第37話 鴆の茶と黄雀
【巻ノ一・残頁卅柒:『大魏門閥考・族譜』残巻】
「士族は譜牒を重んじ、以て貴賤を別つ。
若し族中の子弟が大逆不道の罪を犯さば、必ず宗祠にて中門を開き、家法を請い、朱筆を以て玉牒上の其の名を除き、祖宗に告祭し、以て宗族の命を全うすべし」――『司天監・戸部档』
【司天監内部メモ】
現代企業が広報危機に直面した際、真っ先に行うのは、問題を起こした従業員の解雇声明を発表し、会社の責任を綺麗さっぱりと切り離すことだ。
大魏の士族門閥はこの手口をさらに熟練させている。カビの生えた族譜から名前を消し去り、涙ながらの謝罪の奏上書を添えさえすれば。たとえ身内の者が外で皇宮を爆破しようとも、それは個人の反社会的な行為であり、宗族とは無関係になるのだ。
†
建康城、烏衣巷の奥深く。
鬼市の悪臭と泥濘とは全く異なる。謝家の広大な敷地を占める巨大な邸宅は、深夜であっても他の世家が望むべくもない奢靡を透かせている。
宗祠の内に尋常の家の陰冷さはない。床暖房が激しく焚かれ、床には属国から貢がれた温潤な白玉のレンガが敷き詰められている。照明用の長明灯ですら、千金も求め難い鮫人の膏を燃やし、人の骨を酥けさせるような異香を放っていた。
謝家太公が、雪白の狐の皮が敷かれた太師椅子に端座している。
この大魏のトップ門閥の舵取りは。金糸で雲の紋様が刺繍された紫檀色の重錦の長衣を着ている。衣類の重厚感が彼を微かに猫背にさせ、親指にはめられた、水が滴りそうなほど翠緑の翡翠の親指輪が、ゆっくりと、だが焦燥を帯びて回されていた。
華服を着た数名の族中の長老が両側に分かれて立つ。皆の顔色は、足元の白玉のレンガよりも死に絶えたように白い。
「太公、情報は確実です。あの庶出にも劣る逆子が、忘憂閣で一万四千両もの青楼のツケを残したばかりか。昨夜は鏡妖司の狂犬を連れ、司天監雑項科の役所で国師府の鉄浮屠禁軍を吹き飛ばしたとのこと」
一人の長老が宝石を嵌め込んだ杖を握り、玉石の床をトントンと重く叩いた。
「国師の私兵はすでに忘憂閣を封鎖しております。我々がこれ以上決断を遅らせれば、明日の黄昏、国師の屠刀が謝家満門の首に架かりましょうぞ!」
謝太公は親指輪を回す動作を止めた。
彼の視線が、細く立ち昇る鮫人膏の白煙を越え、目の前の紫檀木の机に落ちる。
机の上には、亀裂がびっしりと走った古の亀甲が数枚と、とうに干からびた黒血の跡がある。
謝家太公は梅花易数に精通し、人の生死と前途を断つことができる。
「あやつが十二歳の時、あの大病から奇跡的に全快して以来。ワシのこの自慢の占卜の術は、二度とあやつの命数を算き出せなくなった」
謝太公の枯れ細った指が、亀甲の上の無秩序な亀裂を軽く撫でる。声は嘶いている。
「あやつはとうの昔に生きているべきではなかったのだ。ここ数年。ワシがあやつを邸宅から追い出し、司天監の雨漏りのするボロ役所で日夜冷たい饅頭を囓るに任せていたのは。あやつの身に纏う算ききれぬ凶煞が、この烏衣巷の風水を汚すことを恐れたからじゃ」
長老たちの注視の下。謝太公はゆっくりと、目の前の緑青の生えた紫檀の木箱へ手を伸ばす。
錠前のカチャッという澄んだ音を伴い。金糸で縁取られた絹布の巻物を捧げ出した。
それは謝家の玉牒の族譜だ。
傍らの侍従が慌てて名貴な端渓の硯を捧げ持ち、暗赤色の朱砂の墨の塊を硯に押し当てる。
スルスルという乾いた研磨音を伴い。数滴の混濁した井戸水と朱砂が混ざり合い、血サビの匂いを放つ濃厚な赤い液体と化した。
謝太公の枯れ細った指が、斑の鼬の毛筆の管を死に物狂いで握りしめる。
筆の鋒が濃厚な朱砂をたっぷりと吸い込み、黄ばんだ玉牒の絹布の上に重く落とされた。
筆の毛が粗い絹糸の紋理と摩擦し、カサカサという引っ掛かる音を立てる。
