第29話 十六星の骨秤
【巻ノ一・残頁廿玖:『大魏司天監・黒市物価考』残巻】
「陰陽の交匯する処、金銀を収めず、唯だ血肉のみを認む。凡そ鬼市の庇護を求むる者は、必ず三魂七魄を以て秤に上すべし。秤の分銅が地に落ちれば、生死の主は易わる」――『司天監・暗档』
【司天監内部メモ】
現代のビジネス闘争において、独占チャネルを持つサプライヤーと交渉する際、手の内を早く見せすぎれば下着まで剥ぎ取られる。大魏の地下マフィアの縄張りにおいても、この鉄則は依然として適用される。ただ相手が要求するのが、株式譲渡契約書ではなく、お前の身体で最も金目の臓器だという点を除いては。
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紅泥の小さな火鉢の中で、嬰児の骨がパチパチと爆ぜる音を立てている。
提燈叟の二つの黒い空洞の眼窩が、謝必安を真っ直ぐに見据えている。眼窩の幽緑色の燐火が、平緩な呼吸に合わせて明滅する。
秦淮河の底を数百年統治してきたこの地下の覇者は。区々たる九品の拾遺が茶を拒んだ程度の挙動で、激怒したりはしなかった。
ゆっくりと、枯れ枝のような左手を上げる。干からびた人差し指で空中で軽く手招きした。
頭骨の茶盞を持った紙紮の童女が即座に硬直して振り返る。足底の冥紙が青石板と擦れ、スルスルと歯の浮くような微細な音を立てて、太師椅子の影の中へ退いた。
「司天監の若造。気性はその劣酒よりも鼻を突くようじゃな」提燈叟の声は相変わらず温和で、世間話でもしているかのようだ。「茶を飲まぬなら、腹を割って話すとしよう。お前たち、ワシの屋根の上で、国師が陰の煞気を排出する陣の目を吹き飛ばしたな。ワシの縄張りの泥を汚したこのツケ、何で埋め合わせるつもりじゃ?」
老人は手の人皮の提灯を、太師椅子の肘掛けにそっと置いた。
破れた蓑の奥底から。長さ一尺半ほどの、暗黄色の木秤を取り出した。
秤の竿は名も知らぬ太い腕の骨を研磨して作られている。分銅は縮んで干からびた、黒い皮一枚だけが被さった猿の頭蓋骨だ。
謝必安の視線がその骨の秤に落ちる。
大魏の市井の竿秤は一斤十六両。秤の竿には十六個の星が埋め込まれている。北斗七星、南斗六星に、福・禄・寿の三星を加えたものだ。
商人が目方を誤魔化せば、一両足りなければ「損福」、二両足りなければ「傷禄」、三両足りなければ「折寿」と呼ぶ。本来は商人の貪欲さを戒めるための先人の畏敬の法則だ。
だが、提燈叟の持つこの骨の秤の星は。人間の幼児の歯に等しい大きさの惨白のモノが十六個使われている。
つまり、この鬼市の教父の秤の盤においては。福禄寿などすべて虚妄であり、価値を量れるのは最も純粋な血肉と人命だけだという意味だ。
「先輩の仰る意味が、後輩には分かりませんな」
謝必安は半分空になった酒瓢箪を腰へ戻す。右腕の血管の中でマグマのように波打つ灼痛を強引に堪え、半歩前へ出て、提燈叟の眼窩の燐火を直視した。
「国師は『天を窃み柱を換う』風水の凶陣を敷き、忘憂閣を極陽の欲望を集める鼎炉とした。だが先輩のこの秦淮河底の鬼市を、極陰の煞気を排泄する糞溜めとして扱った」
謝必安の口角に血走った冷笑が浮かぶ。
「後輩があの陣の目を吹き飛ばしたのは。先輩の代わりに、国師がぶちまけてくる餿水(残飯水)を塞いでやったのと同じこと。これは明らかに鬼市の門戸を掃除してやった無量の功徳だというのに、先輩はどうして俺が縄張りを汚したなどと仰る?」
