第40話 人柱
【巻ノ一・残頁肆拾:『大魏世族志・謝氏』】
「建康の謝氏、簪纓の世家にして、一門に三公あり。其の府邸は百畝を占め、雕梁画棟、奢靡の極みを尽くす。
然れども百年の世家には、必ず百年の業障あり。伝聞するに謝氏の後宅の奥深く、一人の『活菩薩』を鎖す。玉を食み露を飲み、凡塵に沾まらず。乃ち謝氏の風水が墜ちざる陣の目なり」――『司天監・戸部档』
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烏衣巷、謝府、玉樹堂。
窓の外では秋雨が連綿と降り続き、琉璃瓦を打って重く鈍い音を立てている。だが、間口五間のこの謝家の正堂の内に、雨水の生臭さは微塵も漂っていない。春のように暖かい。
十二個の半人ほどの高さがある掐糸琺瑯(七宝焼き)の火鉢の中で、煙の気配一つない西夏の献上炭が燃えている。空気には甘ったるい百合の香りが瀰漫している。
謝家第二代家主、すなわち謝必安の祖父である謝政が。正中央の紫檀の太師椅子に端座し、血走った艶のある胡桃を二つ、手の中で弄んでいた。
太公は夜を徹して未央宮へ国師に請罪に向かった。今、この謝府の上下は、謝政が取り仕切っている。
堂の下の両側には。謝家の第三代の子弟と各房の正室が順に座っている。
女連れは皆、金糸を織り込んだ錦緞を着て、頭には宝石を嵌め込んだ精緻な歩揺を挿している。揺らめく蝋燭の火の下で、人を眩暈させるような奢靡な光沢を放っている。
「太公の未央宮への御足労。さぞかし大きな委屈を受けられたことでしょうね」
左側の首位に座る王大娘子(正室)が、蜀錦のハンカチで軽く口角を押さえる。口調に隠しきれない辛酸と刻薄が透けている。
向かいに座る、ずっとうつむいて口を開く勇気もない謝林(謝必安の生父)へ顔を向け、冷笑を一つ漏らした。
「三爺(三番目の旦那様)。嫂があなたを責めているわけじゃありませんよ。ただ、あなたの部屋の通い女中が産み落としたあの孽障。小さい頃から懐かない白眼狼(恩知らず)でしたね。今となっては。司天監へ行って下品な末端の雑役になるだけならまだしも。なんと鏡妖司の千戸を連れて、国師の法陣に激突するとは! もし太公が果断に、あの小畜生の名前を族譜から朱筆で削り落とさなければ。私たちのこの満堂の富貴も、奴の道連れにされていたところですわ!」
「嫂の教訓、その通りでございます……あの逆子は死して余りある罪」
謝林の額に冷や汗が滲む。連続して頷き、自分の実の息子のために半句も弁駁する勇気など全くない。
このような百年の門閥において。価値のない庶子は、門番の犬一匹にも劣るのだ。
「よせ。どうせただの捨て駒だ。平康坊の泥沼で死ねば、それもまた綺麗というもの。ただあの二匹の霊獣は……惜しかったな」
主位に座る謝政がゆっくりと口を開く。声は低く沈み、疑いを許さない威厳が透けている。手の中の血の胡桃を、花梨木の机の表面へ重く押し付けた。
「我が謝家は家大業大。庶子の一人くらい折損したところでどうということはない。後宅の絳雪軒におられるあの『活菩薩』さえ安然無恙であれば。我が謝氏の百年の気運を動かせる者などおらん」
謝政は鋭利な眼差しで周囲を一周する。「……余計な口出しはするな」
「絳雪軒」と「あの方」に言及された瞬間。堂内の本来は気軽で刻薄だった雰囲気が、瞬時に無比な敬畏に変わり。深く沈んだ恐怖すら混じった。
王大娘子は無意識に両手を合わせ、謝府の奥深い方向へ向かって拝んだ。本来の辛酸な顔に、敬畏に満ちた諂媚を絞り出した。
