第16話 100階層・火島ノ神 カグチの愚策
95階~96階の間にある安全地帯内では、そこで働く不思議存在が大慌てしていた。
【ルール違反なのねっ! ルール違反なのねっ! これはダンジョン側の明確なルール違反なのね〜! 試練運営に必ず報告するのね〜!】
【チャレンジャー側に不利益なのね。どう落とし前を着ける気なのね? 渋谷ダンジョンのルール違反者は?】
【マズいのね。マズいのね。チャレンジャーさんたちが殺られてしまうのね〜!】
95階をクリアした天照陽光たちを出迎えようと待っていた不思議存在たち。
【【【ダンジョンルールはちゃんと守ってほしいのね〜! じゃないとチャレンジャーさんたち側に不利益になるのよね〜! 全くもう!なのね〜!】】】
彼らは突然のダンジョン内変異に怒りを滲ませながら、その対処に頭を悩ませていた。
◇◇◇
燃えるような紅蓮の髪を炎のように棚引かせて、赤いドレスを纏った褐色肌の美少女が、俺に不適な笑みを浮かべている。
五大厄災・「火島ノ神 カグチ」が現れた。
ファイを「仮調伏」した後に、95階に行ける転移門が点灯して使えるようになっているから、宵宮さんとスザクはアリィーを倒したんだね。
まぁ、それと同時にダンジョン天上の空がいきなり割れて、火山島と大量のモンスターが姿を現した。
【【【オオォオォオオオオオッ!!】】】
数千は軽く越えるモンスターが、95階層の島へと飛来しては俺の周辺を取り囲んでいく。
【しゃしゃしゃしゃ!! 安全地帯の木偶の坊共が必死に叫んでやがるのが聴こえてくるな】
「ダンジョンを正常に管理してくれている人たちを、そんな風に言うもんじゃないよ」
【はっ! モンスター側に靡かない愚者共をどう言おうと、ウチの勝手じゃろうが。……それよりも、よくもウチの舎弟たちを倒してくれたのう。天照陽光】
「……返そうか? 今なら仮の調伏状態だから、主従の関係も曖昧だ。これなら」
【はっ! いらねえよ! そんな雑魚姉妹。ウチにとっては、そいつ等は貴様を疲弊させるための道具に過ぎん。上階から連れてきたウチの眷属であるモンスターたちのようにな! いけっ! 者共!! 天照陽光に襲いかかり弱体化させよ。確実にな! しゃしゃしゃしゃ!!!】
【【【オオォオォオオオオオ!!!!】】】
カグチの掛け声と共に、モンスターたちが一斉に俺に襲いかかって来た。
この光景。まるで魑魅魍魎、鳥獣跋扈と言ったところかな。
「モンスターの数は……万は軽く越えてるか。レベルアップの機会をくれたのかな。〈火球〉〈雷光〉」」
【ギャシャァ!?】【オオォォ!?】【ギャアァ!!】
モンスターが群れて全方位から来たとしても簡単に倒せる。
【しゃしゃしゃしゃ!! どうしたどうした? 右手に持つ武器はお飾りか? いくらレベルアップ時に体力や魔力を回復するとはいえ、《《上がり過ぎたらまずいだろうに》》。この階層のモンスターの経験値なんてゴミに等しい経験値だもんな。この勢いで手持ちの武器も全て使えきれよ! なぁ、おいっ! 天照陽光!! 〈紅蓮華〉】
カグチの両手から炎が放たれる、形状は槍。
「狙いは俺のジリ貧にして、簡単にレベルアップできないように、物量攻撃で消耗させることか。……一周目の時はそんな悪知恵働かなかったくせに。二周目からは、やけに戦略的に動くじゃないか。〈火盾〉」
俺がモンスターたちに攻撃した後の隙を突いての攻撃。
嫌な攻撃タイミングだ。
これも狙ってやっているのがかなりの厄介。
なので、大規模魔法でモンスターを一層する。
「…………〈大極炎〉」
【しゃしゃしゃしゃ!! そんな上級魔法でウチの魔法を相殺できると思って……るのか!?……なんだ? このデタラメな力はぁ!? ふざけ……】
【【【ギャアアイアアア!!!】】】
半径100メートル内にいたモンスターたちを巻き込んでの大爆発。
ついでにうるさかったカグチも遠くに吹き飛ばした。
〖ピコンッ! タラタタッタタッタラ〜!〗
レベルアップ。
とりあえず体力と魔力は全回復。
「……あの「火山の島」。たしかカグチの住み家だったような。とういうことは95階~100階層が繋がった状態。ダンジョン側のルールが破綻してないかな? 〈大極炎〉」
【【【イギャアアアアア!!】】】
