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第41話 飼い兎は歩かない

 世界大会開催地に前乗りしたシンは鷺ノ宮エンタープライズが予約したホテルにチェックインし、ベッドに腰掛けた。

 出来る事は全てやったつもりだ。これで世界の強豪達に負けたとしても、徹夜でオンラインバトルに付き合わされた進堂総理から文句は言われまい。



 今回の旅費、宿泊費、食費などは全て鷺ノ宮エンタープライズが支払ってくれる為、シンに経済的な負担は無いが付き添いが居ない事は大きな不安要素だった。

 主催者の鷺ノ宮 朝陽と主賓である進堂総理は開会式に出席すると聞いているが、全くの別行動であり会場でのみ顔を合わせる事になるだろう。



 今回の大会は各国より80名が参加している。

 最初は八ブロックに分かれて乱闘戦を行い、勝者が本戦へ進出できる。

 その組み合わせは当日にならないと分からないが、協力しない限り一人で九人を相手にする事になるのは明白だった。



「…効果を使うしかないよな」



 シエル症候群シンドロームの発症条件が未だ不明の為、カードの性能を引き出したり、好感度を上げる事は避けたかったが試合に出る以上は仕方ない。

 覚悟を決めて母に頭を下げてから出国しているが、出来る事なら無事に帰国したいというのが本心だ。




 世界大会当日。

 日本とは比較にならない程に広大な土地にスタジアムが建設されていた。

 これまでと異なりモンスターが実体化して戦う為、国民に被害が及ばないように配慮した結果らしい。

 観光客や観戦客でごった返す中、キョロキョロしながら会場入りすると屋内は選手達でごった返していた。


 本戦出場までは控え室を与えられないようで、あちこちに座り込み、準備を整える選手がほとんどだった。

 一度カードを盗まれているシンはデッキケースを入れたリュックをしっかりと胸に抱き、警戒を怠らない。

 選手達はアナウンスに従い、開会式が行われるスタジアムへと移動を開始した。



「これから選手入場を行いますのでシエルデヴァイスの準備をお願いします」



 日本代表決定戦の時にプレゼントされた専用のシエルデヴァイスを左腕に装着する。

 後にも先にも鷺ノ宮エンタープライズからシエルデヴァイスを受け取ったのはシンだけであり、普通は自前購入してオリジナルのカスタマイズを施すらしいが、そんな事は彼にとってどうでもよかった。

 要は使えれば良いのだ。



 国名と名前を呼ばれ、選手入場が始まった。

 選手達の足元や隣や上空には契約モンスターが追従している。

 ランク序の一番小さい形態で行進させている者がほとんどだが、中には目立ちたがり屋もいるようで巨大なモンスターを闊歩させている。



 シンは勿論、目立たないようにランク序の姿で歩かせるつもりだったが、入場ゲートから出た瞬間、胸に飛び込んできた兎を抱きかかえる形となり、そのまま行進する羽目になってしまった。

 「自分で歩けよ」と迷惑がっていたシンと世間の声は違う。

 SNS上でシンに対する好感度が爆上がりしている事を彼は知らない。



 全選手が横一列に整列するとカメラ付きドローンが上空からその光景をテレビに映した。

 壇上には鷺ノ宮エンタープライズ代表取締役社長が立ち、開会宣言を述べる。

 現地で観戦している者達の歓声と拍手がスタジアムに響き、少なからずシンの気持ちを昂らせた。



 この場にいる選手達は事前に誓約書にサインさせられている。

 その内容はこの大会中にシエル症候群シンドロームを発症しても自己責任だという事。

 発症した場合、鷺ノ宮エンタープライズは医療費の一部を支払うが、それ以上の責任は負えないという事。

 発症しなかった者には参加賞として一定額の賞金を支払うという事。

 優勝者には賞金として500万円を支払うという事。



 こうして世界最強を決める、最初で最後の過去最大級のシエルカードゲーム公式大会が幕を開けた。

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