第41話 役鬼《えきき》
【巻ノ一・残頁肆拾壱:『大魏異聞録・役鬼』残巻】
「人柱の血、至陰至穢なり。血を地に滴らせば、黄泉百年の枯骨を喚ぶべし。
群鬼其を奉じて主と為し、過ぎる所の処、生機尽く絶え、劫灰と化す」――『司天監・妖部档』
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平康坊の外郭、大通りから遠く離れた行き止まりの路地。
秋雨がパラパラと叩きつけられ、この狭い青石の路地を支離滅裂に切り裂いている。空気には餿水(残飯水)、馬の糞、腐った菜の葉が混ざり合った酸腐な臭いが瀰漫している。
謝知微は暗闇の奥深くに静かに佇んでいる。
彼女が身につけているのは、本来なら一塵の汚れもない、十数人の江南の刺繍職人が半年を費やして織り上げた月白色の雲錦の襦裙だ。だが今や、その裾は泥水と名も知らぬ穢物でとうにずぶ濡れになっている。
高価なシルクは汚水をたっぷりと吸い込んで鉛の塊のように重くなり。彼女の繊細な足首にぴったりと張り付き、人を心悸させるような薄っぺらさを描き出していた。
だが彼女の目の前には。鉄塔のような体格を持つ大漢が三人、ひざまずいている。
謝家の「幽芳」の暗衛だ。冷間鍛造で打たれた玄鉄の札甲を纏っている。一枚一枚の札は桐油に繰り返し浸されており、尋常の強弩の斉射にも耐えうる。
彼らの手には本来、見血封喉の猛毒を焼き入れた精鋼の短弩と斬馬刀が握られていたはずだった。
この盲目のお嬢様を追跡するため、彼らは司天監が高値で飼育する「尋気獒犬」を動員した。
しかし、その凶悍な獒犬は、この行き止まりの路地に足を踏み入れた瞬間、凄惨な哀鳴を上げ、全身の骨が爆音を立てた。そのまま泥水の中で一灘の悪臭を放つ血水と化したのだ。
獒犬が死んだ瞬間。三名の暗衛は弩の引き金を引く暇すら無かった。
肉眼で見える灰白色の陰寒な煞気が。無数の無形の氷の鎖のように泥濘の地面に沿って這い上がり、彼らの革靴、膝当てに死に物狂いで絡みつき。ついには首と心脈を締め上げた。
「ガチャン――」
精鋼の短弩と斬馬刀が力なく手から滑り落ち、溜まり水に激突して汚泥を跳ね上げた。
三人の瞬き一つせずに人を殺す死士が、両膝の力を失い、青石板の上に重く叩きつけられた。重い札甲が押し合い、歯の浮くような摩擦音を立てる。
反抗したくないのではない。関節の滑液が瞬時に氷の屑へと凍結されたのだ。少しでも力を入れれば、骨が内側から直接砕け散る。
先頭の暗衛の統領は両膝を淤泥に深く沈め、両手で寒梅が描かれた油紙の傘を高く掲げている。全力で謝知微の頭上の暴雨を遮っている。
彼の腕は恐怖で劇しく痙攣し、雨水が生鉄の仮面の縁に沿って滑り落ちる。雨なのか冷や汗なのか見分けがつかない。
「来るのが遅すぎるわ」謝知微は振り返らない。声は雨の夜の中で空霊な森寒を透かせている。
暗衛の統領の歯が狂ったようにガタガタと鳴り、顎の骨がゴキゴキと鈍い摩擦音を立てた。「家主……家主に令あり。活菩薩に……お戻りいただきたく……」
謝知微はこの卑屈な哀願を無視した。ゆっくりと右手を上げ、蒼白で繊細な人差し指を口に入れた。
歯を力強く立てる。微塵の躊躇もなく、粗暴に指先の皮膚を噛み破った。
一滴の、不気味な暗紫色を呈した鮮血が指先に沿って滑り落ち。足元の汚らしい泥の穴へ正確に落ちた。
「ピチャッ」
この血が水に落ちた微細な音が。なんと空間を歪めるような物理的共鳴を生み出し、満城の狂風暴雨と雷鳴を強引に掻き消した。
行き止まりの路地の泥沼が、突然劇しく沸騰し始めた。
暗黒色の泥水が外へ波打ち、ゴボゴボと粘りつく気泡の音を立てる。
