第44話 太極殿《たいきょくでん》
【巻ノ一・残頁肆拾肆:『大魏朝野僉載・厭勝』残巻】
「宮闈の争いには、多く厭勝(呪詛)を用う。或いは階に骨を埋め、或いは榻に木偶を蔵す。
然れども最も毒なる法は、『逆衝』に過ぎたるはなし。方士が壇を開き気を引き、百脈倶に開くの際を趁い、陰煞を体に入る。五内倶に焚け、神仙も救い難し」――『司天監・妖部档』
【司天監内部メモ】
脅威がライバル企業との正面からのビジネス戦争にあると考えている時、往々にして、取締役会の中でとうに寝返っていた盟友の存在を見落としている。
決算発表前の沈黙期間に、内通者を利用してコア資産の流動性を凍結させ。長年潜伏していたナンバーツーが議決権行使協定を破棄し、外部資本を引き入れて敵対的買収を仕掛ける。これこそが巨大機構における権力移譲の標準プロセスである。
†
大魏立国より三百載。
この巨大な中原の帝国は、いまだかつて仁義道徳の上に築かれたことなどない。
その昔、大魏開国の太祖は軍を率いて南下し、前朝の皇室を皆殺しにした。十二万の捕虜の首を切り落とし、煮えたぎる鉄水と糯米の汁を混ぜ合わせ、生身のままこの建康城の地盤を流し込んで築き上げたのだ。
大魏の江山は。地下の亡魂の怨気を吸い、活人の血肉を搾取してこそ、三百年もの病的な繁華を維持できたのである。
そして大魏皇宮、太極殿こそが。この巨大な吸血法陣の最も核心である。
最高皇権の象徴であるこの巨物は。建康城の龍脈の咽喉に蟠踞し、金鱗を被った遠古の凶獣のようだ。
高さ十丈に達する重檐の屋根には、墨のように漆黒の琉璃瓦が葺かれている。これらの瓦はすべて崑崙の黒火で焙煎されたもので、表面には氷のように冷たく粘りつく油脂の光沢が浮いている。
連綿と続く秋雨がその上に激突し、鈍い音を立てるが。歴代の死諫の忠臣たちが瓦の隙間に残した長年の血生臭さを洗い流すことはできない。
大殿の真ん前には、広大な漢白玉の広場がある。
一枚岩の和田玉を彫り抜いた九頭の巨龍が。殿門へ通じる丹陛(階段)に蟠繞している。
大魏の龍に、雲に乗り霧を駕するような祥瑞の気などない。彫刻の職人は龍の鱗を鋭利な逆棘に削り出し、龍の口を大きく開けさせ、牙を剥き出させ、人を選んで喰らう悪蛟の群れと化させた。
歴代の、一族郎党皆殺しにされた権臣たちは。皆この九龍の丹陛の前で腰斬に処された。滾々と煮え立つ鮮血が龍の鱗の逆棘に沿って地底へ流れ込み、この宮殿を滋養する絶好の肥料となったのである。
夜の雨が滝のように降り注ぐ。
今。太極殿広場全体の気温は人を駭かすほど高い。
直径三丈の猩紅色の光柱が。逆さ吊りにされた血色の巨剣のごとく。平康坊の方向から雨の幕を引き裂き、広場の正中央にある九鼎の祭壇へ一寸の狂いもなく注ぎ込まれている。
大魏の国師、紫袍の方士・李泌が。祭壇の青銅の主鼎の上に胡座をかいて端座している。
そして祭壇から百歩離れた場所。三千名の明光鎧を纏った皇家金吾衛と、八百名の払子を持つ高階の方士が。内三層、外三層に太極殿広場全体を死に物狂いで封鎖している。
だが。誰一人として祭壇の百歩の内に足を踏み入れる勇気はない。
天地を貫くあの猩紅色の光柱は、生鉄すら融かすほどの恐怖の高温を放っている。金吾衛の明光鎧は焼け焦げるほど熱くなり、雨水が鎧の札に落ちるや否や、瞬時に白い蒸気と化す。
