第45話 司天監《してんかん》
【巻ノ一・残頁肆拾伍:『大魏律・百官考課』残巻】
「凡そ朝に在りて官と為る者、歳終に考績す。
字跡狂悖、言辞妖妄なる者は、軽くば降黜、重くば流放。然れども司天監雑項科は、妖骸を収斂し、終日屍腐と伴と為す。其の吏は多く瘋疾を患い、行文怪異なるも、上官は多く鼻を捏んで理わず」――『吏部・考功档』
【司天監内部メモ】
…………
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大魏皇城のやや南。一年中陽光を見ない巨大な建築群がある。
ここに彫欄玉砌はない。高くそびえる黒レンガの高壁と、生鉄で鋳造された窓のないトーチカがあるだけだ。
この地を司天監と呼ぶ。世人はここを、夜に星象を観て、天に祈りを捧げる清雅な役所だと思っている。だが実際には、ここは万人坑の上に建てられた国家級の屠殺場であり、凶物の収容所である。
連綿と続く秋雨が、青苔の生えた黒瓦に叩きつけられ、人を心煩意乱にさせる密集した鈍い音を立てている。
司天監全体の空気には、永遠に、長年の朱砂、カビた紙、そして砕けた肉をドロドロに煮込んで発酵させたような甘ったるい腐臭が瀰漫している。
朝廷は大魏の疆域内で常理をもって鎮圧できない凶煞、妖骸、詭異な事件をことごとく血まみれの調書に変え、この日の目を見ない中庭の内に積み上げているのだ。
司天監の奥深く、考功司(人事評価部門)の正堂。
従六品の緑袍を着た考功司の王主事が。濃厚な悪臭と暗褐色の屍水を放つ麻紙の調書を一抱え捧げ持ち、よろめきながら正堂へ踏み込んだ。
正中央の黄花梨の大机の上に、調書を重く叩きつける。沈重な力道が机の上の青銅の雁魚灯の火苗を激しく揺らし、煮えたぎる灯油が青レンガの上に飛び散り、ジューッという灼焼音を立てた。
大机の背後。白く色褪せた灰色の道袍を着た老人が座っている。微塵の反応もない。
老人の顔の皮は干からびてひび割れた老木の皮のようで、褐色に老斑がびっしりと浮いている。手元には惨白の紙提灯が置かれ、目を閉じて養神している。
一見すると、いつでも最後の息を引き取りそうな、行将就木の普通の老道士だ。これが大魏司天監の監正(長官)、袁の老いぼれだ。
「監正大人! 雑項科のあの無法無天の狂犬、謝必安をどうかお叱りください!」
王主事は怒りで全身を震わせている。官服の前襟は調書の汚れでまみれている。門の外の雑項科の中庭の方向を指差し、唾を飛ばした。
「あ奴と鏡妖司のあの千戸。場所もあろうに、よりによって官衙の内で国師府の鉄の缶詰どもと衝突を起こし。雑項科の正堂の耐力青レンガ壁を生身のままぶち壊しおったのです! 今や中庭の半分が屋根ごと廃墟と化し、満地が爛れ肉と砕け瓦だらけです! 今朝工部から提出された修繕の請求書は。なんと我ら考功司の半年分の禄米を差し引く額ですぞ! 奴は朝廷の神聖なる官衙を何だと思っているのですか! 勝手に解体していいボロ木小屋だとでも!」
袁の老いぼれが、ゆっくりと両目を開けた。
ニヤリと笑い、欠けだらけの黄色い歯を剥き出しにする。
その笑みを浮かべた瞬間。人を毛骨悚然とさせる一幕が発生した。
顔の皮に浮いていた、本来は静止していた褐色の「老斑」が。前触れもなく、一斉にパカッと開いたのだ。
それは斑などではない。びっしりと密集した無数の目だ。
数十個の灰白色の、瞳孔のない眼球が。老人の干からびた顔の皮の上で狂ったように転がり。最後に一斉に王主事へ焦点を合わせた。
「若いの。そう火を吹くな」袁の老いぼれは貪婪に息を一つ吸い込み、顔の上の数十個の目も興奮したように細く線を引いた。「壊したなら壊したでいい。旧きが去らねば、新しきは来ん。謝拾遺の家屋解体の手口は、ますます老夫の胃袋に合うようになってきたわい」
数十個の死んだ魚のような目に死に物狂いで見据えられ。王主事の喉仏が困難に転がり、両足が陣々と力を失う。
だが考功司の主官として。依然として無理をして、机の上のまだ血生臭さを放つ調書の束を、袁の老いぼれの目前へ猛然と押し出した。
「官衙の毀損ならまだよいとしましょう! 監正大人。奴が今月提出してきた『結案批註』をとくとご覧ください!」
王主事は粗暴に一番上の麻紙をめくる。指が紙の裏を突き破りそうだった。
「先月。奴は城南の百年の枯れ井戸の怨屍を処理しました。ここに何と書いてあると思いますか?
