第18話 宵宮さんの契約(ギアス)タイム
結論、なんとか勝てた。
カグチは当然のように相討ち覚悟で戦いを挑んできていた。
目を見たら分かる。彼女は本気で俺が死ねばいいと思っていたんだと。
だって目が血走って怖かった。一切の容赦がなかったんだ。
「真に覚悟を決めた敵は「勝てばよかろう」の精神で何でもするからね。たぶん、カグチの心臓が止まっていたら、カグチを起爆剤に大爆発を起こしていたと思うよ。そうなれば95階~100階は塵になってたかな」
「それで「調伏」に至ったというわけですわね。納得ですの。…………そして女の子としては、文句を言いたくてたまりませんの。良かったですね、天照さん。可愛らしい女の子たちを調伏できてしまって」
「痛……宵宮さん。ステイ! 俺の両頬引っ張らないで、伸びる、伸びるから」
怒れる宵宮さんに頬っぺたをつねられている。怖い、今の宵宮さんが怖い。
「それでは、今日こそは同じ部屋で眠りましょう。そうすれば許して差し上げますの〜!」
「………そんな」
「そんなではありませんわっ! 旦那様……コホンッ! 天照さんはモンスター美少女でハーレムを作る気ですの?」
「ハーレムなんて、俺はただ生き延びるために「調伏」スキルを使っただけなのに」
「知りませんわ。天照さんは私の天照さんなのですわ」
なんて理不尽な宵宮さん。
彼女がこんなに怒ってるの初めてみるよ。
〖ピヨ〜! お若い同士の痴話喧嘩ピヨ〜! まるで他所から見たら熟年夫婦ピヨップ〜! ピヨピヨ〜!〗
そして、スザクは俺と宵宮さんのやり取りを見て楽しそうににやけていた。
【いや〜! 混乱を解決してくれてありがとうなのね〜! 助かったのね〜!】
【お礼に「アリスドールの左足」をプレゼントするのね〜!】
【本当に助かったのね〜!】
安全地帯に滞在中。不思議存在からお礼とプレゼントを貰った。
そして、現在95階層での戦いを振り返って反省会中。
俺の目の前には、ペンと紙……それと判子で押す時に使う朱肉が置かれていた。
これは全て宵宮さんが用意したものだ。
「『俺、天照陽光はモンスターハーレムなんて作りません。宵宮さんだけをずっと見続けていきます』……これを書いて親指の朱印を押せば許してくれるの? 宵宮さん」
「はいですわっ! それで今回の件をチャラにできますわ。天照さん」
〖ピヨ〜! その誓約に判を押しちゃ駄目ピヨ。陽光〜! それは小娘の罠。狡猾な罠なんだピヨップッ!!!〗
「お黙りなさい。雛鳥」
〖グエップ……小娘。いよいよ本性を現し始めたピヨッ……プ……ガクッ〗
スザクが気絶した。
「ささ、天照さん。その紙に天照さんの朱肉を押して下さいませ」
「う、うん。分かったよ。宵宮さん」
ニコニコ笑顔の宵宮さん。……宵宮さんの無言圧力が怖い。
逆らえない。……なのでスザクの忠告は無視して、親指に朱肉を付けて、紙に朱印を押した。
すると、朱印を押した紙は、怪しい光を放って……宵宮さんの手の中へと飛んで行った。
「やりましたわ。天照さんとの契約が完了しましたの〜! やりましたわ! お母様〜!」
「………やっと頬っぺた放してくれた。今後は宵宮さんを怒らせないようにしないと」
〖……今後の陽光の人生は地獄ピヨ……きっと小娘の尻に敷かれるとんでもない人生になってしまうピヨヨ〜!〗
スザクは意識を取り戻して、なぜか泣いていた。
宵宮さんが俺に酷いことをするとは思えないんだけどね。そ
れと契約とは、契約した相手と破れない誓いを立てる魔法みたいなものかな。
そこら辺は「調伏」と似ているんだけど。
俺は支配系統スキルは苦手だからね。詳しいことはあまり知らない。
急遽、必要になった「調伏」スキルだって、本当は俺のスキルの資質とは合わないものだけど、今後の戦いでは必須になっていくだろうし。
支配系統スキルのことは宵宮さんから徐々に教わればいいかな。
「やりましたわ〜! これで天照さんと幸せになりますわ。私、旦那様の良妻賢母になりますわっ!」
〖ウウゥゥ……絶対に阻止するピヨップ。これで小娘と陽光が結ばれたら、我は一生の小娘の手下ピヨ。それだけは絶対阻止するピヨ……ピヨヨ〜!〗
