第31話 引魂の幽蛾
【巻ノ一・残頁卅壱:『建康府志・平康坊』残巻】
「煙花の地、新しきを迎え旧きを送る。楼の前に紅綃の帳暖かくとも、楼の後に枯れ井戸の骨寒し。凡そ悪疾に染まりて暴斃せし娼女、暗に珠胎を結びたる死嬰は、皆破れ草蓆を以てこれを包み、廃井に填めて晦気を避く。」――『司天監・民俗档』
【司天監内部メモ】
「廃棄物処理規範」――現代の企業において、医療廃棄物は高温焼却と専門的な埋め立てを必要とする。だが大魏の青楼において、裏庭にあるあの底見えぬ枯れ井戸は、すべての労使紛争と工安意外を隠蔽するための天然のゴミ箱であった。その中で発酵する怨気は、下水道の沼気よりも遥かに致命的である。
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酸腐な胃液が劣悪な焼刀子の辛辣さと混合し、秦淮河の底の黒い淤泥の中に一灘の混濁した暗痕を滲ませた。
謝必安は両膝を地につき、両手で滑り気のある青石板の隙間を死に物狂いで掻き毟っていた。彼は五臓六腑をことごとく吐き出さんばかりに咳き込み、目尻には生理的な涙が滲んだ。あの、錯金琉璃の高温の反発を受けたばかりの右腕は、今や制御不能なほど劇烈に痙攣している。皮下の血管の血液は沸騰する岩漿の如く、脆弱な経絡に絶え間なく衝突し、陣を打つように骨髄を引き裂く灼痛をもたらしていた。
命を売る生死状に署名したばかりだというのに、この封建時代の悪劣な食事に摧残された身体は早々にストライキを宣告した。この残血状態は、現代の職場に置けば、三日連続で徹夜して三つの結案報告を急遽仕上げるよりも遥かに折寿ものであった。
『オヤジ! まだ生きてるか? お前が吐いたこの餿水、油の気なんか半点もなくて、酸っぱく腐った穀物の匂いしかやらねえぞ! 少し休むか?』
銜蝉が短い足を動かして歩み寄ってきた。この貪欲な太った猫の桜色の鼻先が二度ヒクヒクと動き、琥珀色の縦長の瞳孔には謝必安の消化系統に対する深沈たる鄙夷がこれでもかと書き込まれていた。彼は嫌悪感たっぷりに尻尾を振り、その穢物を慎重に避けながら、向き直って頭を謝必安の黒靴の傍らに埋め込み、悪臭を放つ泥の中から清潔な足場を探し出そうと試みた。
一陣の刺骨の寒意が驟然と降臨した。
阿奴が凌空に飄至したのだ。この銀色の女王のあのオッドアイの瞳孔には、万年溶けることのない氷のような冷たさが透けていた。彼女は謝必安の右肩の上方三寸の所で懸停し、周身の霊気を狂ったように傾瀉させた。
ピキッ、パキッという細密な凍結音に伴い、謝必安の周囲三尺以内の空気が強引に降温させられた。元々嘔吐を催すような酸腐な吐瀉物と屍臭は、瞬時に一層の白霜に覆われた。純浄なる浄化の気が謝必安の煮えたぎる右腕の毛穴に沿って鑽り込み、最も粗暴な物理的降温方式を以て、あの今にも制御を失いそうになっていた窯温の反発を強引に鎮圧した。
これらすべてを終えた後、阿奴は優雅に謝必安の完好な左肩へと降落した。彼女は遠慮容赦なく前爪を伸ばし、謝必安の灰布の長着の辛うじて清潔と言える襟元で、慢条斯理に、肉球に付いた根本的に存在しない灰塵を前後に擦り拭いた。
「恩に着るぜ、阿奴」謝必安は口角を引きつらせ、蒼白な顔に無奈でありながらも心温まる微笑みを掛けた。
沈無が一歩前へ出た。この特務頭目は多言せず、粗雑で老繭がびっしりと生えた大きな手で、謝必安の後ろ襟をガシッと掴んだ。灰布が引き裂かれる微音に伴い、彼はこの虚弱な文官を泥沼の中から強引に引きずり起こした。
「行くぞ。提灯叟の引魂蛾はそう長くは保たん」沈無の声は冷硬で、目光は前方の、暗闇の中で翩翩と起舞する幽緑の飛蛾をロックオンしていた。
あの、冥紙の灰燼と朱砂の呪文によって凝集された虚幻の飛蛾が、日の目を見ない鬼市の周縁で無声に羽ばたいていた。
