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世説新鬼 —神のゴミを拾う男—  作者: 仔猫(コネコ)
第二巻:乱法と残骨
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第68話 試鋒《刃を試す》



【巻ノ二・残頁陸拾捌:『司天監(してんかん)・武備档』残巻】


「器に霊有らば、則ち主を択ぶ。妖に骨有らば、則ち主を噬む。


若し妖骨を以て霊器を御さば、猶も虎を駆りて狼を呑ましむるが如し。少しでも不慎有らば、反って其の咎を受けん」



司天監(してんかん)内部メモ】


己を清高と見なし、死んでも署名捺印を拒むような提携相手に出くわしたら。天地の大義などと綺麗事を並べるのはやめておけ。


俺が教えてやる。奴の急所を真っ直ぐに締め上げ、こう言い放つんだ。


「お互い裏社会で飯を食ってる身だ。おとなしく『試用期間』の契約書にサインして清廉潔白なパートナーのフリをするか。それとも、お前のその高貴な身体を使って、肥溜めの糞かき棒がどういうものか、生々しく実演してやろうか」


俺を信じろ。生存の危機に直面した時、聖人君子が俗世へ堕ちるスピードは誰よりも早い。



紫竹幽苑、蔵霜院。


夜風が窓枠を通り抜け、室内の燭火を激しく揺さぶっている。


昼間に『大荒異聞録(たいこういぶんろく)』が自ら文字を更新した奇怪な出来事。そして陣法の外を徘徊する巨大な捕食者の足跡が、屋敷全体に重苦しい不安の影を落としていた。


謝必安(シャ・ビアン)はベッドの上で胡座をかき、膝の上に横たわる幽黒の短棍を前に頭を抱えていた。


この半刻の間、彼は思いつく限りの手段をすべて試した。左手の人差し指を短剣で何度か切りつけ、絞り出した血を『驚蟄(きょうちつ)』の金象嵌に垂らしてみたが。まるで油を塗った革に落ちたように表面を滑り落ち、一滴も染み込もうとしない。


この雷撃棍の霊は、武芸の腕も立たない九品の小役人に対して露骨な傲慢さと拒絶を示していた。


「そうふんぞり返るな。遅かれ早かれ、お前を飼い慣らす方法を見つけてやる」


謝必安(シャ・ビアン)は鼻で笑い、机の上の粗末な酒碗を左手で掴むと、紅綃(ホンシャオ)が昼間に残していった黍の酒を煽った。


「本物の高粱酒の香りには劣るが、姐弟子も大したもんだ。一体何を混ぜたのか知らないが、実に美味い。ここを去る時は、絶対に数樽拝借していかないとな」


独り言を言いながら舌鼓を打ち、残りの酒を一気に飲み干した。


辛口の酒が喉を焼き、アルコールが瞬時に血脈へと溶け込む。ほとんど同時に、右腕の妖骨が馴染みのある痙攣を起こした。骨の奥底に潜む暴虐の気が酒の熱で引火し、皮膚の下で暗金色の経脈が生き物のように不気味に膨れ上がる。


今回、謝必安(シャ・ビアン)はそれを無理に抑え込もうとはせず、流れに任せて右腕を伸ばし、『驚蟄(きょうちつ)』の棍を力強く握りしめた。


「ブォォォン――!」


相反する二つの力が、室内で激しく衝突した。


驚蟄(きょうちつ)』の中に息づく雷木の霊が邪祟の穢れを感知し、表面の明滅する光点が瞬時に無数の青白い雷光へと変わり、金象嵌の紋様に沿って牙を剥く。雷木は生まれつき邪を払う性質を持つ。至剛至陽の電流が妖骨へと流れ込み、この穢れた右腕を徹底的に浄化しようと試みた。


妖骨もまた生存の脅威を感じ取り、負けじと底知れぬ死気を荒れ狂わせる。


「お前ら、俺の身体をプラスチックのおもちゃか何かだと思ってんのか?」謝必安(シャ・ビアン)は目尻を引き攣らせて毒づいた。


二つの力の狭間に挟まれ、右腕の肉は雷の放電でパチパチと焼け焦げ、骨の髄は妖気に蹂躙されて錐で刺されるような激痛に見舞われる。生きたまま霊力勝負の戦場と化し、冷や汗が滝のように流れ、顔色は瞬時に紙のように白のいた。


