第48話 彩雲易く散り琉璃脆し
【巻ノ一・残頁肆拾捌:『大魏風物誌・琉璃』残巻】
「中原の琉璃は、多く鉛とバリウムを以て焼製す。色澤は流光溢彩なれど、質地は極めて脆く、沸水に遇わば裂け、重撃に遇わば砕く。
方士云う、若し邪法を以て活人を琉璃と化さば、其の魂魄は永遠に脆き殻の内に囚われ、生を求むるも得ず、死を求むるも能わずと」――『工部・百工档』
【司天監内部メモ(雑項科司吏・謝必安筆)】
「材料と強制廃棄」
材料の密度と質地を改変し、柔軟な木材を極度に清脆なガラスに変え。相手の攻撃に混乱した屈折と自壊を生じさせる。これを工学においては、「構造的崩壊の誘発」と呼ぶ。
【考功司・王主事朱筆(墨跡狂乱、紙背は幾度も突き破られている)】
「狂悖! 妖言惑衆なり! 大魏のどこに『工学』などという説がある! 百年の金糸楠木は木材であり、『媒質』などという説がどこにある! 貴様は忘憂閣の棟全体の雕梁画棟を毀しておきながら。胡説八道の『強制廃棄』の一言で、この天を突く大穴をごまかそうというのか! この天価の折損、本官は貴様が来世で畜生に投胎しようとも、貴様の紙銭から必ず差し引いてくれるわ!」
†
忘憂閣二階、銷金廻廊。
錆びた鋼ノコギリで硬骨を切るようなあの胡琴の音が、肉眼で見える歪んだ気波と化し、閉鎖された廻廊の内で狂ったように激突する。
皮を剥がれた優伶の、まぶたのない眼球が謝必安を死に物狂いで見据えている。
鮮血にまみれたその両手は、常人には及ばない速度で、自らの肋骨で作った琴の弓を狂ったように引いている。大腿の筋腱はピンと張り詰め、極致の摩擦の下で、一筋また一筋の焦黒の青煙すら上げている。
沈無はこの高周波の震鳴に逼られ、寸歩も進めない。百辟喪門刀の重厚な刀身が嗡嗡と共振を発し、虎口(親指と人差し指の間)が裂け、一筋の鮮血が刀の柄の鉄の鎖に沿って滑り落ちる。
「沈無、耳を塞いで退がれ。デカいのが来るぞ」
謝必安の声は一筋の起伏もないほど冷酷だ。五指を、傍らの金糸楠木の柱の紋理に死に物狂いで食い込ませた。
「琉璃、玉匣(玉の箱)」
目を刺す幽藍色の光芒が。指先に沿って、悍然と木の柱の内部へ注入された。
異変は刹那の間に発生した。
本来堅靭な百年の金糸楠木が、細密なピキピキという音を立てた。木質繊維が肉眼で見える速度で急速な質的変化を起こす。木の色が急速に退き、半透明で氷のように冷たい光澤を放つ幽藍色の琉璃へと化した。
そしてこの琉璃の内部では。沸騰する液体の黄金のような無数の脈絡が、本来の木目に沿って狂ったように蔓延し、流動している。
この質的変化は止まらない。
木の柱に沿い、ウイルスのごとく足元の床、頭上の梁へ狂ったように感染していく。わずか三呼吸の間に。銷金廻廊全体の木質構造がことごとく、流光溢彩でありながら極めて脆そうな琉璃の通路へと化した。
皮を剥がれた優伶が弓を引いて発する高周波の震鳴。本来なら木材と血肉を容易に貫通できた。
だが今。これらの音波は堅硬かつ滑らかな琉璃の表面に激突し。瞬時に極度な混乱を伴う屈折と残響を生じさせたのだ。
「ギィィィン――!!」
無数の音波が琉璃の廻廊の内で互いに衝突、重畳し。最終的に一筋の耳を刺す音爆を形成し。優伶自身の身へ容赦なく反噬した。
優伶が凄惨な惨叫を発する。