喜ぶ宵宮さんと、涙を流すスザク。……「なんか、いつも通りのパーティー風景だな」と思いながら、次の階層攻略について俺は考え始めた。
あっ! そういえば、まだ宵宮さんに話してなかったことがあった。
俺、契約とか呪系統の耐性が強すぎて、あまり効かないことを。……なんか嬉しそうにしてるし、渋谷ダンジョンを脱出してから教えてあげればいいかな。
◇◇◇
1日後。俺たちは安全地帯を後にして、101階層へと上った。
【ギイャアアア……】
〖ピコンッ! タラタタッタタッタラ〜!〗
「なかなかレベル上がらなくなってきたね」
「そうですわね。序盤でレベルを上げすぎたでしょうか?」
「いや、そこはちゃんと計算してレベリングはしてたつもりだけどね。……カグチの作戦がここにきて響いて来るとは思わなかった」
襲いかかってくるモンスターを数百体は倒しているのに、レベル1しか上がらなかった。
これも95階のカグチ戦で大量にモンスターを倒して、急激なレベルアップをしたせい。
レベルアップ時には、体力も魔力も回復するから定期的なレベルアップは、ダンジョン内の移動での疲労蓄積を補助する側面もある。
それが101階では、なかなかレベルアップができない。モンスターを倒して得られる経験値があまりにも少ない。
俺は、自身のステータス画面を確認しながら、考える。
「……後、レベル1上がれば500レベル。エクストラスキルを取得できるね」
「どうされます? ここでレベリング致しますか?」
「いや、モンスターは無視して一気に140階まで上ろうか。そうすれば、再びレベルアップしやすいからね」
このままレベルアップしにくい状況が続くと体力や気力まで奪われていく。それなら、レベリングしやすい階層まで一気に上った方が得策だと思った。
「畏まりました。それでは雛鳥が戻ってきたら次の階へと進みましょう」
俺たちが話し合っている間、スザクは用足しに行っていたんだ。
〖ピヨップ〜! お腹スッキリしたピヨヨ〜! 快便ピヨ! 陽光〜! 小娘〜!〗
「わざわざ、そんな汚い自己報告はいりませんわ! 雛鳥〜!」
〖ピヨ~? なんだ小娘、我がいない間。寂しくて辛かったピヨップ? しょうがないピヨピヨ〜!〗
スザクがトイレから戻って来ると、宵宮さんの右肩に止まると、宵宮さんの頬に、自身の身体を擦り付け始めた。
「ちょ……ちょっとお待ち下さいな。おうんちの香りではありませんか! この雛鳥、なにを致しますの? 汚すぎますわ〜!」
こうして俺たちは一気に140階層まで移動、そしてその道中に、レベルアップして新しいエクストラスキルも取得した。
◇
天照陽光
レベル525
エクストラスキル 陽ノ神楽 天照剣術 鳴神自在
スキル 模倣 巾着袋 心眼 業物 瞬動 調伏(初級)
火魔法(特級)雷魔法(上級)
宵宮カノン
レベル524
エクストラスキル 豊穣ノ知 良妻 最愛慈愛
スキル 福音 補助 天幕 結界
水魔法(特級)風魔法(上級)
回復魔法(上級)
スザク(不死鳥の雛鳥)
レベル8
スキル 隠密 物真似 治癒 変身
◇
◇◇◇
ここは渋谷ダンジョン200階層『人魚の劇場』。
水を司る五大厄災「人魚のアリア」が支配する階層。
「あーあー、135階層のフロアボス「マザーオクト」も殺られちゃいましたよ。どうしますか? アリア様〜!」
『175階層 フロアボス・サンゴ』
【……クスクス……クスクス……何で?……アリアの力が無くなってるの? 意味分からない……クスクス……なんで? アリアの「人魚」の力無くなってるの?】
「………ちょっとアリア様〜! ボクのお話聞こえてますか? もしも〜し! アリア様〜!……あーあー、もう駄目じゃん。このボス使いもんにならねえわ。どうする? バルザロッサ船長」
『150階層 フロアボス・バルザロッサ』
「俺が行く。……が、姫にはなにも悪戯するなよ。サンゴ」
「ん〜! それは心が壊れたアリア様次第かな。今のアリア様って、陰気臭いからね〜! 流石は海底の人魚姫だよね、この人。クスクス」
【……アリアの力……アリアの力は……今どこにあるの? ねえ? 教えてよ………ノア】
『五大厄災・人魚のアリア』




