第34話 半煮えの猛毒
【巻ノ一・残頁卅肆:『大魏丹鼎考・火候』残巻】
「凡そ大薬を煉るには、必ず文武の火を分かつべし。文火を以て之を養い、其の暴戻を去る。武火を以て之を煆き、其の真元を逼る。
若し火候未だ足らずして強行して炉を開けば、陰陽未だ済わず。必ずや丹は毀れ人は亡び、毒気百里に漫溢すべし」――『司天監・丹鼎档』
【司天監内部メモ】
あるプロジェクトが基礎的なストレステストすら終えていないのに、上官の強権によって強制的にローンチさせられた時。最後に爆発するのは絶対に製品だけではない。開発チーム全体の心血と肝臓をまとめて真っ黒な毒の滓に煮詰めたものも道連れにする。
†
生臭い音波が砕けた肉と粘液を混じらせ、閉鎖された地底の洞穴で狂ったように激突する。
謝必安の背中が、青銅の古鏡が嵌め込まれた岩壁に重く叩きつけられた。
五臓六腑が無形の鉄槌で激しく殴られたようだ。喉の奥に抑えきれない甘腥さが湧き上がる。
顔を横に向け、胃酸の混じった暗赤色の鮮血を光り輝く銅鏡の表面へ直接噴き出した。温かい血水が氷のように冷たい青銅の紋理に沿って蛇行し、目を刺すような暗い痕跡を残す。
「謝拾遺!」
蘇小小は階段の縁に隠れている。狐の毛皮の外套が洞穴で巻き起こる腥い風にバタバタと煽られている。歓楽街での生死に見慣れたこの花魁も。今、徹底的に暴走したこの太歳肉芝を前にして、ついに隠しきれない恐怖を声に滲ませた。
洞穴の中央。先ほどまでまだ平穏だった乳白色の肉の山は。今や狂気に陥った奇形の凶獣と化していた。
太歳の表面に裂けた巨大な欠け口から。ピンク色の血肉と青筋が絡み合ってできた数十本の太い触手が。呼嘯する鋭い風を伴い、刀を握る沈無へ向かって狂ったように鞭打っている。
一本一本の触手には、活人の陽気を瞬時に腐食させる粘液が分泌されている。満地に凝結したピンク色の油脂に叩きつけられ、バチッ、バチッという鈍く粘りつく音を立てる。
沈無の両足は鋳鉄のようにその場に死に物狂いで釘付けになっている。大魏軍制式の環首直刀が、手の中で一面の凄冷な秋水と化す。
歯の浮くようなブスッという鈍い音が響き、刀の刃が正面から叩きつけられた血肉の触手へ容赦なく食い込んだ。
想像していたような一刀両断の爽快感はない。太歳の血肉は極めて高い靭性と抵抗力を持ち、刃は粘りつく筋肉の紋理と筋膜の間に挟まり、腐った革を斬るような生硬な摩擦音を立てる。
沈無は手首の青筋を暴起させ、腰と腹をねじる蛮力で強引に引き抜き、その触手を生身のまま引き裂いた。
生臭い太歳の粘液が沈無の玄色の武術着に飛び散り、瞬時に腐食の白煙が立ち昇った。
謝必安は左手で口角の血跡を拭い、青銅の鏡面を支えにしてよろめきながら立ち上がった。
「錯金琉璃」の躁動を強引に抑え込んだ右腕が、今耐え難い高温を発している。粗末な灰布の袖からは、布地が焦げるような鼻を刺す匂いすら微かに透けている。
眩暈を強引に堪え。満天に振り回される触手の隙間を縫って、視線を太歳肉芝のあの裂けた欠け口の下へ死に物狂いでロックした。
波打つ乳白色の血肉の泥沼の中に。金泥で描かれた漆塗りの箱の一角が微かに見え隠れしている。
大魏の方士が丹を煉るには、文武の火候を重んじる。
あの漆塗りの箱に入っているのは。まさに彼が一日前に蘇小小に渡した四つの「生料」。火精、龍脈の廃カス、鮫人の涙、そして中指の舎利だ。
謝必安の本来の計算は極めて精明だった。
この四つの陰怨のモノは無比に暴戻であり、直接国師の大陣に放り込めば必ず警戒される。彼がこの品を忘憂閣の極陽の陣の目に隠したのは。この青楼の十万の生霊の歓楽の気を利用し、「文火(とろ火)」で三日間じっくりと煮込み、表面の血生臭さと不純物を洗い流し、温潤な極陽のモノに偽装するためだった。
