第5話 とりあえずROMるでござるか…
王立禁呪管理機構・中央本部
特別危険対策会議室。
半壊した天井から、
冷たい風が吹き込んでいた。
「被害状況確認!!」
「西棟の崩落止まりません!!」
「術式残滓を回収しろ!!
新禁呪の可能性がある!!」
職員達が怒号を飛ばす。
その中心で。
「いやだから、
吾輩ただ喋ってるだけでござるが……」
モブ彦だけが普通に座っていた。
ギチギチに封印鎖で拘束されながら。
「黙れ災厄!!」
騎士団長が机を叩く。
「貴様が現れてから僅か数時間!!
市場は半壊!!
禁呪汚染は王都全域へ拡散中だ!!」
「理不尽でござる!!」
リリアが疲れ切った顔でため息を吐く。
「……確認します」
銀髪を揺らしながら、
モブ彦の前へ立つ。
「あなたは本当に、
禁呪を使っている自覚がないんですね?」
「ないでござる」
「無意識で発動している、と?」
「むしろ吾輩が聞きたいでござるよ」
即答だった。
周囲がざわつく。
「高度精神欺瞞の可能性は?」
「いや……
ここまで自然だと逆に……」
「本当に理解していない……?」
リリアは真っ直ぐモブ彦を見る。
「……どうして、
そんな平然としていられるんですか」
「へ?」
「あなたは今、
世界を崩壊寸前に追い込んでいます」
「そんなつもりないでござるよ……」
モブ彦が少し視線を落とす。
「異世界来たらテンション上がるじゃないでござるか……」
「知らないです」
「冷たいでござる」
その時。
バァン!!
会議室の扉が勢いよく開いた。
「緊急報告!!
王都西区画で《炎上》発生!!」
「またか!!」
「若者同士の口論が原因です!!
現在広域延焼中!!」
空気が凍る。
「まさか……
禁呪が伝播しているのか……?」
「ありえない……
言語汚染だと……?」
職員達が青ざめる。
窓の外には、
王都各地から上がる煙。
「…………」
モブ彦が静かに呟く。
「……吾輩のせいでござるか?」
誰も答えられなかった。
その沈黙だけで、
十分だった。
「……やっぱ、
吾輩ここにいない方がいい気がするでござるな」
モブ彦が困ったように笑う。
「待ってください」
リリアが咄嗟に声を上げた。
「あなたを野放しには――」
「いやでも、
このままだとリリアたん達にも迷惑かかるでござるし」
「リリアたん言うな!!」
「すまんでござる」
モブ彦が、
癖のように眼鏡のない顔へ手をやる。
「とりあえず――」
リリアがハッと顔を上げた。
「まさか……!」
「ROMるでござるか」
――スゥ……
「…………え?」
モブ彦の姿が薄れる。
次の瞬間。
完全に消えた。
「対象ロスト!!」
「魔力感知反応なし!!」
「視認不能!!」
騎士達が絶叫する。
「なんだこの術式は!?」
「まさか……
この現象は……!」
リリアの顔から血の気が引く。
「《ROMる》……!!」
会議室が静まり返る。
「王立禁呪管理機構指定禁呪……
高度気配遮断術式です!!」
「なっ――」
「存在認識そのものを希薄化する、
伝説級隠密禁呪……!」
騎士達が青ざめる。
「そんなものを、
“とりあえず”で使ったのか……?」
その時だった。
「うわっ」
「きゃあっ!?」
突然、
リリアの真後ろから声がした。
振り返る。
そこには。
「普通に壁際行っただけでござるが?」
モブ彦が立っていた。
「…………」
「…………」
「なんで戻ってきたァァァァ!!!」




