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第15話 圧倒的な準備格差

 身体中にみなぎる活力。


 あぁ、久しぶりだね。

 この《《強くなっていくという感覚》》。


 久方ぶり過ぎて忘れていた。強くなれるという幸せを、自身の強さの天上カンストを知ったのが数年前。


 この脳内から出る快楽物質ドーパミン


 レベルアップは俺にとって、とてつもない幸福感をもたらしてくれるんだ。


「……………あはっ! 行くよ。君」


スキル発動────「心眼」「瞬動」


 初手は、40階層でミノタウロスからドロップした大剣に極炎の一振。


 それを彼女ファイの頭上へと振り下ろしたところから戦いは始まった。


「は?……があぁぃぎぃあぁぁあ!!!!」



ズドオオオオンンッ!!!



 ファイアリー姉妹同士で、協力して戦われたら苦戦がいられると考えた俺たちは彼女たちの分断を選択した。


 引き剥がしは俺が、アリィーだけを結界に閉じ込めてを宵宮さんが担当。


「ここからは一対一の戦いだよ。さぁさぁ、思う存分力を振るいなよ」


「げほっ!…………お前。一周目とキャラが違い過ぎない? そんなに、頭のネジが飛んでる奴だったか?」


 軽く振っただけの攻撃じゃあ、そこまでのダメージは負ってないか。まぁ、以前戦った時よりも基礎値がかなり高くなっているだろうし。



 遠慮はしない、手加減もしない。

 この姉妹を最速でクリアして、本願の五大厄災カグチまで行こう。


「なめんな、なめんな。…………あちしたちは、お前のただの通過点じゃない。障害なんだ。分からせてやるっ!〈赤火竜セキカリュウ〉」


「もう瀕死の重傷だろうに。…………7分以下で終わらせて、丁度さっき覚えたスキルで捕縛ほばくしてあげるよ。〈牛刀乱闘シェフズナイフ・ブロール〉」



 俺はミノタウロスの右腕宿るユニークスキルを発動、赤い炎使い「ファイ」は赤い炎の剣を作り出し剣技をぶつけ合う。


 俺たちは、この瞬感のために入念に準備してきたんだ。


 負ける気はしない。


 当たり前のように勝って、100階層まで上りつめる。


「乱舞技、一撃一撃が重すぎる。……押しきられる!! があぁあぁぁあ! あちしの右腕が切れ……ぎゃあああああ!!!」


 俺に剣の押し合いで負けたファイが、島の浜辺まで吹き飛ばされる。


スキル発動────「模倣」


「剣撃が軽いね……これなら、これまで収集した右腕を「転換コンバート」しなくても勝てそうだね……追いかけないと」


 走り出す。

 反撃の隙なんて与えずに彼女は、今後の戦力として手に入れる。




◇◇◇

 

ドガアアアアアアンンッ!!!



 あの爆音。

 天照さんが戦い始めたようですわね。


 そして、こっちはというと……… 


「そんなそんな……………お姉さまが……お姉さまの右腕が切られた!?」



 激しく動揺してますわ。


〖小娘。どうするピヨップ? 今のうちに殺るピヨ?〗 


 私の右肩に乗る雛鳥が物騒なことを言っていますわね。


「お静にしてなさい。あんなの演技ですわよ。そもそも、実の姉の右腕が切れたなどと言っておいて、全然悲しんでいないではありませんか」


〖演技ピヨ?……本当ピヨップ。口元が笑ってるピヨ〗


 ……この雛鳥。ダンジョンの外に出して大丈夫でしょうか? 悪意ある方に騙されないか心配ですわ。


スキル発動────「補助」「良妻」


 自分自身にスキルを付与しましたわ。

 「補助」は対象者の身体能力を私の魔力で上げ、エキストラスキル「良妻」は、私を愛する旦那《天照さん》様のステータスの半分を、私の力に付与するぶっ壊れスキルですわ!