「老太爺の仰る通りでございます。知微のあの子は、同じく庶出とはいえ、天性の仏骨を備えておりますもの。あの両目は見えなくとも、我が謝家のために百年の業障を防いでくださっている。私は毎日、最高の雲錦と燕の巣を届けさせ、ご先祖様と同じようにお供えしております。半分の委屈も受けさせるような真似はいたしませんわ」
謝林は他人が自分の盲目の娘を褒め称えるのを聞いても。喜びなどなく、逆に恐怖で首をすくめた。
彼らは心で明確に分かっている。謝知微が活菩薩などであるものか。
あれは謝家歴代の無数の冤魂と業障を使って飼い育てられた「怪物」だ。彼女の盲目は、陣法の反噬の代価である。彼女のいる絳雪軒には、謝家祖伝の呪符がびっしりと貼られている。
彼らが謝知微に対して半句の悪言も吐く勇気がないのは。仁慈だからではなく、極度の恐怖からだ。
ひとたびこの「人柱」が怨恨を生み、一筋でも煞気を漏らせば。謝府の活人全員が、瞬く間に一灘の膿血と化すだろう。
「ドォン!」
この大魏の貴族の群れが自己慰撫の虚仮の安全感に浸っていた時。
玉樹堂の二枚の重い銅張りの大門が。突然、外から巨大な力で突き開けられた。
狂風が氷のように冷たい秋雨を混じらせ、野獣のように大広間へ飛び込んでくる。十二個の掐糸琺瑯の火鉢の火が瞬時に激しく揺れ、百合の香りの甘ったるさが、吐き気を催す泥の生臭さと血生臭さによって徹底的に吹き散らされた。
「老爺……大老爺! 大変でございます!」
謝知微の側仕えの大丫鬟(小間使いの筆頭)、翠桃が。転がるようにして堂内へ這い込んでくる。
その名貴な青絹の比甲はとうに泥水でずぶ濡れになり、髪は散乱している。彼女の両手は鮮血にまみれ、十指の爪が完全にめくれ返っている。まるで素手で極度に危険な砕けたガラスを掻きむしったかのようだ。
彼女の背後に続くのは、後宅の鎮守を担当する四名の「幽芳」の暗衛。
普段は瞬き一つせずに人を殺すこの死士どもが。今やなんと全員が死灰の顔色となり。中には刀を握る腕が制御不能なほど劇しく痙攣している者すらいる。
「無礼者! 躾のなっていない賤婢め!」王大娘子は冷風に吹かれ、手の中のカイロを落としそうになった。猛然と立ち上がり、翠桃を指差して怒罵する。「老爺と夫人がたを驚かせたな。外へ引きずり出して乱棍で打ち殺しておしまい!」
「黙れ!」
謝政が猛然と机を叩く。あの一対の艶のある血の胡桃が直接粉砕された。
謝家の大権を掌握するこの家主は。翠桃の、陣法の煞気で火傷した血の手を死に物狂いで見据えている。言い表せない寒気が、彼の脊椎骨に沿って狂ったように這い上がってくる。
彼には分かっている。この丫鬟が絳雪軒の仕えであることを。
「言え! 絳雪軒がどうした!」謝政の声は先ほどの威厳を徹底的に失い、一筋の破音すら帯びていた。
「窓が……窓が開きました……」翠桃は氷のように冷たい金のレンガの上に平伏し、全身を篩のように震わせている。夜鳴き鳥の哭喪のような凄惨な声だ。「太公が親しく描かれた鎮魂符が。内側から……ズタズタに引き裂かれました……知微お嬢様が……知微お嬢様がいなくなりました!」
「ドゴォォン――!」
この言葉は鈍い雷のように。玉樹堂のすべての者の脳天に直接叩き落とされた。
王大娘子は両目をひっくり返した。手の中の真鍮のカイロがガランと音を立てて足の甲に落ち、火傷の惨叫を上げる。そのまま太師椅子の上に崩れ落ち、呼吸すら停止した。
