表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世説新鬼 —神のゴミを拾う男—  作者: 仔猫(コネコ)
第一巻:秦淮夜雨・期限切れの長生
40/41

第40話 人柱

 


【巻ノ一・残頁肆拾:『大魏世族志(たいぎせいぞくし)謝氏(シャし)』残巻】


建康(けんこう)(シャ)氏、簪纓世家(しんえいせいか)にして、一門三公(いちもんさんこう)。その府邸は地を占めること百畝、雕梁画棟(ちょうりょうがとう)、極めて奢靡を尽くす。然れども百年の世家には、必ず百年の業障あり。伝聞によれば、(シャ)氏の後宅の深処に、一尊の『活菩薩(いきぼさつ)』を鎖し、玉を食み露を飲み、凡塵に(そま)らず、これすなわち(シャ)氏の風水墜ちざる陣眼なりという。」――『司天監(してんかん)・戸部档』


司天監(してんかん)内部メモ】


資産隔離(しさんかくり)核心反応炉(コアリアクター)失效(メルトダウン)」――門閥家族とはまるで巨大な多国籍グループ企業のようなものである。庶出の子弟はいつでも切り捨て可能な劣悪資産であり、一方で総本部の地下室に隠されているのは、グループ全体の運転を維持する核反応炉である。劣悪資産が外で厄介事を引き起こした時、董事会(やくいんかい)は冷笑して切割声明(トカゲのしっぽきり)を発表するだけである。だが、彼らが核反応炉の制御棒が引き抜かれた瞬間に気づいたその時、すべての高管(かんぶ)たちは地に跪いて震え上がるのだ。



烏衣巷(ういこう)謝府(シャふ)玉樹堂(ぎょくじゅどう)


窓の外は秋雨が連綿と降り続き、琉璃瓦(ルリがわら)を叩いて沈悶な音を発している。だがこの面闊五間(まぐちごけん)の広さを持つ(シャ)家の正堂の内にあっては春のように温暖であり、雨水の腥い気味は半点も嗅ぎ取ることはできない。


十二の半人ほどの高さがある掐絲琺瑯(きょうしほうろう)の炭盆の中には、一絲の煙火の気もない西夏(せいか)の貢炭が焚かれている。空気中には甘くねっとりとした百合の香りが蔓延していた。(シャ)家の第二代当主、すなわち謝必安(シャ・ビアン)の祖父にあたる謝政(シャ・ジェン)が、正中央の紫檀の太師椅(たいしい)の上に端座し、手中に一対の血の絲を泛ばせた包漿(けいねんのつや)の生えた胡桃を弄んでいた。


謝必安(シャ・ビアン)の曾祖父にあたる太公は、すでに夜を日に継いで馬車に乗り、未央宮(びおうきゅう)へと国師(こくし)に請罪に向かっている。今この謝府(シャふ)の上下は、すべてこの謝政(シャ・ジェン)が主を為していた。


堂の下の両側には、順を追って(シャ)家の第三代の子弟と各房の嫡妻正室が座っている。女眷(じょけん)たちは皆、金糸を織り込んだ錦緞(きんどん)を纏い、頭には累絲嵌宝(るいしかんぽう)の歩揺を挿し、揺らめく燭火の下で人を眩暈(めまい)させるほどの奢靡な光沢を泛ばせている。


「太公のこの度の未央宮(びおうきゅう)行き、さぞかし大きな委屈を受けられることでしょうに」


左側の首位に座る王大娘子(だいじょうし)、すなわち謝必安(シャ・ビアン)の嫡母が、蜀錦の手帕(ハンカチ)を用いて軽く口角を押し当てた。その語気には掩飾しきれぬ辛辣さと刻薄さが帯びていた。彼女は頭を巡らせ、対面に座る、ずっと頭を垂れたまま口を開くこともできない謝必安(シャ・ビアン)の生父、謝林(シャ・リン)を望み見て、冷笑を一つ放った。


