第36話 借兵の陰契
【巻ノ一・残頁卅陸:『大魏異物志・陰兵借道』残巻】
「古の将の煞、沙場に戦死し、怨気陣を結びて陰兵と化す。凡そ活人、陰兵を借りて界を過ぎんと欲せば、処子の血、活人の魂を以て買路銭(通行料)と為すべし。
銭と貨が両訖せば、陰陽は究めず。若し中途にして約を毀たば、必ず百鬼の噬咬に遭い、万劫不復とならん」――『司天監・妖異档』
【司天監内部メモ】
現代のビジネスにおいて、外部のチームに日の目を見ない裏仕事を依頼する際、最も恐ろしいのは見積もりが高すぎることではない。金を受け取っておきながら逆に噛み付かれることだ。
大魏の地下マフィアはさらにタチが悪い。実体を持つ法人すら持たないこの悪鬼どもは、契約精神など一顧だにしない。奴らが見るのは、お前が支払う頭金が、奴らの喉の奥にある血の池のような大口を塞ぐのに十分かどうかだけだ。
†
幽緑色の引魂蛾が秦淮河底の暗闇の中で音もなく潰散した。一つまみの生臭い朱砂の灰燼と化し、満地の粘りつく黒い淤泥の中へ溶け込んでいく。
謝必安は重い足取りを引きずり、ネチャッ、ネチャッという泥の拉扯音を響かせ、あの泥沼に半分沈み込んだ紙紮の楼閣の前に再び立った。
彼の今の風貌は、排汚暗渠から這い出た時よりもさらに狼狽を極めている。
青色の官服は太歳の熱波で焼かれ、黒焦げの破れ穴がいくつも開いている。右腕は力なく垂れ下がり、皮下の血管は不気味な暗金色を呈している。それは「錯金琉璃」を強引に催動した後に残留する恐怖の高温だ。
一歩踏み出すたびに、右腕の骨の隙間から、錆びた歯車が強引に回されるような刺痛が陣々と伝わり、喉へ湧き上がる酸水を絶え間なく飲み込ませた。
だが。無事な左腕と胸は。あの薄い霜が張り、内部から暗赤色の微光を隠しきれずに透かせている金泥の漆塗りの箱を、死に物狂いで護り抱えていた。
『ニャオオ! 親父、もっと早く歩けよ! 俺様、腹が減って皮が背骨にくっつきそうだぜ! この麻辣燙(激辛煮込み)、早く食わねえと酸っぱくなっちまう!』
脇の下に死に物狂いで挟み込まれた銜蝉が、待ちきれないようにブツブツと文句を言う。
この十数斤の金色の太猫は。今、極度の亢奮による癲狂状態にある。
漆塗りの箱の中のあの四つの生煮えの材料が放つ狂躁な陰怨の気は。奴の鼻には、分厚い油脂と唐辛子粉をたっぷり塗った極上のモツ焼きにしか感じられないのだ。ピンク色の鼻先を漆塗りの箱の縁の氷霜に死に物狂いで押し当て、口角から長く晶瑩なよだれの糸を引き、謝必安の襟元に沿ってボタボタと滴らせていた。
阿奴は謝必安の左肩に端座している。
この高冷な銀色の女王の細められたオッドアイの瞳からは、深い疲労と極致の嫌悪が透けている。
漆塗りの箱の中の混乱した煞気を抑え込むため、彼女は浄化の霊気を絶え間なく出力し続けなければならず、消耗は極めて激しい。彼女は屑としてうつむき、謝必安の懐でよろだを垂らす銜蝉を見下ろし、喉の奥から氷のように冷たい低い唸り声を発した。
一筋の鋭い刃の気が銜蝉の鼻先に正確に落ち、滴り落ちそうだったよだれを一寸の狂いもなく切断した。
阿奴はこの最も直接的な物理的勧告という方式で、この不甲斐ない太猫に対し、高級だが外装が極めて汚らしいこの未来のフルコースに絶対に触れるなと警告したのだ。
沈無は刃こぼれした直刀を握り、前方で道を切り開く。
二人と二匹の猫は、腐朽した棺の板を繋ぎ合わせた階段を踏みしめた。環首直刀の真鍮の底が木板と摩擦し、トントンという鈍い打撃音を立てる。
大広間の中は、濃厚な朱砂の匂いとカビた冥紙の匂いが依然として充満している。
人間の大腿骨を組み合わせて作った太師椅子の上。提燈叟は相変わらずあの猫背の姿勢を保っていた。目玉のない眼窩の中の幽緑色の燐火が、紅泥の小さな火鉢で燃える嬰児の骨のパチパチという音に合わせて、ゆっくりと明滅を繰り返している。
処女の鮮血を頬に塗った四人の紙紮の童男童女が両側に硬直して立ち、サササという冥紙の摩擦音を立てる。
まるで彼らが離れていたこの一時辰の間、この紙紮の朝廷の時間は静止していたかのようだ。
「謝拾遺。出向いていた時間は短かったが。持ち帰ってきた騒ぎは、ワシのこの紙紮の屋根をもう少しで吹き飛ばすところじゃったぞ」
