第14話 95階層・ファイアリー姉妹の思惑
85階層。フロアボス「フレア・ワイバーン」
「〈雷槍〉」
「〈水弓〉」
〖ピヨピヨピヨピヨ(無害な雛の真似)〗
ドスッ!!
【ギャシャアアア!!………】
撃破完了。
そして現在、89階層まで上がって、転移門前。
〖勝ったピヨッ! クソザコだったピヨ! 超楽勝ピヨップ!! ピヨ!ピヨ!ピヨ!ピヨ!〗
「……貴方。雛の真似をして、敵の気を反らしていただけではありませんの。なぜ偉そうですの」
「ここまでは問題無し」
「……90階層から本番ですか」
「うん。″ファイアリー姉妹"と"カグチ″が相手だね。気をつけていこう」
「……ですわね」
宵宮さんと真剣な表情で転移門を見つめる。
どうやら彼女も小さな違和感に気づいてるみたいだ。
〖ピヨピヨピヨピヨ!! なにを暗い顔になっているピヨ。陽光、小娘。強いピヨッ! 我たちのパーティーはものすごく強いピヨップ! ピヨピヨピヨピヨ! ピヨピヨピヨピヨ!〗
スザクは、どこからともなく日の丸が描かれた扇子を取り出して舞い始めた。
「……この雛鳥はなぜ、こんなに受かれていますの? 何か悪い物でも食べたのでしょうか?」
「あ〜、さっき暇だからとか言って、島の密林を探索してたら天然発酵したお酒を見つけて、俺たちに隠れて酒盛りしてたんだ。それで酔い潰れてね。今はあんな感じかな」
〖ピヨピヨピヨピヨ! ピヨピヨピヨピヨ!! ピヨピヨピヨピヨピ~ヨップ!!〗
「お馬鹿さんですの!? だからさっきの戦いでも、攻撃をせずに雛の物真似をしていたんですのね! とんでもない害鳥ですの!」
「宵宮さん。言い方。……これは、スザクの酔いが冷めるまで89階で休んでいた方が得策だね。レベリングできるし丁度いいや」
「天照さんがそういうのでしたらいいですが。…………まぁ、良いですわ。次のフロアボスは少し難敵ですし、心の準備が整えられる時間が作れましたね」
〖ピ~ヨ! ピ~ヨ! 感謝するが良いピヨピヨ!! 淫乱小娘! ピヨピヨ!!〗
「……この酔っぱらい鳥、本当に腹が立ちますわね。私と本当に相性最悪ですわ!」
……なんてことを宵宮さんは言っているけど。スザクは宵宮さんと組んで戦う時の方が、バトルのコンビネーションじつは良いんだよね。
言うと宵宮さんもスザクが喧嘩をし始めるから言わないけどね。
「テンション高い状態で勢いに乗って、ファイ戦に挑もうと思ったけど。今は冷静な頭で戦うのもありかな。…………それにしても、渋谷ダンジョン最攻略を始めて二週間位経ってるのに左手の爪が全然伸びないのは、なんでなんだろう?」
〖ピヨピヨピヨピヨ~!! 小娘も一緒に踊るピヨップ!〗
「うるさいですわ! 雛鳥〜!」
俺は変な舞を踊り続けるスザクを見ながら、ふとそんな言葉を呟いた。
◇
結論。
90階層には、フロアボスが居なかった。
無人の祭壇があり。その奥には転移門が怪しい光を帯びているだけ。
「どう思う? 宵宮さん」
「………警戒を強めましょう、天照さん。より強く。最悪のケースを考えて立ち回った方が良さそうですわ」
「だね。90階と91階の間にある安全地帯で話し合おうか」
「レベリングも見直しますか? 350まで上昇を?」
「……いや、目安は400以上にしようか。今後のダンジョン攻略の数値も見直そう。安牌は大事。幸いまだまだレベルは上がりやすいし、94階層には、高経験値を持つ「シェルシンジュ」が無限湧きするリポップするからね。丁度良いや」
「了解ですの。装備品も火耐性に全振りした物を買いましょう。命大事にですわ」
「……うん」
〖なんだピヨ? なんだピヨ? フロアボスが居ないなら、さっさと先に進もうピヨップ。今の陽光たちなら、一気に100階まで駆け上がれるピヨッ! 我らは最強のクラン「スザク」ピヨップ〜! ピヨピヨ!!ピヨピヨ!!〗
バサッとスザクが扇子を広げて舞い始めた。あの踊り素面でも、やれるんだ。
「お黙りなさい。アホ有頂天鳥」
〖ピヨ? なにを深刻そうな顔をしてるんだピヨップ? 小娘〗
「…………深刻にもなりますわよ。なにせ、《《知性あるモンスターに徒党を組まれるかもしれないのですからね》》」
〖……ピヨ?〗
その後俺たちは、無人の90階層の建物を調べ尽くした後、転移門潜った。
《《遠くの方で観察されているのに気づきながら》》────
