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MIDNIGHT  作者: 赤良狐 詠
チャプター1 日常+非日常
12/16

『サイコメトリー』

 昼。東京都渋谷区道玄坂二―一。ハチ公前広場。十二時五十五分前後。


 待ち合わせ時間より早く来ていた日向と皐月は陽菜を待っていた。人混みの多さは相変わらずで色んな人がいる。こんな時間から若者は何処かに遊びにいくのだろう。集まってはスクランブル交差点に向かって行く。

 放火事件など関係なく老若男女は渋谷にやって来る。どんな事件でもすぐに風化していく。それはとても早く、会話を聞いていても分かる。


「ねぇ。ニュースでやってたクラブの場所分かる?」


「知らない。でもあの映像凄かったね。ネットで見たー」


「そんなことより早く行こうよ!」


「そうだねー。行こっか」


 日向は革ジャンと青いシャツにジーンズ。皐月は細身で品のあるコンサバ系だった。皐月が時計を確認した。


「まだですかね? もうすぐ一時ですよ」


「皐月さん、カリカリしないでください。あっちは警察ですから色々あるんですよ。まだ一時じゃないですし」


「警察なら余計時間にルーズではダメでしょう。呆れます」


 日向が周囲を見渡すと黒のスーツの陽菜がこちらに向かって走って来るのが見えた。


「噂をすれば来ましたよ」


 陽菜は手を合わせ、右目をつぶって可愛くウインクした。


「ごめーん日向君、遅れちゃって――ここ数日徹夜続きでさー。待ったかな?」


「いや、別に待ってない。それより早く行くぞ」


「ふふ。まぁそんな焦らないでよ。隣の方が例の人かな? 初めまして。木村陽菜です」


 陽菜は右手を出し、皐月も手を出してそれに応えた。


「今泉皐月です。陽菜さんとお呼びしてもよろしいですか?」


「えぇ。大丈夫ですよ。私は皐月さんで良いですか?」


「構いません」


「では現場に行きましょう。ここから歩いて行けます」


 陽菜が先導して歩き始め、二人が後ろを付いて行った。


「日向君は相変わらずその格好だね。大学時代から変わらないね」


 日向は陽菜の後ろ姿に適当な返事を出した。


「そんなすぐに人は変わらない。お前だって相変わらずスーツがお似合いだよ」


「学生時代は私服だったじゃん。スーツが似合うってそれってお世辞? それとも本気で褒めてるの?」


「さぁな。ハードボイルドは多くを語らない――」


「大学時代から親の探偵事務所を継ぐ夢、叶って良かったね」


 赤信号で三人は立ち止まって、陽菜は振り向いて日向の顔を見た。


「ちゃんとした申請だせば誰だってなれるもんだ。親の後を継ぐのに大学時代、俺は遊んでばかりだったけど今はちゃんとしてる。それに親がやってた時より経営も安定してる。それで親孝行してるつもりだ」


「ふふ。日向君は人情深いし優しいね。お父さんも喜んでるでしょ?」


 信号が青に変わり、三人はまた現場に向かって歩き始める。日向は簡単にできないことを言葉に変えた。


「まぁ当然だろ。最近は会ってないけどな。親が四年の時に脳卒中で倒れから気持ちを入れ替えた。親父の代でこれを終わらせることは出来ないと思った。それだけのことだ。努力は実を結ぶってね。見える努力と見えない努力が必要だったけど、それも過ぎれば良い思い出だ」


 そこに蚊帳の外にいた皐月が二人の話に割り込んだ。


「日向君は良くやっているわ。それは私達の力でここまで来た。志がゆるぎないのは身近にいる私達が理解している。今があれば十分。過去は過去。それで今の日向君がある」


 日向はかなり久しぶりの怒っていない皐月の言葉を噛み締める。


「皐月さん。たまのフォローありがとうごいます。それって褒めてますよね?」


「もちろんです。日向君一人ではできませんからね。チームの結束は日向君がいるから成り立っている。心が読める能力の日向君。透視能力の大和君。予知能力の瑞穂さん。それにサイコメトリーの私。それをまとめる日向君は凄いですよ。それに、どんな小さな依頼にも全力で取り組む姿勢はハードボイルドですよ」