周囲の気温が刹那にして氷点を割った。暗衛の統領の手にある傘の柄が瞬時に手を刺すような白霜を結び、掌の皮膚がひび割れるほどに凍りつかせる。鮮血は流れる前に赤い氷の結晶と化した。
吐き気を催すような墳墓の土の腐臭と錆びた鉄器の匂いが。地底の奥深くから狂ったように湧き出した。
泥水が両側へ波打ち、巻き上がる。
一羽の、干からびて黒ずみ、暗緑色の屍斑がびっしりと生えた手爪が。猛然と地表を突き破り、青石板の縁に死に物狂いで食い込んだ。
その手爪の親指には、まだ緑青に腐食されて模様も見えない親指輪が嵌まっている。爪が石を引っ掻き、鼓膜を刺す鋭鳴を立てた。
続いて、泥沼の奥深くから重い鎧の衝突音が伝わってきた。
頭のない将軍の躯体が。両手で白い毛の生えた頭を抱え、ゆっくりと泥濘から這い出してきた。
その身の山文甲はとうに錆び付いて一つの硬い鉄の塊となっており、関節が動くたびに、大面積の赤褐色の鉄サビと腐肉が落ちる。
これは始まりに過ぎない。
何十体もの、全身から黒泥と屍水を滴らせる腐乱した躯体が。次々と地底から湧き出してきた。
その中には、前朝の残破した重甲を着た兵士もいれば。胸に折れた槍の半ばが刺さった農夫もいる。さらには綾羅絹緞を着て腹を割かれた貴婦人すらいる。
瞳孔のない彼らの眼窩には。皆、幽緑色の燐火が燃えている。
謝家の三名の暗衛はこの光景を見つめ、胃の中が波打った。数日前に食べた飯を胆汁ごと吐き出しそうになる。彼らは刀光剣影には見慣れているが。目の前の光景は、活人の世界に対する認識の限界をとうに超越している。
これら泥濘から喚び覚まされた百年の老鬼は。無尽の怨気と暴戻を帯び、この通りの活人を八つ裂きにするのに十分だ。
だが謝知微の前にあっては。彼らは主を見た喪家の犬のごとく、一斉に平伏した。
何十体もの腐乱した額が汚らしい青石板に死に物狂いで押し付けられ、骨が恐怖に戦慄し、眼窩の燐火すら少し暗くなった。
「未央宮へ行け」
盲目の少女は微かに頭を下げる。あの目を覆う曼珠沙華の絹の帯を通して、足元に這いつくばる魑魅魍魎を注視しているかのようだ。口調は九幽地獄から来たような陰寒を透かせている。
「太極殿にいるあの紫袍の老方士が。今まさに牽引の大陣を執り行っている。陣法が反噬する時、それこそが奴が最も虚弱となり、最も身動きが取れなくなる刻だ」
謝知微は舌の先を出し、指先に残った暗紫色の血液を軽く舐め取った。蒼白な唇が妖異な赤に染まる。
「行け。奴の五臓六腑を半分噛みちぎり、手筋と足筋を断て。息の根は一つ残しておけ」
彼女は少し言葉を切り、狂風がずぶ濡れの髪を吹き飛ばす。その声に高き廟堂にいるような悲憫はない。人を震え上がらせる身内びいきと残酷さがあるだけだ。
「首は。兄が自ら斬るために残しておくのよ」
謝知微は首を少し回す。繊細な骨の関節が軽い澄んだ音を立てた。
「覚えておきなさい。もし兄に綻びを見抜かせ、兄が自ら手を下す興を削ぐ者がいれば。私がそいつの魂魄を抽き出し、謝家宗祠の柱に打ち付けて、千年の天灯を灯してやるわ」
群鬼が凄惨で抑圧された低い嘶きを発した。
次の息。何十体もの腐乱した躯体が轟然と潰散し、何十本もの粘りつく黒い煞気と化した。
それらは氷のように冷たい地面に張り付き、血生臭さを嗅ぎつけた狂犬の群れのごとく。音もなく夜色に溶け込み、皇宮の太極殿の方向へ向かって狂ったように疾走していった。
行き止まりの路地は再び死寂を取り戻し、雨水の叩きつける音だけが残された。
謝家の三名の暗衛はすでに泥水の中に崩れ落ちている。あの油紙の傘を死に物狂いで支えていなければ、統領は恐らくとうに気絶していただろう。