「〈風磨一閃ウィンド・フラッシュ〉」

〖ピヨ……「隠密」発動ピヨップ……ピヨピヨ、陽光のために準備を始めるピヨ〜!〗


 両手に持つ双剣に風の魔法を付与、そのまま敵に向かって連続で鎌鼬かまいたちを放ちます。


「雛鳥。サポートを…………どこにもおりませんの? またいつものように隠れてやり過ごす気ですわね。あの雛鳥〜!」


「隙あり隙ありです。油断大敵なのです。〈青火束縛ブルーズロック〉」


 鎖に青炎を纏わせていますの? 

 こんな攻撃、一周目でしてなかったはず。


 以前の戦いよりも遥かに強くなってますね。……私の旦那《天照さん》様の読みは当たっていたようですわね。


パキンッ!!!


「〈水流盾ウォーターウォール〉………効きませんの」


「……嘘嘘、あり得ないです。アリィーの青火の鎖がそんな簡単に防がれるわけあり得ないのですよ」


「あり得ないはあり得るのですわ。私たちは、貴女たちフロアボスが考えている以上の圧倒的な準備をして、この場の戦いに望んだのですもの。〈水流劇場ウォーターシアター〉……さぁ、私の水の舞台で鎮火されて下さいまし。青炎の少女さん」


「なんですかなんですか? この水の水槽みたいなフィールドは? どんどんどんどん大きくしていくなんて、アリィーが動きづらくなるだけじゃないですかっ! 迷惑、迷惑なのですっ!〈青火花ブルー・ファイアワークス〉」


 青色の爆発ですの?

 かなり広範囲ですわね。


「旦那《天照さん》様と予習済みですわ。〈水人魚ウォーターマーメイル〉」


 私たち探索者が使っている魔法には、階級があります。初級、中級、上級、特級。


 まぁ、本当はこれ以上の階級はありますが、力の全てを失い、新たに成長中の私では水魔法の特級しか使えません。


 まぁ、今はそれでもいいですわ。

 なにせ特級まで使えれば、私自身の原初オリジンの魔法が使えますもの。


「お魚さんです? お魚さんなのです?……み、水がアリィーを襲ってきま……ゴボボボ……」


 青い炎が消えましたわね。

 どうやら、アリィーは私が作り出した水の中でおぼれているみたいですわね。


「これは私の旦那《天照さん》様と考えた私独自の魔法ですわ」


 〈水人魚ウォーターマーメイル〉。

 私起点として、半径100メートル未満に水の水槽を作り出し。私はその中を人魚の姿で自由自在に泳げますの。


「ゴボボボ!! ゴボボボ!!……こんなの規格外。反則反則です……すぐに魔法を解いて下さい…ゴボッ!! ズルなのです……ゴボボボ!!」


「ダンジョン内での戦いは、常に生死と隣合わせ。勝てば良かろうの世界ですわよ。……私たち探索者を甘く見すぎていませんか? 貴女たちモンスターは……〈水人魚舞マーメイル・ワルツ〉」


「ゴボッ!? 水の中で回転し始めたのですか?……マズいです。水流が乱れて渦潮うずしおに……このままだと身体が持たないです……ゴボボボ!!」


 私が作り出した″魔法水槽"内に、暖水渦だんすいうず(温度が高い水の塊)と冷水塊れいすいかい(水温が低い海水)を水魔法で作り出して、ぶつけ合い。強力な渦潮うずしおを作り出しますの。


「生け捕りにさせて頂きますの。〈深淵渦潮アビス・ワールプール〉……そして、念のために〈白鯨ホワイト・ウェイル〉」


 魔法を特級まで覚えると、あらゆる地球の事象を擬似的に引き起こせますの。


「ゴボォ!?……息が……息ができません。それに……その黒い塊はなんなんですか……」


【ブオオオオオオォオオ!!!】


「ゴボボボッ!? イヤイヤです。飲み込まれたくないです。飲まないで……ゴボォ……いやああぁぁですっ!!!」


 アリィーが、大口を開けた白い鯨に飲み込まれましたわ。敵ながら心配ですわね。


「あぁ、これですの? 貴女との戦いに負けそうになった時の保険ですの。……探索者は油断も慢心もしませんの。とくに私の旦那様……いえ、天照さんは妥協を許しませんもの」


