第28話 提燈叟《ていとうそう》
【巻ノ一・残頁廿捌:『大魏異聞録・建康地下風水』残巻】
「秦淮の水底、大墓の沈楼あり。楼は紙を以て紮り、柱は生人を以て樁と為す。中に叟あり、盲目にして提灯し、陰茶を烹て以て客を待つ。其の茶を飲まざる者、魂水底に留まり、永世超生することを得ず」――『司天監・妖異考』
【司天監内部メモ】
現代の職場において、敵対する会社の会長に深夜呼び出されて茶を飲まされるのは、高給での引き抜きか、物理的な水底沈めを意味する。労働人権など微塵もない大魏の朝野の現状を鑑みるに、この茶の成分には、高確率で三途の川へ送るための重金属と断腸草がたっぷりと混ざっている。
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水鬼の盲目が水腫れの足取りを引きずり、音もなく前方を引導する。
二人と二匹の猫は、忘憂閣の裏門に漂う温かい脂粉の香瘴を離れ、秦淮河底の最も深い氷冷たる死寂へと再び足を踏み入れた。
鬼市の奥へ進むほど、周囲の暗黒はドロリと粘り気を増していく。
通りの両側で幽緑の燐火を灯し、切り落とされた手足を商っていた様々な邪祟どもは、水鬼の盲目が放つ河底の陰寒な水腥さを遠くに嗅ぎつけた刹那、恐怖のあまり屋台を蹴り倒して逃げ惑った。
腐肉を貪って生きる食屍鬼や盲目の占い師どもは、頭を上げることもできず、驚いたヒキガエルさながらに酸鼻を極める泥沼へ這いつくばり、黒水に顔を埋めてこの地下の教父の使者へ絶対の服従を示した。
足下の青石板は、次第にネバつく黒い淤泥へと取って代わられた。
足を上げるたび、黒靴が泥沼と擦れてネチャッ、ネチャッという重い泥濘の拉扯音を響かせ、その抵抗は驚くほど大きい。淤泥の中では、時折、暗苔の生えた滑りつく砕骨を踏みつけ、耳障りなバキッという脆い音を立てた。
謝必安は無事な左手で、腰の劣悪な焼刀子の詰まった酒瓢箪の木栓を引き抜いた。
首を仰け反らせ、乾いた唇に瓢箪の口を当て、大口で強引に流し込む。
忘憂閣の厨房で火口に使われるこの劣酒には、名酒の芳醇さなど微塵もない。辛辣に鼻を突き、喉を通るさまは、砕けたガラスを混ぜた燃え盛る粗砂を呑み込むが如し。酒液が食道に沿って野蛮に胃袋へ焼き入り、制御不能な生理的嘔吐感と激しい咳を引き起こす。
謝必安は身を屈め、目角に涙を滲ませて激しく咳き込んだ。瓢箪を握る左手が小刻みに震える。だが、この猛烈な純陽の酒気は、右腕の中で今にも暴走しかけていた反噬を強引に押さえ込み、周囲に無孔不入に広がる陰寒な屍臭を辛うじて追い払った。
口角の酒汚れを拭い、心の中でどうしようもなく苦笑する。他人のシマで大暴れしておきながら、相手が極上の美酒でもてなしてくれると期待していたか。この劣酒の一口は、これから始まる「苦情処理」のために前借りした度胸だ。
巨大な鍾乳石が逆さにぶら下がる石林を抜けたところで、水鬼の盲目が足を止めた。
眼前に現れたのは、金碧輝煌たる地下の堂口などではない。黒い泥沼のなかに半分沈み込んだ、巨大な楼閣だった。
その楼閣は、全体が無数の蒼白い人間の大腿骨と、黄ばんだ冥紙で紮り上げられていた。
風などないというのに、骨組みに貼り付けられた粗悪な冥紙がカサカサと不気味な摩擦音を立てて蠢いている。楼閣の八根の主柱には、錆びた鉄釘によって数百具の干からびた屍骸がびっしりと打ち付けられていた。屍骸は両手で柱に死に物狂いでしがみつき、空洞の眼窩の中で微弱な幽緑の燐火を明滅させている。
