第46話 大凶
【巻ノ一・残頁肆拾陸:『大魏朝野僉載・門閥』残巻】
「王、謝の両家、簪纓百代。清貴に見えるが、実は根系は深く泥沼に紮さる。
朝堂に異変生ずれば、門閥は必ず先ず知覚す。然れども風雨の来たらんとするや、縦え通天の算計ありとも、覆巣の劫を逃るるは難し」――『吏部・世族档』
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建康城、大魏皇宮へ通じる御街。
秋雨が滝のように降り注ぎ。幅三十丈の青石板の大道を洗い流し、氷のように冷たい幽光を浮かび上がらせている。
この御街の青石は皆、大魏開国の太祖が十万の役夫を徴発し、芒碭山の陰面から生身のまま鑿り出した鎮墓の石だ。一つ一つの石の下には、前朝の戦虜の白骨が圧されている。
三百年の車馬の碾圧を経て。石板の表面はとうに生鉄のように滑らかに磨き上げられ、雨水に浸かれば無比に滑りやすい。
車を引く四頭の純黒の大馬が、御街を困難に跋渉する。蹄鉄が湿って滑りやすい鎮墓石を踏み、時折滑って耳を刺す摩擦音と鈍い鼻息を上げる。
遠く平康坊の上空。あの猩紅色の聚陽の光柱が、夜空の半分を腐爛した暗赤色に染め上げている。空気には、払い除けられない血生臭さと、下水道が逆流したような淤泥の悪臭が瀰漫している。
一台の紫檀木の大車が雨の幕の中を揺れながら前進する。
車廂の四隅に懸かる八角の防風提灯が狂風に劇しく揺れ。火屋に金糸で刺繍された「謝」の字が、車主の大魏最高門閥という顕赫たる身分を誇示している。
車廂の内は、全く異なる温暖と死寂だ。車廂の外の随従たちは、最新の情報の受信と伝達に忙殺されている。
大魏録尚書事、謝家現任の太公・謝淵が。厚さ三寸の孔雀絨毯の上に正襟危坐している。
この車廂の内壁の隙間には熱湯と西域の香料が注ぎ込まれ、秋雨の陰寒を死に物狂いで外に防いでいる。
だが。三朝に仕え、朝野に権を傾けたこの老太保は。今、一筋の錐で心を刺すような骨を刺す寒意が、自らの尾骨に沿って這い上がってくるのを感じていた。
彼の呼吸は沈重な阻力を帯びている。
あの家を追放された逆孫、謝必安が。あろうことか人を引き連れて国師の聚陽大陣に激突した。そして、府邸で家族百年の業障を鎮圧していた活菩薩、謝知微も離奇な失踪を遂げた。
この二つの火が共に燃え上がれば。謝家のあの雕梁画棟の百年の府邸を、数千人の骨肉ごと、一文の価値もない劫灰へと焼き尽くすに十分だ。
彼は自ら宮中に参らねばならない。太極殿へ行き、あの紫袍の方士の足元にひざまずき、頭を低くし身を小さくしてでも。
江南六道の塩鉄の商売を捨ててでも。謝家をこの危機から強引に摘み出さねばならない。
「ドン、ドン、ドン」
車窓の外から、馬の蹄が水たまりを踏み砕く音が伝わってくる。
謝太公の枯れ細った指が広い袖口に潜り込み。手のひらほどの大きさの、名も知らぬ獣骨で彫琢された錯金香炉を取り出した。
続いて。極めて慎重に、暗黄色を呈した古の亀甲を三枚と、緑青のついた青銅の錐を取り出した。
これは尋常の卜具ではない。
この三枚の亀甲は。かの年の洛水の戦いの後、一万具を超える戦死将兵の腐肉を食らった百年の霊亀の腹甲である。亀甲の中には沙場の凶煞と死者の怨気が染み通り、家族の生死の大劫を専ら測るものだ。
謝太公は亀甲を机の上に平らに敷き。手首を発力させ、青銅の錐で亀甲の裏面に数個の窪みを錐る。青銅が骨格と摩擦し、歯の浮くようなカカッという音を立てた。
次に。香炉の中に、犀角と死人の髪の毛を混ぜた幽藍色の炭火を点した。
「ジューッ……」
炭火が亀甲の裏面の窪みを炙る。骨質が高温の下で扭曲し、奇異な腥香と焦げ臭さを放つ。
謝太公は両手で古の印訣を結び、両目を微かに閉じ、口の中で念々と詞を唱え。指先の一滴の鮮血を香炉の中へ弾き入れた。
「パァン!」
極めて澄んだ、脊椎が断裂したかのような爆裂音。
一枚目の亀甲が、真ん中から猛然と裂けた。