 また陽菜が日向に振り向き、彼の緩んだ顔を拝めた。


「仲間って大切だよね。信頼されてるじゃん。他人を惹きつけることができる人は少ない。初めて大学で会った時はちょっと近寄りがたいと思ったけど、話して人を見た目で判断しちゃダメだって改めて思ったよ」


「お前は俺を馬鹿にしてるのか? それとも褒めてるのか?」


 日向は陽菜の歩くスピードは少し早歩きに感じた。しかし最近運動をしていないので、そう感じただけかもしれない。


「まあまあ。日向君は自分の力を正しいことに使ってる。力ってこんな素晴らしい使い道もあるんだって初めて思った」


「あのカップルのことか?」


「そうそう。飲みの席で起きた浮気疑惑での喧嘩。それを日向君が力を使って解決した。それは正しいことだったよ。本音が言えずじまいの二人に正々堂々と相手の気持ちを伝えた。カッコ良かったね」


「あの後、自分も力を持ってるなんて、急に言ってきたお前は何者だと思ったぜ」


「私が悪用するのかって聞いたら、力を正しく使うのは悪いことじゃない。力には必ず良い使い道があるって言われて、それで日向君を信用したんだ」


 日向は頭を右手で掻いた。良くも恥ずかしい人の思い出の言葉をズケズケと言えるものだ――そこまで覚えてなかった――。


「そんなことで信用したのかよ。バカだなお前」


「はぁ? まぁ良いや。そういえば二人は結婚して子供が生まれたって。ハガキ来た?」


 寝耳に水だったが、それでも日向はちょっと嬉しかった。人の幸せの手伝いになったのだと思えば自分のしたことは正しかったと胸を張れる。


「それマジか!? 俺には来てない。あんな泥沼の浮気騒動で良く相手を許したな。まぁ今が幸せならそれで結構だし、本望だよ」


「なら良かった。二人が結婚するきっかけになったあの騒動だったと思う。日向君が二人の本音を包み隠さず言葉にしたからだよ。胸打たれたんじゃないかな?」


「そんな時から日向君は人にお節介を焼いていたんですね。無駄に問題へ首を突っ込むのは昔からですか。変わらないんですね。まるで芸のない猿ですね」


 皐月の言葉に日向は右手を胸に当てた。


「皐月さん……傷つくから……やめてください……」


 それを聞いていた陽菜は嬉しそうな顔をしていた。


「ふふ。分かり合ってるって良い仲間だね」


 昔話をしに来たのではないし、これは仕事になるかもしれない。ただ瑞穂の予知ですでに引き受けると言っていたが、未来は変えることができる。その場合は別ルートの未来に分岐してしまうわけだが、それでも詳しい依頼内容も聞いていないので、まだ断ることもできない。


「さぁここが現場」


 事件現場には数人の警官がいて野次馬を気にせずに立っていた。中では恐らく鑑識などがいるのだろう。それでも立っている野次馬は数人で多くない。少しばかり立って写真を撮って去って行く。偶然見かけて記念に写真でも撮ったのだろう。

 外観は大きく幾つものヒビが壁にある。まるで上から隕石でも降ったかのようだ。中はニュースのヘリ映像で見た限りでは天井から崩落しているはずだ。陽菜は警察手帳を彼らに見せた。