眩い血の光が目を刺し、祭壇の中心を直視することなど不可能だ。陣法が稼働する時に発する耳を聾する轟鳴は、方円百丈以内の音をことごとく呑み込んでいる。
李泌は自らを、高温と強光の死角の中へ置いているに等しい。
彼の身に纏う、金糸で周天星斗が刺繍された紫色の道袍は。膨大無比な陽気の激動の下、風もないのに音を立ててはためいている。
無数の生霊から搾り取られたピンク色の陽気が、忘憂閣の陣の目での純化を経て、滾々と煮え立つ血色の激流と化し、絶え間なく彼の四肢百骸を洗い流している。
李泌の蒼老な顔には、不正常な潮紅が浮いている。
両手で複雑な「倒海印」を結び。金を鎔かし骨を化すに足るこの膨大なエネルギーを死に物狂いで牽引し、背後にある底なしの太極殿の深処へ注入しようと準備している。
それは大魏の天子へ献上する命を繋ぐ薬であり、また彼の朝野での権力を確固たるものにする無上の礎石である。
「愚かなる螻蟻ども。どうして天数(天命)を阻めようか」
体内に澎湃と満ち裂けんばかりの霊力を感じ。李泌の口角に軽蔑の冷笑が浮かぶ。
彼は平康坊の陣の目の微弱な震動を感じ取っている。あの司天監と鏡妖司の狂犬どもが外郭で足掻いていることも推測できている。
だがこの天地の巨力の前では。いかなる物理的な斬撃も、蟷螂の斧に過ぎない。
しかし。この算無遺策の国師には知る由もなかった。
真の毀滅とは、いまだかつて正面からの激突からもたらされるものではない。地底の最も深い泥沼からもたらされるものだということを。
「ピチャッ」
濃厚な屍臭を放つ暗黒色の水滴が一つ。前触れもなく、祭壇の青銅の鼎の縁に落ちた。
李泌の眉が微かにひそめられる。
太極殿の周囲には七十二道の「辟邪純陽符」が敷かれている。尋常の妖物であれば、広場に百歩近づいただけで瞬時に気化する。この汚らしい屍水は、いかにして陽気の防御壁を透過したのか?
彼が考えを巡らせる暇もなく。祭壇の下の漢白玉の石板の隙間から。突如として大面積の粘りつく黒い泥沼が滲み出した。
数十本の灰白色の陰寒な煞気が。腐肉の中で蠕動する蛆虫の如く。音もなく青銅の鼎の紋様に沿って這い上がってくる。
奴らの身には謝知微のあの「活菩薩」の血の無上の制圧力が宿っている。万物を焚き滅ぼすに足るあの辟邪の呪符は、この百年の怨気に触れた瞬間、なんと湿気た紙屑のように急速に暗くなり、消灯した。
次の息。何十体もの屍斑がびっしりと生え、黄色い屍水を滴らせる百年の老鬼が。李泌の周囲で凝結して成型した。
いかなる咆哮もない。いかなる法術の光芒の閃きもない。
これは純粋な、肉体の噛みちぎり合いだ。
前朝の残破した重甲を着た悪鬼が一体、猛然と祭壇へ飛びかかる。緑の毛が生えた枯れ手が、李泌の肩を死に物狂いで掴んだ。
鋭利な爪が名貴な紫袍を突き破り、国師の鎖骨へ容赦なく突き刺さる。歯の浮くような骨と肉の摩擦音を立てた。
「グッ――!」
李泌の両目が見開かれ、瞳孔が瞬時に針の先ほどに収縮する。
続いて別の悪鬼が彼の肩骨に噛みついたが、次の息には紫袍に光った呪符によって灰燼に焼かれた。だが、さらに多くの鬼物がその隙間を埋める。
李泌の顔色がついに変わった。
痛みのためではない。彼は初めて気づいたのだ。こいつらは彼を殺しに来たのではないということに。
奴らはただ精確に。彼の筋、骨、血脈、そして護体の罡気を解体しているのだ。
彼は本能的に道袍を振り、純陽の真気でこれらの陰穢なモノを震い砕こうとした。
