第5話 5階のボスは、エメラルドゴブリン
1階〜4階までの道のりは危なげなくクリアして、現在渋谷ダンジョン5階まで到着。
「到着っと……茂みが多くなってきたね。宵宮さん。足元には十分気をつけてね」
宵宮さんと左手を繋ぎながら移動していた。
階が進むごとに、草原から草木生い茂る森林に地形は変わってきてるようにみえる。
「ありがとうございます。天照さん」
〖……小娘。顔が赤いピ……ピギャァ!?〗
「お黙りなさい。雛鳥」
〖中身が出るピヨッ! 握り潰すなピヨップ!〗
相も変わらず。宵宮さんとスザクは仲が良い。
「…………渋谷ダンジョンの最初のボスは、エメラルドゴブリンか」
ショキカ草原1階〜5階までの転移門の位置は、スザクが説明した通り最初に攻略した位置と同じ場所に設置されていた。
「たしか、エメラルドゴブリンのレベルはフロアボスだから少し高めの9レベル」
最初の攻略時は、『七星歴・太陽』としての強さがあったから瞬殺できたけど。
「……宵宮さん、スザク。作戦を立てようか。絶対に勝てる相手だとしても油断はしたくないからね」
「はぁい! 天照さん!」
〖ピヨップ! 陽光! この小娘が我を苛めるのだ!〗
「まぁ! なんて言い草なんでしょうか! 全ての諸悪の根元のくせに!」
〖なんだとピヨッ!!!〗
駄目だ。話が全然進まない。仲良すぎでしょう、この2人。
2人のじゃれ合いは1時間以上続いたので、その間俺はエメラルドゴブリンの周辺に潜むモンスターを倒してレベルアップしながら暇を潰していた。
「天照さんは、ゴブリンの右腕がまだ自在には使えないと思いますので、前衛はわたくしと、この雛鳥にお任せ下さい」
「そうだね。それなら安心かな」
〖待つピヨッ! なんで我も戦闘に参加することが前提で話が進んでいるピヨップ!〗
「あら? 貴方は、『七星歴・太陽』の守護獣になったのでしょう?」
〖当たり前ピヨッ! 我は陽光の生き様に惚れて、主と決めたピヨップ!〗
「ならば最強種になりなさい。天照さんの守護獣がこんな雛鳥では、外の世界に脱出した後に悪い噂が立ちますもの」
〖さ、最強種ピヨッ!?〗
元ね、元。……今は全ての力を失ったニュービーになっちゃったよ。とほほ。
「当たり前ですわ! 貴方、天照さんがどんな凄い方なのか知らないで、主従の関係になったですの?」
〖し、知らないに決まってるピヨッ!〗
「……呆れましたわね。良いですか、天照陽光さんは、最年少で″七星歴"の1人に選ばれた凄い方なのですよ」
〖そ、そうなのか? 陽光〗
「ん? あぁ、たまたまね」
「パートナーになりたい守護獣も沢山いるのですから、精進することですわね。陽光様のパートナーを狙っている「ホルス」や「ラー」に奪われないようにした方がいいですわよ」
〖ホルスタインにラーメンピヨッ? 美味いのかピヨップ?〗
「誰もお牛とラーメンの話なんてしてませんわ! お馬鹿さんですの? この雛鳥は」
〖誰がお馬鹿さんピヨッ! 我は渋谷ダンジョンを治める不死鳥ピヨップ!〗
駄目だ。本当に話が進まないや。
「はいはい。そこまで〜!……切り替えようか。ここからは、生と死を決する戦いなんだからさ」
「……!……は、はい。失礼しました。天照さん」
〖す、すまないピヨ。陽光〗
2人に対しての言葉の波長を少し強めに言ってしまった。
……人の言の葉というのには、力が宿っているという。とくに信念のある者の言葉には「魂」が宿る。
だから、俺は己の言葉に魂を乗せて気が緩みきっている2人に対しての告げた。
「油断は禁物だよ。死んだら終わりなんだ……それがダンジョン探索者なんだからね」
俺は宵宮さんを《《必ず生きてダンジョンから脱出させると》》心に誓っているんだ。
最初のフロアボスだろうと《《妥協は許されない》》、必ず勝つ。
◇◇◇
渋谷ダンジョン5階「ヒスイの庭園」。
この中央の森林に不可思議な広場があり、その広場の奥には次の階へと通じる転移門がある。
その転移門を守るようにして、この5階フロアボス「エメラルドゴブリン」が鎮座している。
体調は2メートル位の巨体で、腰に汚い腰巻き。大鉈のような剣を右手に持っている。
そんなエメラルドゴブリンの目の前に、小さな雛がヨチヨチ歩きで突然歩いて行く。
【………………グル?】
〖ピヨピヨ……ピヨピヨ……ピヨッ!〗
【…………グ?】
〖ピヨッ!……ピヨップ!〗
【?………グオオオ!!!】
〖ピヨ〜!!! 我を助けてピヨッ! 陽光! 小娘〜!〗
些細な隙だった。
人間が自然と瞬きをするような一瞬、エメラルドゴブリンに《《隙》》が生じた。
モンスターには関係のない0.5秒の隙。
だけど探索者である俺や宵宮さんに取っては、初撃を与えるために確実にほしい一撃だった。
「ナイスですわ。雛鳥! 少しだけ見直しましたわ!」
【グルッ!? グルオオオ!!】
気配の一切を消して、近くの茂み隠れていた宵宮さんがエメラルドゴブリンの目の前まで駆けて行く。
宵宮さんが、この戦いで選んだ武器は「なまくらの短剣」を二つ。
彼女は右手に持っていた短剣を勢いよく振り上げた。
突然現れた宵宮さんに戸惑っているエメラルドゴブリンは、心臓部へとなんの躊躇いもなく突き刺した。
ガキンッ!!!
