、亦た活血を嗜む」
【司天監内部メモ】
世の中で一番クソなナビゲーションとは、遠回りをさせることではない。目的地を設定した後に、そもそもその道が一体どれほど長いのか、誰一人として知らなかったと気づくことだ。
†
「行くぞ」
謝必安が馬車の屋根へ向かって声をかける。
言葉を聞くや、阿奴は半空で虚空を数歩踏みしめ、極寒の霊気を足場にして従順に車内へと滑り込んだ。一方の銜蝉はすでに先んじて潜り込み、厚いフェルトが敷かれた寝心地のいい隅っこを見つけて喉を鳴らしている。
皆が落ち着いたその時、謝必安は微かに顔色を変えた。右腕の奥底にある妖魔の飢餓感が、再び経脈を伝って蠢き始めているのを感じたのだ。
彼は強く歯を噛み締め、背を向けて車内へ潜り込むと、重い木の扉を乱暴に閉め切った。座席のクッションを跳ね上げ、車底の暗い仕切りを漁り、精巧な彫り物を施した小さな木箱を引っ張り出す。開けてみると、中には骨でできた小さな槌と、建康城の方位陣が描かれた一枚の黄色い紙符が静かに横たわっていた。
「老沈、これを持て!」謝必安はそれを隣に座る沈無の手に押し付け、声を潜めて指示した。「この符を燃やして、御者台の前にぶら下がっているあの青銅の香炉に放り込め。車を引いているこの馬鹿は目がない。焚灰引路という術で動くんだ。黄符が灰になった煙を嗅げば、自分で建康城の臭いを頼りに走っていく」
沈無は符と骨の槌を受け取ると、眉間に深い皺を寄せ、憂慮の色を浮かべて問いかけた。「この方法……本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫かどうかなんて知るかよ」謝必安は不機嫌そうに口角を歪めた。「なら外へ出て、お前が馬丁になって車を操ってみるか? この引路符が効くのか、それともお前の手綱さばきで奴を従わせられるのか、試してみればいい」
沈無は返す言葉もなかった。
「曲がり角や停車の合図は、奴の首の後ろにある一番分厚い逆鱗を、その手の中の骨の槌で叩け。これを撃鱗伝音という」謝必安はさらに釘を刺す。「左へ曲がるなら二回、右なら一回だ。走らせたり止めたりしたければ、ど真ん中を思い切りぶっ叩け。いいか、絶対に叩くリズムを間違えるなよ。さもないと、振り返った瞬間に最初の一口で真っ先に噛み殺されるぞ」
沈無は手の中の奇妙な御者道具を見つめ、冷徹な表情には珍しく困惑の色が走った。
彼は顔を上げ、謝必安の目を鋭く見据えて極めて真剣な顔で問い詰めた。「正直に言え。以前、この方法で馬車を御したことがあるのか?」
謝必安は口角を吊り上げ、この上なく純良な笑みを浮かべてみせた。「ない」
「……ないのか?」沈無の目尻が激しく引き攣った。
「蜃驪がどこの街角にもいる普通の駄馬だとでも思ってんのか?」謝必安は堂々と両手を広げる。「姐弟子みたいな金持ちの伝手でもなけりゃ、奴の鱗に触る機会なんかあるかよ。実を言うと、この方法だって昔司天監のボロ本で読んだだけだ」
彼は人差し指を立てて付け加えた。「本によれば、十回中少なくとも九回は成功するらしいぞ」
沈無はまぶたをピクリと跳ねさせ、不吉な予感に襲われた。「なら、残りの一回は?」
謝必安は彼の視線を受け止め、無垢な顔で肩をすくめた。「食われるんだろ」
沈無は無言で人骨の小槌を強く握り締めた。手の中の道具と、悪びれもしない謝必安を交互に見やり、このデタラメな素人芝居にツッコミを入れるべきか、それとも自分の命を心配すべきか、一瞬分からなくなった。
結局、彼は顔を黒く沈ませたまま車外へ出た。身を翻して御者台へ座ると、言われた通り火打ち石で黄符を燃やし、青銅の香炉へと放り込んだ。
瞬時に、黄符がジジジと細かく焦げる音を立て、奇妙で生臭い黒煙がゆらゆらと立ち昇る。
蜃驪のあの真っ白で瞳孔のない巨大な眼球がぐるりと翻り、巨大な鼻孔が貪欲にその煙を吸い込んだ。
続いて、沈無は人骨の小槌を握りしめ、妖馬の首筋にある逆鱗のど真ん中へ、容赦なく重い一撃を叩き下ろした。
「ドンッ!」