「三爺、義姉の私があなたに説教するわけではありませんけれど。あなたの部屋のあの通房丫頭(かようこまづかい)が産み落とした孽障(げきしょう)は、幼い頃からいくら養っても懐かない白眼狼(おんしらず)でしたわ。それが今となっては、司天監(してんかん)へ赴き下流の底層雑役になるだけならまだしも、あろうことか鏡妖司(きょうようし)千戸(せんこ)を引き連れて国師(こくし)の法陣に衝突するとは! もし太公の決断が果断でなく、あの小畜生の名前を族譜から朱筆で削り落としていなかったら、我らのこの満堂の富貴も、恐らくはすべてあ奴の陪葬(みちづれ)にさせられるところでしたわ!」


「義姉上の訓戒の通りにございます……あの逆子は死して余りある罪」謝林(シャ・リン)の額には冷や汗が滲み、連連と頷くばかりで、自身の血を分けた実の息子のために半句の弁駁(べんばく)も敢えてしなかった。


このような百年の門閥にあっては、価値のない庶子など、門番の犬一匹にすら劣るのである。


「罷めよ、所詮は一個の捨て駒に過ぎぬ。平康坊(へいこうぼう)の泥沼の中で死ぬならば、それもまた綺麗というもの。むしろあの二匹の霊獣が……惜しいことよ」主位に座る謝政(シャ・ジェン)が緩慢に口を開いた。声は低沈にして、一股の不容置疑の威厳を透かせていた。彼は手中の血の胡桃を花梨木の卓面の上に重く押し当てた。


「我が(シャ)家は家大にして業大なり。一個の庶子を折損したところで何ほどのこともない。後宅の絳雪軒(こうせつけん)に在わすあの『活菩薩(いきぼさつ)』さえ安然無恙(ぶじ)であれば、我が(シャ)氏の百年の気運を動かせる者などおらぬ」謝政(シャ・ジェン)は鋭利な眼差しで四方をぐるりと掃め巡らせた。「……別通声息(だれもくちをひらくな)


絳雪軒(こうせつけん)」と「あのお方」という言葉が言及されるや否や、堂内の元々は軽薄で刻薄であった気氛は、瞬時に無比の敬畏へと変貌し、あまつさえ一絲の深い恐怖すら夾雑された。


大娘子(だいじょうし)は無意識に両手を合わせ、謝府(シャふ)の深処の方向へと向かって拝みを入れ、元々は辛辣であった顔に一抹の敬畏の諂媚(へつらい)を絞り出した。「大旦那様の仰る通りでございます。知微(チーウェイ)のあの子は、同じく庶出とはいえ、天生の仏骨(ぶっこつ)を帯びておりますゆえ。彼女のあの両目は見えぬとはいえ、それは我ら(シャ)家に代わって百年の業障を塞ぎ止めているのですわ。私は毎日人を使って最上の雲錦と燕の巣を届けさせ、彼女を実の祖先のように供養し、半点の委屈も受けさせぬようにしておりますのよ」


謝林(シャ・リン)は他人が自身の盲目の娘を褒め称えるのを聞き、喜悦を抱くどころか、かえって恐怖のあまり首をすくめた。


彼らは心知肚明(こころのうちでりかい)していた。謝知微(シャ・チーウェイ)のどこが活菩薩なものか。あれは(シャ)家歴代の無数の冤魂と業障を用いて養い育てられた怪物たる一尊なのだ。彼女の盲目は、陣法の反発を受けた代価であり、彼女の在る絳雪軒(こうせつけん)には、(シャ)家祖伝の呪符がびっしりと貼られている。


彼らが謝知微(シャ・チーウェイ)に対して半句の悪言をも敢えて吐かないのは、仁慈からではなく、極度の恐怖からであった。一旦この「人柱(ひとばしら)」が怨恨を生み、一絲の煞気(さっき)でも洩露しようものなら、謝府(シャふ)全体の活人は、頃刻の間に一灘の膿血へと化作してしまうのである。


「ドゴォン!」


まさにこの群れの大魏(たいぎ)の貴族たちが自我安撫の虚仮の安全感の中に沈浸していた時、玉樹堂(ぎょくじゅどう)のあの二扇の厚重な銅張りの大門が、突如として一股の巨大な力によって外から激しく撞き開けられた。


狂風が氷のように冷たい秋雨を交え、まるで一頭の野獣の如く大堂へと撲り込んだ。十二の掐絲琺瑯(きょうしほうろう)の炭盆の中の火苗が瞬時に劇烈に揺れ動き、百合の香りのねっとりとした甘さは、一股の嘔吐を催すような泥の腥さと血生臭さによって徹底的に衝き散らされた。