【グルホホホ!!】
エメラルドゴブリンの左胸辺りから鈍い金属音のようなものが聞こえてくる。
そして、エメラルドゴブリンは宵宮さんを見上げてイヤらしい笑みを浮かべている。
「天照さんの言った通りですわね。ゴブリン系統は、女探索者を見下す傾向にあるモンスターだから気が緩みやすい……わたくし相手に油断は禁物ですことよ! 〈水球〉」
宵宮さんは地面を蹴ると、勢いをつけて左手に持っていた短剣をエメラルドゴブリンの両目に深く刺し、その短剣に〈水球〉を付与してエメラルドゴブリンの頭頂部から全身内部へと行き渡るように大量の水を流し込んだ。
【グルアアアアア!!】
エメラルドゴブリンの目、鼻、耳、口から勢いよく水が滴り落ちていく。
「これで両目は潰しましたわ。距離を取りますわよ。雛鳥」
〖ピ、ピヨップ! お前の攻撃えげつないピヨ! 小娘。とんでもない外道攻撃娘ピヨップ!〗
「お黙りなさい! モンスターとの戦いは、いつも本気の殺し合いですの。勝てばよかろうですわ」
〖ド畜生ピヨッ!!!〗
役目を終えた2人が俺の方へと戻って来る。
【グルオオオオオオ!!!】
「お疲れ様、交代するよ。宵宮さん」
「い、いえ//// わ、わたくし憧れの天照さんのためならなんでもやりますわ。……適切なタイミングで〈水球〉撃ちますわね」
「うん。ありがとう」
戦いには必ず勝つけど、検証もした方がいい。今後の戦いのためにも、ゴブリンの右腕がどこまで使えるか試そう。
宵宮さんは、そう言ってくれた。
「そのために、「エメラルドゴブリンの視界を奪いますわ」なんて言うんだもん。流石はA探索者にして、配信ライバー、……〈火球〉」
《《右腕》》で〈火球〉をエメラルドゴブリンの右腕へと初めて放ってみた。するとエメラルドゴブリンの右腕は、黒焦げになっていた。
……結果。今まで左腕で放っていた〈火球〉」よりも一段威力が高い。
【グル!?……グオオオオオオ!!!】
エメラルドゴブリンのスキル「仲間呼び」。
「無駄だよ。ピンチになったら、君がそのスキルを使うのは《《最初から分かっているんだ》》。……ゴブリンの特性は小武器を器用じゃないけど多彩に使えること。試してみよう」
右手に持っているゴブリンが使っていた「錆びた短剣」を、隙を見つけて一気に近付きエメラルドゴブリンの腹部へと深く刺した。
【ウガアアアアアア!!!】
ゴブリンの右腕を使用時の小さく壊れかけの武器は左手で使っていた時よりも威力が多少上がることが分かった。
レベル12の時点で覚えていたスキルは2つ。「模倣」と「巾着袋」。今回、主体に使うスキルは「巾着袋」。
「巾着袋」の中には、これまで倒してゴブリンたちから奪った武器が大量にストックされている。
「……悪いけど。再攻略させてもらうよ。俺は宵宮さんを守って守って……渋谷ダンジョンから脱出させてあげる使命があるんだ」
スキル発動―――「巾着袋」
これから刺すは不衛生な「錆びた短剣」や「錆びた鈍器」。
こんな物が体内に大量に刺されば、どんなモンスターでも雑菌が大量に進入し、体内から身体を蝕まれていく。
【グルアアアアア!!】
「〈水球〉」
【ゴボガアッ!?】
「騒いでも無駄だよ。騒ごうとして大口を開けば、宵宮さんが放った〈水球〉が飛んできて、大きな隙を作ることになる。〈火球〉」
【グオオォオォ!!】
隙もなく突き刺されていく錆びた武器。
叫ぼうとすれば火球か水球が容赦なくその口を塞ぐ。
そんな状態が五分も経過すれば、エメラルドゴブリンの心臓部が翡翠の宝石の膜に覆われていても関係ない。
◇
【……ゴォ……グオオォオォ!!…………オォ……】
エメラルドゴブリンは立ったまま絶命。
〖ピコンッ! タラタタッタタッタラ〜!〗
「ほぼ無傷で倒せた。レベルも上がったね。それに……」
スキル発動―――「模倣」
「天照さん。大丈夫でしたか〜?……! 天照さん。右腕が」
「うん。また変わったよ。さっき倒したばかりのエメラルドゴブリンの右腕に……ごっつくなったね」
◇
天照陽光
レベル19
スキル 模倣 巾着袋
火魔法(初級)
宵宮カノン
レベル18
スキル 福音 補助
水魔法(初級)
スザク(不死鳥の雛鳥)
レベル1
◇