それは、最も致命的な毒薬に甘美な糖衣を包ませるようなものだ。
国師が瑠璃の大典で無防備にそれを飲み込んだ時。糖衣が溶け、中の暴戻な煞気が瞬時に爆発する手はずだった。
だが今、デッドラインは強引に前倒しされた。
この四つの品は陣の目にたった一日しか浸かっていない。糖衣は半分しか包まれていないのに、内側の毒性はすでに忘憂閣の極陽の気によって前倒しで激発されてしまった。
国師によってフィルターとして使われているこの太歳肉芝は、明らかにあの漆塗りの箱を飲み込んだのだ。今、体内でこの四つの「生煮えの材料」が狂ったような陰陽の衝突を起こしているため、生不如死の消化不良と暴走に陥っているのである。
「恐れていたことが起きやがった。品質管理を通っていない半製品じゃ、この脳みそのない邪祟でさえ消化しきれねえか」
謝必安は心の中で歯を食いしばって毒づいた。だがその目には博徒のような狂気が閃いた。
国師が前倒しで宴会を開くというなら。この生煮えの毒薬の皿を、奴に無理やり食わせてやるまでだ。
「銜蝉! 行ってあの漆塗りの箱を掘り出してこい!」
謝必安は腰の酒瓢箪の栓を抜き、首を仰け反らせ。残っていた半分足らずの劣悪な焼刀子を、一滴残らず喉へ流し込んだ。
辛辣なアルコールが食道に沿って烈火と化し、体内の「酒狂」の血脈を轟然と点火する。
『ニャオオ! 親父! それは俺様に仕事をしろって言ってるんじゃねえ、餿水(残飯水)の樽を食いに行けって言ってるのと同じだぜ!』
銜蝉はこのように抗議したが、あの琥珀色の眼眸には高温に対する恐怖など微塵もなかった。
火の気すら生身で飲み込めるこの金猫が嫌がっているのは、純粋にあの太歳肉芝が放つ「脂っこさ」だ。奴から見れば、この十万の生霊の欲望が混ざった陽気は、匂いもさることながら、食感だけで言えば期限切れの屍油よりもさらに濃厚なゲテモノだ。それがネバネバと毛皮に付着するなど、猫の生涯の恥辱以外の何物でもない。
「今夜あの箱を取り出さなければ、明日の夜俺たちは全員あの腐れ肉の塊の肥料にされるんだぞ! つべこべ言わずに行け!」
謝必安は脳内で疑いを許さない怒号を発した。
同時に、あの熱く燃える右腕を猛然と上げる。五指を開き、沈無の背後を不意打ちしようとしていた数本の太い触手へ向けた。
「錯金――琉璃!」
嗄れた低い一喝を伴い。謝必安の右腕の血管を流れる血液が瞬時に点火されたかのように。覇道無比な奇異な力が掌から噴出した。
先頭を突進していた二本のピンク色の触手は。この力に触れた瞬間、前進の勢いを唐突に止められた。
触手の表面の滑りつく粘液と青筋が。肉眼で見える速度で急速に硬化し、結晶化していく。
数息の間に、その二本の柔らかい血肉の触手は、液体の黄金の紋理が流れる透明な琉璃の柱へと化した。琉璃の柱は薄暗い洞穴で妖異な光を屈折させ、その後、太歳の劇しい抵抗によってパキッという澄んだ音を立て。中央から折れ、黄金とガラスが混ざった砕屑となって満地に散らばった。
「オロロッ――」
能力を強引に催動した瞬間、謝必安の胃の中が波打つ。猛然と身を屈め、アルコールと胆汁の混じった酸水を大口で吐き出した。
右腕の骨格が重圧に耐えかねた微細な摩擦音を上げる。いつでもこの力によって内側から灰燼に焼き尽くされそうだ。
その二本の触手が琉璃化された短い隙に。
一筋の金色の残影が、弦を離れた矢のように地面スレスレに飛び出した。
銜蝉は口では文句を言いながらも、身体は正直に命令を実行した。
