第14話 遊郭
【巻ノ一・残頁拾肆:忘憂閣・貴賓勘定書】
「特級修復手術:紋銀三千両。安眠妨害の慰謝料:五百両。清掃費(あの泥まみれの千戸が持ち込んだ汚れの清掃):五十両。
総計:司天監を丸ごと売り払っても足りぬ。肉体での支払いを勧む」――『蘇小小の私的帳簿』
【司天監内部メモ】
「金繕い」――金漆を用いて割れた磁器を修復する工芸。ここ忘憂閣において、この手技は壊れた……男を修復するために用いられる。
†
忘憂閣の灯りは、建康城で最も暖かく、最も曖昧な色をしていた。紅い紗を被せた数百の提灯に覆われた小楼。遠目には、暗闇で静かに燃える業火だ。
沈無が意識を失った謝必安を麻袋のように担ぎ、彫花紅木の扉を押し開けた。溶かしきれない濃厚な暖香が顔を打つ。沈香、白粉、古い花彫酒が混ざった匂い。死体を扱う武官の呼吸を詰まらせる。
床暖房の甘く重い熱気が、外の底冷えを瓦解させた。四隅の博山炉が、微弱な幻覚を誘う「反魂香」を幽々と吐き出している。淡紫の煙が空中でねじれ、絡み合う。顔を火照らせた客と、衣を半ば脱ぎ捨てた女たちを包み込んだ。ぬるま湯の中で発酵する艶鬼の群れだ。机には、蝉の羽のように薄く切られた氷鎮の魚の刺身。外の凍える世界とは、二つの極端に切り離されている。
「蘇小小! 助けてくれ!」
沈無が吼えた。喧騒と管弦の音の中で異様に響く。
大広間の喧騒が止んだ。花酒を飲んでいた数十人の客と露出の多い女たちが一斉に振り向く。骨灰と泥にまみれた沈無の黒服は、この錦衣玉食の場から完全に浮き上がっていた。
「おや、沈千戸じゃない」
気怠く、三分が眠気、七分が不機嫌な声。二階の珠暖簾の奥からだ。
白玉のような手が珠暖簾を跳ね上げた。蘇小小だった。ゆったりとした大紅の牡丹の寝巻き。長い髪を無造作に散らしている。衣の裾には、暗金色の糸で大輪の曼珠沙華が刺繍されている。呼吸に合わせて薄いシルクが肌理に張り付き、体を這う血のように見えた。
化粧はしていない。帳から抜いた正体不明の獣の骨の歩揺で、乱れた髪をまとめている。歩揺の先端の赤い瑪瑙が、暗い光の中で滴る血のような粘りつく光沢を放つ。猩紅色のマニキュアと相まって、人を食って骨も残さぬ妖異さを漂わせていた。
裸足で波斯絨毯を踏み、高みから二人を見下ろした。視線は、粉々に崩れ落ちている謝必安の右手に止まった。
「チッ」
蘇小小は眉をひそめた。だが目には職業的な値踏みが混ざる。
「またこんなにして。だから言ったでしょう、その皮袋は長持ちしないって」
手を振った。爪の紅が、血を吸ったばかりのように赤い。
「上げて。裏口からよ。私の絨毯を汚さないで」
†
忘憂閣の最上階。密室。
外の俗悪な白粉の匂いはない。淡い薬の香りと、金属が焼ける匂いだ。
長明灯が最も明るく灯され、外の退廃的な音を駆逐している。蘇小小の前の青銅の盆には、溶けた熱い赤金の液体。表面には緑色の古い薬のカスが浮いている。
謝必安は白い狐の毛皮の長椅子に横たわっていた。蘇小小は横に座る。手にした精巧な金のハサミで、硬化し亀裂が入った腕の皮膚を切り開いていく。下からは、幾度も業火に焼かれたような炭状の筋理が露わになった。
死皮を切る音は、干からびた蝉の抜け殻をハサミで切る響きに似ている。
沈無は傍らで息を殺している。
「沈大人、木偶の坊みたいに突っ立ってないで」蘇小小は顔も上げず、熱い手ぬぐいを投げた。「顔を拭いて。骨灰の匂いで頭が痛いわ」
沈無は手ぬぐいを受け取り、気まずそうに顔を拭いた。「蘇姑娘、謝拾遺は……助かるのか?」
「死にはしないわ」
蘇小小は鼻を鳴らし、盆から極細の金針を拾い上げた。炎で軽く炙る。