亀裂は尋常の占卜の吉兆など示していない。張牙舞爪のムカデの如く、「福禄」を代表する卦象を真っ直ぐに貫通し、それを粉々に引き裂いたのだ。
続いて、「パァン! パァン!」と二連響。二枚目、三枚目の亀甲も連続して炸裂した。
謝太公は猛然と両目を開き。混濁した瞳孔が瞬時に針の先ほどに収縮した。
なんとあの三枚の亀甲の裂け目の深処には。正常な焦黒色など呈しておらず、逆に一筋一筋の粘りつく暗赤色の血水が滲み出していたのだ。
この血水はまるで生命を持っているかのように。骨白の甲片に沿って蛇行して這い進み、名貴な孔雀絨毯の上に滴り落ちる。
車廂の中に瞬時に極度な鉄サビの匂いが充満し。遠く平康坊のあの猩紅の光柱の中の血生臭さと、全く同じ匂いとなった。
「坤下震上……血、天霊に灌ぐ……」
謝太公は冷気を吸い込み。両手は制御不能なほど劇しく震えている。
卦象が示しているのは。これはもはや謝家一門の劫難ではないということだ。大魏の国運と謝家の気数はとうに陣法の中で鎔鋳され一体となっている。この滲み出した血水は、権力機構全体が間もなく崩壊する前兆なのだ。
危局。
「太公、閶闔門に着きました」車夫の恐怖を押し殺した声が、厚い車簾を透過して伝わってきた。
紫檀木の大車がゆっくりと停まる。謝太公は目を閉じ、深く息を吸い。眼底の駭然を強引に心底へ押し込んだ。
再び目を開いた時。彼は依然としてあの位極人臣、天下の枢機を執掌する謝太保であった。
随従が寒梅の描かれた油紙の傘を開き。謝太公を支えて泥濘の青石板に降ろした。
閶闔門の前は戒備が森厳だ。数百名の長戟を手にした金吾衛が、この皇宮内苑へ通じる大門を死に物狂いで塞いでいる。雨水が彼らの氷のように冷たい冷間鍛造の玄鉄の甲片に沿って滑り落ち、ピチャッという澄んだ音を立てる。
門の前に普段のように提灯を提げて諂い迎える太監の姿はない。ただ一片の粛殺たる死寂と。空気の中に漂う、極めて薄い、まだ雨水に洗い流されていない新鮮な血生臭さがあるだけだ。
「老臣謝淵、国師への拝謁を乞う」謝太公は雨の中に立ち。声は洪亮で、疑いを許さない威厳を透かせている。
一人の重甲を被った金吾衛の校尉が表情もなく歩み出る。錆びた長戟が交差され、行く手を遮った。
「太保大人、お引き取りを。国師は太極殿にて陛下のために祈福され、牽引の大陣を行っておられます。何人たりとも驚擾することを得ず。違える者は、格殺勿論」
謝太公は眉を顰め。腰から録尚書事の金魚袋を解き、強引に交渉しようとした。
「謝太保。この深更半夜、雨大に風狂の中。何ゆえこのような霉頭(不運)に触れに来られたか?」
陰鷙で、幾分の戯謔を帯びた声が。閶闔門の内側の陰の中からゆっくりと伝わってきた。
重く、阻力感を帯びた革靴が水たまりを踏む音を伴い。
大魏の当朝の太子が。雨水でずぶ濡れになった黒い大外套を羽織り。数名の東宮重甲将領に擁されて、宮門を歩み出た。
太子の身の。あの血生臭さはもはや隠しきれない。
彼の金糸の手袋を嵌めた両手が。血跡のついた白玉の親指輪を一つ、手の中で弄んでいる。
謝太公ほどの敏鋭さがあれば一目で分かる。あの親指輪は国師の座下の最も器重する一番弟子のものであることを。
この閶闔門の外の金吾衛は。いつの間にか東宮の衛士に音もなく防備を交代されていたのだ。
一場の残酷な政治的清洗が。今しがた太極殿広場で幕を閉じたばかりなのだ。
「老臣。太子殿下に参見つかまつる」謝太公は微かに身を屈め、両手を重ね、礼数は無可挑剔(非の打ち所がない)。
太子は謝太公の前に歩み寄り。この朝野に権を傾ける老人を居高臨下に見下ろした。その口調は曖昧で、ある種の血を嗜む暗示に満ちている。
「謝家の根基は確かに深厚だ。だが大樹は風を招く。お前の孫は今夜平康坊で、実に大きな威風を吹かせておるな。太極殿にいる孤の耳にも動静が聞こえたぞ」
太子は微かに顔を近づける。吐き出す熱気に、殺戮後の亢奮が帯びている。