この太猫は、その体型に極めて不釣り合いな俊敏さを見せつけた。満地の滑りつくピンク色の油脂の上を左右に跳び回り、沈無が振るう刀の刃と太歳が叩きつける触手を正確に避け。太歳肉芝のあの裂けた欠け口の下へ真っ逆さまに飛び込んだのだ。
『ニャオオ! あっつ! 熱い熱い熱い! この腐れ肉の中はボイラーでも燃えてんのか!』
銜蝉の意念から、気急敗壊の叫びが伝わってくる。
その鋭い二つの前爪が、乳白色の血肉の泥沼の中を狂ったように掻き掘り、歯の浮くような引き裂く音を立てる。太歳の血肉は絶え間なく蠕動し、この侵入した太猫を飲み込もうと試みている。
空中で、阿奴のダイヤモンドのようなオッドアイの瞳が驟然と収縮した。
この高冷な銀色の女王が威厳に満ちた低い唸り声を発する。
全身の霊気が滝のように傾瀉し、銜蝉が掘っているその区域を正確に包み込んだ。
極寒の氷霜が瞬時に、周囲で蠕動する太歳の血肉を硬直した白灰色へと凍結させる。
この上古の凶獣に由来する純粋な寒気は、太歳の呑噬の本能を抑え込んだだけでなく、穴を掘っている銜蝉のために、あの漆塗りの箱の内部から来る狂躁な熱波をも防いだのだ。
「立て!」
沈無が機を見計らう。手の中の刃こぼれした直刀を下から上へ猛然と斬り上げ、刀の峰を水桶ほどの太さの触手の根元へ容赦なく叩きつけた。
鈍い衝突音の中、太歳の巨大な身躯がこの蛮力によって微かに後方へ仰け反った。
『ニャオオ! 親父! 取ったぞ! 死ぬほど重いぜ! この箱の中には中身の詰まった鉄球でも入ってんのか!』
銜蝉は太歳の粘液まみれの、金泥で描かれた漆塗りの箱の縁をくわえている。
肥満した身体が金色の肉玉のように、転がるようにして太歳の欠け口の下から飛び出してきた。漆塗りの箱の表面の本来精緻だった金泥の紋様は、太歳の腐食液と内部の高温によって斑に剥がれ落ち、人を心悸させる暗赤色の微光すら微かに透かせている。
謝必安は右腕が廃絶しそうな劇痛を強引に堪え。よろめきながら二歩前へ出、左手で銜蝉が放り投げてきた漆塗りの箱を鷲掴みにした。
手にした瞬間、極めて重く、そして無比に熱い。
箱はまだ開けられていないが。謝必安はすでに中の気配を感じ取っていた。
混乱し、暴躁でありながら。強引に極陽の気の層を纏わされた恐怖の力。それが今まさに檻を破ろうとする狂獣のように、漆塗りの箱の内壁に狂ったように激突しているのを。
大魏の文武の火候は、陰陽の交済を重んじる。
だがこの四つの生煮えの材料は。外層は忘憂閣の至陽至剛の純粋な欲望であり、内核は龍脈の廃カスと火精の至陰至毒である。これはもはや法器などではない。いつでも風水の大陣全体を天まで吹き飛ばせる「致命的な火器」だ。
「国師の老犬め。そんなにこの宴の席を食いたくて待ちきれないなら。明日の夜、俺がこの生煮えの毒薬の皿を、てめえの口に直接突っ込んでやる」
謝必安は熱く燃える漆塗りの箱を死に物狂いで懐に抱え。青白い顔に、劇痛とアルコールで歪んだ獰笑を浮かべた。
「沈無! 撤退だ! 陣の目は今は壊せない。この四人の小さなご先祖様の導火線として残しておくんだ!」
謝必安は振り返る。銜蝉を掬い上げて懐に押し込んだ。阿奴は優雅に彼の左肩に降り立ち、氷のように冷たい霊気で彼の背中の、太歳の熱波で焦げた衣類を絶え間なく洗い流す。
沈無は微塵も未練を持たない。
折れた琉璃の触手を一蹴りし、刀の刃を青銅の古鏡に当てて借力する。身のこなしは大鳥のように地を蹴って跳び上がり、謝必安を護りながら、狭い青銅の階段へ向かって急速に退いた。
背後では。あの巨大な太歳肉芝が、漆塗りの箱の抑圧を失ったことで、かえって徹底的な狂乱に陥っていた。
無数の触手が空曠な洞穴の中で当てもなく狂ったように鞭打ち。一面また一面と青銅の古鏡を打ち砕き、耳を聾する破砕の巨響を上げていた。




