第8話 やっぱこの世界、ビジュつよつよ多すぎでござるな……
翌朝
宿屋『銀狼亭』では、
女将が焼け焦げた厨房を修復していた
「いやぁ!!
久々に派手に燃えたねぇ!!」
「すまんでござる……」
モブ彦が気まずそうに頭を下げる
「気にしなさんな!!
アンタ悪気なかったんだろ?」
「まぁ、
そうでござるが……」
「それに飯うまいって言ってくれたしねぇ!」
「それはガチでうまかったでござる」
「そうだろぉ!?」
女将が豪快に笑う
リリアだけが疲れ切った顔をしていた
「笑い事じゃないんですよ……」
「嬢ちゃん真面目だねぇ」
「真面目にもなりますよ!!
禁呪災害ですよ!?」
「でも街燃えてないしねぇ」
「それは私が止めたからです!!」
モブ彦は苦笑した
「いや、
吾輩としては普通に喋ってるだけなのでござるが……」
「だから!!
それが一番怖いんですよ!!」
女将がケラケラ笑う
「仲良いねぇアンタら」
「よくありません!!」
「理不尽でござる」
宿屋を出る
朝の街は活気に満ちていた
露店
行商人
鎧姿の冒険者
モブ彦はキョロキョロと周囲を見る
「異世界の朝って感じでござるなぁ……」
「今日はお金を稼ぎます」
「お金?」
「旅費です」
リリアが真顔で言った
「宿代、
修繕費、
全部必要なんですよ」
「…………」
モブ彦が目を逸らす
「……すまんでござる」
「なので、
冒険者ギルドへ行きます」
その瞬間
モブ彦の顔が輝いた
「冒険者ギルド!!?」
「声が大きいです」
「ついに!!
ついにテンプレイベントでござるか!!」
「テンプレって何なんですか……」
モブ彦は早歩きになった
「受付嬢いるでござるか!?
美人受付嬢!!
ギルドの姉ちゃん枠!!」
「知りませんよ」
「頼む!!
そこだけは異世界テンプレであってほしいでござる!!」
リリアはもう止めなかった
どうせ止まらない
それを理解し始めていた
やがて
巨大な建物が見えてくる
剣と盾の紋章
酒場のような騒がしさ
冒険者ギルドだった
「うおぉぉぉぉ!!」
モブ彦のテンションが限界突破する
「本当にギルドでござる!!
なろうで読んだやつ!!」
「また意味不明なことを……」
中へ入る
大量の冒険者達が一斉にこちらを見た
その瞬間
空気が変わる
「おい……
昨日宿屋燃やした奴だぞ……」
「禁呪使い……」
「王都の……」
ヒソヒソ声が広がる
モブ彦は小声で呟いた
「もう悪名広がってるでござる……」
「半分どころか全部自業自得です」
その時だった
「ようこそ、
冒険者ギルドへ」
受付から女性が現れる
長い金髪
整った顔立ち
柔らかな笑み
モブ彦が固まった
「…………」
「?
どうかしましたか?」
モブ彦は震える声で呟く
「リリアたん……」
「なんですか」
「やっぱこの世界、
ビジュつよつよ多すぎでござるな……」
一瞬
空気が揺れた
リリアの顔色が変わる
「まさか――」
ゴォォォォォッ!!
紫色の魔力が周囲へ広がる
「《ビジュつよつよ》!!」
リリアが叫ぶ
「対象の外見評価を異常強化する、
視覚干渉型禁呪です!!」
「えっ!?」
その瞬間
ギルド奥の扉が吹き飛んだ
「ギャギャァァァ!!」
飛び出してきたのは、
一匹のゴブリンだった
「あっ!!
初心者訓練用ゴブリンが!!」
受付嬢が叫ぶ
「逃げてください!!」
だが
「…………」
全員が固まる
顔だけ、
異様に整っていた
長い睫毛
通った鼻筋
キラキラした瞳
なのに身体は普通に汚いゴブリン
「いや待つでござる待つでござる!!
顔だけSSRで身体Nなのでござるが!!?」
「なんで初心者用ゴブリンに術式かかってるんですかァァァ!!」
リリアが絶叫する
ゴブリンは無駄に爽やかな笑顔を浮かべた
「ギャッ……✨」
「キッッッッッツ!!
顔だけ盛るのズルいでござるゥゥゥ!!」
冒険者達が混乱する
「なんだこいつ!!」
「顔だけ王子じゃねぇか!!」
「でも身体ゴブリンだぞ!!」
「逆にキモい!!」
カオスだった
モブ彦は頭を抱える
「いや、
吾輩そんなつもりじゃ――」
その時
受付嬢がポツリと呟いた
「……でもちょっとカッコいいかも」
場が静まり返る
「えっ」
ゴブリンが髪をかき上げた
キラァン……
「ギャッ✨」
「やめるでござるゥゥゥ!!!」