二人と二匹の猫はあの幽緑の燐光に付き従い、深一脚浅一脚に、広範囲に倒壊した墓碑と緑青がびっしりと生えた廃棄された法器の間を通り抜けた。淤泥の抵抗力は極めて大きく、足を抜くたびに平時の三倍の体力を耗費し、靴底と泥濘が引きずり合ってバシャッ、バシャッという粘稠な音響を発した。
一炷香の後、引魂蛾は半分崩れ落ちた青石の井戸の縁の上で停まった。
ここはすでに忘憂閣の地基の真正面の下方であった。
謝必安は僵硬した足取りを引きずり、井戸の端へ歩み寄った。井戸の底に水はなく、ただ濃烈な、ほとんど実質と化すほどの腥い甘さの腐臭が顔に吹き付けてきた。その気味の中には、劣悪な胭脂の粉の香り、陳年の血塊の鉄錆の匂い、そして骨格が発酵した酸気が揉み合わさっていた。
彼は声を押し殺し、口の中で細々と呟いた。「……着いたな。これがあの見鬼な平康坊の匂いってやつだ」
大魏の平康坊における不文律の掟。楼の中で花柳病に耐えきれなかった清倌人や、暗に珠胎を結んだ死嬰は、晦気を嫌われて祖墳には入れられず、大半が破れ草蓆に包まれて後院の枯れ井戸に填められるのだ。この、直接忘憂閣の底層へと通じる深い井戸は、長年累月にわたって、この銷金窟における最も骯髒な血肉の廃材を呑み込んできたのである。謝必安は心の中で冷嘲した。この忘憂閣は表面上こそ達官貴人の温柔郷だが、地下は人を喰らって骨も吐き出さぬ万人坑なのだと。
彼は首を伸ばして中を覗き込んだ。
微弱な幽緑の蛾の光が、井戸の底の光景を照らし出した。それは泥土ではなく、一層また一層と重なり合った、とうに黒ずんでサクサクになった人類の骸骨であった。残破した木櫛、錆びついた銅鏡の砕塊が、それらの嬌小な骨盤や頭蓋骨の間に混ざり合っていた。
さらに身の毛のよだつのは、枯れ井戸の周囲の青磚の井戸壁であった。
元々は平整であったはずの磚石の上に、密密麻麻とねじ曲がった風水の陣紋が刻み込まれていた。これらの陣紋は朱砂を用いて描かれたものではなく、井戸の底で数十年浸され続けた娼女の怨血を用いて、一筆一画と澆築されたものであった。暗紅色の血垢が井戸壁の上で分厚い痂を結び、まるで一本一本の暴凸した血管のように、貪婪に井戸の底の陰煞の気を汲み取り、源源不断上方へと輸送していた。
国師の「窃天換柱」の大陣は、無数の苦命な女子を呑み込んだこの廃井を、極陽の鼎炉と極陰の玄牝を連結する核心枢紐へと強引に改造したのである。
「この陣紋の怨血はまだ乾ききっていない。誰かがつい先ほど、陣法を再補強したばかりだ」沈無は直刀の黄銅の柄尻を用いて、井戸壁の血の痂を軽く刮擦り、微弱な剥落音を発させ、眼差しを森寒にさせた。「上に登る時は用心しろ、あの血の線には絶対に触れるな。一旦陣眼の反発を触発すれば、俺たちは骨の灰すら残らんぞ」
謝必安は頷いた。彼は酒瓢箪の紐を腰の間に死に物狂いで固結びに結びつけた。
縄もなく、飛爪もない。ただ井戸壁にある磚石の残破した隙間を頼りに、上方へと攀爬るしかない。
沈無が率先して井戸に入った。特務頭目の身のこなしは矯健であり、双足で暗緑色の青苔がびっしりと生えた井戸壁の力を借りて、身形はまるで一匹の巨大な黒い壁虎の如く、無声無息に上方へと攀升していった。
謝必安は深く息を吸い込み、完好な左手を磚の隙間へと食い込ませた。粗雑な青磚の縁が瞬時に指先の皮膚を擦り破った。彼は歯を食いしばり、右腕から伝わる陣を打つ刺痛を強引に堪え、不器用かつ骨を折って沈無の背後に続いた。井戸壁にあるそれらの滑り気のある血の痂や苔は、一回一回の発力に、滑って墜落するという致命的な危険を充満させていた。爪の隙間には瞬く間に腥臭い黒泥と磚屑が詰まった。