路地の外から、突然重く整然とした足音が伝わってきた。
八人の上半身裸の、筋肉が隆起した駕籠かきが。泥水を踏みしめて狂奔してくる。彼らの肩に担がれているのは。大魏門閥の家主のみが乗る資格を持つ、紫檀の八人担ぎの大駕籠だ。
駕籠の周囲には雨避けの油引きの牛革が垂れ下がり、四隅には金メッキの防風提灯が下がり、雨の夜に奢靡な光の暈を揺らしている。
駕籠にぴったりと付き従うのは、謝知微の側仕えの大丫鬟(小間使いの筆頭)、翠桃だ。
翠桃の胸には名貴な白狐の毛皮の外套が死に物狂いで抱え込まれている。彼女の両手の十指は鎮魂符の残留する煞気で火傷し、厚い白いガーゼで包まれているが。依然として満地の泥濘を顧みず、転がるようにして行き止まりの路地へ飛び込んできた。
「お嬢様……私のご先祖様……」
翠桃はバシャンと泥水の中にひざまずき、涙と雨水を混じらせて顔を濡らす。礼儀も構わず、慌ててその暖かく柔らかな白狐の外套を広げ、雨水でずぶ濡れになった謝知微の薄い身体へ慎重に羽織らせた。
狐の外套の、名貴な沈香の匂いが、瞬時に謝知微の周囲のあの鼻を刺す墳墓の土の臭いを駆逐した。
謝知微は丫鬟の奉仕を拒まなかった。
暗衛の統領の手からあの寒梅が描かれた傘を受け取る。氷のように冷たい傘の柄には、暗衛の掌が裂けた鮮血がまだ残っている。
彼女は傘を差し、ゆっくりと振り返った。
視力を失った両目が烏衣巷の方向を望む。顔にあった万鬼を統御する暴戻と傲慢が瞬時に退き、口調は世家の女特有の空虚さと淡漠さを取り戻した。
「靴と足袋が汚れたわ」彼女は満地の泥濘を踏む。白皙の足首は黒泥まみれだ。「疲れた。絳雪軒に戻って休むわ」
「は……はい! 駕籠を上げよ! 早く駕籠を上げろ!」
翠桃が甲高い声で嘶き叫ぶ。声は極度の緊張で割れている。
二人の暗衛が慌てて泥水から這い上がり。自らの玄鉄の札甲が汚物にまみれているのも構わず、腰を屈め、宦官のように駕籠のすだれを捲り上げた。
謝知微は紫檀の踏み台を踏み、腰を屈めて春のように暖かい駕籠の中へ潜り込んだ。
すだれが下りた瞬間。あの息が詰まるような圧迫感が、ようやく皆の心から少しだけ取り除かれた。
八人の駕籠かきが同時に力を込め、重い紫檀の大駕籠が雨の夜に平穏に持ち上げられた。
謝家の最高権力と富を象徴するこの駕籠は。今や「人型の凶器」を送迎する囚人護送車と化していた。駕籠かきたちは裸足になり、足の指で滑りやすい青石板を死に物狂いで掴む。一度でもよろめいて、駕籠の中のあの活菩薩を怒らせることを恐れながら。
駕籠の中には、遼東の夫餘王が献上した分厚いテンとアナグマの細い絨毯が敷き詰められている。
隅には精巧な掐糸琺瑯(七宝焼き)の手あぶりが置かれ、中に無煙の銀骨炭が燃え、人を眠りに誘うような暖気を放っている。
謝知微は柔らかな引枕(肘掛け)に寄りかかり、あの泥汚れと血水にまみれた足首をスカートの裾へ隠した。
彼女は窓の外の油引きの牛革に雨の滴が当たる鈍い音を聞きながら。脳裏に浮かべるのは。高温でこんがりと焼けそうになっていた、あの謝必安の右腕だ。
「兄さん、死なないでよ」彼女は白狐の毛皮の絨毛に頬を埋め、聞き取れないほどの微細なつぶやきを漏らした。
†
半時辰後。
烏衣巷、謝府、絳雪軒。
謝府の最も奥深くに位置するこの中庭は、謝家全体で最も高額な造りの建築物だ。中庭には名貴な「絳雪」の紅山茶花が植え尽くされ、秋雨の中でも燃えるように咲き誇っている。
だが。注意深く観察すれば。それらの花びらの縁には、皆一筋の、煞気に侵蝕された枯れ黄色が帯びていることに気づくだろう。