「警視庁特殊公安一課、異態の木村警部です。こちらの二人は捜査の協力者です。現場に入ります」


「はい! お疲れ様です! どうぞ!」


 三人は崩落した現場に入って行く。テープを潜り、扉を開けて通ると中は瓦礫の山だった。天井からかつてドリンクカウンターだった場所が確認できた。

それでも一階のメインフロアには歩いて行けるようだ。鑑識などの人達を通り過ぎてこの瓦礫の中心へと向かった。


「こりゃひでぇな。陽菜。ネットとかに出回ってる映像は本物なんだろ?」


「……ふぅ。まぁそうだよ。これは内密事項」


「そんなの分かってるよ。皐月さん気を付けてください。足場が不安定ですよ」


「そんなか弱い女に見えますか?」


「……はい……すいません……」


 陽菜は大きく崩落した中心まで着くとそこで立ち止まった。中心は人の形をしている不思議な痕だった。


「皐月さん。ここで力を使ってください。二階部分が完全に崩落してるので、この瓦礫の山の中に二階の破片があるはずです」


 皐月は人の形になっている部分に左手を触れた。


「陽菜さん。心配しなくても残留思念があれば見えます。安心してください。私には使用回数制限はありませんので」


 皐月は目を大きく開いた。その瞳は紫色に変わっていく。陽菜は彼女の力を感じ、瞳が紫色になっていた。


「……すごい力……」


 映像が見えてきて皐月はそっと目を閉じる。そこには開店準備をするスタッフの姿が見えた。彼女の見る光景は一瞬一瞬が早送りのようだ。音楽に合わせて踊り狂う客が見える。ここ数日のクラブの様子が彼女には見えていた。


「クラブの掃除」


「気怠い」


「熱狂」


「心地良い音楽」


「クソDJ」


「最高の音楽」


「良い女」


 そして事件当日の映像が見え始めた。一階のクラブの中で銀髪か、白髪の青年がうろついている。その肩には前腕程の小さな人形のようなモノが見えた。それは動いている。

 そして、二階に上がって長い髪の男と何か話している。そして、男の手から火の玉を銀髪の青年に放った。逃げ惑う客達。そこから二人の戦いが始まった――。


「一階」


「二階」


「雑踏」


「銀髪の男」


「九人の男女」


「集団」


「炎」


「能力者」


 皐月のサイコメトリーは、陽菜と日向から見て時間にしてわずか十秒程だった。皐月は二人に見たありのままを伝えた。


「銀髪か白髪の男の肩に小さな妖精でしょうか? それが見えました。事件はどうやら力を持った者同士の戦いのようですね。これは見たことがありません。銀髪の男の心が少し見えました。戦いたくなかったようです」


 陽菜は右手で顎を触る仕草をした。


「妖精? 銀髪の男はここで戦うつもりはなかったって、彼の目的は何だったんですか?」


 皐月は立ち上がりながら左手を手さげ鞄から出して拭き始めた。


「どうやら火の男を見つけに来たと言うべきですかね。男の犯行を止めたかったようです。彼は恐らく悪人ではないようですね」


「そうですか……他に何かありましたか?」


「それぐらいしか分かりませんでしたね」


「……あの、妖精ってそんなモノいるんですか?」


「陽菜さん、私にも分かりません。ただ見たままを言っただけです。人形くらいのモノが銀髪の男の肩にいました。それは動いていました。確かです。私は妖精という言葉が合っていると判断しましたので何とも言えません」