露出していた鮮紅の筋肉繊維が、音爆の衝撃の下で寸寸に崩裂し、汚血が狂噴する。彼女は立ち上がって謝必安へ飛びかかろうとしたが。一歩踏み出した途端、手の中の張り詰めていた大腿の筋腱が、混乱した共振に耐えきれず。
「ブチッ」という鈍い音を立てて生身のまま二つに断裂した。
「今だ。砕け」謝必安が二本指を伸ばし、前へ二度振る。
沈無が両手で刀を握る。玄色の鹿皮の靴が地面の琉璃を猛然と踏み砕き。龐大な刀身が檻を出た凶獣のごとく、百辟刀を引きずって狂飆突進した。
沈重な刀の峰が排山倒海の鈍器の動能を帯び。優伶の腰と腹へ容赦なく叩きつけられた。
「ドォォン!」
華美な技などない。
優伶の、皮膚の保護を失った残破の躯体は。この恐怖の物理的巨力に直接弾き飛ばされ、壁の琉璃の柱へ重く激突した。
骨格が砕ける鈍い音と琉璃が割れる澄んだ音が混ざり合い。二度と動けぬ一灘の爛れ肉と化した。
「オロロッ――!」
優伶が斃命した瞬間。謝必安は猛然と片膝をついた。
手を死に物狂いで胸に当て、胃部が劇烈に痙攣し。胆汁の混ざった酸水を直接地面に吐き出した。
フロア全体の物質構造を強引に改変したことは。彼に極度で恐怖の生理的反噬をもたらした。大脳が錆びた鉄釘で容赦なく鑿り込まれかき回されているようで。視線の縁に幾重もの像が現れ始める。
阿奴が肩から軽やかに飛び降り。銀白色の爪で嘔吐物の傍の清潔な琉璃の面を踏む。
オッドアイの瞳に一筋の嫌悪が閃く。直後、口を開け、一口の極寒の氷霜の霊気を吐き出し。謝必安の周囲の燥熱と血生臭さを強引に駆逐した。
すべてを終えると。この銀色の女王は高慢に前足を上げ。遠慮なく謝必安の泥汚れまみれの衣の裾で擦って拭いた。
「サンキュー、阿奴」謝必安は手の甲で口角の酸水を拭い。よろめきながら立ち上がり、大口で喘ぐ。「行くぞ……最上階へ。これくらいの反噬じゃ死なねえ」
二人と二匹の猫は半分の停歇もなく。満地の琉璃の砕屑と血肉を踏みしめ、さらに上へ登る道を探す。
上へ行くほど、高温と血生臭さはますます濃烈になり。すでに徹底的に陣法に呑噬されている。
活人はいない。満地に融けた黄金、焼け焦げた名貴なシルク、そして階段の入り口に蟠踞する巨大な肉の山があるだけだ。
それは忘憂閣のやり手婆、花ママだ。
その巨大な身躯は、この青楼の数十年の帳簿、算盤、そして庫房の黄金とすでに鎔鋳され一体となっている。
顔は融けた金水に覆われ、牙がびっしりと並んだ血の池のような大口だけを露出させている。無数の名貴な蜀錦のシルクが触手のように背後から延伸し、周囲の大黒柱に死に物狂いで絡みついている。
「私の金……誰にも私の金は持って行かせない……」
花ママが舌足らずな嘶きを発する。腹の肥肉が猛然と内側へ収縮し。
続いて、陣法の煞気に包まれた何千何百もの真鍮の算盤の珠が。満天の飛蝗のごとく。耳を刺す破空の音を帯びて。階段の入り口の二人へ向かって爆射されてきた。
「ガガガガッ!!」
沈無は即座に刀を横にして防御する。
算盤の珠が百辟刀の厚い刀身に直撃し、次々と凹みを作り、火花が四散する。数発の流弾が沈無の生皮の鎧を掠め、堅靭な皮革を直接引き裂き、床板へ深く食い込んだ。
「鈍器はこういう軟硬入り交じった肥肉には相性が悪すぎる」沈無は弾雨を凌ぎながら、歯を食いしばった。
「なら脆くしてやる」
謝必安は本能的に再び能力を発動させ、それらの蜀錦を脆くしようと試みた。
