第7話 それは流石に炎上案件では?
王都を出発してから三日
モブ彦とリリアは、
街道沿いを歩いていた
「疲れたでござる……」
モブ彦が死んだ目で呟く
背中には、
パンパンに膨れ上がった荷袋
異世界初心者ゆえ、
必要そうな物を全部買い込んだ結果だった
「だから言ったじゃないですか」
隣を歩くリリアが呆れたようにため息を吐く
「毛布三枚はいりません」
「だって異世界でござるよ!?
夜寒かったら死ぬでござる!」
「今真夏です」
「異世界の真夏とか信用できないでござる」
リリアがまたため息を吐いた
この三日で、
リリアは理解し始めていた
この男は、
本当に悪人ではない
モブ彦本人曰く
『吾輩、
いわゆるキモオタでござるからな』
らしい
正直、
意味はよく分かっていない
ただ
推しについて語り始めると止まらないことだけは理解した
問題は
その発言が、
世界崩壊級禁呪として発動することだった
「……見えてきましたよ」
リリアが前方を指差す
小高い丘の先
石壁に囲まれた小さな街が見えていた
「おおぉ……!!」
モブ彦の顔が輝く
「やっと街でござるぅぅぅ!!」
「そんな感動します?」
「三日ずっと徒歩でござるよ!?
文明!!
ベッド!!
風呂!!
飯!!
人権でござるゥゥゥ!!」
「そこまで……?」
モブ彦は涙目だった
「野宿つらすぎるでござる……
地面硬いし、
虫いるし、
朝寒いし……」
「だから荷物減らせって言ったんです」
「文明のありがたみを理解したでござる……」
二人は街へ入る
夕暮れ時の街は、
仕事帰りの人々で賑わっていた
焼いた肉の匂い
酒場から聞こえる笑い声
モブ彦の腹が鳴る
「腹減ったでござる……」
「今日はちゃんと宿を取りますから」
「風呂あるでござるか!?」
「知りません」
「頼む!!
文明を感じさせてほしいでござる!!」
「大袈裟ですねぇ……」
やがて
『銀狼亭』
そう書かれた宿屋へ入る
中は酒場も兼ねているらしく、
かなり騒がしかった
「いらっしゃい!」
恰幅のいい女将が笑う
「二人かい?」
「はい
一泊お願いします」
リリアが慣れた様子で銀貨を渡す
モブ彦は椅子へ座った瞬間、
力尽きたように突っ伏した
「もう歩けないでござる……」
「軟弱ですね」
「現代人を舐めるなでござる……
徒歩文化じゃないのでござるよ……」
「何ですかそれ」
「文明の敗北者でござる」
「意味分かりません」
少しして、
料理が運ばれてきた
肉の煮込み
黒パン
スープ
モブ彦の目が輝く
「飯だァァァ!!」
「そんなに……?」
「三日間、
携帯食料ばっかだったでござるよ!?
もう硬い干し肉見たくないでござる!!」
モブ彦は勢いよくスープを飲んだ
「うまっ」
「でしょう?」
「染みるでござる……
胃が喜んでるでござる……」
その時だった
「…………ん?」
モブ彦の動きが止まる
指先で、
スープの中から何かを摘み上げた
一本の長い髪
「…………」
「…………」
リリアは普通にパンを食べていた
「リリアたん」
「その呼び方やめなさい」
「髪入ってるでござる」
「はい?」
リリアが覗き込む
「ああ、
たまにありますね」
「えっ」
「調理場忙しいですし」
「いやいやいや」
モブ彦が困惑する
「いや、
これ普通にダメでござるよ?」
「そんな大袈裟な」
「いや……
それは流石に炎上案件では?」
一瞬
空気が止まった
リリアの顔色が変わる
「……っ!!」
「え?」
ゴォォォォォッ!!!!
次の瞬間
厨房から爆炎が吹き上がった
「ぎゃああああっ!?」
「火事だァァァ!!」
店内が大混乱になる
モブ彦は青ざめた
「えっ!?
なんででござる!?」
「《炎上》です!!」
リリアが叫ぶ
「群衆感情連動型広域火属性禁呪!!
周囲の怒りや混乱を燃料として増幅します!!」
「燃料って何でござる!?」
「あなたの発言です!!」
厨房から炎が噴き上がる
しかも
「お客様ァ!!
髪の毛くらいで騒ぐんじゃないよ!!」
女将が怒鳴った瞬間
ボォォォォォッ!!
「火力増したァァァ!!?」
「感情反応で術式が拡大しています!!」
リリアが机を叩いた
「モブ彦さん!!
今すぐ謝ってください!!」
「えぇ!?」
「早く!!」
モブ彦は慌てて立ち上がる
「いや!!
別に怒ってないでござるよ!?
うまいし!!」
すると
ボッ……
炎が少し小さくなった
「鎮火した!?」
「感情連動型だからか!!」
店内がざわつく
モブ彦は冷や汗だらだらだった
「怖すぎるでござるこの世界……」
「あなたのせいです!!」
リリアが叫ぶ
「だから不用意に喋らないでくださいって言ってるでしょうがァァァ!!」
モブ彦は半泣きだった
「吾輩、
飯食ってただけでござるぅぅぅ!!」