鈍い骨と肉の衝突音が響いた後、蜃驪は強烈な火花と黒煙を二筋噴き出し、嗄れた長鳴きを響かせた。巨大な黒塗りの車輪が回転し始め、地面の焦げた枯れ草と腐った泥濘を無情に踏み砕き、白紗が天を舞い鴉の群れが狂乱する大魏の都へ向けて、疾風のごとく駆け出した。
およそ三つの時辰が過ぎた頃。
荒野の道はますます険しくなる。黒塗りの馬車は泥坑や砕石の間で激しく揺れ、耐えきれないような軋み音と摩擦音を立てている。
謝必安は内臓がひっくり返るほどの揺れに耐えかね、車簾の端をめくった。吹き込む刺すような冷風に向かって、声を張り上げて外へ怒鳴った。
「老沈! 外は真っ暗で鬼の影も見えねえぞ。俺たち一体どこまで来たんだ?」
沈無は御者台に座り、夜風に闘笠を揺らされながらも、冷たく硬い声で答えた。「周囲は荒れた林ばかり。人影はない。分からん」
謝必安はハッとし、心の底から嫌な予感が湧き上がってきた。窓枠にしがみついたまま問い詰める。「お前たちが姐弟子について建康城を出て、紫竹幽苑まで来た時、一体どれくらいの道のりを歩いたんだ?」
沈無は少し考え込み、ようやく答えた。「足取りから推測するに、城を出ておよそ十里といったところだ。だが正直に言えば、俺の記憶にこの紫竹幽苑周辺の地形図はない。今日この道を走るのも初めてだ」
謝必安は思い切り自分の額を叩き、悔しげな呻き声を漏らした。
彼はここでようやく、ある致命的な見落としに気づいたのだ。姐弟子がここへ来た時に使ったのは界褶の術、つまり空間を折り畳む神の如き手管だ。だが今の自分たちは、正真正銘、車輪を転がして荒野を進んでいる。十里に思えたその道程が、現実の大荒の世界地図に落とし込まれた時、一体どれほど引き延ばされているのか知れたものではない。それどころか、ここが無法地帯なのか、まだ大魏の領土内にいるのかすら、彼には全く分からなかった。
「最悪だ。姐弟子にどれくらいかかるか聞いておくのを完全に忘れてた……」謝必安は腫れ上がるこめかみを揉みながら独りごちた。「さっき紅綃が一ヶ月分の酒と飯を用意したと言っていたのも頷ける。姐弟子の狂った見送りのせいで、完全に感覚が麻痺してた。今思えば、建康までは最低でも十日か半月はかかるぞ」
突然、脳裏に閃くものがあり、彼は全身をこわばらせた。「待てよ」
「もし姐弟子が折りたたんだ空間が……十里じゃなかったら?」
「百里なら?」
「いや、千里だったら?」
「ニャォォォ――」
毛むくじゃらの金色の丸い前足が不意に彼の膝に乗せられ、謝必安の悲観的な脳内劇場を無理やり中断させた。銜蝉がいつの間にかフェルトの毛布から這い出し、まん丸の目で彼を恨めしそうに見つめている。『親父、俺様腹が減った。さっきの揺れで、昼に食った羊肉がすっかり消化されちまった』
謝必安は車外の鬼の哭き声のような風の音を聞き、蠢き始めている自分の右腕を見て、深いため息をついた。
「老沈、後で鱗を叩いて車を停めろ」謝必安は力なく命じた。「この荒れ野で闇雲に走ってもしょうがない。風を避けられる場所を探して野営し、まずは飯を食おう」
車外から「ドンッ」という鈍い音が響いた。
蜃驪が不満げな嘶きを上げ、四つの蹄で泥地に深い溝をいくつも刻み込みながら、車体ごと巨大な身躯を幽暗な枯れ木の林の縁にピタリと停止させた。
寒風が林を吹き抜け、腐った落ち葉を巻き上げる。
謝必安と沈無が車を降りて周囲を見渡すと、このわずかな場所は案外悪くなかった。さらに妙なことに、馬車が停まった角度が絶妙で、骨を刺すような冷たい悪風をすべて外側で遮ってくれている。これを見た二人はこれ以上進むのを諦め、ここで野営してこの夜をやり過ごすことに決めた。
車内では、阿奴も寝返りを打ち、熱源を求めて炉の近くへ少し丸まり、すぐにまた夢の中へ戻っていった。
幸い周囲には枯れ木がいくらでもあった。沈無は刀を持って薪拾いに行き、謝必安は馬車へ戻って、車内からずっしりと重い鉄釜と食材を引きずり出し、調理の準備に取り掛かった。
謝必安は目の前の道具を見て感嘆の声を漏らす。「紅綃の気配りには恐れ入るぜ。この鉄釜まで用意してくれてたとはな」
話している間に、沈無が腕いっぱいの薪を抱えて戻ってきた。