だが。霊力を催動した途端、右手の前腕の数本の毛細血管が「プツッ」と音を立てて爆裂し、鮮血が瞬時に袖を赤く染めた。
脳に眩暈が走る。彼の身体はすでに、短時間で二度目の広範囲な質的変化に耐えられないのだ。
「クソ、痛え……」謝必安は舌の先を噛み破り、喉の血生臭さを強引に飲み込む。「阿奴! このやり手婆の資産の温度を下げろ! 沈無、砕氷の準備だ!」
「ミャオ!」
空中で旋回していた銀色の女王が清脆な鋭い鳴き声を発した。そのオッドアイの瞳の光芒が大きく盛んになる。
小柄な身躯が空中で猛然と震え。先ほどよりもさらに狂暴な浄化の霊気が。白い雪崩のごとく、飛射してくる蜀錦のシルクを迎え撃って席巻した。
高温のシルクが浄化の霊気に触れた瞬間。表面に急速に厚い白色の氷殻が結成された。
本来無比に堅靭な蜀錦が。低温によって強引に靭性を奪われ、僵硬で清脆な氷の柱へと変じた。
「砕け!」謝必安が低く吼える。
沈無が機を見計らい。百辟刀が風車のように狂ったように振り回された。
沈重な刀身が凍てついて脆くなったシルクの触手の中に叩き込まれ、ガラガラという氷塊の破碎音を立てる。
『ニャオオ!』
一方の、満天を舞う真鍮の算盤の珠については。銜蝉がとうに抑えきれずにいた。
肥満した身躯が柔軟な金色の麻袋のごとく、弾雨の中を上下に跳び回り。大口を開け、煞気に富んだそれらの黄金の珠をキャンディでも食うようにことごとく腹の中へ飲み込み。意猶未尽(物足りない)というようにゲップすら一つ打った。
一人と二匹の猫の粗暴な連携が。この金銭の肉山の隙間から生身のまま血路を穿ち。花ママと絡み合うことすらせずに突破した。
『ペッ――このババアの肉は古すぎて、マズい!』
銜蝉は背後に続き、花ママの肉山に向かって嫌悪感たっぷりに唾を吐き捨てた。
沈無が謝必安の手を見る。「手はまだ保つか?」
「死にたいほど痛てえが、まだ動く」
謝必安は走りながら、痛みに手を振り続ける。
「俺の妹の薬、なかなかいいもんだな」
「金の亡者の野郎より俺の妹の薬の方が当てになるとは思わなかった。少なくとも、病気を治すふりをして俺の懐にいくら銀が残ってるか探ったりはしねえ」
ついに、彼らは最上階へ通じる最後の階段を踏んだ。
摘星台。忘憂閣の最高処。
ここの丸天井はとうに陣法に突き破られている。満天の秋雨が狂い注ぐが、空中で恐怖の高温によって瞬時に蒸発させられる。
摘星台の正中央。直径三丈に足るあの猩紅の光柱が。巨大な水ポンプのような轟鳴音を発している。
平康坊の生霊の陽気が。この光柱を通じて、絶え間なく大魏皇宮の太極殿へ輸送されているのだ。
光柱の周囲の空気は極致の高温のせいで深刻な扭曲を生じている。
謝必安の呼吸は極度に困難となり、息を吸うたびに、滾々と煮え立つ刃が気管を削いでいるように感じる。
胸に抱えたあの金泥の漆塗りの箱の表面に張った氷霜は。肉眼で見える速度で融化し、氷のように冷たい水滴を落としている。
「大陣の核心はまだ地下で全速で共鳴している。陣法の脈絡はすでに承受の極限に達している」
謝必安は胸の漆塗りの箱を解き放つ。指先は力を込めすぎて白くなっている。
振り返り。沈無の血汚れと汗にまみれた剛毅な顔を見た。
「俺がこの『豪華弁当』を光柱の中に突っ込む。陽気の陣法通路に沿って。この代物は一炷香の内に、国師の五臓六腑へ直接逆流するはずだ」
謝必安の口角に、極度に狂気じみた、そして市井の商人めいた冷笑が浮かんだ。奴に一杯食わせてやるには十分だ。