「古より狡兎死して走狗烹らる。国師のあの老犬は、多くの噛んではならぬ肉を噛みすぎた。太保大人。風向きは変わったぞ。立つ軒先を間違えれば、骨を砕かれることになる」
言い終えるや。太子はあの白玉の親指輪を無造作に溜まり水の中へ投げ捨て。冷笑を一つ漏らし、東宮の衛士を連れて揚長而去(悠然と去る)した。
謝太公はその場に立ち。氷のように冷たい秋雨が官服に斜めに打ちつけるに任せた。
太子の言葉には裏がある。太極殿の内で絶対に劇変が発生したのだ。国師は、恐らくすでに毒牙にかけられている。
謝太公の思緒が翻湧し、車を回して府邸に戻り防衛線を敷こうとした時。
「ギシッ――ギシッ――」
重い車軸の摩擦音が御街の反対側から伝わってきた。
鎏金銅飾で装飾された、奢靡の程度では謝家に絲毫も劣らない大車が。水たまりを踏み破り、閶闔門の外にしっかりと停まった。
車を引く四頭の芦毛の大馬の腹部は、とうに泥水で灰黒色に染まっている。
車簾が捲り上げられ。濃厚な鼻を刺す薬の匂いと腐朽した脂粉の気が混ざり合って顔を打った。
大魏の司徒、王家の現任の家主・王衍が。惨白の脂粉を塗った美艶な婢女二人に支えられ、馬車から降りてきた。
謝太公と半生闘い続けてきたこの政敵は。緋色の官服を着て、髭も髪も真っ白だ。彼は胸を押さえて劇しく二度咳き込み、血の混じった濃痰を一口吐き出したが。あの三角の目には幸災楽禍の精光が閃いている。
「ゴホッ、ゴホッ……おや、これは謝の老鬼ではありませぬか?」
王司徒は偽善的に拱手し。口調に槍や棒を交え、舌を吐く毒蛇のようだ。
「この深更半夜に温柔郷で小妾を抱きもせず、閶闔門まで冷風に吹かれに? もしかして、お孫さんがあの忘憂閣で弥天の大禍を引き起こし。太保大人は急いで、あの逆子のために全屍(五体満足の死体)を乞いに来られたのかな?」
謝太公は冷ややかに相手を一瞥した。両手を広い袖口に納め。その眼差しは、とうに腐爛した塚の中の枯れ骨を見るようだ。
「王の老賊。お前のその風通しの良すぎる口、大風で舌を閃かせぬよう気をつけることだな」
謝太公の口調は森寒だ。朝堂での客套など半点もない。大魏門閥間の最も直白な悪毒と鄙夷があるだけだ。
「お前は今夜ここへ駆けつけて落井下石(落ちた犬を叩く)すれば、我が謝家の笑い話が見られるとでも思ったか? あの年、お前たち王家が徐州の兵権を争奪するため。自家の嫡女を宮中に送り込み、あの老太監の対食(仮の妻)とさせたこと。あのような醃臢(汚らしい)事、まさか天下の人間が皆綺麗さっぱり忘れたとでも思っているのか? 己で尿を撒いて鏡にしてみろ。この満天の血の雨が。まさか我が謝家の門楣だけを洗っているとでも?」
王司徒の顔色は瞬時に鉄青色となり。胸が劇しく起伏し、謝太公の鼻を指差して怒罵する。「老いぼれが! 貴様、血口噴人(事実無根の誹謗)も甚だしい! 死期が近づいて狺狺と狂吠するとは……」
「司徒大人は目が盲いて耳が聾っておられるようだが。老夫は付き合いきれん」
謝太公はこれ以上ここで長屋の女のように罵り合う気分ではなかった。彼は今夜の危局をとうに看破している。太子謀反、国師生死未卜、平康坊大陣失控。
猛然と身を翻し、自らの馬車へ向かって歩く。踏み台を踏んで車簾を捲り上げた時。動作を止め、背後の王司徒へ向けて冷え切った嘲弄を一つ投げ落とした。
「もし太極殿へ行って他人の踏み台になりたいのなら、勝手に行くがよい。ただ、お前のその腐りきった古い骨では。あの中にいる怪物の歯の隙間を塞ぐにも足りぬだろうがな」
紫檀木の大車は、車夫の揚鞭の下。車輪が積水を碾き砕き、急速に車首を回して、雨の夜の尽頭へと消え去った。
ただ王司徒だけが閶闔門の外に残された。
彼は太極殿の深処のあの息が詰まるような暗黒を望む。顔の冷笑は次第に僵硬し。あの突如として襲来した骨を刺す寒意に。凍え切って劇しく咳き込み始めた。




