第13話 火の島の冒険
「………………ここは、安全地帯の宿の部屋?」
起きたらふかふかのベッドの上。
身体の上には布団も掛けられて、どう見ても誰かに介抱されていたみたいだ。
情けないことに鼻血を出して意識を失ってしまった。
外の世界では、トリプルSの探索者なんて持て囃されていても、煩悩的な刺激には弱いんだ。
最近やっと女の子とまともに話すことができるようになったばっかりだから油断していた。
同じクランだったサユリには距離を置かれてたし、宵宮さんみたいな同い年の女の子に優しくされて、ずっと一緒に行動してるとだんだんと意識せずにはいれられなくなっていたというか───
「………なんだろう、この気持ち? こんなドキドキするの初めて……ん?」
布団の中からモゾモゾと誰かが這い出て来ているような……
「ぷはぁっ! あ、天照さん。お目覚めになられたのですね? 良かったですわ! 私、すごく心配で心配で、あらゆる手を尽くそうと頑張ってたんですの」
「…………水着姿の宵宮さん?」
「はい! 天照さんの宵宮カノンですわ! ご無事でなによりでしたの〜!」
可愛らしい黒ビキニを着た宵宮さんが布団の中から這い出てきた。
そして、俺におもいっきり抱きついて……
ブシュッ!!!
「天照さ〜ん!!!」
俺は興奮のあまり大量の鼻血を再び吹き出し、気絶した。
◇
「「宿屋のベッドを汚してしまって、申し訳ありませんでした」」
【あ〜! 良いの良いのね〜! 誰にだって過ちはあるのね。気にしていないのね。それよりもダンジョン食材をあんなに分けてもらってありがとなのね。これはお礼の「アリスドールの左腕」なのね〜!】
「あ、ありがとうございます。不思議存在さん」
「本当にごめんなさいですわ」
シュンとしている宵宮さん。
俺が再び起きた時、宵宮さんは怒る不思議存在たちに正座させられながら怒られていた。
(貧血の男の子に刺激を与えるなんて、駄目なのね! 刺激が強すぎるのね!)
(お年頃なんだから、もっと自分を大切にしてほしいのね。不思議存在は悲しいのね)
(物を汚したことよりも、その過程を怒ってるのね。反省するのね。女の子!)
(小娘! 少し目を離したら、何を我が主を襲おうとしてるんだピヨップ! 我がずっと貴様を妨害していたから、痺れを切らして遂に本性をさらけ出すとは、とんでもない淫乱小娘ピヨ!!!)
(……………ごめんなさいですわ。そして、後で雛鳥。覚えていろですわ)
────なんてやり取りが起きた時に行われていた。
〖ピヨ〜! 大丈夫か? 陽光。淫乱小娘になにもされなくて良かったな。ピヨップ!〗
「スザク。……ずっと寝てたから、頭がボーッとするよ」
〖……あれだけの鼻血を出せばそうもなるピヨ。陽光! あの小娘はやっぱり危険極まりないピヨップ! 純粋無垢な少年の心を持つ陽光の貞操をどうにかして奪う気満々の変人淫乱小娘ピ………〗
「誰が、変人淫乱小娘ですの?」
〖こ、小娘!? 貴様、不思議存在のためになる説教はどうしたんだピヨップ?〗
「とっくに許してもらいましたわ。それよりも、誰が変人ですか! その言葉、撤回しなさい! 雛鳥」
〖ピヨ〜! 淫乱小娘は否定しないピヨップ?…………や、止めてピヨ。スザクの尾羽を久しぶりにむしり取るなピヨオオォ!!〗
いつも通りの宵宮さんとスザクのコント。
「………次で81階か。俺の体力が戻るまでは、安全地帯で療養するかな」
飛躍的に強くなっても無理は禁物。
ダンジョン攻略というのは、本来は5人以上のメンバーでクランを組んで挑むもの。
そして、81階層からは「火の島」エリアか。……俺たちは2人と1匹、油断せずに行こう。
「不思議存在さんたち。すみませんが高温耐性がある装備を買いたいですがいいですか?」
【はいはいなのね〜! それじゃあ、ウチと一緒に道具屋に行くのね〜!】
【より取りみどりで取り揃えてるのね〜!】
「ありがとうございます」
俺は不思議存在たちと共に道具屋へと向かった。
「なんなんですの! なんなんですの! このお邪魔鳥はっ!」
〖なんなんだピヨ! なんなんだピヨ! このドスケベ小娘はっ!〗
そして、宵宮さんとスザクは、取っ組み合いをしながら楽しそうにコミュニケーションを取っていたよ。
◇
【「クーラードリンク」500個、「火切りのベール」1個、「水冷の防具」一式、「火隠れ布」100枚、「聖水」1000個、「神秘なスクール水着」、「日焼けのラッシュガード」、あともろもろ毎度ありなのね〜! それといっぱい売って買ってくれたから、いっぱいの「福引券」と「不思議存在の義手」をあげるのね。ありがたく貰っておくのね〜!】