「クソッ、まだ止まらねえのか? なら、俺の家のルールで躾け直してやる!」


謝必安(シャ・ビアン)は血走った目を剥き、歯を食いしばって低い唸り声を上げた。仲裁に入るのではなく、深く息を吸い込み、体内の霊力をすべて右手へと集中させる。


――『錯金(さっきん)琉璃』。


その瞬間。雷木とも妖気とも全く異なる、冷たく理不尽な法則の力が、謝必安(シャ・ビアン)の掌から這い出し、『驚蟄(きょうちつ)』を容赦なく締め上げた。


青白い電光を放っていた木肌が、肉眼で追える速度で「ピキピキ」と結晶化の音を立てる。半透明の琥珀色をした瑠璃が、煮えたぎる液状の黄金を交えながら、骨の髄に群がる蛆虫のように雷木の木目を無情に飲み込み、覆い尽くしていく。


ほんの少し前まで妖骨と全力で殺し合っていた雷木の霊は、己の自我を完全に抹消し、永遠にただの死物へと封印しかねないこの力を感じ取り、たちまち極度のパニックに陥った。


青白い放電が急速に弱まり、木棍は謝必安(シャ・ビアン)の掌の中で激しく震え、命乞いをするようなブンブンという哀鳴を上げた。


「お前みたいなタダの木切れがプライド高いのは知ってる」謝必安(シャ・ビアン)は一字一句噛み含めるように告げた。瑠璃化の浸食はすでに棍の中段まで達しており、いつでも棍全体を陶磁器に変えられる状態だ。「だが、よく見ろ。今お前を握っているのは俺だ。俺のために働く気がないなら、今すぐお前を綺麗なガラス棒に変えて、庭に日時計としてぶっ刺してやる!」


短棍はさらに激しく震え、反発していた雷の力はすっかり鳴りを潜め、どうか許してくれと哀願しているかのようだ。


「今の世の中、飯を食うだけでも大変なんだ。お互い一歩譲り合って平和に行こうぜ」


謝必安(シャ・ビアン)はここでようやく『錯金(さっきん)琉璃』の容赦ない浸食を緩め、いかにもブローカーらしい胡散臭い作り笑いを浮かべた。


「三ヶ月だ! 試用期間として契約を結ぼう。お前が俺のこの脳無しの妖骨を抑え込んでくれるなら、ガラスの置物にはしないと約束する。その間、俺の力に合わせろ。三ヶ月経ってまだ不満があるなら、契約解除だ。引き留めやしない」


一方の手に致命的な切り札を握り、もう一方の手で実現不能な甘い条件を提示する。ヤクザまがいの交渉術を前にして、高慢だった霊器は完全に沈黙してしまった。


やがて、『驚蟄(きょうちつ)』の表面が微かに光り、二尺三寸しかなかった幽黒の短棍が、謝必安(シャ・ビアン)の掌の中で半尺ほど真っ直ぐに伸びた。


この半尺の延長が、重心のバランスを絶妙に変化させた。ずっしりと安定感が増し、右腕を振った際に腰を痛める原因となっていた捻れの力を大幅に打ち消す形となった。


同時に、棍から柔らかな気配が溢れ出し、謝必安(シャ・ビアン)の右腕へと逆流して絡みつく。妖骨の中で荒ぶっていた殺戮衝動が、目に見えない手枷を嵌められたかのように、不満げに沈黙へと落ちていった。


棍が妖骨を制し、人が棍の霊を制す。


脆くも完璧な均衡が、謝必安(シャ・ビアン)の肉体の上で一時的に成立した。


「よし、交渉成立! こんなに簡単なら、祝いの歌でも歌いたくなるぜ」


謝必安(シャ・ビアン)が喜びに浸る間もなく、紫竹幽苑の境界の辺りで耳をつんざくような轟音が響き渡った。


「ドォォン!」


蔵霜院の地面が微かに揺れ、闇夜に浮かぶ紫竹陣の光の結界が激しく点滅し、耐えきれないようなパチパチという音を立てた。


続いて、無秩序で重々しい足音が竹林の落ち葉を踏み砕き、強烈な血生臭さを伴いながら正門へと迫ってくる。


『ミャオォォ! 親父! 外で何かが門を叩いてるぞ!』


ベッドの下で熟睡していた銜蝉(シェンチャン)が、突如の地響きと物音に驚き、金色の毛を総毛立たせて球のようになり、ヒュンと梁の上へ飛び乗った。


阿奴(アヌ)は軽やかに窓枠へ降り立ち、四つ足を宙に浮かせる。銀色の背中を弓なりに反らせ、オッドアイの両眼で冷たく中庭を見透かし、陣法の外の暗闇を睨みつけながら威嚇の唸り声を上げた。