「簡単に言えば、彼の魂の火が強すぎて、皮袋が薄すぎた。焼け抜けたのよ」
激しく跳ねる金色の筋を指でつまむ。針を刺した。仕立屋のような手早さだ。
針が経穴に入り、肉が焦げる微かな音がした。気絶している謝必安の眉が寄り、喉仏が動く。込み上げた血を強引に飲み込んだようだ。
「我慢しなさい」声はキツいが、手つきはいくらか柔らかくなった。「これが『金繕い』よ。黄金と霊薬で経脈を修復する。高くつくけれど、頑丈よ」
熱い薬の金が針を伝って経脈に注がれる。肉が強引に熔接される音が密室に響く。肉の焦げる匂いと粗悪な白粉が混ざった、生臭い甘さが広がった。
†
半時辰後。手術が終わった。
謝必安の右手には分厚い包帯が巻かれ、濃い薬の匂いを放っている。二人の距離は近い。蘇小小から漂う反魂香と体香の熱気が、謝必安の鼻腔をくすぐる。
濁った息を吐き、謝必安が目を開けた。顔色は青白いが、視界は清明だ。
「起きた?」蘇小小は腕を組み、横目で彼を見た。「今回の代金、三千両。掛け売りはなしよ」
「金の話は野暮だろ」謝必安は虚弱に笑い、身を起こそうとした。右腕は油鍋で揚げられているように痛むが、口の減らない男だ。嗄れた声でからかう。「蘇老闆、俺たちは協力者だが、夜更けに男女二人きりだ。いきなり俺の服をひん剥いて、隅々まで探るとは……故郷なら、責任を取ってもらうところだぜ」
蘇小小の、氷蚕糸の手袋をした指が力を込めた。熱い金針が経穴に深く刺さる。謝必安は息を吸い込んだ。
「口を慎みなさい。ついでにその舌も縫い付けてもいいのよ」冷たい視線だが、手は止まらない。
「そいつは困る」謝必安は冷や汗を流しながらも強がった。目に悪戯な光が宿る。「こんなに深く針を刺すなんて、俺の心に真っ直ぐ突き刺す気だな。口を縫われたら、今夜どうやって蘇老闆を喜ばせればいい? まさかこのカチカチの……瑠璃の手だけでか?」
蘇小小は手首を振った。危うく金水を零しそうになる。彼を睨みつけた。「謝必安、あんたが硬いか柔らかいか、どれほどの器量か、私はよく知ってるわ。口先だけの男じゃないなら見せてごらんなさい」
取り立ての緊迫した空気を破るように、謝必安の無事な左の襟元から、気怠い猫の鳴き声がした。混じり気のない銀色の毛玉が顔を出す。偏食の異猫、阿奴だ。
阿奴のオッドアイが、血生臭い密室を嫌悪を込めて見回す。そして軽やかに跳躍した。鏡台に降り立つ。血のついた包帯やハサミを完璧に避け、右の前足を上げて空中で二度振った。屠殺場に迷い込んだ貴族の令嬢だ。
銀猫を見た瞬間、蘇小小の地下の女王の仮面が崩れ去った。精明な計算は、狂熱と溺愛に変わる。
「あらまぁ、私の小さなお姫様。どうしてこんな粗忽な男と一緒に、こんな汚い場所へ?」
蘇小小は血のついた金ハサミを遠くへ放り投げた。熱い手ぬぐいを取り、三度も手を拭く。潔癖症の銀猫に血の匂いを悟られないためだ。振り向いて鏡台の最下層の鍵付きの引き出しを開け、掌ほどの羊脂玉の小皿を取り出した。
天山の雪水に浸された、透明な北海氷魚の目玉。建康の闇市で一粒が黄金十両に化ける代物だが、蘇小小は惜しげもなく阿奴の前へ推しやった。
「さあ、阿奴、食べてちょうだい。氷室から出したばかりの新鮮な品よ。大地の気は微塵もついていないわ」声は別人のように優しく、媚びすら混ざっている。
阿奴は気高く頭を下げ、ピンクの鼻先で小皿を嗅いだ。この「供物」が自分の格に合うと確認し、ようやく舌を出した。微かな咀嚼音を立て、価値連城の氷魚の目玉を優雅に口へ運ぶ。
食べる隙を突き、蘇小小は指を一本伸ばした。あの絹のような銀の毛並みを撫でようとする。