「旦那様……大旦那様! 一大事でございます!」


謝知微(シャ・チーウェイ)の身の回りの世話をする大丫鬟(おおこまづかい)翠桃(すいとう)が、連転帯這(ころがりはいつくばり)堂内へと撲り込んできた。彼女の身にあるあの一件の名貴な青綢の比甲(そでなしぐい)はとうの昔に泥水に湿り透り、髪は散乱している。彼女の両手は鮮血が淋漓(りんり)と滴り、十指の爪は完全に翻巻(めくれあがり)、彷彿と今まさに両手を用いて何らかの極度に危険な砕ガラスを掻き毟ってきたかのようであった。


彼女の背後に続くのは、後宅の鎮守を担当する四名の「幽芳(ゆうほう)」暗衛である。これらの平日は人を殺すにも瞬き一つしない死士たちが、今この時刻、あろうことか個々に顔を死の灰の如くさせ、あまつさえ一名の暗衛に至っては刀を握る腕が制御不能に劇烈に痙攣している有様であった。


放肆(ぶれい)な! 規矩(れいぎ)を知らぬ賤婢め!」王大娘子(だいじょうし)は冷風に吹きつけられ、手中の暖炉をあわや落としそうになった。彼女は猛然と立ち上がり、翠桃(すいとう)を指差して怒罵した。「大旦那様と各夫人方を驚擾しおって、外へ引きずり出し乱棍にて打ち殺しておしまい!」


「黙れ!」謝政(シャ・ジェン)が猛然と卓面を叩きつけた。あの一対の包漿(けいねんのつや)の血胡桃は、彼によって直接粉々に叩き砕かれた。


この(シャ)家の大権を掌控する当主は、陣法の煞気(さっき)によって灼き傷つけられた翠桃(すいとう)のあの血の腕を死の如く見つめ、一股の言語に絶する寒意が彼の脊椎骨に沿って狂ったように上竄した。彼は知っていた、この丫鬟(こまづかい)絳雪軒(こうせつけん)に侍奉している者であることを。


「言え! 絳雪軒(こうせつけん)に何が起きた?!」謝政(シャ・ジェン)の声は徹底的に先ほどの威厳を失い、あまつさえ一絲の破音すら帯びていた。


「窓が……窓が開きました……」翠桃(すいとう)は氷のように冷たい金磚の上に平伏し、全身を篩の糠の如く震わせ、声は夜猫子(フクロウ)哭喪(なきごえ)の如く凄厲(せいれい)に響いた。「太公が自ら描かれた鎮魂の呪符が、内側から引き裂かれて破片と化し……知微(チーウェイ)お嬢様が……知微(チーウェイ)お嬢様が消えられました!」


「ドガァン――!」


この一句はまるで一記の沈悶な雷の如く、直接玉樹堂(ぎょくじゅどう)のすべての人間の天霊蓋(てんれいがい)へと()ちた。


大娘子(だいじょうし)は両目を剥いて白目を剥き、手中の黄銅の暖炉がカランという音と共に足の甲の上に(おち)た。熱さに一記の惨叫を発し、そのまま全身を癱軟させて太師椅(たいしい)の上にへたり込み、呼吸すらも停滞させた。先ほどまで謝必安(シャ・ビアン)を嘲諷していたそれらの七大姑八大姨(おんなたち)も、今この時刻は皆血の気を失い、数名の胆の小さい妾室に至っては直接恐怖のあまり裙に尿を漏らし、空気中には頓に一股の臊臭が蔓延し始めた。


謝林(シャ・リン)に至っては両足から力が抜け、直接椅子から滑り落ちて地に跪き、口の中に絶望の呢喃(つぶやき)を発した。「終わりだ……(シャ)家は終わりだ……業障が閘門を出てしまった……」


もはや誰も謝知微(シャ・チーウェイ)を一句の野丫頭や孽障などと罵る者はいなかった。絶対の恐怖の前では、階級の傲慢さなど、一層の窓紙の如く脆弱なものなのである。


「この廃棄物どもめ! 何を哭いておるか!」


謝政(シャ・ジェン)は猛然と壁に懸けられた驚鴻(きょうこう)の宝剣を抜き放ち、剣の鋒をそれら四名の震え慄く暗衛死士へと真っ直ぐに向けた。眼底には狂気的な血の絲がびっしりと布き詰められていた。