極度に狂妄な発言だ。現代の職場で責任を転嫁し、逆ギレするための標準的な話術である。
謝必安の傍らに立つ沈無の目角が微かに引き攣った。
生死に見慣れたこの特務の頭目も、直刀の真鍮の護封を握る指を密かに引き締めた。他人のシマで、マフィアのボスの鼻先を指差して掃除を手伝ってやったと言う。こんな死を招く暴言は、周囲の紙紮人に瞬時に八つ裂きにされるのに十分だ。
案の定、提燈叟の左手の紙紮の童子が動いた。
童子の顔の、処女の血で彩られた二つの大紅の胭脂が。薄暗い大広間で不気味な血生臭い光を放つ。硬直した右腕を上げ、竹を削って作られた刃のように鋭い指が、カサカサという冥紙の摩擦音を伴い、謝必安の咽喉へ真っ直ぐに迫った。
その竹の指が謝必安の肌に触れようとした刹那。
肉眼で見える純白で透明な結晶の輪が。厳冬に咲く霜の花のように、謝必安の咽喉の前に虚空から花開いた。
阿奴が謝必安の左肩に端座している。
この高冷な銀色の女王はまぶた一つ上げず。ただ喉の奥から極めて微細な冷笑を一つ漏らしただけだ。
強大な浄化の霊気が瞬時に紙紮の童子の竹の指に沿って這い上がる。
ピキッという澄んだ音が鳴る。紙紮の童子の、屍油と朱砂まみれの右腕全体が。生身のまま硬い氷の彫刻へと凍りつかされた。
紙紮の童子はその場で硬直する。焦炭で描かれた死んだ魚のような目は見開かれたままだ。
『臭いアマ、何いいとこ取りしてんだ!』
謝必安の足の甲に隠れていた銜蝉が、脳内で負けじと抗議の声を上げる。
この金色の太猫は猛然と底なしの血の池のような大口を開け。あの凍結された紙紮の腕に向かって容赦なく噛み付いた。
ガチンという巨大な咀嚼音が響く。
陰毒な呪怨を内包したその紙紮の腕は。銜蝉によって氷ごと竹の骨組みまで直接噛み砕かれ、腹の中へ丸呑みにされた。
『ペッ! カビた腐れ木の酸っぱい匂いがしやがる! この老いぼれが飼ってる従者、肉質が城壁の根元の死んだネズミよりパサパサじゃねえか!』
銜蝉は脳内で狂ったように文句を言いながら。微塵の品位もなく舌を出し、口角に付いた冥紙の破片を舐め取ろうとしている。
提燈叟の二つの幽緑色の燐火が猛然と瞬いた。
右腕を失い、依然として硬直した微笑を浮かべる紙紮の童子は無視された。彼の注意力はすべて、謝必安の身体にいるこの二匹の、理不尽に状況を打破した鎮獄の双猊へと惹きつけられた。
「上古の凶獣、鎮獄の双猊。一は浄化を主り、一は呑噬を主る」
提燈叟の干からびた唇が微かに蠢く。口調にようやく本物の凝重さが透けた。「なるほど。司天監が区々たる九品の文官一人を暗渠へ下ろすわけじゃ。どうやらお前たち謝家の底力はまだ健在のようじゃな。謝拾遺、お前のその『功徳』とやら。ワシが受け止められねば、鬼市に人なしと思われるじゃろうて」
謝必安は可否を口にしない。提燈叟はゆっくりと立ち上がった。
動作に合わせて、破れた蓑がカサカサと摩擦音を立てる。枯れ木のような右手で人皮の提灯を少し高く掲げた。
提灯から放たれる薄暗い血の光が。その眼球のない干からびた顔を、墓場から這い出たばかりの悪鬼のように照らし出す。
左手であの十六星の骨の秤を握り。あの干からびた猿の頭の分銅を、秤の竿の末端へと弾いた。
「謝拾遺、お前は聡明な男じゃ。国師の風水の大陣は、確かに鬼市を煞気抜きの泥沼として扱っておる。だがワシがこの秦淮河底で数百年にわたり不動の地位を保てたのは。天に代わって道を行ったからではない。光を和らげ塵と同じゅうしてきたからじゃ」