阿奴は食べるのをやめなかった。ただ指先が触れる瞬間、正確に半寸だけ左へ身体を避けた。空振りした蘇小小は怒るどころか、花が咲くように笑い声を上げた。阿奴は最後の目玉を食べ終えた。借りを作ったと感じたのか、毛むくじゃらの尻尾の先で、蘇小小の手の甲をぞんざいに掃いた。恩賞のつもりだ。
「このツンデレな気性、本当にたまらないわ」蘇小小は満足げにため息をついた。だが謝必安に向き直った瞬間、顔の優しさは消え去る。冷酷な債権者の顔に戻った。「猫の食事代はサービス。あんたの手術代は一分も負けない。材料は? 一日駆け回って、骨灰だけ持ち帰ったなんて言わせないわよ」
「まさか」
謝必安は懐から――正確には沈無から――四つの物を取り出した。
赤く温かい火精。暗赤色で生臭い龍脈の廃カス。青く澄んだ鮫人の涙。金赤色で暴戻な中指の舎利。
四つの品が机に並ぶ。蝋燭の火が揺れた。見えない何かに舐められたようだ。暖香に満ちた密室に、言い知れぬ殺伐の気が漂う。
蘇小小の目が変わった。気怠い姿を引っ込め、極薄の蚕糸の手袋をはめた。中指の舎利を持ち上げる。
「これ……普渡っていう狂僧のね?」驚きの目を向けた。「本当にあいつの墓を掘り返したの?」
「向こうがくれたんだ」謝必安は訂正した。「極上品だ。これがあれば、国師のあの玉心がどれほど邪悪でも、大人しくなる」
「確かに極上品だわ。よくもまぁくれたものね。チッチッ……」
蘇小小は骨を置き、鮫人の涙の瓶を光に透かした。青い光が顔を照らし、妖異な美しさを際立たせる。
「この涙……素晴らしい色合い。希望と絶望の張りに満ちている。謝必安、今回は大博打を打ったわね」
「これのために、命を落としかけた」
謝必安は柔らかい枕にもたれ、机の上の四つの材料を指さした。「全部『生料(未処理の材料)』だ。怨念と不純物に満ちている。このまま皇帝を燃やせば、炉が爆発する。小小、こいつらを……『洗って』くれないか」
「洗う?」沈無が口を挟んだ。「そんなことができるのか?」
「当然よ」蘇小小は横目で見た。「忘憂閣を何だと思ってるの? ここは天下の最も雑多な気が集まる場所よ。これを女たちの化粧箱に入れ、人の気で三日養えば、血の匂いが消え、最も綺麗な『熟料(処理済みの材料)』になるわ」
「ただし、代償がある――この三日間、女たちは悪夢を見るし、客も寒気を感じるわね」蘇小小は計算高く笑った。「加工費の半分を先払いで頂くわ。女たちの厄除け代よ」
彼女は手慣れた様子で、四つの材料を金泥の漆箱に収めた。アクセサリーを片付けるような優雅な動作だ。
「交渉成立」謝必安は頷いた。「請求書には俺の名前を大きく書いといてくれ。戸部の奴らが見落とさないようにな」
借金はこれ以上増えても同じだ。「『琉璃の大典』が終わって、皇帝の残金が支払われたら、利子をつけて返す」
「皇帝がそこまで生きてることを祈るのね」蘇小小は白眼を剥き、鏡台へ歩いた。羊脂玉の浄瓶から杯に酒を三杯注ぐ。酒は琥珀のように粘りつき、暗い赤色を帯びている。
「一杯どう?」二人に差し出した。「生きてることに乾杯よ」
二人が手をつけないのを見て、微笑みながら説明した。「ただの安い酒じゃないわ。西域の紫河車(胎盤)を漬け込んだ古い花彫よ」
沈無は杯を受け取り、喉仏を動かして少しだけ口をつけた。居心地が悪そうだ。このような場で酒を飲むのも初めてだし、向かいにいるのは先ほどまで切開手術をしていた花魁だ。
辛い泥の匂いと隠微な血の匂いが脳を直撃する。胃がひっくり返るように熱くなった。
対照的に、謝必安は顔色一つ変えずに飲み干した。唇に残った酒を舌で舐め取る余裕すらある。
