第25話 その二つ名は荷が重い
全国各地から年齢、性別を問わず参加したプレイヤー達は魔王杯と同様に予選をアプリ内で済ませ、AI判断により八名の本戦出場者が選出された。
高級ホテルのパーティー会場を貸し切った鷺ノ宮エンタープライズは八名の選手を招待し、小さな食事会を催した。
「日本代表決定戦本戦へと出場される皆様、おめでとうございます。ようこそ、おいでくださいました。短い時間ですが楽しんで頂けると幸いです」
立食形式でテーブルには様々な料理が並べられ、ウェイターが酒やジュースを運んでいる。
このような場に慣れていないシンは固まり、隅の方でチビチビとリンゴジュースを飲んでいた。
相応の服を持っていない為、学生服で出席しているが制服を着崩さないのは入学式以来だった。
「料理は真ん中にしかありませんよ」
「……黒川さん」
黒いドレスに身を包んだ女性がシンに近付き、口元を僅かに綻ばす。
彼女の胸元では今日も黄金の林檎のネックレスが輝いていた。
「良い返事が出来なくてすみません」
「構いませんよ。私も同じ対応をしたでしょうから。大人に干渉される事なく、純粋にゲームを楽しみたいものね」
以前のスーツ姿とは異なり、大人の女性の色気に呆けていると手を差し伸べられた。
「嫌じゃなかったら向こうへ行きましょう。皆、君と話したがってる」
恐る恐る彼女の手を取ったシンはダンス会場へ誘われるように優しく誘導され、一つの集団に混ざった。
「あんたが"魔王"やな! 今日、会えるのめっちゃ楽しみにしててん」
「……はぁ。ありがとうございます」
ガタイの良い関西弁の男性の大きな手を握り返しながら挨拶していると、気がかりな単語が出てきた。
「魔王って何ですか?」
「自分、ネット見ぃひんの!? 彗星の如く現れた世界で一人だけの悪魔のカードを持つ者って、めっちゃ騒いでたやん!」
「そうなんですか。知りませんでした」
「これが、魔王の正体です。テレビで見たままですよ、"九尾"」
シンは良くも悪くも冷めている様に見られてしまう。
それをクールと捉えるか、無愛想と捉えるかはその人次第だ。
「ナインテール!? "九尾"のカガリさん?」
「おぉ! 俺の名前は知っとったか~。良かった良かった」
「日本チャンピオンですよね。友人に聞きました」
「俺が、というよりも俺の相棒が最強やねん。負ける気ぃせんもんな~」
「あまり気にしてないで下さい。こういう人なんです」
チャラい雰囲気のチャンピオンに気圧されながらシンは話を聞いた。
皆、社会人プレイヤーという事になるのか、こ場場に集められたプレイヤーの中で学生と見受けられるのはシンともう一人だけだった。
「今日って八人居る筈ですよね。もう一人は……?」
「ンドゥーですね。彼は来ていますが、まだ姿を現していませんね。そちらも気にしなくて良いですよ」
二人と別れてトイレから戻る途中、どこの学校の生徒かは分からないがセーラー服の女生徒に話しかけられた。
「初めまして、"魔王"っ。あたし、皇って言いますっ。ファンですっ。握手して下さいっ」
困惑するシンがそろりと彼女を手を握ると両手で包み込まれ、何度も感謝された。
遂にはサインまで要求され、丁重に断っていると代わりに写真をねだられた。
サインの書けないシンは彼女とツーショット写真を撮り、気恥ずかしそうに距離を取る。
「流石、"魔王"っ。あの二人と対等に話せるなんてほんとに凄いっ」
シンにとってはあの二人の凄さが分からず、一方的な話に相槌を打っていただけであり、特に対等に会話をしたという感覚はない。
しかし、周囲の評価は全く異なるようだった。
「この写真ってSNSに上げて良いかなっ?」
「まぁ、良いけど」
言うが早いか、素早く投稿を終えた彼女はスマートフォンをポケットに仕舞った。
「まさか本戦に出られると思ってなかったし、"魔王"に会えてラッキーだよっ。多分同い年だから、皇って呼んでねっ」
やけにフレンドリーな彼女と話していると会場に進堂総理と鷺ノ宮 朝陽が現れた。
カガリと黒川は特別驚いた様子は無いが、シンを含め他の五人は言葉を失った。
「やぁ、諸君。では明日のトーナメントを決めようか」
巨大なスクリーンに映し出された空白のトーナメント表。
そして進堂総理は中身の見えない箱を抱えていた。
意外にもアナログの方法で空白を埋めていく大人二人を静かに見守り、遂にトーナメント表が完成した。
シンの一回戦目の相手は唯一この場に居ない、ンドゥーだった。
「林檎ちゃんと"魔王"は別ブロックやん。なんやこれ、おもろ」
細い目を更に細めながら、口角を釣り上げるチャンピオンの姿に背筋が凍る。
トーナメント表の発表を最後にパーティーはお開きとなり、プレイヤー達は当日に備える事になった。
帰宅後、数時間ぶりにスマートフォンを確認すると亜梨乃からメッセージが届いていた。
《なんでツーショット撮ってるんだよー》
そんな事を言われても困るシンは適当に返信して、就寝するのだった。




