第44話 vsギリシャ代表
次の相手はギリシャ代表のディミトリスだ。
髭の似合う彼はデニム生地のシャツを腕まくりし、シエルデヴァイスを装着した。
その様相は格好良すぎて手を止めてしまう程だった。
「ん? 何か?」
「あ、いや。すみません」
「日本人はすぐに謝るね。ゆっくりやろうじゃないか」
急いでシエルデヴァイスを装着してデッキケースからカードを取り出すシンに対して、ディミトリスはマイペースだった。
「「侵略!」」
シンは早々に【魅惑の小悪魔】を【魅惑の魔物】へ進化させてターンを終了させたが、ディミトリスはじっくりを時間をかけて進化を宣言した。
彼の契約カードは【渦潮の小動物】。そのカードに描かれているのは禍々しい渦潮そのものである。
召喚し、進化させた筈のモンスターはこの場に存在せず、ただリング上は水浸しになった。
「【魅惑の魔物】で【渦潮の幻獣】に攻撃……で良いんだよな」
「勿論。ちゃんと君の攻撃は通っているぞ」
兎の尻尾はリング上にある渦潮の中を突き進み、【渦潮の幻獣】を毒状態に至らしめた。
攻撃している感覚はないが、ダメージを与えられているのであればいつも通りに攻めれば良いだけだ。
「【渦潮の幻獣】で攻撃」
「【魅惑の魔物】の効果発動!」
「残念だが、君の兎はこいつの前では無力なんだ」
巨大な渦潮の攻撃は【魅惑の魔物】に攻撃ダメージを与えた。
一気に体力ゲージの半分を奪われ、弱々しく鳴いた兎がバシャバシャと水しぶきを上げながらシンの足元に転がる。
「なんでっ!? なんで、攻撃が通るんだ!?」
「分からないかな。【渦潮の幻獣】の攻撃は対象を取らない。このカードは多勢の敵を相手にする事ができるのさ」
「そんな――」
この後、シンにできる事は何も無かった。
【魅惑の魔物】の効果を破られた以上、攻撃ダメージと毒ダメージが入ったとしても【渦潮の幻獣】の体力を削り切る事は不可能で、先程の攻撃をもう一度受ければ確実に負ける。
シンは持ち上げていた左腕を下ろした。
「初戦は負けたから勝ちが欲しいんだ。悪いね、シン選手。【渦潮の幻獣】で攻撃」
シンは初めて負けた。
カガリ戦は【魅惑の魔物】の効果を発動させずにわざと負けたが、今回は本気で戦って負けた。
【渦潮の幻獣】の攻撃はリング上の水を跳ね上げ、空から落ちてくる大量の雫がシンの身体にも降り注ぐ。
純白黒尾の兎は現実世界から姿を消し、シンは茫然と立ち尽くす。
「マジ……かよ。【魅惑の魔物】の効果がまた破られた…?」
「何事にも挫折は必要だ。どん底から這い上がってこそ一人前だぞ。次は勝てると良いな」
項垂れるシンの肩を優しく叩いたディミトリスが憎い。
全世界に放送しているカメラが憎悪のこもった瞳を捉えた時、我に返ったシンは顔を背けた。
「若いな、少年。その悔しさを忘れない方が良い。きっと君を強くしてくれる。さぁ、シャワーを浴びてきなさい」
マイペースだった筈のディミトリスとのバトルは他のブロックよりも早く終わり、第三試合までの時間に会場のシャワー室を借りて、身体を温めた。
何度も何度もシミュレーションしたが、ディミトリスと【渦潮の幻獣】に勝てるビジョンは見えず、【魅惑の魔物】にも相性の悪いカードが存在するのだと痛感させられた。
シンは七枚之悪魔の一柱を持つ者として有名になり、これまでのバトルで負けた経験が無い為、無意識のうちに思い上がっていた。
その事に気付けただけでもこの第二戦目には意味があったと言えるだろう。
【渦潮の小動物】→【渦潮の幻獣】
ランク:序→破
カテゴリー:mythical
モチーフ:怪物 カリュブディス
効果:このモンスターは対象を取らず、敵全体に攻撃が可能。
契約者:ギリシャ人 ディミトリス選手