暗赤色の汁液が筆先に沿って滲み広がる。さながら新鮮な刀傷のように、「謝必安」の三文字を死に物狂いで覆い隠し、塗りつぶした。
「謝家の不肖の子弟、必安。忤逆犯上す。本日列祖列宗の前にて、家法を請い、其の名を除く。これより生死禍福、謝家とは半点の関わりもなし」
謝太公の嘶くような声が、空虚な宗祠の内に反響した。
「馬車を用意せよ」謝太公は朱砂のついた毛筆を銅の盆に投げ捨てる。赤い水が点々と飛び散る。「ワシはこれより宮中に参り、国師府の門前に跪いて請罪の奏上書を差し出す」
宗祠の重い銅張りの大門が閉まろうとした、その瞬間のことだ。
宗祠の外、回廊の角の影の中に、音もなく一人の人間が蟄伏していた。
門の隙間から漏れ聞こえた「除名」の判詞と、忘憂閣の死局を聞き。その者は逆手で腰の華麗な刀の鞘の短刃を死に物狂いで握りしめた。
直後。粗末な蓑衣がそびえ立つ謝家の中庭の壁を飛び越え、建康城の連綿と続く秋雨の中へ溶け込む。青石板の水たまりを踏み砕き、平康坊の方向へ向かって不顧一切に疾馳していった。
†
同じ時刻。鏡妖司鎮撫衙門。
ここに陽光はない。一年中燃え続ける鯨の油の松明だけが、湿った青レンガの壁に歪んだ影を投射している。
空気には濃厚な鉄サビの匂いと、長年消えない血生臭さが漂っている。暗苔の生えた丸天井に沿って水滴が落ち、凸凹の地レンガに叩きつけられ、ピチャッ、ピチャッという単調な水音を立てている。
指揮使の姚広が、油で黒光りする巨大な鉄の机の後ろに座っている。
大魏の最高特務機関を束ねるこの権臣は。体型が臃腫で、鉄の椅子に積み上げられた肉の山のようだ。
分厚い掌で、安息国から産出された硬い胡桃を一つ握りしめている。バキッという歯の浮くような鋭い音を伴い、硬い胡桃の殻が片手で握り潰された。
彼はゆっくりと砕けた殻を払い除け、太い指で中の苦渋い薄皮をほじくり出し、白く柔らかな果肉を口に放り込む。クチャクチャという咀嚼音を立てた。
机の前方では、玄色の彪服を着た百戸が片膝をついてひざまずいている。背後の緹騎(護衛)の鎧の札が、身体の震えに合わせてガシャガシャと微細な衝突音を立てている。
「指揮使大人。沈千戸が昨夜、司天監雑項科の官衙で抜刀し、国師府の鉄浮屠を斬りました。今、奴はあの謝必安と共に、鬼市の忘憂閣の地底に閉じ込められております。国師の私兵はすでに平康坊を鉄の桶のように包囲しており。明日の黄昏には楼を封じて火を放つとのこと。我々も人を派遣して……」
「どこへ行くというのだ?」姚広は苦渋い胡桃のカスを吐き出す。まぶた一つ上げない。「沈無を助けて国師の私兵を皆殺しに行くのか? それとも、国師が我ら鏡妖司の千戸を縛り上げ、火の炉へ薪として送るのを手伝いに行くのか?」
百戸は言葉に詰まり、顔面蒼白となって冷や汗を流す。深く頭を下げ、二度と発言する勇気はない。
姚広は黄ばんだ麻布を引き寄せ、指の油脂を無造作に拭き取る。視線が、机の隅に届いたばかりの密報に落ちた。密報の紙の縁には、干からびた暗赤色の血痕が数滴こびりついている。
権術を弄するこの論理を、この大魏の特務の頭目はとうの昔に極めている。
国師のここ数年の朝廷での専横と、民を労し財を傷つけるあの「天を窃み柱を換う」大陣の敷設は。とうに鏡妖司に生存の脅威を感じさせていた。
沈無というこの刀は、姚広の手中にある最も鋭利で、かつ最も制御不能な凶器だ。
「沈無は兵符を持たず、私の手令も持っていない。奴が平康坊で青楼をうろつき、酒に酔って人と乱闘したとして。それが鏡妖司と何の関係がある?」
姚広は机の上の、茶渋の浮いた濃い茶が入った碗を手に取り、分厚い茶水を喉へ流し込む。ゴクリゴクリという嚥下音が響く。
「令を伝えよ。外にいるすべての緹騎を召還しろ。ただ今より、鎮撫衙門の九門を固く閉ざせ。すべての緹騎は刀剣を鞘に納め、本官の手令なくば、何人たりとも衙門から半歩も出ることを禁ずる」