大魏の初年、権貴が巨大な陵墓や楼閣を築く際、風水を迷信して、地盤を固める時に生きた童男童女を柱の中に釘付けにした。これを「打生樁(人柱)」と呼び、地底の陰の煞気を鎮める。そして大魏の宗室の礼法において、八根の主柱を動かす資格があるのは皇親国戚の陵寝のみだ。
謝必安は心の中で、この紙紮の楼閣を冷ややかに見つめた。
この鬼市の親玉は、何百もの生樁を照明代わりに堂々と晒しているだけでなく、この日の目の見ない地下において、皇権を僭越し、帝王の陵寝に匹敵する紙紮の朝廷を築き上げている。鬼市に足を踏み入れた者すべてに、生死を超越した野心と絶対の掌握力を誇示しているのだ。
「どうぞ」水鬼の盲目が水腫れの身体を退け、喉の奥から爪で腐れ木を掻くような嗄れた声を絞り出した。
沈無が先頭を切って、腐朽した棺の木板を繋ぎ合わせた階段を踏みしめる。謝必安がその後に続き、腕には銜蝉を抱え、阿奴は彼の首筋に気怠げにぶら下がっていた。
楼閣の大広間へ足を踏み入れると、濃厚な朱砂の匂い、カビた冥紙の匂い、開口一番に隠しきれない屍油の気配が顔を打った。
広間の中央には、無数の人間の大腿骨を交差させて組み上げた蒼白の太師椅子が据えられている。
その椅子に、破れ蓑を纏った猫背の老人が座っていた。老人は骨と皮ばかりに痩せこけ、目のない眼窩は空っぽで、ただ二つの幽緑の燐火がゆっくりと跳ねている。その右手には、四角の人皮提灯が提げられていた。
そして太師椅子の左右には、彩色された冥紙の衣を纏った四人の従者が、頭を垂れて立っていた。
四人の従者はどれも同じ背丈で、身体は蝉の羽のように薄い。
顔には惨白の鉛粉が塗られ、両頬にはそれぞれ丸い大紅の胭脂が塗りたくられている。その鮮紅の輝きは尋常の水粉ではなく、乾いたばかりの濃厚な血生臭さを透かせていた。口角は硬直した木然たる微笑を刻んでいる。その目は墳墓の草を焼いた焦炭の濃墨で描かれ、大きく見開かれているものの、活人の神彩など微塵もない。
紙紮人だ。
大魏の民俗において、豪門の葬儀の際には紙紮の童男童女を焼いて先人に仕えさせる。
紙人形をより「通霊」させるため、悪辣な紮紙職人は屍油で竹の骨組みを煮込み、処女の血で朱砂の胭脂を点ずる。今、提燈叟の傍らに立つこの四人は、体型が常人と変わらないだけでなく、提燈叟の呼吸のテンポに同調して、サワサワと微かな紙の摩擦音を立てていた。竹を削り出したその指の縁は、刃のように鋭く、陰冷な青い光を微かに放っている。
沈無の眼差しが一瞬にして無比に森寒となった。
この鏡妖司の千戸は広間に踏み入った刹那、脳内で無数回にわたり抜刀の軌道を推し量った。紙紮の邪物は物理的な斬撃を恐れない。一刀でその骨組みを砕ききれなければ、相手の鋭利な竹の指が瞬時に自分の咽喉を貫くだろう。
この死物に傅かれる排場は、いかなる金銀財宝よりも、この鬼市の覇者の生死を超越した恐怖の身分を際立たせていた。
老人の前には、紅泥の小さな火鉢が置かれている。鉢の中で燃えているのは、一本一本の黒ずんだ嬰児の骨だ。鉢の上には粗悪な陶器の茶壺が温められており、壺の口からは濃厚な生臭く甘い匂いを帯びた灰白色の水蒸気が外へ吹き出していた。
「粗茶に冷水ですが、お二方、お気になさらず」
提燈叟がゆっくりと口を開いた。声は常の如く温和だ。
彼は動かず、ただ右手に提げた人皮の提灯を、微かに縦に揺らした。
彼の左手に立つ紙紮の童子が、カサカサと耳障りな摩擦音を伴い、硬直した足取りで一歩前へ踏み出した。焦炭で描かれた目が謝必安と沈無を死に物狂いで見際め、顔には永遠に変わらない硬直した微笑を浮かべている。
