第45話 vsブラジル代表
気持ちを切り替えて迎えた第三戦目。
対戦相手はブラジル代表のルーカス。彼は中学生プレイヤーである。
リングに上がる直前に観客席で祈りを捧げる母に向って親指を立てた。彼の母親はただゲームを楽しみにしている息子の同伴とは思えない雰囲気だった。
シンはこれまで同年代や年上のプレイヤーと関わる事が多く、年下のプレイヤーとの接点は無かった。
未成年がカードと契約を結ぶ時には保護者の同意が必要なのだが、シンは親の干渉なしで契約者となった世界初の例である。
「俺は【魅惑の小悪魔】を召喚」
「【刻限の小神】を召喚」
ルーカスの前に現れたのは人型のモンスターであり、その名を聞かずともカテゴリーgodであると分かる。
シンがこれまでに見た神のカード達はどれもが特殊な勝利条件の効果を持つものばかりで今回も同様の筈だと警戒する
「「ランクアップ・エヴォリューション!」」
兎は角と翼を持つ姿となり、時計を背負う少年は青年へと姿を変えた。
「【魅惑の魔物】で攻撃!」
「ランクアップ・ファイティング・エヴォリューションッ!」
ランク急のカードが本当にプレイヤーの身体へ負担をかけるのか、疑問を抱き続けるシンはルーカスの身を案じながらも攻撃を宣言する。
「【時の支配神】の効果発動ォォ!」
必死の形相で叫ぶルーカスに応えるように【時の支配神】の背後にある時計の秒針が反時計回りに動き出す。
身構えるシンは一瞬何が起こったのか分からなかった。
【時の支配神】の状態異常は持続した状態だが、【魅惑の魔物】は【魅惑の小悪魔】へ退化させられていたのだ。
「【時の支配神】はターンを自由に操作出来る。僕は【魅惑の魔物】を1ターン目の状態まで戻します。そして【時の支配神】で攻撃」
「巻き戻す効果もあるのかよ!? これじゃ、兎の効果が使えない」
予選ではターンを進める効果しか使用していなかったルーカスに度肝を抜かれる。
【時の支配神】の攻撃力はランク急とは思えない程に弱く、体力ゲージは大して削られなかったが、何度進化させても時間を巻き戻されて、シンの行動は抑制されてしまう。
更に【時の支配神】はターンを増す毎に攻撃力が上がり、【魅惑の小悪魔】の体力ゲージは確実に減らされていた。
為す術の無いシンはこのバトルを諦め、ルーカスの挙動を窺う。
ルーカスの額に浮かぶのは冷や汗だ。
彼は【時の支配神】の効果を発動する毎に胸の苦しみを感じていた。
これがランク急のモンスター効果を発動する彼への代償である。
ルーカスは命を削って対戦を続けてきたが、その事実に気付いてるのは彼自身だけなのだ。
「なぁ、ルーカス選手。体調が優れないなら――」
「僕は【時の支配神】で攻撃」
「本当に大丈夫なのか?」
「人の心配を……している場合ですか? 貴方の兎は本領を発揮できずに倒されるんですよ」
「そうだな。もう一回負けてるし、君は俺達と相性が悪い。次のバトルに賭ける事にする」
「そんな覚悟でこの大会に参加しているんですか!! 僕は優勝賞金で裕福に暮らすんだ!」
シンはカガリの一件でシエル症候群に対して必要以上に警戒している。
しかし、ルーカスは発症を恐れず、目の前の敵を倒す事に必死だった。
この二人の温度差は決して埋めることはできず、互いの意見を聞き入れるつもりもない。
「そんな適当なバトルしかしない人に僕は負けない! 【時の支配神】で【魅惑の小悪魔】を攻撃。効果発動! 【時の支配神】のターンを進め、攻撃力をアップさせる。これで終わりだーッ!」
「ゴメン、兎。俺はあいつに勝てる術を知らない」
ランク破へ進化する事も許されず、毒ダメージで【時の支配神】の体力を削り切れなかったシンは二度目の敗北を味わった。
しかし、勝者はガッツポーズをするわけでも、雄叫びを上げるでもなく蹲っていた。
「おい! 大丈夫か!?」
「来ないで!」
踏み込んだ足を止めるシンはそれ以上進めなかった。
息を切らすルーカスはゆっくりと立ち上がり、リングを後にする。
「そんな戦い方をするな。発症するぞ」
「……僕は勝つしかないんだ」
後味の悪いバトルを終えたシンは控え室に戻り、アプリを起動して【魅惑の小悪魔】を現実世界へ召喚した。
傷付いた背中を撫でながら持ってきた人参を与える。
「そんな覚悟でゲームなんてやるなよ」
すぐに次のバトルが始まる為、休んでいる暇はない。
シンは日本から持ち込んだブロックタイプの栄養補助食品を口に詰め込み、リングへ向かう。
【刻限の小神】→【刻限の御子神】→【時の支配神】
ランク:序→破→急
カテゴリー:god
モチーフ:時間の神 クロノス
効果:このモンスター、または相手モンスターのターンを自由に操作できる。
契約者:ブラジル人 ルーカス選手




