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第26話 初戦-第一試合

 会場入り後、用事を済ませたシンがお揃いのデッキケースを腰に装着したまま廊下を歩いていると、一人のスタッフとすれ違った。

 広い廊下なのに、やけに近い距離ですれ違ったな、と思いながら控室に入るとリョウ、亜梨乃、麻々乃が既に待機していた。



「そろそろスタジアムに来いってよ」

「分かった。行ってくる。情報収集よろしく」

「あれ、シン君、デッキケースは?」



 亜梨乃の発言により胸がざわつく。まさか、と不安げに右腰へ手を当てるとそこには何も無かった。

 デッキケースの中には【魅惑の小悪魔】と【魅惑の魔物】のカードが入っており、シンは契約カードを全て失った事になる。



「……あの時か」



 思い当たるのは先程、廊下ですれ違ったスタッフだけだ。

 今から追いかけても見つからないかもしれない。見つかったとしても、これから始まる一回戦に間に合わないだろう。

 日本代表の座に興味はないが、兎のカードを進化出来なくなってしまう事はなんとしても避けたい。彼女との約束を破る事だけは絶対にあってはならないのだ。



「俺が探す。他のスタッフにも声をかけて探すから、お前はスタジアムに行け」

「でも……」

「私達のカードを使って」



 亜梨乃が鞄の中から取り出したデッキケースには【干天の小動物】と【干天の幻獣】のカードが入れられていた。

 次いでスマートフォンのアプリを開き、契約カードの所有権を一時的にシンへ譲渡する手続きを行う。

 シンのアプリ内にデフォルメされた蛇が現れ、好感度が表示されたが、その数値は0だった。

 負け戦とは分かっているが、試合を目前にして棄権を申し出るわけにもいかず、シンは覚悟を決めてシエルデヴァイスを左腕に装着した。

 このシエルデヴァイスは控室に来る前に鷺ノ宮エンタープライズから頂戴した物だ。前回の魔王杯で借りた物と同じだが、前回は無かった兎のシルエットが描かれている。



「ありがとう。頼んだ」



 情報収集係の麻々乃と共にスタジアムへ向ったシンを見送ったリョウと亜梨乃は彼のカードを盗んだ人物を探す為に廊下を走った。



『お集まりの皆様! これより日本代表決定戦本戦の第一試合を行います。"魔王"シン選手対"仮面騎士マスク・ド・シュヴァリエ"ンドゥー選手。両者入場です!』



 実況者による選手両名の紹介と共に歓声と拍手が湧き上がり、ステージが迫り上がる。

 腰に黒とピンク文字のデッキケースを装着したシンとまだ見ぬ強敵である、ンドゥーは同時にスタジアムに現れた。

 緊張の面持ちで顔を上げるとそこに立っていたのは、目元のみを隠すベネチアンマスクを付けた男性だった。



「…ぇ。進ど」

「否ッ!!」

「いや、進ど」

「人違いだ!! 私がンドゥーだ。さぁバトルを始めようか、シン選手」



 迷わずシエルデヴァイスは構えるンドゥーに対してシンは戸惑いながらシエルデヴァイスを構えた。



「「侵略アンヴァズィオン」」



 両者のシエルデヴァイスが起動し、ディスクが飛び出す。

 いつも通り、窪みにカードをセットするだけなのにシンの手は震えていた。

 ンドゥーは先にカードのセットを終え、モンスターを呼び出した。



「私は【忠義ちゅうぎ聖騎士せいきし】を召喚」



 ンドゥーが出現させたモンスターは白銀の甲冑を纏う騎士である。

 記者会見の際にモニター越しに見た事はあるが、盾と剣を持つ姿は威風堂々としており、威圧感すら感じる。

 それもその筈。彼のモンスターは召喚時からランク急であり、これ以上の進化を必要としない。

 ンドゥーにとって【忠義の聖騎士】が最初で最後のカードであり、進化前であるランク序、ランク破のカードはこの世に存在しない。



「お、俺は……」



 シンの手は未だに震えている。

 それは初手からランク急のモンスターを召喚されたからではない。

 トッププレイヤーと噂される選手に対して借り物で挑まなくてはならない緊張感と兎のカードを失う事への恐怖感だった。



「俺は、【干天の小動物】を召喚」



 震える声のシンは亜梨乃と麻々乃が育てたカードをセットし、初めて他人の契約モンスターを召喚した。

 ホログラムではなく、現実世界に召喚された蛇はシャーッと鳴き、威嚇するように舌を出し入れしている。



 その光景には対戦者であるンドゥー、実況者、解説者、観客、視聴者、全ての人間が驚き、ある者はシンの行為を侮蔑と取り、ネット上を騒がせた。



「シン選手。私には自分のカードを使ってくれないのかな?」

「違います」



 シンは嘘偽りの無いまなこでンドゥーを見据え、かぶりを振った。



「カードを盗まれました。今、友人達が必死に探してくれていて、このカードも貸してくれました。だから――。俺は自分のカードが届くまで、こいつで勝ち抜きます」



 ンドゥーもシンから視線を外さなかった。

 そして無言で背を向けたンドゥーはシエルデヴァイスのディスクから【忠義の聖騎士】のカードを抜き取り、胸ポケットに仕舞った。

 現実世界から騎士が消え、会場が静寂に包まれる。



「この試合を棄権します」



 それだけを言い残してスタジアムを降りたンドゥーに困惑しながらも実況者はシンの勝利を宣言したが、観客達が祝福の声を上げる事はなかった。

 孤独な勝者となったシンに喜ぶ素振りはなく、ただ立ち尽くすだけだったが蛇は兎と違い、慰めの眼差しを向けてはくれなかった。



 ンドゥーは苛立ちを抑える事無く、関係者以外立ち入り禁止の部屋に入り、仮面を脱ぎ捨てた。



「彼のカードが盗まれた。防犯カメラを洗い出し、犯人を特定しろ。絶対に取り戻せ」



 彼はシエルカードゲーム上位ランカーのンドゥーではなく、日本行政府の長である進堂内閣総理大臣として部下に命令を下した。

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