その時。
階下から、薄氷が折れるような凄絶な琴の音が響いた。
異質な音色だ。狭長い琴身、鶴の足のような細い首。発せられる音は氷が割れるように鋭く、人の心を抉る。底冷えする寒気を帯び、厚い床板を抜け、骨の髄に突き刺さる。
謝必安の杯を持つ手が止まった。
「この曲……」眉をひそめた。「おかしい」
「何がだ?」沈無が尋ねる。
「冷たすぎる」謝必安は杯を置いた。目が鋭くなる。「これは活人のための曲じゃない。まるで……爪で氷を引っ掻いているようだ」
蘇小小はため息をつき、諦めたような顔をした。
「新入りの歌女よ。阿笙っていうの」
窓辺へ歩き、隙間を開けて階下の大広間の隅を指さした。
沈無と謝必安が覗き込む。
大広間の最も辺鄙な隅。白い衣を着た少女が座っていた。古い秦琴を抱え、うつむいて弾き語りをしている。
酷く痩せている。薄紙のようだ。床暖房の熱気で干からびそうな白い紙人形。だが、この華やかな楼の中で、最も目を引くのは彼女の目だった。眼窩は黒い布帯で固く覆われている。布帯には黒い汚血が滲み、大広間の蒸し暑い気流に乗って、安い白粉と血が混じったような鉄サビの匂いが漂ってくる。この匂いは、忘憂閣の高級な沈香や酒の匂いの中ではひどく浮いている。だが鋭く鼻を突き、城北のスラムから持ち込まれた、嘔吐を催すような死の気配を帯びていた。
「盲目なのか?」沈無が聞いた。
「ただの盲目じゃない」蘇小小の声が沈む。「忘憂閣は鬼市にある。道案内の香がなければ凡人は絶対に入れない。だが数日前、死人のように秦淮河の陰の脈を伝って、『現世』から直接この店の前に流れ着いたのよ。身体が極度に重い煞気に汚染され、現世に拒絶されて、影の世界へ『漏れ』落ちてきたの。哀れに思って拾ってやったわ。『灰色の気』に燻されて目が見えなくなったと言っていた」
「灰色の気?」謝必安はその単語を敏感に捉えた。
「ええ。城北のスラムに住んでいたそうよ」蘇小小の顔が曇る。「半月前、そこへ突然濃霧が立ち込めた。灰色の霧で、腐ったリンゴと鉄が混ざったような匂い――甘腥くて、粘りつくような」
「霧が晴れたら、目は見えなくなっていた。それに……」
蘇小小は謝必安を見た。
「霧の中で、心音を聞いたと言っていたわ」
ドン、ドン、ドン。
蘇小小は窓枠をそのリズムで叩いた。「地下から聞こえてきたそうよ。一度鼓動するたびに、地上の人間が一人減ったって」
謝必安の瞳孔が収縮した。
腐ったリンゴの匂いの灰色の霧。地下の心音。
それは……皇帝の胸にある玉心が漏れ出している兆候ではないか?
「城北……」謝必安は呟いた。「あそこは京城の『下水道』の出口だ。最も陰の気が重い場所」
「どうやら、『漏水工事』を急がなきゃならないな」
謝必安は腕の傷を無視して立ち上がった。「あの玉心の毒気は、すでに地下水脈を伝って広がり始めている。塞がなければ、あの盲目の歌女はただの始まりに過ぎない」
「何をする気だ?」沈無が止めた。
「曲を聴きに行く」
謝必安はニヤリと笑った。顔色は青白いが、目にあの狂気が戻っている。「阿笙姑娘に聞いてみたい。あの霧の中で、心音の他に、何を見たのかをな」
扉を押し開ける。階下の凄絶な琴の音を聞きながら、襟を正した。
「行くぞ、沈大人。今夜の勘定は謝公子のおごりだ――もちろん、掛けでな」
沈無はその背中を見送り、ため息をついた。空っぽの財布を撫で、後に続く。
階下の琴の音はますます急になる。地下で命を急かしているかのようだ。
そして建康城を覆う灰色の濃霧が、心音のようにゆっくりと脈打ち始めていた。




