第23話 201階層・溪谷の旅へ
現在、安全地帯。
気がついたらここに立っていた。
魔道潜水艦は「巾着袋」にいつの間にか収納されて、俺の膝の上には『人魚のアリア』が横たわっていたんだ。
【旦那さんたち元気がないのね。どうしただろうね?】
【下の階層でなにかあったみたいなのね。今はそっとしておいてあげた方が優しさなのね】
【了解なのね。そっとしておいてあげるのね〜!】
【………それにしても、旦那さんたちで近くに眠ってる女の子、全然起きないのはなんでだろうね?】
不思議存在の愉快な会話が少し離れた場所から聞こえてくる。
「……………」
「……………」
〖……………〗
気まずい雰囲気だ。
無理もない。バルザロッサさんとの突然のお別れで戸惑っているんだから。
「…………さっき起こったことを話し合っていこうか」
「……はいですわ」
〖……ピヨップ〗
宵宮さんもスザクも元気があまりない。
「200階層の攻略は、バルザロッサさんの協力もあってクリア。その代わりバルザロッサさんは消えて、彼との「調伏」パスは、その娘であるアリアさんに移ったね。起きないけど」
「………えぇ、多分ですが。95階層で戦って調伏に成功した。「ファイアリー姉妹」と似た現象だと思います。力の大半を失って、モンスターとしての自我や身体の行使ができないので、眠っている状態かと」
俺と宵宮さんは、隣のソファーに横たわって眠るアリアを見つめた。
「……………………」
青髪の美少女は、寝息も立てずに死んでいるかのように静かに眠っている。
「バルザロッサさんは最後に言っていたね。〖再攻略された際には娘も再び目を覚ますだろう〗って」
「それでは、アリアさんは私たちが渋谷ダンジョンを再攻略して外に出ない限り目覚めることがないということですね」
「うん、結論からいくとそうなるね。……だからさ」
「……はい」
「頑張って再攻略しよう。この渋谷ダンジョンを、そしてバルザロッサさんの願いを叶えてあげるんだっ!」
俺は拳を握りして叫んだ。
水エリア攻略に力を貸してくれたバルザロッサさんに報いたいと思って、ついつい叫んでしまったんだ。
「はい! 勿論ですわ! 必ずバルザロッサさんの願いを叶えましょう! 天照さん! 私もそのために全力を尽くします!」
〖ピヨップ! ピヨピヨピヨピヨ!! 小娘、良い心がけだピヨップ!! これからは今までの100倍は我らのために働くんだピヨ。ピヨピヨ〜! ピヨピヨ〜! ピ〜ヨピヨ〜!……グエップ!? な、なにするピヨ? 中身が飛び出ちゃうピヨ……〗
スザクが日の丸扇子を取り出すと、いつものよく分からない舞を踊り出して……
「どさくさに紛れて、なにが100倍は働けですの? 私、貴方よりも1000倍は活躍している自負がありますの」
〖ピ、ピエエ〜! 助けてピヨップ。陽光〜! キュエップ!?〗
宵宮さんに折檻された。
さっきまで暗かった雰囲気が嘘のように、いつものやり取りが繰り広げられる。
そして、俺は眠っているアリアを見つめて決意する。
「200階層まで踏破完了。残り300階層。……待っていて下さい、バルザロッサさん。必ず渋谷ダンジョンを再攻略して、貴方の望みを叶えてみせます」
こうして俺たちは新たな決意で、ダンジョン攻略を頑張ると結論に至って、再び動き始めた。
それと、眠っているアリアは俺のスキル「巾着袋」をエクストラスキルに進化させた「異空生活」の生活空間で眠ってもらうことにした。
この空間の中に居れば安全だし、俺が彼女に何か起こった時にすぐに気づけるんだ。
◇
渋谷ダンジョン201階からは雷エリア。峡谷からのスタートだった。
快晴の空になだらかな山々が見える。
この雷エリアの特徴は、階が進むごとに悪天候になってくること。
いきなり海底の旅から山脈旅なんて、これぞダンジョン攻略って感じがするね。
「山の移動用に魔道バイクが欲しいところだね」
「それでは、次の安全地帯で購入致しますか? たしか魔道バイクは高かったですよね? 魔道潜水艦を売れば……いえ、バルザロッサさんとの思い出の品を売るのはまずいですわね」
「うん、あれはずっと残しておこう。雷エリアは珍しい鉱石や宝石が発掘できるから、それを元手に魔道バイクの資金を稼いでいこう」
「了解ですわ!」
水エリアの攻略は、とにかくお金がかかったため、現在は金欠気味。
階層を上がる度に魔道潜水艦のメンテナンスを不思議存在たちにしてもらってたんだけど、細かい所まで直してくれるから支払うお金が莫大だったんだ。
〖ピヨ〜! 不思議存在の奴らは守銭奴ピヨップ。あんな海底専用の乗り物を直すだけで莫大なお金を毎回毎回要求してくるとんでもない奴らピヨ〗
「なにを言ってるんですの! あんな丁寧な修繕点検はありませんわ。格安ですし、魔道の乗り物の維持コストなんて巨額になるなんて当たり前ですのよ」