謝必安(シャ・ビアン)は迷わずベッドから跳ね起き、『驚蟄(きょうちつ)』を握りしめて蔵霜院を飛び出し、正門へと駆け出した。


正門では、沈無(シェン・ウー)が冷気漂う百辟喪門刀を提げ、幽緑色に光る符を手にした重楼(チョンロウ)と並んで立っていた。


「まだ持ちこたえられるか?」沈無(シェン・ウー)が低い声で尋ねる。


「この数日は月の満ち欠けも悪く、恩主様も力を消耗しておられるため、陣の力も弱まっています。外の腐肉食いの雑魚どもが休むことなく、中に入るでもなくただ狂ったように陣に体当たりを繰り返しているのです」重楼(チョンロウ)は険しい顔で符を強く握りしめた。「恩主様の恐ろしさも知らぬ愚か者どもめ。死に急ぐのは勝手だが、俺はまだ生きていたい」


「あの畜生どもに、姐弟子の屋敷を解体させるわけにはいかねえ。その修理代まで俺のツケにされちまうからな」謝必安(シャ・ビアン)が鼻を鳴らす。「外に出て片付けるぞ」


謝必安(シャ・ビアン)は手にした雷撃棍を軽く振り、先頭を切って歩き出す。沈無(シェン・ウー)は無言でその後を追った。三人と二匹の猫は、そのまま紫竹幽苑の防衛結界を跨ぎ越えた。


「その棍、使えるようになったのか? 少し長くなったようだが」沈無(シェン・ウー)が棍を一瞥し、何気なく問いかけた。


「ああ、俺が脅してやったのさ」謝必安(シャ・ビアン)が適当に返す。


沈無(シェン・ウー)は彼の右腕へと視線を移す。「なら、腕の方は?」


「一時休戦中だ」謝必安(シャ・ビアン)は口の端を歪め、淡々と答えた。


冷たい月明かりが薄い雲を抜け、陣法の外に広がる泥濘の荒野を照らし出すと、そこにはいくつもの影が蠢いていた。


一際目立つのは、牛ほどもある巨体に、鑿のように長い牙を生やし、全身に逆棘と膿疱をびっしりと生やした「鑿歯(そうし)」が四、五頭。粘り気のある涎を垂らしながら、狂ったように足元の泥を掻きむしっている。


奴らはここに色濃く残る血の匂いに引き寄せられてきたのだ。生きた人間が陣から出てきたのを見るや、血走った眼球が一斉にこちらをギョロリと睨みつけた。


「なんだこのバケモン? 牙とトゲの生えた野人か?」謝必安(シャ・ビアン)は目を凝らし、息を呑んだ。


言葉が終わるか終わらないかのうちに。


吼オォォォッ!


最も強靭な「鑿歯(そうし)」が一頭、後ろ脚で泥地を強く蹴り上げ、強烈な獣の臭いを纏いながら謝必安(シャ・ビアン)の顔面へと躍りかかった!


昼間の彼なら、棍を振るった勢いでバランスを崩し、泥水の中へ突っ込んでいただろう。だが今は違う。『驚蟄(きょうちつ)』を握る右腕に、かつてないほどの確かな手応えがあった。


妖骨の力が、爆発する。


今回は両足にしっかりと体重を乗せ、滑りやすい泥濘の中でも微動だにしない。少しだけ長く変化した『驚蟄(きょうちつ)』が暗い光を放ち、妖骨の凄まじい怪力を完璧に受け止めた。


謝必安(シャ・ビアン)が右腕を大きく振りかぶると、雷撃棍は黒い帯のような残像を残し、怪物の頭蓋へ正確無比な一撃を叩き込んだ。


「ドォォン――グチャッ!」


棍が頭蓋骨を砕く感触。それはまるで、鉄のハンマーで分厚いスイカを叩き割るような手応えだった。


空振りも、手ブレもない。千年の雷木の硬度と妖骨の怪力が掛け合わされ、破壊の嵐となって「鑿歯(そうし)」の頭を半分陥没させ、赤と白の混ざった体液が扇状に荒れ草へと飛び散った。


眩い青の電流が毒蛇のように瞬時に怪物の全身を駆け巡る。たった一撃で、巨大な身体が謝必安(シャ・ビアン)の足元へ重く沈み、二度ほど痙攣した後はピクリとも動かなくなった。


「ふぅ……まあ、こんなもんか」謝必安(シャ・ビアン)は棍を握る手を見下ろした。


棍を振り抜いた姿勢のまま、荒い息を吐く。この腕、この棍で、真正面から妖魔を打ち殺したのはこれが初めてだ。腰椎のきしみはなく、ただ暴力の限りを尽くした後の爽快感だけが残っていた。


