第12話 80階・アリアのアトリエ
「遂に80階か。疲れてない? スザク、宵宮さん」
「は、はい//// 私はまだまだ元気いっぱいですわ」
〖そりゃあ、そうピヨ。小娘は、ずっと陽光にお姫様抱っこされてた……グエップ!?〗
「お黙りなさい。雛鳥」
〖キュピィ!?……む? 小娘の握り潰しが全然痛くないピヨップ?〗
休憩無しに進んで行く。
俺は、体力が有り余っているため宵宮さんを抱っこして、スザクを肩に乗せて移動に集中。
宵宮さんとスザクは、襲って来るモンスターの対処で役割分担を決めて効率良く移動して、現在80階・「アリアの入り江」まで辿り着いた。
快晴の青空、大きな浜辺に美しいさざ波の音が聞こえてくる。
「80階まで上がると、完全な海エリアだね。ここはフロアボスも居ないし、少し休憩しようか。宵宮さん」
「は、はい。では、この、天照さんが私にプレゼントして下さいました「認識阻害のフード」も脱いでもいいでしょうか? 私、天照さんに水着姿をもっと見て頂きたいんですの」
「……う、うん。そうだね。熱中症になったりしたら大変だもんね。ハハハ……」
「ありがとうございます! 大好きです。天照さん!」
「そ、そうなんだ。それは良かったよ。ハハハ……」
〖ピヨ。……小娘、お前。陽光に1ミリも相手にされていないピヨ。……いい加減気づけ……グエップ!?〗
「お黙りなさい。雛鳥~♪」
あぁ、宵宮さんがフードを脱いで、フードの中に隠されていた水着があらわになっていく。
…………正直。
俺は女の子の薄着は苦手だったりする。
いや、興味がないわけじゃないけど。童貞の俺には宵宮さんの水着姿は刺激が強すぎるというか………
「~♪ どうでしょうか? 天照さん。先ほどの安全地帯で、天照さんに選んで買って頂いた水着装備なのですけど。似合っていますでしょうか?」
「……すごく似合ってるよ。宵宮さん」
「あはっ! ありがとうございます! 天照さん! 私、嬉しいですわ!」
「ちょっ! なんでいきなり抱きついて……」
〖や、止めろピヨ! 小娘〜! 陽光が鼻からの大量出血で死んじゃうピヨップ!!〗
最近の宵宮さんは刺激的だ。
安全地帯に辿り着くたびに、その道具屋に売っている水着装備を買って、俺に見せてきてくれる。
いや、50階層辺りまで着ていたビキニアーマーよりも防御力は高いから、着るのは大正解なんだけど。
「あら? 大丈夫ですか? 天照さん。しっかりして下さい! 天照さん」
「…………鼻から血が」
〖しっかりするピヨ。陽光〜! こんな淫乱小娘の誘惑に負けちゃ駄目ピヨ〗
階層を上がるごとに水着装備は過激になるし、布面積も徐々に減っているようにも思えた。
そして、なにより俺は女の子の地肌を見ると恥ずかしくなるんだ。
そういうのに免疫が全然ないというか……女の子と普通に会話はできるけど、女の子と触れ合うことは苦手だったりする。
…………そう。とくに《《異性》》として意識し始めた女の子との触れ合いは、緊張と刺激が強すぎて。
ブシュッ!!!
鼻血が付き物になるんだ。そして、出血多量でだんだんと意識を失って……
「………ガクッ」
「天照さ〜ん! しっかりして下さい〜! 酷いですわ! 誰が、天照さんをこんな目にあわせたのですの?」
〖貴様の仕業ピヨップ!! 淫乱小娘!!! 反省しろピヨ!!!〗
こうして俺は、二週目の渋谷ダンジョンで初めて気絶したんだ。
◇◇◇
宵宮カノン。
天照さんの将来のお嫁さんです。誰にも譲りません。
「天照さん。しっかりして下さい! お顔が真っ赤ですわ〜!」
「……………ブシュッ!」
だ、駄目です。天照さんの鼻から、新たな血飛沫が飛散しましたわ。
〖陽光を貴様のでかい胸に押し当てるなピヨップ! 窒息死したらどうする気ピヨ!〗
「そ、それは駄目ですわ! 早速、人工呼吸をいたしましょう。しっかりして下さい! 私の天照さん!」
〖どさくさに紛れてなにを陽光に施す気ピヨ。スザクの話をよく聞けピヨ!! 小娘〜! 喰らえ嘴ピヨッ!!〗
グサリッ!!!