【お客さん、好い人だから特別にいっぱいあげるのね。10000枚あげるのね】
買った物を「巾着袋」の中に収納していると、店の奥から大量に紙束が入った袋を不思議存在たちが持ってきて、どさくさに紛れて俺の「巾着袋」の中へと放り投げた。
「こんなにいっぱい…………ありがとうございます」
【【どういたしましてあのね〜! ゴミだから処理できて良かったのね〜! 感謝するのね〜!】】
「………本音丸聞こえですよ」
「福引券」は後々必要になるので、欲しかったけど正直10000枚もいらなかった。
そんなやり取りをしつつ、80階と81階の安全地帯で、色々と準備をしながらゆっくり過ごしたんだ。
【【【また来てたのね〜! 旦那さんたちと一緒に過ごせて楽しかったのね〜! バイバイなのね〜!】】】
不思議存在に惜しまれながら、俺たちは次のステージへと進んだ。
◇◇◇
「着いたね。南国……まだ暑くはないけど」
〖小娘っ! 我の許可が降りるまで、エロい水着を着るんじゃないピヨよっ! 15歳なら15歳に似合うスクール水着を着こなしてろピヨップ!〗
「ですから着ているではないですか。似合っていますか? 天照さんっ!」
「うん。すごく似合ってるよ。布面積も多いし、すごく健康的な可愛い女の子に見える。綺麗だよ。宵宮さん」
「そ、そんな。……私と「結婚したい」ですなんて、気が早すぎますわ。天照さん」
〖陽光は、ただ小娘を可愛いと言っただけピヨ。悲しい現実から目をそらすんじゃないピヨ。現実を見ない変人小娘……グエップ!?〗
「握り潰しますわ」
〖止めるピヨ〜!〗
はい。いつもの流れで今日もスタートだね。
渋谷ダンジョン81階層 南国火山地帯「火の島」
81階〜!100階までが「火の島」エリアになっていて………
【ギュオオオオッ!!!】【ギジジジ!!】
「小型海魔と半魚人。いきなりお出ましとはね。まるで俺たちがここに現れるのを待ってたように見える。〈電気疾走〉」
【ギャシャアアアアア!!!】
〖なんか飛んで来たピヨップ!?〗
「お任せなさい! 〈水槍〉」
魚介類系モンスターや超小型飛竜が出現するエリアなんだ。
【【【ギャァア………】】】
呆気なく倒せた。身体に溜まっていた疲れもすっかり取れてるね。
〖ピコンッ! タラタタッタタッタラ〜!〗
レベルも上がった。
流石にこれまでの最序盤の敵と違って、狂暴性のあるモンスターだ。倒した時に手に入る経験値がこれまでと全然違う。
「隠しアイテムを最短で回収しながら、89階までノンストップで行こうか。一旦そこまで行ったら休憩にしよう」
危なげなく攻略する。
こちらのパーティー人数が限られている分。レベルのマージンも極限まで取る。
そう。俺がもしも気絶したり、死んだりしても宵宮さんとスザクが渋谷ダンジョンに対処できるように、彼女たちを強くしながら進んでいこう。……いや、そうならないように俺も強さを取り戻すけどね。
その後、俺たちは85階層のフロアボス「サクラノエビ」を瞬殺し、89階へと難なく進んだ。
◇
天照陽光
レベル303
エクストラスキル 陽ノ神楽 天照剣術
スキル 模倣 巾着袋 心眼 業物 瞬動
火魔法(上級)雷魔法(中級)
宵宮カノン
レベル301
エクストラスキル 豊穣ノ知 良妻
スキル 福音 補助 天幕 結界
水魔法(上級)風魔法(中級)
回復魔法(中級)
スザク(不死鳥の雛鳥)
レベル6
スキル 隠密 物真似 治癒
◇
◇◇◇
渋谷ダンジョン100階層「紅蓮の儀式殿」
紅蓮の髪色をした薄着の少女が透明な水晶を片手に持ち、荒んでいた。
「どうなってやがる? どうして島のモンスター共を簡単に倒せるほどに強い? どこでその強さを手に入れた? 天照陽光………想定外だ。あぁ、思っていた強さと違って想定外だな。全く」
「主様主様。どうされました?」
「怒ってる? 怒ってるの? 主様」
怒れる主を心配そうに見つめるピンク髪と青髪の少女が突然現れた。
「ファイとアリィーか。…………! そうかアイツらは2人。ならば、ニ対ニで戦わせて消耗させればいいのか。」
「主様。頭大丈夫?」「怒り過ぎて可笑しくなった主様。心配」
「ファイとアリィーよ」
「「?」」
「90階は捨てるぞ。2人で95階で待機しろ。お前たち姉妹で、ウチの宿敵「天照陽光」に大火傷を負わせてやれ。かーっかかか!!!」
「「?」」
こうして、ファイとアリィーは、よくわからないまま強敵と相対することに決まったのだった。