「これなら、少しは『錯金(さっきん)琉璃』の出番を減らせそうだな」と呟く。


その間に、沈無(シェン・ウー)重楼(チョンロウ)も残りの「鑿歯(そうし)」を手際よく始末していた。残った妖魔どもは分が悪いと悟り、恐怖に満ちた鳴き声をいくつか残して、闇深い竹林の中へと次々に逃げ去っていった。


嵐のように現れ、そしてあっけなく終わった。


謝必安(シャ・ビアン)が右腕を下ろすと、『驚蟄(きょうちつ)』に付着した血が金象嵌に沿って滴り落ち、ポタポタと小さな音を立てる。彼はうつむき、頭を潰されて無惨な死を遂げた鑿歯(そうし)の死骸を見下ろした。


拾遺(しゅうい)という職業柄、妖魔が腹を裂かれ、脳髄を撒き散らして死ぬ光景など見飽きており、本来なら心が揺れることなどない。


だがこの瞬間、悪臭と内臓の血生臭さが漂う中で、謝必安(シャ・ビアン)はその場に縫い付けられたように立ち尽くしていた。


彼の両目は、泥水と混ざり合った黒い血と肉片の山に釘付けになっている。


右腕に奇妙な痺れが走った。その痺れは経脈を伝って腹の底へと這い上がり、やがて抑えきれないほどの飢餓感へと姿を変える。


喉仏が、ゴクリと重く上下した。


口の中に、意志とは無関係に大量の唾液が溢れ出す。


彼の感覚の中では、眼前の悪臭を放つ死骸はもはや妖魔ではなく、焼き上がったばかりの極上のご馳走にしか見えなかった。


「美味そうだ……」


その言葉が、寝言のように微かな音で唇の隙間からこぼれ落ちた。


「シュッ――」


銀白の残影が夜空を裂いて静かに舞い降り、死の静寂を打ち破った。


阿奴(アヌ)が宙を踏むようにして現れ、純白の四つ足を怪物の砕けた頭部の上で静止させる。右の前足を優雅にひと振りすると、浄化の霊気が肉片の奥へ潜り込み、粘液にまみれた暗赤色の内丹を強引に引きずり出した。


冷気が一瞬にして内丹の表面の汚れを凍らせて弾き飛ばし、水晶のように透き通った珠へと変える。それを一口で飲み込んだ。


それだけの手間をかけても、阿奴(アヌ)はやはり嫌そうにピンクの鼻先をしかめた。彼女はふわりと謝必安(シャ・ビアン)の肩に飛び乗り、彼のまだ比較的綺麗な袖を遠慮なく引き寄せ、埃一つついていない自分の前足を念入りに拭き始めた。


直後、背後でドスッという重い着地音が響いた。


銜蝉(シェンチャン)が鉄球のように謝必安(シャ・ビアン)の足元に落ちてきて、泥水を派手に飛び散らせた。この太った猫は尻を振りながら鑿歯(そうし)の死骸に顔を近づけて匂いを嗅ぎ、酸っぱい腐敗臭にむせて連続で三回もくしゃみをした。その丸い顔が、不満そうに肉まんのように皺くちゃになっている。


『ミャオォォ! 親父、腹が減りすぎて幻覚でも見てんのか!?』


銜蝉(シェンチャン)が心の中で信じられないというように叫び、太くてフワフワの尻尾を扇風機のようにブンブンと振って嫌悪感を露わにした。


『この腐りかけた生ゴミのどこが美味そうなんだよ!? 好き嫌いしない俺様でさえ汚くて食いたくねえのに、あんたヨダレ垂らしてるじゃないか! 親父、俺様を見習って、少しは食い物の趣味を磨いてくれよ!』


このうるさい猫の鳴き声が、まるで強烈な平手打ちのように、謝必安(シャ・ビアン)の顔を容赦なく張り飛ばした。


謝必安(シャ・ビアン)は感電したようにブルッと身震いし、悪霊に取り憑かれたような食欲からハッと我に返った。


自分の服で前足を拭いている阿奴(アヌ)を見やり、心底嫌そうな顔をした銜蝉(シェンチャン)を見下ろし、最後に自分の右腕へと視線を落とす。途端に、背中が滝のような冷や汗で濡れた。


彼は恐怖と共に悟った。


この妖骨は、ただ彼の理性を奪おうとしているだけではない。静かに、だが確実に彼の人としての本能を歪め、この大荒の地で人を骨まで食い尽くすバケモノへと、完全に同化させようと企んでいるのだ。


謝必安(シャ・ビアン)は『驚蟄(きょうちつ)』を握りしめ、右手を睨みつけながら、その眼差しを少しずつ氷のように冷たく沈ませていった。


「どうやら……俺がどれだけ本気でキレる人間か、骨の髄まで叩き込んでやる必要がありそうだな」






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