爆炎を再び巻き起こして、大量のモンスターを倒した。
予想していたよりもモンスターが多い。
「動くと肉体的な体力疲労は蓄積するし、戦いが長引けば精神的にも来る。……一対多の戦いとしては満点な戦い方だよ。火島ノ神・カグチ」
【しゃしゃしゃしゃ!! そうだろう、そうだろう。天照陽光~! ウチは頭が良くなったんじゃあ。以前よりも自我も明確になった。……お前を憎む心が育まれたんじゃあ。だから殺す! 貴様に殺された復讐を果たすために貴様を殺す!!】
スキル発動───「躍動」「加速」
………来る。
確実な俺への殺意を持ったカグチの攻撃が。
さっきまで戦っていたファイとは違う。
一切隠そうともしない、モンスターとしての純粋なカグチの殺意ある攻撃が、俺個人へと飛んでくる。
「〈火流動〉」
そして、俺はその攻撃を受け流して、向かって来るモンスターを減らすために有効活用させてもらう。
【お前!?……ふざけてるのか? ぶっ殺す!】
「君がどうやって変異したのかには、すごく興味あるけどね。俺たちはそれ以上に、渋谷ダンジョンの再攻略を急がないといけないんだ」
【……何?】
「まぁ、わざわざ100階層までの短縮通路を作ってくれたのには感謝するよ。移動距離がこれで省けたからね。ありがとう」
俺は頭を下げてお礼を言った。
いくら相手が狂暴なモンスターでも、俺たちのためにやってくれたことなので、お礼を言いたくなったんだ。
おまけにモンスターを引き連れて、俺たちのレベルアップまで手伝ってくれるなんてね。
すごいサービスだよ。
【………テメェ!! どこまでウチを軽く見る気だ? 最初の一周目の時も、ウチを瞬殺して無表情だったよな! 理由を答えろっ!】
「ん? あぁ、それは先を急いでいたからね。瞬殺できる階層は瞬殺しないと。あの頃はまだまだ強かったからサクサク行けるところは、さっさと行かないと攻略に時間なんてかけられないんだ」
【んだと、ごらぁ!? それはウチがお前にとって、全く眼中に入ってなかったって言いたいのか!? クソガキ!! 〈紅蓮弾丸〉】
「〈火流動〉」
……かなり挑発したから大技を撃ってくれたね。しかも連発。
これをまた最低最小限の魔力で受け流して、俺に向かって来るモンスターに被弾させていく。
〖ピコンッ! タラタタッタタッタラ〜!〗
「またレベルが上がった。本当に上がりやすいね」
これの繰り返しかな。
たしか95階~100階までの階層には、モンスターの無限湧きスポットは無い。
限られたモンスターの野生地域だったはず。
カグチはそういうことは知らないのか、全てのモンスターをこの95階層に投入してると見て取れる。
フロアボスのモンスターは、探索者のこういった攻略知識は持ち合わせていないし、入念な調べもせずに本番の戦いに望んだ形かな。
「………愚策だね。そのままなにも知らずに大技を出し続けてもらおうか。カグチ」
フロアモンスター『火島ノ神 カグチ』は、「調伏」するにはリスクが大き過ぎるモンスター。
気性も荒く、仲間を使い捨ての道具のようにしか思っていない。
育てれば、レートシングルSにまで成長する「ファイアリー姉妹」を簡単に見放してるしね。
「カグチ。俺はここから全く動かないからさ。どんどん攻撃してきていいよ。その方が当てやすいでしょう?」
【貴様あぁぁ!! 殺すっ! ぶっ殺してやるっ!!〈紅蓮爆炎〉】
そう。このモンスターは、自分の感情の制御ができない。仲間にするにはリスクが大き過ぎるんだ。
そのため渋谷ダンジョン序盤の100階層のフロアボスになったんだと個人的には思っている。ダンジョン主のスザク辺りが考えたのかな?
【当たらねえぇぇ!! なんで、ウチの攻撃が全部当たらねえんだよっ! ふざけんなぁぁやぁ!! これも裏切り者の不死鳥の仕業か? 依怙贔屓してんじゃねえぞ! 裏切り者のクソ鳥があああ!!】
「…………スザクは普段はアホの子として振る舞ってるけど。あの子は細部まで物事を考えてくれている。良い相棒だよ。俺の相棒を馬鹿にする言い方は止めてくれないか?」
【はぁっ! あんな頭空っぽのバカ鳥だろうが! そんなんだから、ウチ等「五大厄災」に渋谷ダンジョンを乗っ取られるんだよ。しゃしゃしゃしゃ!!】