さきほどまで謝必安を嘲笑していた親戚の女どもは。今や皆顔面蒼白となり、臆病な数人の妾室はそのまま恐怖でスカートを濡らし、空気に瞬時に小便の臭いが瀰漫した。
謝林に至っては両足が力を失い。椅子からそのまま地面に滑り落ち、絶望のつぶやきを漏らしている。
「終わった……謝家は終わりだ……業障の門が開いた……」
誰一人として。謝知微を「野丫頭」や「孽障」と罵る勇気はない。絶対の恐怖の前では。階級の傲慢など、窓紙の一枚のように脆弱なのだ。
「この無能ども! 何を泣いておる!」
謝政は壁に掛けられていた驚鴻の宝剣を猛然と引き抜く。剣の鋒を震える四名の暗衛の死士へ真っ直ぐに向け、眼底に狂気の血走った糸をびっしりと浮かべた。
「絳雪軒の外には三十名の『幽芳』の死士が日夜見張っておったはずじゃ! 目を失った女一人が。どうして貴様らの目の前で逃げ去ることができる!」
先頭の暗衛の統領が片膝をつく。頭を胸の前まで深く埋め、声に幽霊でも見たかのような絶望が透けている。
「家主、明察を……知微お嬢様は逃げたのではありませぬ。自ら……自ら歩いて出てこられたのです。扉と窓に貼られたあの呪符は。お嬢様が指で生身のまま掻き砕かれたのです。属下らは阻もうと試みました。ですが……」
統領は自らの胸のタイトな皮の鎧を猛然と引き裂いた。
謝政は冷気を吸い込んだ。統領の堅実な胸膛の上に、なんと灰黒色を呈した繊細な掌の印がはっきりと刻まれていたのだ。掌の印の周囲の皮肉はすでに完全に壊死し、凍結している。極度に陰寒な百年の煞気が、彼の血管に沿って心臓へ蔓延している。
「知微お嬢様はただ我々を一瞥しただけ……兄弟たちの体内の真気はすべて凝滞しました。お嬢様の傍らには……」統領は唾を飲み込む。「お嬢様は仰りました。平康坊へ兄に傘を届けに行くと。もし阻む者がいれば。この烏衣巷から、生きたコオロギ一匹残さないと」
死寂。玉樹堂の内は息が詰まるほどの死寂に陥った。
謝政の剣を握る手が劇しく震えている。
彼は分かっている。あの怪物がひとたび外界の血気に触れれば。再び絳雪軒のあの鳥籠の中へ心甘情願に戻らせることなど、天に登るよりも難しいことを。
だが、もし彼女が戻らなければ。謝家が百年にわたり蓄積してきた業障の出口が消滅し。家族全体が骨のカスすら残らないほど反噬されるのだ。
「馬を用意せよ……いや。ワシのあの八人担ぎの大駕籠を用意しろ!」
謝政は宝剣を地面へ容赦なく投げ捨て。魔に魅入られたかのように堂の外へ向かって嘶き吼えた。
「ワシの家主の令を伝えよ! 謝府の動かせるすべての死士、客卿、供奉を動員しろ! 直ちに平康坊の外郭へ向かえ! 兵刃は持つな。最高級の狐の毛皮、手あぶり、金創薬を持っていけ!」
謝林が地面に這いつくばり、震えながら問う。「父上……もし知微を見つけ。あの子が……戻るのを拒んだらどうしますか? 強行手段に出ますか?」
「強行だと? お前のような愚物、口にするのもおぞましい!」謝政は実の息子を蹴り飛ばし、両目を赤くして、唾を謝林の顔に噴き散らした。
「あの方に刀を抜く勇気のある奴は。ワシが先にそいつの全家を切り刻んでやる! あの方は謝府のご先祖様じゃ! 活菩薩じゃ! お前たち、泥水の中にひざまずいて踏み台になってでも。あの尊いお嬢様を。平平安安に、髪の毛一本欠けさせることなく……ワシのために請い戻してこい!!」
【作者より】
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―― 仔猫