姚広は粗末な磁器の碗を黒鉄の机に重く叩きつける。ドンという鈍い音が響く。
「明日の黄昏、奴らには勝手に犬の噛み合いをさせておけ。もし沈無の狂人が本当に国師の大陣に穴を開けることができたなら、本官自ら人を率いて奴の屍を拾いに行ってやる。もし奴が忘憂閣で死んだなら……」
姚広は冷笑し、分厚い掌を机の上の緑青の生えた青銅の官印に押し当てた。だがそれを持ち上げはしない。
「奴は大魏の反逆者だ。奴の名前は、鏡妖司の死档(死者名簿)に入る資格すらない」
†
皇城の奥深く。東宮の武庫。
謝家宗祠の奢靡や、鏡妖司の陰湿さとは異なり。ここは血脈を沸き立たせるような桐油の匂いと生鉄の冷たい香りが瀰漫している。数十個の巨大な風防付きの提灯が、地底に位置するこの秘密の武庫を白昼のように明るく照らし出している。
太子の司馬承淵が武庫の中央に立っている。
彼は金糸で四爪の蟒蛇の紋様が刺繍された普段着を着て、足元には極めて精巧な作りの鹿皮の柔らかい靴を履いている。この皇室特有の華貴さは、周囲の粗糲で氷のように冷たい戦争の機械と強烈な視覚的断絶を形成している。
彼の目の前には。体積が巨大で、まるで腹這いになった巨獣のような「三弓床弩」が三基停められている。
大魏軍方の最高級の重型攻城兵器。弓の弦は桐油に浸された古い牛の筋十数本を絡め合わせて作られ、子供の腕ほどの太さがある。
七、八人の上半身裸の、筋肉が隆起した職人たちが。鈍い掛け声を上げながら、両手で床弩の後方にある巨大な巻き上げ機を死に物狂いで握りしめている。
歯の浮くようなギシッ、ギシッという歯車の噛み合う巨響を伴い。太い牛筋の弓弦が少しずつ後方へ引き絞られていく。巻き上げ機の青銅の歯車が互いに摩擦し、目を刺すような火花が数点散る。
「カチャン」
澄んだ、だが鈍い金属のロック音が鳴る。弓弦は青銅の機関の凹みに死に物狂いで嵌まり込んだ。
司馬承淵がゆっくりと前へ歩み出る。羊脂玉の親指輪をはめた親指を伸ばし、床弩の粗く氷のように冷たい矢の溝を軽く撫でる。
矢の溝には、長さ七尺に達し、矢じりが精鋼で鍛造された巨大な鉄の長槍が静かに横たわっていた。
「殿下。三千の死士はすでに全員甲冑を着込み、玄武門の両側の抜け道に暗中潜伏しております。ただ明日の黄昏、逢魔の刻の到来を待つばかりでございます」
司馬承淵の背後に立つ甲冑姿の幕僚が声を潜める。鎧の札が呼吸に合わせて微細な摩擦音を立てる。
「父皇の喀血の症はすでに薬石効なき域に達している。国師の老犬め、十万人の陽気を使って父皇の命を長らえさせ、以て己の『一人之下、万人之上』の権力を保とうと妄図しておる」
司馬承淵は冷笑を漏らす。親指の羊脂玉の指輪が床弩の鋼鉄の矢じりと軽く衝突し、キィンという澄んだ音を立てた。
忘憂閣の地底でどれだけの人が死のうと、陣法がどう稼働しようと、彼は意に介さない。司馬の皇族の目には、すべての超自然の力など、権力の盤上のチップに過ぎないのだ。
「明日の黄昏、大典が起動する。国師の全神経は必ずや祭壇の陣の目に牽制されるはずだ。それこそが奴の最も無防備な時刻」
司馬承淵は猛然と振り返る。皇帝に極めてよく似た細長い眼眸に、濃厚な血生臭い殺意が爆発した。
「令を伝えよ。皇宮の奥深くの瑠璃の光柱が点灯した瞬間。三千の死士は直ちに玄武門を突き破れ。この三基の床弩は、本宮のために太極殿の玉の階段の下へ直接押し進めよ。本宮は見てみたい。国師のあの呪符がびっしりと描かれた紫の袍が、この城壁をも引き裂く破甲の鉄錐を防ぎきれるかどうかをな」
†
烏衣巷の宗祠の大門がゆっくりと閉じ合わさる。
鎮撫衙門の鉄門は固く閉ざされ音もない。
東宮の武庫では、弩の弦が満月のように張り詰められている。
建康城に風はない。
すべての者が待っている。
明日の黄昏を。
あの一筋の瑠璃の光が、点灯するのを。