銜蝉は不満の呟き声を発し、四本の爪を併用して謝必安の背中へとよじ登った。この十数斤の重さがある太った猫の二つの前爪は、灰布の長着の襟元に死に物狂いで扣き、自身を重々しい金色のペンダントへと変えた。この余分な重量が謝必安の頸骨を痛いほどに絞め上げ、呼吸をますます粗く重くさせた。
一方阿奴は相変わらず軽盈であった。彼女は骯髒な井戸壁に触れることすら屑しとせず、足の裏で空気中に凝結した微弱な晶光を踏みしめ、まるで階段を上るかの如く、優雅に側方に付き従っていた。
どれほど攀爬ったか分からない。両腕の筋肉は酸痛でほとんど知覚を失いそうになっていた。上方にようやく、一層の厚実な封井の木板が出現した。
引魂蛾は一縷の青煙と化し、木板の隙間に沿って鑽り込み、続いて徹底的に消散した。
木板の上方からは、隠約と微弱な燭光と、地龍の運転がもたらす煮えたぎる熱浪が透けていた。ここは、蘇小小が「貴客」を接待している天字号房から、僅かに一層の中空の床板の陣法層を隔てているだけであった。
沈無は片手で磚の隙間を掴み、もう一方の手で直刀を握り、隙間を探して木板をこじ開けようと準備していた。
突如として、一陣の低沈なる交談の声が、古き木板の木目に沿って、鮮明に枯れ井戸の中へと伝わってきた。
謝必安は猛然と頭を上げ、左手で沈無の手の甲を死に物狂いで押さえ込み、彼に一切の動作を停止するよう示意した。二人はそのまま血垢がびっしりと生えた枯れ井戸の壁に懸けられたまま、汗水が目尻を伝って滑り落ちるに任せた。
「蘇女将、この忘憂閣の中の陰煞の気が、数日前よりもさらに重くなっているようだが。そなたのこの陣眼、まだ圧し下ろせているのか?」
それは尖鋭で、高みから見下ろすような傲慢さを透かせた声音であった。話す者の語気には長年号令を発してきた頤使気指が帯びており、チリンという玉佩が衝突する清脆な玉の音を伴っていた。
「趙監丞はお冗談を」蘇小小の声は相変わらず骨の髄まで柔媚であったが、一絲の隠しきれない疲労と沙啞が透けていた。「楼の娘たちはここ数日、車輪のように休みなく客を取っており、血を吐いても息をつくことすら許されておりませぬ。これほど聚められた極陽の気があれば、地底の煞気を枯れ井戸の下に死に物狂いで鎮めるには十分でございましょう。国師大人の交代った事、奴家がどうして半点たりとも懈怠できましょうか」
趙監丞。
謝必安の心頭が一震した。これは司天監風水科のナンバーツーであり、国師が最も信任する嫡系の鷹犬である。この老狐狸が深夜に封閣までするとは、決して尋花問柳に来たわけでは絶対にない。
「圧し下ろせているのなら結構」趙監丞は冷鼻を一つ鳴らし、革靴で床板の上を行ったり来たりと踱歩し、木板からギシッ、ギシッという重圧の音を発させた。彷彿と直接謝必安の頭の頂を踏みつけているかのようだった。「宮中より急報が届いた。陛下の咳血の症が突如として加重した。御医の言によれば……恐らく今月は保たぬであろうと」
床板の下方で、謝必安と沈無の呼吸が同時に一滞した。
「国師の令である」趙監丞の声音が陡然と冷たく転じ、疑うことを許さぬ血生臭い殺意を帯びた。「琉璃の大典の時間は、もはや三日は待てぬ。明日黄昏、逢魔が時、大陣は必ず全面的に起動せねばならぬ。蘇女将、今夜ただちに忘憂閣を封鎖せよ。楼内に残るすべての活人、さらには未だに尋歓作楽に耽っている達官貴人たちを……ことごとく底層の陣眼へと追いやるのだ。火種としてな」
明日黄昏。
謝必安の瞳孔が驟縮した。半空に懸けられた左手の指が猛然と青苔の生えた磚の隙間を扣み緊め、爪が崩け裂け、温熱な鮮血が溢れ出した。
職場の最も恐怖たる悪夢が、忘憂閣の陰暗な枯れ井戸の中で現実へと化作した――死線がいかなる予警もなく、丸々二日も繰り上げられたのである。