だが彼は悲哀にも気づく。自分が微塵も身動きが取れないことに。
彼は今、牽引の大陣の最も核心にいる。天地を貫くあの猩紅色の光柱は、身体の上に圧し掛かる万鈞の大山のようだ。
彼の手が印の結びを解くか、あるいは体内の真気の運行に一筋でも乱れが生じれば。あの狂暴な陽気は瞬時に制御を失い、彼自身を祭壇もろとも満天の微塵へと吹き飛ばすだろう。
彼は、自分の陣法によってその場に死に物狂いで釘付けにされた活きた的と化した。
腹を割かれた貴婦人の厲鬼が。李泌の膝に沿って彼の太ももへ這い上がる。唇がなく腐った歯の列だけが残る口を開け、李泌の太ももの内側の皮肉へ向かって容赦なく噛み付いた。
「ブチッ!」
澄んだ筋腱の断裂音を伴い。李泌の右足の足の筋が生身のまま引きちぎられた。
暗赤色の鮮血が鬼物の屍水と混ざり合い、太ももに沿って流れ落ち、青銅の鼎に滴り落ちてジューッという灼熱音を立てる。
別の頭のない老鬼は、後方から李泌の腰と腹を抱え込んだ。鉄サビが生えた枯れ手が、錆びた鉄バサミのように、紫袍の裾を粗暴に引き裂く。五本の指が深く国師の脇腹に突き刺さる。新鮮な内臓を探しているのだ。
劇烈な肉体の苦痛が。凌遅の刑(千刀万剐)の如く、李泌の神経に狂ったように衝撃を与える。
彼の顔面は形を成さないほどに歪み、額の青筋は破裂せんばかりに暴突している。冷や汗が雨水と混じって狂ったように滑り落ちる。
だが彼は死に物狂いで歯を食いしばり。喉の奥の惨叫と湧き上がる鮮血を、生身のまま腹の中へ飲み込んだ。
叫んではならない。動いてはならない。
百歩の外の金吾衛と方士たちは。歪んだ高温の熱波と目を刺す血の光を通して、国師が端座している模糊とした黒い影をうっすらと見ることしかできない。
彼の骨格が砕ける鈍い音を聞く者は誰もいない。光柱の影に隠れ、狂ったように彼の内臓を喰い千切っている百年の老鬼の群れをはっきりと見ることのできる者もいない。
路地に隠れたあの盲目の少女が。最も残酷な方式で、この大魏の国師の死角を完全にロックしたのだ。
「ブチッ……クチャ……」
祭壇の上。血肉の引き裂かれる音と咀嚼音が彼方此方から起伏する。
李泌の護体の真気が万鬼に喰い尽くされて千瘡百孔となり。気息が谷底へ跌落した、その瞬間。
太極殿の左側にある巨大な日時計の影から。その側の護衛を担当していた数十名の金吾衛が。突如として前触れもなく腰の横刀を引き抜いた。傍らにいる国師の直弟子の口と鼻を塞ぎ、鋭利な刃で彼らの咽喉を残忍かつ正確に切り裂いた。
これはとうに籌謀されていた内部清算だ。
太極殿外郭の三千の金吾衛は、一枚岩ではない。国師に忠実な将領たちは、一刻(十五分)前に、太子の三千の東宮鉄甲衛士によって「支援」の名目で音もなく承天門の外に塞がれ、あるいはその場で格殺されていた。今、広場の縁を鎮守しているのは、すべて太子の死忠だ。
まだ冷え切っていない方士の死体を踏み越え。黒い大外套を羽織った数人の影が、陰の中からゆっくりと浮上してきた。
先頭の一人。大魏の当朝の太子。顔容は雨の幕の中に隠れ、ハゲタカのように陰鷙な両目だけを覗かせている。
彼の身側にぴったりと付き従うのは、重甲を被った金吾衛の大将軍だ。手の中のまだ鞘に納められていない横刀からは、国師の門徒の鮮血が滴り落ちている。
太子は百歩の外の、万鬼に分食されながらも誰にも気づかれていない国師を冷ややかに注視し。口角に氷のように冷たい弧を浮かべた。