紙紮の童子は血の気のない竹の掌を使い、震えながら紅泥の火鉢の上の粗陶の茶壺を提げ上げた。沸き立つ茶水が壺の口から傾き落ち、人間の頭蓋骨を研磨して作った二つの茶盞の中へ正確に注ぎ込まれる。茶水は不気味に粘りつく暗赤色を呈し、長年放置された血の塊の鉄サビの匂いを放っていた。
もう一人の紙紮の童女も動き出した。
彼女は二つの頭骨の茶盞を硬直した手つきで捧げ持つ。足は床に触れず、木の床板に沿って前方に平移し、スルスルと微かな摩擦音を立てる。ゆっくりと謝必安と沈無の前まで滑り寄り、茶盞を高く掲げた。
『ニャオォォ! このジジイが煮込んでるのは何の餿水(残飯水)だ! それにこの紙糊の不細工ども、全身から腐った竹をドブに漬け込んだようなカビ臭い匂いがしやがる! 親父、俺様は飲まねえぞ。こいつは匂いからしてヤバいぜ!』
銜蝉が謝必安の脳内で、極度の嫌悪を込めた乾嘔の音を立てた。
この貪欲な太猫は食材に対して厳格な要求を持っている。屍油と冥紙の混合物を前にして、二つの前足で謝必安の懐の内ポケットに死に物狂いでしがみつき、肥満の躯体を必死に後ろへ縮ませていた。
阿奴は謝必安の左肩から直接立ち上がった。
喉の奥から氷のように冷たい低い唸り声を漏らし、ダイヤモンドのようなオッドアイの瞳に、紙紮の死物に対する極致の軽蔑を閃かせる。周囲の霊気が瞬時に爆発し、謝必安の方へ漂おうとしていた灰白色の茶香の水蒸気を、空中で強引に凍結させて無数の微小な赤い顆粒へと変えた。パチパチと密集した脆い音を立て、それらの顆粒はことごとく腐朽した木の床板の上に叩きつけられた。
沈無はその場に立ち、紙紮の童女が差し出してきた頭骨の茶盞を受け取ろうとはしなかった。左手の親指で刀の柄を死に物狂いで押さえ、手の甲の青筋を暴起させ、眼差しは刃のように提燈叟の眼窩の中で跳ねる燐火をロックしている。
謝必安が前へ歩み出た。
目の前の、硬直した微笑を浮かべて微動だにしない紙紮の童女と、彼女の手の中の血生臭さを放つ暗赤色の茶水を見つめる。彼は手を伸ばして茶を受け取ろうとはしなかった。
「先輩のお茶はあまりに名貴すぎ、従者もあまりに精緻です。後輩のこの凡胎肉骨では、到底消受する福分がありませんな」
謝必安は右腕の引き攣る痛みを堪え、青白い顔に皮肉な笑みの客套を浮かべ、職場の恩恵にあやかる無頼の悪党の口調で言った。「俺は酒癖が悪くてね。本題に入る前に、まずは持参した粗末な穀物酒で喉を潤させてもらいますよ」
言い終えるや、提燈叟の目の前で、差し出された紙紮の童女を完全に無視し、首を仰け反らせ、瓢箪の中の焼刀子を喉へ激しく流し込んだ。
辛辣な酒液が口角を伝い落ち、青色の官服に滴る。
「良い酒だ、実に辛辣。この焼刀子は造り手によって微かな違いがあるが、後輩も飲み慣れている分、その違いがよく分かる」
謝必安は焦りもせず悠然と言った。「先輩も一杯いかがですかな? 人間の美味には遠く及ばないが、筋骨を活発にするには丁度良い。先輩はお歳も召しておられる。まさに調養と生息を図るべき時。時には単純な方が、複雑なものよりも良い結果を生むものです。先輩はどうお考えで?」
提燈叟は言葉を継がない。
その眼窩の幽火が微かに揺れ動く。あの二つの幽緑の燐火を通じて、目の前の、全身に酒臭さを纏いながらも異常なほど冷静な司天監の文官を、再び値踏みしているかのようだった。
四人の紙紮の童男童女は、依然として朱砂とカビた冥紙の匂いの中で、硬直した死板な微笑を保ち続けている。広間内の空気は、骨の炉で嬰児の骨が燃えるパチパチという音とともに、死のような極度の寂静へと陥っていった。