『目標妖骸の減価償却率が高すぎ、入庫価値は皆無。その場での解体清算を推奨し、司天監の本月の不良債権として計上す』
不良債権!? 奴は朝廷の邪祟鎮圧の法度を、東市で豚を殺して肉を売る商売か何かと勘違いしているのですか!」
袁の老いぼれの顔の目が、ゆっくりと閉じる。再び普通の老斑へと変じた。
「そしてこれです! 三日前、奴は平康坊忘憂閣の風水地脈を勘察しました。奴はこの『備考』欄に、なんと狂妄にもこう書き記しております。
『国師の聚陽大陣は、基礎的なストップロス・メカニズム(停損機制)を欠如し、かつ物理的ファイアウォール(実体隔離壁)を設立しておらず。若し極端な沖煞に遭遇せば、必ずや連鎖的な市場崩壊(連鎖崩盤)を引き起こすべし。直ちに送液パイプライン(輸液管線)の切断を推奨す』……と」
王主事は怒りのあまり自らの髭を鷲掴みにする。声に一筋の破音が混じった。
「狂妄! 瘋癲! ストップロス・メカニズムとは何事か! 物理的ファイアウォールとは何事か! いったい何を胡説八道しているのです! 奴は国師の敷いた護国大陣を、何に例えているのです!
このような妖言惑語。もし太極殿へ伝われば。奴謝必安が皮を剥がれ草を詰められるだけでなく。我ら司天監全体が、連座で罰を受けることになりますぞ!」
「王主事。冷静になれ」袁の老いぼれの顔には微塵の表情もない。
その声は砂紙で錆びた鉄片を擦るように嗄れ。官界に長年浸かった者の麻木さを透かせている。
「雑項科がどういう場所か。お前もワシも心知肚明(百も承知)じゃろう。あそこは司天監の清道夫、清潔隊だ。大老爺たちが手を汚したくない爛れ肉を処理するための専門部署じゃ。
謝必安は、数両の砕銀のために命すら要らぬ問題児だ。だが、お前の言うその狂犬が。毎月司天監のために処理している『不良債権』は。お前たち考功司が十年で記録した数よりも多いのじゃぞ」
「もしあの年……ワシも謝家の者をこのような生死の境で働かせることには同意せんかったじゃろう。だが、あの者の言う通りになったわい……あやつは最も長く生きる拾遺になるとな。
そうじゃ、忘れとった。あやつはさきほど謝家から除名されたんじゃったな。ヒヒヒ」
袁の老いぼれは机の上のとうに冷めきった濃茶の碗を手に取る。茶の茎が浮く苦渋い茶湯を一息に飲み干した。
「規矩は、活人のために定められたものじゃ。奴が商賈の粗鄙の語で調書を書こうと。道端で適当な人間を捕まえて腹を割り心を抉るよりはマシじゃ。奴がまだ朝廷のために事を片付けられるうちは。奴が何をどう書こうが奴の勝手じゃ」
「茶でも飲むか?」
王主事は噎せ返り、顔を真っ赤にして再び弁駁しようとした。
「轟隆――!!」
極めて沈重な。地底の奥深くから来たような劇烈な震鳴が。前触れもなく建康城の雨の夜を引き裂いた。
雷ではない。
考功司正堂の青石の地レンガが劇しく震え始めた。黄花梨大机の上の青銅雁魚灯がガランと音を立てて地に倒れる。書架の山の如き長年の調書が。雪崩のようにザザーッと崩れ落ち、満天のむせるような灰埃と防虫の石灰粉を舞い上げた。
「地震か!? 監正をお守りしろ!」王主事は魂飛魄散し、そのまま机の下へ潜り込んだ。
だが袁の老いぼれは猛然と立ち上がった。
手元のあの惨白の紙提灯を提げ。倒壊した書架も意に介さず。満地の狼藉を大股で跨ぎ越し、正堂の厚い彫花の木門を強引に押し開いた。
狂風が氷のように冷たい秋雨を交え、瞬時に顔を打つ。洗いざらした道袍を濡らす。