「国師は大魏の江山のため、鞠躬尽力されたが。なんと邪祟の反噬に遭われたか。孤は儲君として、理は天に代わって道を行い、国師の解脱を助けるべきである」
太子は金糸の手袋を嵌めた右手を少し上げ、前へ軽く一振りした。
彼が待っていたのは国師の最も弱い一刻ではない。国師が強制的に大陣を維持させられ。助けを呼ぶことすら全城の反噬を招く一刻を待っていたのだ。
陰の中から。二名の重甲の力士が、小型の攻城兵器のような猙獰たる器械を押し出し、ゆっくりと前へ進み出た。
それは大魏軍中で最も恐怖される重型破罡の機弩――「八牛弩」。
尋常の攻城とは異なる。この八牛弩の弓弦は、蛟龍の太い筋と玄鉄の糸を糅合させて絞り作られたものだ。弩の本体には、方士の護体真気を破除するための「破法銘文」がびっしりと刻まれている。
そして弩の溝に掛けられたその弩箭は。赤ん坊の腕ほどの太さがあり、長さは五尺に達する。精鋼で鍛造された矢じりには、暗紫色を呈した粘りつく毒液の層が塗られている。南疆の百年の毒瘴から提煉された「化骨水」だ。
二名の重甲の力士が全身の力を振り絞り、生鉄の巻き上げ機を回す。鼓膜を刺すガガガという音が響く。
弓弦が引き絞られる。蓄勢待発の鋼鉄の凶獣の如し。
この時の李泌は。左手首の筋腱を一匹の老鬼に噛み切られたばかりで、胸腔には骨が見えるほど深い裂け目が開き。腹腔の片側はすでに血肉模糊となるまで喰い千切られている。
彼の両目には血走った糸がびっしりと浮かび、陰の中の、自分に照準を合わせるあの八牛弩を死に物狂いで見据えている。眼底に、ついに隠しきれない絶望の色が浮上した。
「パァァン――!!」
霹靂のような弓弦の爆鳴音が。太極殿広場の雨の幕を引き裂いた。
太い破罡の弩箭が烏黒の残影と化し。摧枯拉朽の物理的動能を帯び、満天の大雨を排しのける。
それは、すでに老鬼に喰われて支離滅裂になっていた李泌の護体真気を何の手応えもなく貫通した。矢じりが国師の右肩の肩甲骨へ容赦なく突き刺さる。
「ブスッ――ドォォン!」
いかなる抵抗の余地もない。李泌のあの蒼老な躯体は。この恐怖の巨力によって直接吹き飛ばされた。
太い精鋼の弩箭が彼の肩の骨を貫通し。大蓬の暗赤色の鮮血と砕肉を伴い。彼を丸ごと、祭壇の背後にある太い青銅の蟠龍柱へ死に物狂いで釘付けにした。
弩箭は柱に三分食い込み。矢羽はまだ雨の中で劇しく震え、嗡鳴を発している。
「ゴバァッ――!」
今回ばかりは。李泌ももう抑え込めなかった。
猛然と、内臓の砕肉が混じった黒血を大口で噴き出す。両手が力なく垂れ下がり、大陣に対する掌握力をことごとく喪失した。
あの天地を貫く猩紅色の光柱は、主陣者の引導を失い、劇しく扭曲、閃爍し始めた。
万鬼は盲目の少女の指令を完遂した。国師の首を噛み切ることなく。何十筋もの黒気と化し、心満意足で広場の地下の泥水の中へ潜り込み、無影無踪に消え去った。
太子は雨の中に立ち。青銅の柱に釘付けにされ、手足の筋をことごとく断たれ、五臓六腑の半分をくり抜かれた国師を見て。満足げに黒い大外套を掻き合わせた。
彼は国師の最後の一息を残した。なぜならこの責任は、今夜忘憂閣を攻めているあの逆党どもに背負わせなければならないからだ。
「行くぞ。大魏の江山は、今夜、主が代わる」
太子の姿が、再び暗黒の中に溶け込んだ。