 なんとか1人で勝てましたわね。

 流石、天照さん。


「作戦も私への教え方も一流ですわ」


 私は、発動した水魔法を解きながら、天照さんとの修行の日々を思い出しました。



(交渉できそうなフロアボスは、生け捕りですか?)


(うん。……なるべくね。だから、俺のスキル系統には全然合わないけど。「調伏」スキルを覚えるよ)


(それは!?……レベルアップ時に取得するエクストラスキルの方が有用ではありませんか? 「調伏」スキルは《《育てれば》》強力なスキルになりますが、スキルポイントが200も消費する《《ただのスキル》》ですわ。それよりも、なるべく早く私たちに必須のエクストラスキルを覚えるべきだと思います)


(そうだけどね。……今回の渋谷ダンジョン攻略二周目は、色々と不気味なんだ。だから、無理矢理でもこちらの戦力を増やさないと思ったんだ)


 

 天照陽光さんの勘は良く当たります。


 研ぎ澄ませているというか、いつも最低最悪の場面を想像して行動しているように思えますの。


「アリィーを、天照さんの所に連れて行きましょう。……それと、逃げた雛鳥に折檻しなくてはいけませんね」


 こうして私はアリィーを、難なく無力化することに成功したのですわ。






「……がはぁ!?……このあちしが手も足も出ないなんて……ふざけ………」


「悪いけど戦力になってもらうよ。時が来たら喚ぶからさ」


「お前……なにを一方的に……があぁぃぎぃあぁぁあ!!!!」


〖ピコンッ! タラタタッタタッタラ〜!〗



 赤い炎のファイを倒してレベルアップした。

 

 ……そして。


スキル発動────「調伏(初級)」


「ああああぁぁ!! 身体が……お腹の中に契約を《《上書きされる》》。やめろおおぉ!! カグチ様との繋がり切れ………があぁぁぁ………ブツンッ!」



 赤い炎使いファイを「調伏」して仮の仲間にした。


「勝った。ひとまず勝ったけど。…………可笑しいね。ここはまだ95階層のはずだけどね。なんで、100階層のフロアボスの君が島と共にここに現れるんだ?」


【あん!? そんなのテメェが弱ってるからに決まってんだろう。そして、どんどん弱ってくれ。これからテメェには、96階~100階までに勝っているモンスターを使って群集事故スタンピードを行ってやる。せいぜい、ウチと戦う前に消耗しまくれよ。天照!! しゃしゃ!!】



 ………天上から落ちて来たのは紅蓮の島だった。


 そして、その女の子は大量のモンスターを引き連れていた。


 100階層のフロアボスにして、渋谷ダンジョンの五大厄災の1人が、突然俺の前に降臨した。


 これから始まるのは、終わりが全くみえないモンスターの群れの群集事故スタンピードと、それを乗り越えてからの強敵との戦い。


 最初に頭の中にえがいていた情景が、今本物になった。


天照あまてらす陽光ようこう

レベル479

エクストラスキル 陽ノ神楽 天照剣術

スキル 模倣 巾着袋 心眼 業物 瞬動 調伏(初級)

火魔法(特級)雷魔法(上級)


宵宮よいみやカノン

レベル476

エクストラスキル 豊穣ノ知 良妻

スキル 福音 補助 天幕 結界 

水魔法(特級)風魔法(上級)

回復魔法(上級)


スザク(不死鳥フェニックスの雛鳥)

レベル7

スキル 隠密 物真似ものまね 治癒

 

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