絳雪軒(こうせつけん)の外には三十名の『幽芳(ゆうほう)』死士が日夜盯防しておるのではなかったか?! 一介の目も盲いた女子が、どうしてお前たちの眼皮の下を逃げおおせようか!」


先頭に立つ暗衛の統領が片膝を地につき、頭顱を深く胸の前に埋め、声には一股の鬼でも見たかのような絶望が透けていた。


「当主様のご明鑒を……知微(チーウェイ)お嬢様は逃げおおせたのではございませぬ、彼女は……彼女は自ら歩み出られたのです。それら門窓に貼られた呪符は、彼女が指を用いて強引に抉り砕いたもの。属下たちは阻攔を試みましたが、然れども……」


統領は猛然と自身の胸の前の緊身皮甲(レザースーツ)を引き裂き開けた。


謝政(シャ・ジェン)は一口の冷気を吸い込んだ。見れば統領のあの堅実な胸膛の上に、赫然として一個の灰黒色を呈する繊細な手掌の印が押されていた。手掌の印の周囲の皮肉はすでに完全に壊死し、氷を結んでおり、一股の極度に陰寒なる百年の煞気(さっき)が、彼の血管に沿って心臓へと蔓延しつつあった。


知微(チーウェイ)お嬢様がただ我らを一目見ただけで……兄弟たちの体内の真気は尽く凝滞いたしました。彼女の身の側にはさらに……」統領は唾を一口呑み込んだ。「彼女は申しました、平康坊(へいこうぼう)へ兄に一本の傘を届けに行くと。誰一人として彼女を遮る者がおらば、この烏衣巷(ういこう)から、一匹の生きた蛐蛐(コオロギ)すら残さぬと」


死寂。玉樹堂(ぎょくじゅどう)の内は人を窒息させるような死寂へと陥った。


謝政(シャ・ジェン)の剣を握る手は劇烈に震え慄いていた。彼は知っていた、あの怪物が一旦外界の血気を沾染(かんせん)すれば、再び彼女を心甘情願に絳雪軒(こうせつけん)というあの檻の中に戻らせることは、天に登るよりも難しくなることを。だがもし彼女が戻らねば、(シャ)家が百年にわたり累積してきた業障の宣洩口(はけぐち)が消え失せ、家族全体が骨の(かす)すら残らぬほどに反噬(はんぱつ)されることになるのだ。


「馬を用意せよ……いや、我が頂の八抬大轎(はちにんかつぎのかご)を用意せよ!」


謝政(シャ・ジェン)は宝剣を容赦なく地上へと(なげう)ち、(すがた)瘋魔(きょうき)の如く堂の外に向かって嘶吼(ほうこう)した。


「我が当主の令を伝えよ! 謝府(シャふ)にて動用し得るすべての死士、客卿、供奉を調集せよ! 即刻平康坊(へいこうぼう)の外郭へ向かえ! 兵刃は携えるな、最も頂級の狐の(かわごろも)手炉(かいろ)、そして金創薬(きずぐすり)を持参せよ!」


謝林(シャ・リン)は地に伏したまま、震えながら尋ねた。「父親殿……もし知微(チーウェイ)を見つけ出せたとして、彼女が……彼女が戻ることを肯んじなかった場合はいかがいたしましょうか? 強引に手を下しますか?」


「手を下すだと? 貴様のような愚物が手を下すなどと口にする資格があるか!」謝政(シャ・ジェン)は一脚で自身の実の息子を蹴り倒した。両目は赤く血走り、唾の飛沫を謝林(シャ・リン)の顔一杯に噴き散らした。


「誰一人として彼女に向かって抜刀する者がおらば、老子が先にその者の全家を(きりきざ)んでくれるわ! 彼女は謝府(シャふ)の祖先じゃ! 活菩薩(いきぼさつ)じゃ! 貴様らが泥水の中に跪き彼女のために踏み台となろうとも、この姑奶奶(おじょうさま)を、平平安安に、髪の毛一本すら欠かすことなく……老子の下へと請い戻してこい!!」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