提燈叟の声は相変わらず温和だ。干からびた左手で粗陶の茶壺をゆっくりと持ち上げ、熱い血の茶を頭骨の茶盞へ注ぎ込む。「さきほど忘憂閣の地底から突き上げてきた狂躁な陽気の衝突は。ワシのこの火鉢の中の死骨まで震え上がらせおった。どうやら。お前のあの元手のない商売は、破談になったようじゃな?」
謝必安は言葉を継がない。
右腕の引き裂かれる劇痛を強引に堪え。重い足取りを引きずって太師椅子の前へ真っ直ぐに歩み寄った。
左手を離す。
ドスッという鈍い音を伴い。表面に霜が張り、内部は熱く燃えるあの金泥の漆塗りの箱が。提燈叟の前の、腐朽した棺材で作られた低い机の上に重く叩きつけられた。
漆塗りの箱が落ちた瞬間。表面を覆っていた氷霜が、激しい震動によって一筋の亀裂を生じた。
肉眼で見える暗赤色の煞気が一筋。吐き気を催す腥く甘い匂いと暴戻さを伴い、亀裂に沿って潜り出た。
周囲の本来平穏だった空気が瞬時に点火される。あの四人の硬直した紙紮の童男童女は。この煞気に触れた刹那、顔の木然とした微笑が制御不能なほどに歪み、薄っぺらい紙の身体が狂ったようにバタバタと震え始めた。いつでもこの力によって引き裂かれそうだ。
提燈叟の眼窩の二つの幽緑色の燐火が、猛然と暴起した。
「大魏の龍脈の死気……それに極東の火精か……」老人の枯れ細った指が人皮の提灯の骨組みを猛然と握りしめる。温和な声に、ついに隠しきれない震驚と貪欲が透けた。「お前、こんな至陰至毒の凶物を、国師の極陽の陣の目に種として植え付けたのか? しかも……火候がまだ足りておらん!」
謝必安は左手で低い机の縁を支え。青白い顔に、劇痛で歪んだ冷笑を浮かべた。
実は、この焼けた芋を忘憂閣の地底に投げ捨て、遠くに隠れて太歳が自爆するのを待つこともできたのだ。
だが大魏の風水局の防御壁は明確に分かれている。忘憂閣は結局のところ陽気を提供する薪小屋に過ぎず、皇宮こそが国師が気運を受け取る主たる堂口だ。毒薬を地底に残しておいたところで、せいぜい薪小屋を一つ吹き飛ばし、国師に少しの反噬を喰らわせて古い血を二、三口吐かせるのが関の山。借金のカタにするあの極上の内丹など手に入るはずもない。
ましてや、あの太歳はすでに深刻な消化不良を起こしていた。掘り出して阿奴の強制的な物理冷却に頼らなければ。今夜忘憂閣は前倒しでガス爆発を起こし、彼という底辺の文官ごと肉泥に吹き飛ばされていただろう。
これはリターンは極めて高いが、少しでも油断すれば粉身砕骨となるプロジェクト暗殺のようなものだ。
彼は自らこの爆弾を抱え、外郭の封鎖を突破し、本部まで一直線に殺し込み。この毒薬の皿を、自分の手で国師の口へ直接突っ込んでやらねばならないのだ。
「先輩、お目が高い」謝必安は粗く喘ぎながら。職場で進捗を報告するいつもの口調で、無情にも現実を開き直った。「本来は文火でじっくり煮込み、綺麗に洗ってから国師のテーブルに出すつもりだった。だが国師のあの老狐が、突然デッドラインを明日の黄昏に前倒ししやがった。仕方ない。製品のテストも間に合わず、太歳のあの愚物もこの煞気を抑えきれなかった。俺はこの『生煮え』の毒薬の皿を、前倒しで掘り出すしかなかったのさ」
提燈叟の空洞の眼窩を直視する。
「先輩の骨の秤は、元手のない商売は量らないのだろう? さあ、チップを持ってきたぜ」
提燈叟は何も言わない。ゆっくりと人皮の提灯を下ろし、破れた蓑の奥底から、人間の腕の骨を研磨したあの十六星の骨の秤を取り出した。
あの干からびた猿の頭の分銅を一番端まで弾き飛ばす。左手で骨の秤の頭蓋骨で作られた秤の皿を下から支え、金泥の漆塗りの箱の上方に浮かせた。
大魏の年間。風水を解するマフィアの教父が邪物の価値を測る時、目で見ることは決してしない。秤を用いてその「怨みの重さ」を量るのだ。
この漆塗りの箱の中の四つの品は。龍脈の怨み、鮫人の悲しみ、舎利の狂気、火精の暴虐を融合させている。この重量は、とうに金銀で量れる範疇を超越している。
提燈叟の枯れ細った人差し指が軽く跳ねる。
あの生煮えの毒薬が詰まった漆塗りの箱が。無形の力に持ち上げられ、頭骨の秤の皿の中へしっかりと落ちた。
ギギギ――バキッ!