「……妖精……能力者……これが何に繋がるっていうの?」


 陽菜は思考を巡らしその場にしゃがみ込んだ。それを見て皐月が日向に近づき、陽菜に聞こえないように耳元で囁いた。


「日向君、何かあります」


「具体的には?」


「銀髪の男ですが、何かの集団に入っているようです。彼の残留思念を感じました」


「集団?」


 日向は陽菜を見ると中心の人型のような瓦礫をじっと眺め、しゃがみ込んでいてこちらが会話していることには気付いてないようだ。


「憶測ですが、力を持っている集団ではないでしょうか?」


「……力を持った集団? 俺達のような?」


「……恐らく……」


 陽菜が日向と皐月に目線を移した。


「日向君、どうかした?」


「いや、何でもない。なぁ、正式な依頼内容は何だ?」


「銀髪の男の行方を追って欲しいの。どんな小さな手がかりでも何でも良い。彼の情報がいるのよ。誰で目的は何か? 皐月さんが見た妖精っていうのも気にかかるわ」


 日向は腕を組んで皐月を見た。彼女はまだ念入りに手を拭いている。


「――分かった。引き受ける。調査費用は――」


「経費で払う。それに何か進展あればこっちからも連絡するわ。どこかの現場に来てもらうことがあるかもね」


「それでも良い。興味が湧いてきた。陽菜、この依頼は高いからな」


 陽菜は右手を腰に当て表情は右側の口角を上げた。


「まぁ仕方ないでしょ? 調査にはお金が掛かるもんね」


「じゃあ事務所に戻る。行きましょう皐月さん」


「待って日向君!」


 陽菜が咄嗟に呼び止めると日向は立ち止まって振り向き、陽菜はゆっくりと近づき、内ポケットから折りたたまれた紙を取り出した。


「これ。事件現場に入れる特別許可証。引き受けてくれると思って用意してた」


「用意が良いこって」


 日向は許可証を掴み取ったが、陽菜は離そうとしなかった。


「ちゃんとした場所で使ってね。この紙は超法規的な物よ。日向君を信頼してるからだってあって――」


「分かってるよ。信用しろ」


 その言葉を聞いて陽菜は力を緩め、日向は許可証を受け取り皐月に渡した。


「皐月さん。持っててください」


「分かりました」


 皐月は受け取ってすぐに鞄に入れた。陽菜は二人を見送り、そして声を掛けた。


「じゃあ良い連絡待ってる!」


 日向は振り向かずに右手だけを上げた。陽菜は人型の中心を見た。哲夫のサイコキネシスを凌駕する力――銀髪の男の能力は何だろう――。


「……妖精に能力者。これから何か始まるとでも言うの? 何かが始まる。いや、以前からすでに始まっていた?」


そんな予感が彼女の心に深く根付く。今までの事件とは何か違う。本庁に戻って過去の捜査一課などが扱った事故や事件を調べてみることを考えた。何か捜査の手がかりがあるかもしれないと――。


 日向と皐月はクラブから出ようとすると立っている警官は二人に敬礼をしてくれた。


「お疲れ様でした!」


「ご苦労様でーす」


 日向は軽く敬礼みたいなことしてその場を去って行った。少し離れてから隣を歩いている皐月を見てタバコを咥える。火は付けず咥えただけだったが、本人はそれで格好つけたつもりになっているようだ。それを見て皐月は呆れた表情になった。


「吸えないタバコを咥えてカッコ良いとでも思っているんですか?」


「ハードボイルドは多くを語らない――です」


「どこの口がそんなことを言えるんですかねー」


「……酷い皐月さん……まぁこの案件、面白くなりそうですね」


 皐月は左手を見つめ爪のネイルを見ていたが、日向の言葉に一応答えた。


「何が面白くなるっですか! 私は関わりたくないと思いましたけど――」


「いや、力を使った事件や事故は多くあります。それでも集団となると話は違う。何か思想があるのではないかと思いましてね」


「思想ですか? そんな大義名分があるとは思えませんが――」


「そう! 大義ですよ。集団には目的がある。それが引っかかるんですよ。俺らは俺が心を読んでスカウトした。彼らはどうやって集団となったのか気になるんですよ。もしかしたら陽菜と同じレーダーの力を持って集めたんじゃないかと推理してます」


「お好きにどうぞ。料金も良さそうですし、臨時手当て、期待してます」


 日向は皐月と温度差を少しは感じたが、ベクトルは違ってもそれが良い方に向いているなら良かった。


「お任せください皐月さん! 必ず銀髪の手がかりを掴みましょう!」


 皐月は手さげ鞄からスマホを取り出した。


「そうですね。では、事務所に連絡しますね」


「お願いします」


 光に虫は集まる。人も同じだ。そこに何かあるから集まってくる。その何かとは? 逸る気持ちを抑えながら周囲を見る。


通り過ぎる人、信号待ち、待ち合わせなど様々な人が群がっている。彼らには理由、目的が必ずある。銀髪の男の集団は何の理由があるのか? 目的は何か? 

 そう考えていると自然と顔がにやけていた――。

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