提燈叟の声が空曠な紙紮の大広間に反響し、疑いを許さない陰冷な圧迫感を伴う。
「国師はワシに約束した。瑠璃の大典が功を成した暁には、建康城十万の生霊の怨気の、三割を鬼市へ流し込むとな。この商売、ワシの陰兵を倍に増やすのに十分じゃ」
謝必安の目が沈む。
ついにこの交渉の核心的な障壁を理解した。国師は残忍な風水陣を敷いただけでなく、とうの昔に「山分け」の約束で、この地下の教父を買収していたのだ。
膨大な利益を前にしては。さきほどの彼の「門戸の掃除」という言い分など、呆れるほどに蒼白に響く。
「怨気の三割だと?」
謝必安は冷笑を漏らす。左手の親指で酒瓢箪の木栓を軽くこすった。「先輩はそんなにも長く生きておられながら。紫の袍を着たあの政客どもの空手形をまだ信じているのですか? 国師は皇帝の命すら計算に入れている。奴が本当に天機を窃み取った後、鬼市というこの巨大な火種を、自分と天下を二分するために残しておくと思いますか?」
この言葉は提燈叟の痛所を直撃した。黒と白の協力など、兎が死ねば猟犬は煮られるのが常だ。
「空手形であろうと、用済みでの始末であろうと」提燈叟の口調は鉄のように冷たい。「それは大典の後の話じゃ。だが今、お前は国師の気抜きの口を断ち切った。大陣の反噬はいつでも前倒しで爆発する。ワシのこの骨の秤は、元手のない商売は決して量らん。ワシに手伝わせたくば。国師のあの三割の怨気よりも重いチップを出せ」
提燈叟は骨の秤を謝必安の前に突き出す。干からびた猿の頭の分銅が、空中で人を不安にさせる微弱な揺れを放つ。
「お前のチップをこれに乗せろ。もしこの分銅を抑え込めねば……ワシは今夜、お前たち二人の血肉を以て天灯を灯す」
沈無の刀はすでに半寸鞘から出ている。秋水のような刃が提燈叟の眼窩の燐火を映し出す。大広間の両側、残った三人の紙紮人が同時にサ沙沙と摩擦音を立てる。竹の指の青光が暴起し、二人を死に物狂いでロックした。
謝必安は退かない。
提燈叟の空洞の眼窩に向かって、無事な左手を、ゆっくりと自らの青色の官服の懐へ差し入れた。
沈無と提燈叟の、空気を凝結させるような注視の下。
謝必安は絶世の法器を取り出したわけではない。
ただ懐から、少し黒泥がこびりつき、表面に細かい亀裂がびっしりと走った玉の札を一つ取り出しただけだ。
それは彼の司天監九品拾遺の身分を象徴する腰牌だ。
謝必安は腰牌を、人間の頭蓋骨で作られた骨の秤の皿の上にそっと置いた。
極めて微弱なカチッという澄んだ音。
骨の秤の竿は微動だにしない。この木の腰牌の重量など、膨大な欲望を象徴する猿の頭の分銅を揺るがすには到底及ばない。
「先輩、この札に金目の価値はありません」謝必安は提燈叟を直視する。声は死水のように平穏だ。「だが俺はこの札で、買いますよ。三日後の瑠璃の大典で。国師のあの、間もなく瑠璃化し、十万人の怨気と皇室の龍の気を凝縮した極上の内丹を」
この言葉が落ちた瞬間。
提燈叟の眼窩の、ずっと平緩に跳ねていた二つの幽緑の燐火が。
驟然と暴起し、劇しく燃え盛る鬼火のように、目の前の、全身に酒臭さを纏った謝家の男を死に物狂いで見据えた。
提燈叟の指が、骨の秤をリズミカルにゆっくりと叩き始める。
紅泥の小さな火鉢の中で、嬰児の骨がパァァンという爆裂の巨響を上げた。