沈無は眉を上げ、その鉄釜を見て不思議そうに尋ねた。「お前のその釜は随分と奇妙だな。底が平らで、しかもこんなに浅いとは」
「へへ、こいつは秘密兵器だよ」謝必安はもったいぶってウィンクした。「後になればわかるさ」
沈無が手早く篝火を熾す。
謝必安は綺麗に磨かれた生鉄の平底釜を火にかけ、固まった濁った羊の脂を大さじ一杯分放り込んだ。脂が熱い鉄肌に触れた途端、一瞬で煮えたぎる熱油と化し、ジジジと細かく長い音を立てる。続いて短剣を抜き、紅綃が用意してくれた干しイノシシ肉を丁寧に薄切りにしていく。秋風にさらされた肉の塊は深い暗赤色をしており、皮革のように硬く、刃先が繊維の間を滑るたびに強い抵抗が伝わってくる。
彼は厚さの不揃いな肉片を、大量の野ニラや叩き割った生姜と一緒に、平底釜の中へ一気に流し込んだ。高熱が瞬時に油脂の香ばしさとニラの辛味を引き出し、濃烈な白煙が勢いよく立ち昇る。舌先に広がる泥のような味と妖骨の異変を力ずくで押さえつけるため、謝必安は容赦なく茱萸の粉を多めに振り入れた。むせるような辛味のせいで、そばで飯を待っていた銜蝉が立て続けにくしゃみをした。
この誘惑的な肉の香りを嗅ぎつけ、銜蝉はヨダレを垂らさんばかりにして、鍋を恨めしそうに見つめた。『親父、これすげえ美味そうな匂いだな! あんたがこの料理を作るのは久しぶりだぜ。今日は本当にいい日だ!』
重い油と強烈な辛味の効いた野ニラと肉の炒め物を完成させると、彼はすぐ横の泥炉に深い腹の陶罐を載せ、熱いスープの煮込みに取り掛かった。
スープの中身は骨髄のついた羊の背骨肉の塊と、細かく刻んだ陳皮、そして秋ネギだ。陶罐の中の泉水が次第に沸騰し、ゴロゴロと湧き上がる水面にはミルクのように白い油脂が分厚い層をなして浮かぶ。謝必安は長い木の匙で罐の中をゆっくりと混ぜ、柄が陶罐の内壁にこすれてザラザラとした音を立てる。濃厚な肉の香りが香辛料の鼻を突く匂いと混ざり合い、荒野の冷たい風に乗って急速に広がっていった。
謝必安は煮えたぎる熱湯をじっと見つめ、喉仏を苦しげに動かした。彼は、この手間暇かけて煮込んだ人間の営みの証が、少しでも自分の中にある人間としての味覚を呼び覚ましてくれることを切に願っていた。
しかし、常人ならば垂涎もののこの強烈な肉の香りは、寒風に乗って遠くまで漂い、暗闇の中に潜む招かれざる客の貪欲な欲望を引き寄せてしまった。
野営地から百丈離れた暗闇の奥深く。幾つもの巨大な肉の影が、音もなく枯れ草の間を這い回っていた。
全身には毛が一本もなく、灰白色の粗い皮膚には吐き気を催すような巨大な膿疱がびっしりと生えている。荒々しい息遣いに合わせて膿疱が微かに波打ち、悪臭を放つ黄色い粘液が滲み出ている。
林の中で腐肉を探していた奴らは、ピタリと足を止めた。
羊に似て羊に非ず、豚に似て豚に非ずという異様な頭部が、一斉に篝火の方角へと向けられる。灰白色の瞳が暗闇の中から覗き込み、飢えと貪欲に満ちた凶悪な光を放った。ドロリとした涎が外側に反り返った牙を伝って枯れ葉の上に滴り落ち、葉をジュウジュウと腐食させる音を立てた。
奴らは、この上なく魅力的な食べ物の匂いを嗅ぎつけたのだ。
それと同時に、謝必安は不意に動きを止めた。それは料理の香りではない。彼は全く異なる匂いを嗅ぎ取っていた。羊肉でもなく、ニラでもなく、生姜でもない。
暗闇の奥深くから、食物以上に彼を強烈に誘惑する何かが匂いを放っているのだ。彼は突如として分からなくなった。この垂涎の欲求は、果たして自分の胃袋から来ているのか、それとも右腕の奥深くにあるあの骨から来ているのか。
時を同じくして。車内で眠りこけていた銀色の毛玉が、長いまつ毛を微かに震わせ、ゆっくりと目を開いた。それはダイヤモンドのように美しいオッドアイで、暗闇の中でキラキラと輝いている。阿奴はまず微かに首をかしげ、車外から聞こえる談笑の声の方向を見やり、異状がないことを確認すると、ゆっくりと視線を転じ、危険を隠し持つ底なしの暗闇へと冷ややかに眼差しを向けた。
【作者より】
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―― 仔猫