漆塗りの箱が皿に落ちた瞬間。これまで何人の命を量ってきたか知れない硬い腕の骨の秤の竿が。なんと重圧に耐えかねた骨折の鋭い音を響かせた。
骨の秤が猛然と下へ沈み込む。末端にぶら下がっていた、膨大な欲望を象徴する猿の頭の分銅が。この想像を絶する恐怖の煞気によって強引に天高く弾き飛ばされ、紙紮の楼閣の梁へ激しく激突した。
秤が、爆ぜた。
『ニャオオ! 見ろ! だから俺様がこれは中身が詰まってるって言っただろ! あのジジイの秤までへし折っちまった! 親父、こんな極上の出前、俺たちで食っちまえばいいじゃねえか。なんで他人にやらなきゃなんねえんだ!』
銜蝉が謝必安の足元で焦ってグルグルと回る。二つの爪がシルクと金糸を交えた狩猟紋の絨毯を絶え間なく引っ掻き。よだれがすでに胸の金毛を何束にも固まらせている。
阿奴はあの折れた骨の秤を冷たく一瞥した。口角から高慢な満足を透かせたかのようだ。
彼女のような上古の凶獣が見初めた極上の食材を。こんな人間界のボロ骨風情が量りきれるものか。
提燈叟は手の中の二つに折れた骨の秤を見つめ。半盞の茶の時間をまるまる沈黙した。
「謝拾遺。お前は徹頭徹尾、真の狂人じゃ」老人は折れた骨の秤を無造作に紅泥の小さな火鉢へ投げ込み、炎がそれを飲み込むに任せた。「この生煮えの毒薬の皿。ひとたび瑠璃の大典で爆発すれば。国師どころか、この建康城十万の生霊、そしてお前やワシまで、ことごとく一山の肉泥に吹き飛ばされるぞ」
「だからこそ。先輩の助けが必要なんだ」
謝必安は身体を真っ直ぐに起こした。もはや誤魔化しはしない。直接核心の交渉へ切り込んだ。
大魏の軍中には古くから伝わる黒市の取引がある。「借陰兵」と呼ばれるものだ。
活人が絶望的な戦争に勝つために。生魂と鮮血を買路銭(通行料)とし、地底の鬼王から、沙場に戦死した凶煞の亡魂を借り受けるのだ。
現代で言えば。未来のプロジェクトの利益を担保に、最も凶悪な武装セキュリティを雇用するようなものだ。
「明日の黄昏。国師の私兵は必ずや忘憂閣を水も漏らさぬほど包囲する」謝必安の口調は森寒だ。「先輩に三百の陰兵を借りたい。外郭で俺のために一つ風穴を開けてくれ。俺がこの箱の中身を国師の手に確実に送り届けることができれば。大陣が反噬した時、あの砕け散る極上の内丹こそが。俺があなたに支払う『買路銭』だ」
提燈叟の眼窩の燐火が劇しく跳ねる。
三百の陰兵。これは提燈叟が秦淮河底で百年かけて蓄積してきた底層の家財のほとんどだ。
ひとたび貸し出し、もし謝必安が失敗すれば。これらの陰兵は国師の極陽の陣法によって魂飛魄散に焼き尽くされ、提燈叟の統治基盤も徹底的に崩壊する。
大博打だ。
「ワシが何をもって。お前が国師の御前まで生きて辿り着けると信じられる?」提燈叟の声はもはや温和ではなく、陰寒な殺機を透かせている。
「これをもってだ」
ずっと沈黙していた沈無が突然動いた。
この鏡妖司の千戸が一歩前へ出る。左手の親指で直刀の真鍮の護封を猛然と押し開く。澄んだ金属の摩擦音を伴い、半寸の秋水の刃が鞘走った。
彼は提燈叟へは斬りかからない。逆手で一閃。微塵の躊躇もなく、自身の分厚い左手の掌に、骨が見えるほど深い血の口を切り開いた。
殷紅の鮮血が湧き出す。沈無は血の流れる掌を、あの霜の張った金泥の漆塗りの箱の上へ浮かせた。
「鏡妖司千戸、沈無。命を以て担保とする」沈無の声は鉄のように低く沈み、眼差しは刃のように提燈叟をロックする。「刃の指す所。万死して退かず」
鮮血が漆塗りの箱の表面の氷霜に滴り落ち。瞬時に一つ一つの猩紅色の氷の珠へと凍結された。
この大魏のトップ特務からの実体ある抵当は。いかなる花言巧語よりも重く響く。
提燈叟の干からびた口角に。ついにゆっくりと、恐怖の弧が浮かび上がった。
「よかろう。ワシはこの秦淮河の底で。お前たち二人と、狂乱の宴に付き合うとしよう」
老人の枯れ細った右手が、あの人皮の提灯を持ち上げる。提灯の血筋を帯びた人皮の層に。突如として、苦痛で歪んだ無数の鬼の顔が浮かび上がった。
「明日の逢魔の刻。ワシの陰兵が。お前たちのために忘憂閣の大門を叩き開けよう」