〖そうなのかピヨ? それは小娘との世間の擦れじゃないピヨか? 小娘は世間知らずピヨピヨ頭だから心配ピヨ……グエップ!?〗
「会話の隙間、隙間に私のディスりを入れるのは止めて頂けます? 雛鳥。丸焼きに致しますわよ」
宵宮さんとスザクのコントを聞きつつ、周囲を見渡す。
「今は緩やかな傾斜だけど。階を上るにつれて、地形が悪くなっていくか。それにモンスターも前より……」
【【【ルオオオオオォ!!】】】
茶色の毛並みをしたモンスター、茶狼の群れが遠くからやって来る。
「徒党を組ながら集団で襲って来るから、厄介なんだよね。〈土矢〉」
最近覚えた土魔法で応戦していく。
そろそろ魔法やスキルレベルも上げないと戦えなくなってくる。
単純な基礎体力をつけるだけのレベリングだけじゃ倒さない敵も出てくるんだよね。
「上れば上るほどフィールドも敵も難易度を徐々に上がる。ダンジョンの醍醐味というか、パーティー人数が少ないと苦戦するんだよなぁ」
人数……人数? なにか大切なことを思い出したような。
「あっ!」
「? どうされましたか? 私の天照さん」
〖陽光は誰の物でもないピヨ〗
「お黙りなさい」
〖グエピヨ……〗
「あ、うん。……水エリアで色々あって忘れてたけど思い出したんだ」
「え〜と、なにをでしょうか? 私との結婚式のことですの?」
〖なんでそうなるピヨ? 小娘はおバカさんピ……グエップ!?〗
「アリスドールだよ。そういえば、いつの間にか揃ってたのを思い出してね」
「アリスドール?……あぁ、不思議存在さんたちから頂いていたプレゼントですか」
「そうそう。アリアのことで頭がいっぱいで忘れてた。早速、異空生活の中から取り出して、組み立ててみよう」
「それならば、私は安全な場所を作り出しますわ」
スキル発動────「天幕」「結界」
エクストラスキル発動────「異空生活」
俺はこれまで手に入れた「アリスドール」の部品を取り出し、組み立てて始めた。
宵宮さんはテントのような物をスキルで作り出して、モンスター避けに結界まで張ってくれた。
〖わ、我は……応援するピヨ〜! ピヨピヨ〜! ピ、ピ、ピヨ〜!〗
そして、スザクは日の丸扇子で踊り始めた。
◇
数時間後、慣れない人形の組み立てに四苦八苦しながらも、なんとかアリスドールの組み立ては終わった。
無機質な人形の完成。
「なんだか……少女のマネキンみたいに見えますわね」
「無個性ピヨな」
「後は、パーティーメンバーの誰かの人格を「魔力玉」に込めて胸元の魔力炉にはめれば、その人の疑似人格と力を持ったアリスが誕生して、動き出してくれるよ」
〖それじゃあ、我の尊い疑似人格を埋め込むピヨップ!〗
スザクは「魔力玉」を器用に持つとアリスドールの胸元に埋め込もうとした……んだけど。
「お、お止めなさい! ピヨップピヨップとうるさく、貴方のような腐った疑似人格がもう一体増えるなどごめん被りますわ!」
〖ピヨ〜! なんだとピヨップ!? なん足る言いがかりだピヨ〜!〗
「事実しか申してませんの!」
宵宮さんに阻止された。
「それじゃあ、ここは宵宮さんの疑似人格にしようか。これで戦ってくれる戦力が増えて大助かりだよ。頼めるかな? 宵宮さん」
「はい! ですわ! 喜んでお引き受け致します」
〖止めるピヨ〜! 陽光〜! こんなピーチクパーチクうるさいのがもう一人増えたら、我がストレスで円形脱毛症に陥って全身のお毛毛が抜けまくるピヨップ〜!〗
「お黙りなさい! いつもいつも、ピーチクパーチクうるさいのは貴方ですわ。雛鳥」
喧嘩が始まった。大乱闘だ。
「………仕方ない。それじゃあ、ここは俺の疑似人格を入れて……あれ? バルザロッサさんから託された「人魚姫の指輪」がいつの間にか、アリスドールの胸元に埋め込まれてる」
「はい?」〖はいピヨ?〗
そして、アリスドールの身体が青色の光を放って……
「………クスクス。ふぁ〜! よく寝たわ。おはようマスター、私はアリア。渋谷ダンジョン五大厄災の一人「人魚のアリア」。これからの貴方の旅を超絶サポートする存在よ。よく覚えておいてね。クスクス」
人魚のアリアが俺たちのパーティーに加わった。
◇
天照陽光
レベル703
エクストラスキル 陽ノ神楽 天照剣術(免許皆伝) 鳴神自在 異空生活
スキル 模倣 心眼 業物 瞬動 調伏(初級)
火魔法(特級)雷魔法(上級)
土魔法(初級)
宵宮カノン
レベル701
エクストラスキル 豊穣ノ知 良妻賢母 最愛慈愛
スキル 福音 補助 天幕 結界
水魔法(特級)風魔法(上級)
光魔法(初級)
回復魔法(特級)
人魚のアリア(アリスドール)
レベル1
スザク(不死鳥の雛鳥)
レベル8
スキル 隠密 物真似 治癒 変身
◇