彼が頭を上げる。顔の「老斑」が再び一斉に目を見開き。数十個の灰白の眼球が西北の方角を死に物狂いで見据えた。平康坊の位置だ。
その方角の夜空に。
直径三丈に足る猩紅の光柱が。逆さ吊りの血色の巨剣のごとく、満天の雨雲を粗暴に撃砕し。金を鎔かし骨を化すほどの恐怖の高温を帯び、太極殿へ向かって直衝していた。
建康城全体の上空が。腐爛した生肉の一塊のように照らし出されている。
あの吐き気を催す血生臭さが。狂風に沿って司天監の中庭へ吹き込んできた。
袁の老いぼれの干からびた両手が紙提灯の竹の柄を死に物狂いで握りしめ、指の節が白くなる。
脳海に瞬時に、さきほど王主事が読み上げたあの荒誕な備考が閃いた。
『基礎的なストップロス・メカニズムを欠如……若し極端な沖煞に遭遇せば、必ずや連鎖的な市場崩壊を引き起こすべし……』
「あの狂人め……」
老人の声はもはや平穏ではなく。荒謬と戦慄の混ざった寒意を透かせている。
「奴は勘察日誌を書いていたのではない……奴は、クソみたいな『清算計画書』を書いていたのじゃ!」
袁の老いぼれは猛然と振り返る。道を塞ぐ木の椅子を蹴り飛ばし。中庭の外の、同じく異象に震驚して呆若木鶏(木彫りの鶏のよう)となっている司天監の校尉たちに向かって。凄惨な嘶くような怒号を発した。
「馬を用意せよ! 庫房にあるすべての辟邪重弩、捆妖索(妖縛りの縄)、そして止血生肌の薬材を。ことごとく引きずり出せ!」
彼は壁に掛かっていた雨避けの蓑衣を強引に引きちぎり、無造作に身に羽織った。あの眼球だらけの恐怖の老顔は、今や水滴が滴るほど陰沈としている。
「平康坊へ行け! 忘憂閣へ行け!」
「大人」一人の斬馬刀を提げた校尉が吃りながら問う。「誰を……誰を捕らえに行くのですか?」
「屁を捕らえに行くのか! あの命知らずの雑項科の司吏の屍を拾いに行くのじゃ! あるいは……」
袁の老いぼれは黄色い歯を噛み締め、配下から渡された黒紙の油傘を受け取る。目に複雑な暴戻が閃いた。
「奴が精算しきれなかったあの『不良債権』を。徹底的に帳消しにしてやるためじゃ!」
†
大雨滂沱。
半時辰後。平康坊の外郭。
三百具の鉄浮屠の残破した屍骸が。錆びた屑鉄の山のごとく。血水に満ちた泥沼の中に横七縦八に倒れ伏している。
残肢断臂と、極端な暴力でへこまされた兜が混ざり合い。さきほどここで、いかに惨烈な肉弾の鑿穿戦が行われたかを宣告している。
袁の老いぼれはあの黒紙の油傘を差し、惨白の紙提灯を提げ。この鋼鉄の墳場の縁に静かに立っている。
雨水が傘の骨に沿って滴り落ちる。
彼は顔を上げ。前方の、すでに大陣の高温で木の柱がひび割れ、門の隙間から暗赤色の血肉の粘膜が絶え間なく滲み出している忘憂閣を見る。
あの厚い銅張りの大門の奥から。人を毛骨悚然とさせる骨と肉が砕ける音と、重物の鈍撃音が微かに伝わってくる。
司天監の百名の精鋭校尉が。弦を張った辟邪重弩を構え。この青楼を死に物狂いで包囲している。
だが誰一人として、あの熱波に歪む死地へ足を踏み入れる勇気はない。
袁の老いぼれは強攻の命令を下さなかった。
彼はただ黒い顔のまま。足首まである泥水の中に立っている。
顔の数十個の灰白の目が傘の下の陰の中で幽幽と転がり。部下が弥天の大間違いを犯した後に、給料の清算を準備して待っている鉄血の帳櫃(番頭)のようだ。
彼は。謝必安が生きて歩み出て。大魏の朝廷に落とし前をつけるのを待っているのだ。