「この命取りの出前を届け終わったら。下へ降りて地下の暗室へ行き、国師の『命根子(急所)』を叩き潰す」
「やれ」沈無は顎の血水を拭い。百辟刀を残破した床板へ重く突き立てた。
謝必安は深く息を吸い込む。骨肉を融かすほどの熱波に逆らい、一歩また一歩とあの猩紅の光柱の縁へ歩み寄る。
阿奴が彼の頭上でホバリングし、体内のすべての浄化の霊気を微塵の保留もなく釈放し、謝必安の心脈を死に物狂いで護る。
光柱まで残り三歩。
謝必安の手の甲の皮膚に、大面積の恐怖の赤い斑点が浮き出始めた。高温による重度の火傷だ。
彼は歯を死に物狂いで食いしばり。猛然と漆塗りの箱の蓋を跳ね開けた。
漆塗りの箱の内に。完璧に調配された法宝など根本から存在しない。気息が互いに狂ったように排斥し合う四つの「半製品の原料」があるだけだ。
赤紅で温潤な火精が、人を焼く熱波を放つ。暗紅で生臭い龍脈の廃カスは、蠕動する爛れ泥のようだ。幽藍で純浄な鮫人の涙が、極寒の氷霜を絶え間なく溢れさせる。
そして最も中央のあの金紅で暴戻な中指の舎利は。いつでも引爆(起爆)を準備している導火線のごとく。目を刺す仏門の業火を狂ったように釈放している。
四つの全く異なる力が狭小な漆塗りの箱の内で互いに衝突し、パチパチという爆鳴音を立てる。漆塗りの箱の内壁すらすでに細密な亀裂が震い出されている。
「仕方ねえ。その場で混ぜ合わせるか」
謝必安は血の混じった唾を吐き捨てる。眼差しは極点まで冷酷だ。
半分の躊躇もなく。水ぶくれだらけの左手を直接伸ばし、粗暴に漆塗りの箱の中へ突っ込んだ。
心中ではまだ愚痴っている。この仕事、牛馬のように扱き使われるよりも人間味がないぞ。
謝必安の五指は錆びた鉄バサミのごとく。この四つの属性の相反する材料を死に物狂いで掴み込む。
喉から野獣のような嘶きを発し、骨の節が過度の力でパキパキという澄んだ音を立てた。
玄妙な煉丹の手法などない。
自らの掌の中で生身のまま。鮫人の涙の寒気、火精の炎熱、舎利の暴戻と廃カスの腐敗を。強引に揉み捏ね、圧搾し。
混沌とした死灰色を放ち、絶え間なく膨張と収縮を繰り返す一塊の「煞料」へと変じた。
機能も後果も全く確定できない代物だ。
「国師。出前が出発したぜ。必ず受け取ってくれよ」
謝必安が嗄れた嘶きを発する。
全身の最後の一筋の力を使い果たし。漆塗りの箱全体を、猩紅の光柱の最も核心へ向かって容赦なく投げ込んだ。
「ジューッ――轟隆!!」
漆塗りの箱が高温の陽気に触れた瞬間。耳を聾する巨響が爆発した。
本来純粋だった猩紅色の光柱が。この「煞料」を呑み込んだ後。劇烈に扭曲し、抽搐し始めた。
人を毛骨悚然とさせる死灰色が。墨の滴りが清水に落ちたように。光柱の紋理に沿って、恐怖の速度で上へ這い上がり。夜空の尽頭の太極殿へ向かって直衝していった。
「へへッ。雑項科の出前は、使命必達だぜ」
謝必安は地にへたり込み。大口で喘ぐ。手の甲の水ぶくれはすでに一面に連なっている。
頭を上げ。崩壊の縁で閃爍しているエネルギーの脈絡を見つめ。沈無と二匹の猫に向かって手を振った。口調には年末の清算を終えた後のような疲労と亢奮が透けている。
謝必安が息を整えた後。
「俺たちにはまだ片付けるべき後始末が残ってる。行くぞ。下へ。国師の太歳肉芝を切り刻んで猫の餌にしてやる」