そして、しばらくすると赤い炎と青い炎に身を包んだ女の子たちが突然現れた。
「…………1人で挑んでたら、あちし死んでたね。アリィー」
「ですです。カグチ様の言っていたことがやっと理解できましたね。ファイお姉さま」
「じゃあ、アイツ等を倒せるように策を巡らせなくちゃね。アリィー」
「了解です、ファイお姉さま。今度は負けません」
「「フフフ……フフフ………」」
彼女たちはそんな台詞を残して、消えてしまうのだった。
「渋谷ダンジョン攻略一周目とは違う。チーム戦か。……本当に参ったね」
「準備を怠らないように致しましょう。旦那様」
「……旦那様じゃないけどね」
宵宮さんが、俺の緊張した心を解そうと冗談を言っていて面白かった。
〖ピヨブフゥゥ!! 小娘。ナイス冗談ピヨップ! 陽光にスルーされ……ギョエップ!?〗
そして、スザクは宵宮さんにいつも通り握り潰されていた。
◇◇◇
本来の渋谷ダンジョンフロアボスの配置構造はこうだった。
90階層 赤い炎のファイ
95階層 青い炎のアリィー
100階層 五大厄災・火島ノ神 カグチ
本来の計画は、これらのフロアボスを圧倒的なレベル差で倒して、101階層から始まる″水源エリア"に注意を向ける予定だったんだ。
「二周目だ。なにが起こるが分からない」
「はい。慎重に慎重を重ねましょう。天照さん」
90階と91階の間にある安全地帯に辿りついた瞬間。これまでの渋谷ダンジョン攻略の作戦を白紙に戻して、ゼロベースで考え、宵宮さんと話し合い始めた。
〖マジピヨップ!? これまでの努力が水の泡ピヨヨ〜!〗
なんてことをスザクは言って、嘆いていたけど。こんなことは探索者をやっていれば日常茶飯事。
ダンジョン攻略は何が起こるかわからない。
ダンジョン探索者は臆病で、神経質なほど向いていると言われる職業。
一度でも選択を誤り、失敗すれば死ぬんだ。
だから《《妥協は許されない》》。
90階と91階の間にある安全地帯滞在から一週間後。94階で「シェルシンジュ」を狩りまくった後、次の階へと上った。
95階層「炎の双子島・神殿」
「いくら、渋谷ダンジョン内だからって三週間は時間かけ過ぎだと思うのだけど?」
「そうです。そうです。……待ちすぎて、退屈してましたです」
目の前には、姉のファイと妹のアリィー、「ファイアリー姉妹」が居た。
「こんなダンジョン序盤で、はっきりとした自我があるモンスターなんて、見たことありませんわ」
「これも二周目のせいかな? 前は虚ろな表情だったからすぐ倒せたんだけどね。今回の彼女たちは多分強い。それに姉妹ならではのコンビネーションを活かした攻撃もしてくるだろうからね。…………だから分断する。〈大炎極〉」
「はいですわ。」
スキル発動────「結界」
島中に炎の迷宮が作られていく。
俺は姉妹の分断、宵宮さんは姉妹を「結界」に閉じ込めて、離ればなれにする作戦。
〖ピ、ピヨッ! 陽光。我は今回どっちのサポートをすれば良いのだ?〗
「………宵宮さんについてあげて。多分、スザクが俺の近くに居たら、不死鳥の丸焼きが完成しちゃうからね」
〖ピ、ピヨップ!? そ、それは嫌だピヨ〜! こ、小娘のところに避難するピヨップ!〗
「うん、それで良いよ。スザクに俺一人の戦い方をまだ見せたくなかったしね」
「なんだ? あちしにお前が負けるところを、あの騒がしい鳥に見せたくなかったのか?」
目の前には、赤い炎で身を守っている90階層のフロアボス《《だった》》ファイが不敵な笑みを浮かべている。
「……ハハハ。逆だよ。逆」
「逆?」
「俺の一方的な攻撃で君がいたぶられるのを、相棒のスザクには見せたくなかったんだ。教育に悪いからね」
「お前………なんだ強さは? 短時間になにをしてた?」
「時間もなかったし、レベリングと基礎値しか、殆んどあげてないけど、スキルポイントは溜まってるからいいや。さぁ、ダンジョン攻略を再開しよう。〈極炎剣〉」
◇
天照陽光
レベル452
エクストラスキル 陽ノ神楽 天照剣術
スキル 模倣 巾着袋 心眼 業物 瞬動 調伏(初級)
火魔法(特級)雷魔法(上級)
宵宮カノン
レベル451
エクストラスキル 豊穣ノ知 良妻
スキル 福音 補助 天幕 結界
水魔法(特級)風魔法(中級)
回復魔法(上級)
スザク(不死鳥の雛鳥)
レベル7
スキル 隠密 物真似 治癒
◇