金の山、銀の海を積み上げて作られたのは、閨房ではない。優しい郷でもない。隔離室だ。
八人担ぎの大駕籠が絳雪軒の中庭の門の外にしっかりと停まる。謝知微は翠桃に支えられ、床暖房が消えて氷のように冷たくなった閨房へ歩き入った。
「早く! 湯を用意しろ! 炭を足せ! 前庭へ行って、大老爺の庫房にある極上の沈香を持ってこい!」
翠桃は門に入るなり、中庭でガタガタと震えている下働きの丫鬟たちに向かって厲声で号令を下した。
絳雪軒全体が瞬時に慌ただしくなる。
十数人の丫鬟が熱湯を満たした赤銅の壺を提げ、魚貫のごとく入ってくる。部屋の正中央には、大人三人が入れるほどの金糸楠木の巨大な湯桶が置かれている。
熱湯が注ぎ込まれる。水面には摘みたての西域の薔薇の花びらと、すり潰した真珠の粉がたっぷりと撒かれた。床暖房が再び点火され、暖かい気流が部屋の陰寒を駆逐する。
謝知微は屏風の裏に静かに立っている。
翠桃と他二名の大丫鬟が床にひざまずき、泥水と穢物を吸い込んだあの雲錦の襦裙を慎重に解いていく。汚らしい布地が彼女の白皙の肌から剥がれ落ちる時、丫鬟たちは息をすることも恐れた。
彼女たちは温かい牛乳に浸したシルクのハンカチで。少しずつ、謝知微の足首の黒泥を拭き取っていく。
「お嬢様。湯加減は丁度でございます」翠桃が謝知微を支え、金糸楠木の湯桶へ跨ぎ入らせる。
温かい水流が硬直した躯体を包み込む。
だが。謝知微が湯に浸かった瞬間。
薔薇の花びらと真珠の粉が漂うあの澄んだ湯が。なんと肉眼で見える速度で混濁し、黒ずんでいった。
彼女が行き止まりの路地で放った煞気は。すでに骨髄の奥深くへ浸透していたのだ。今、熱湯の力を借りて体外へ逼り出され。本来は豪奢な香湯が。瞬時に一筋の鉄サビの匂いを放つ汚水の一池へと変わった。
丫鬟たちはこれを見て見ぬふりをする。
彼女たちはこのような病的な奉仕にとうに慣れている。一桶また一桶と黒水を交換し続け。やがて湯桶の湯が再び清澈透亮となり、沈香の匂いを放つまで繰り返した。
入浴を終え、謝知微は乾燥した柔らかな鮫綃の寝巻きに着替える。
翠桃に支えられ、雲錦の布団が敷かれた長椅子に再び横たわった。床暖房の熱気が彼女の長い髪を焙る。
一方、絳雪軒の彫花の窓の格子の外では。もう一つの滑稽で恐怖に満ちた光景が上演されていた。
華陽洞天から重金を叩いて呼ばれた十二名の高階の道士が。暴雨を冒し、梯子を踏み、両手を震わせながら。真新しい「鎮魂符」を一枚一枚、窓のすべての隙間に貼り直している。
彼らの動作は極めて粗魯だ。貼るのが一秒でも遅れれば、中の怪物が再び飛び出してくるのではないかと恐れている。
中には、手の震えが激しすぎた若い道士が、うっかり符紙の角を破いてしまい。その場で恐怖のあまり梯子から転げ落ち、口を塞いで悲鳴すら上げられない者もいた。
「お嬢様、安神湯を新たに煎じ直してまいりました」翠桃が新しい白定磁の碗を捧げ持ち、長椅子の前にひざまずく。
「置いておきなさい」謝知微は手を伸ばさない。
身を横に向け、顔を柔らかなシルクの迎枕に埋める。窓の外の雨音は、分厚い鎮魂符と紫檀木の窓の格子に隔てられ、鈍く遠く響く。
彼女には分かっている。あの金の鳥籠の扉が、再び外から死に物狂いで施錠されたことを。
だが、彼女は気にも留めない。
彼女の絹の帯の下に隠された盲目は。幾重もの雨の幕を透過し、皇宮の太極殿の内で。今まさに国師の五臓六腑を狂ったように喰い千切ろうとしている百年の老鬼の群れを見ているかのようだ。
謝知微の唇に、極めて浅い笑みが浮かんだ。