「ほぎゃああ!! 私のおでこになにしますの雛鳥〜!」
〖黙るピヨップ! 陽光の貞操は、このスザクが守り抜くピヨ!!!〗
くっ! この雛鳥。毎回毎回、私の行動を邪魔して。お邪魔鳥過ぎますわ。
こんな雛鳥に構ってるよりも、今は天照さんの介抱が最優先ですのに〜!
「お、おどきなさい。天照さんは渡しませんわ!」
〖お黙るピヨップ! 陽光に対して不埒な真似はさせないピヨ!〗
「クスクス……クスクスクスクス……へ〜! 弱い段階で始末しようと思ってやって来たのに、ちゃんと対策してるなんて偉いね。お姉さんたち」
「?……女の子の声です?」
〖ピギャアッ!? お前はまさ……グエップ!?〗
雛鳥にお仕置きをして静かにさせて……
白いワンピースを着た小さい女の子が、私たちの目の前に立ってました。
先ほどまで人の気配なんて一切なかった後ろに。
可愛らしい水色髪の女の子ですわね。…………反転後の渋谷ダンジョンから逃げ遅れたのでしょうか?
「そこの貴女、どうされましたの? ダンジョン内で迷子になったんですの?」
「……クスクスクスクス。お姉さんも強いんだね。何でかな? なんでそんなに強いのかな? まだまだ序盤の渋谷ダンジョンでなんでそんなに強くなれてるのかな? クスクス」
「………私、なにか可笑しなことを言いましたか?」
不思議な女の子ですわね。掴みどころがないと言うんでしょうか。透明感があって儚げな娘ですわね。それにこの娘の言葉は、上手く聞き取れません。
「今のお姉さんなら倒せるけど、それはアリアも深手を負うからナンセンス。ここではなにもしないから安心してね。クスクス……それと、アリアのアトリエで休んで良いよ。今のアリアじゃあ、戦っても貴女たちには勝てないからね。諦め諦め~! クスクス」
浜辺の入り江にある小屋……次の階へと進むための部屋がある「アリアのアトリエ」を、笑いながら指差していますわね。
たしかあそこには、フロアボス「人魚の真珠貝」が居る場所。叩くだけで倒せるフロアボスでしたわね。
「……もしかして、あそこは貴女の家ですの? あそこで休めということですか?」
「………クスクス……そうそう。言葉通じないんだ。ウケる……アリアの身体が本体じゃないからかな? クスクス」
天照さんは出血多量で気絶中、雛鳥は私が締め上げたので気絶中……なんということでしょう。これはパーティー全滅の瀬戸際ですわ。
いつの間にこんなピンチに陥ったんですの?
「……仕方ありません。貴女のお言葉に甘えさせて頂きますわ」
「そうそう。甘えて甘えて……さっさと上って進みなよ。君たちは弱いまま進んで進んで……アリアと会おう。ちゃんと《《一回目》》に倒された屈辱を晴らしてあげるからさ。クスクス…………!………あら、そう。召集なのね。それじゃあね。討ちそこなったお姉さん。20
0階層でまた会おうね。バイバイ……クスクス」
……後ろに居たはずの女の子の気配が消えたような気がしますが、気のせいでしょうか?
「アリアのアトリエ」の中に入って、フロアボス「人魚の真珠貝」の貝を叩き割りますの。
パキンッ!!!
【………………ギシッ】
〖ピコンッ! タラタタッタタッタラ〜!〗
「レベルアップですわ。……レイドボスがこんなに弱いなんて、この80階は、本当に楽勝ステージですわね」
チラリと「アリアのアトリエ」の外の様子を見つめて……あの不思議な女の子が《《まだ》》居るのか確認しますの。
「居ませんわね。……突然現れて、突然消えるなんて、不思議な女の子でしたわね」
◇
天照陽光
レベル282
エクストラスキル 陽ノ神楽
スキル 模倣 巾着袋 心眼 業物 瞬動
火魔法(上級)雷魔法(中級)
宵宮カノン
レベル280
エクストラスキル 豊穣ノ知
スキル 福音 補助 天幕 結界
水魔法(上級)風魔法(中級)
回復魔法(中級)
スザク(不死鳥の雛鳥)
レベル6
スキル 隠密 物真似 治癒
◇
◇◇◇
渋谷ダンジョン499階層〖試練の間〗。
ここは、渋谷ダンジョンの最奥一歩手前の部屋。今、ここに渋谷ダンジョン五大厄災の全員が集まっていた。
「遅いぞ! アリア!!!」
『龍脈の土蜘蛛』
「…………君の出番はだいぶ先だろう?」
『雷霆のライトニング』
「アリアちゃん。ずいぶんと機嫌良さそうですね。良いことありましたか?」
『深緑のエスピナ』
「……クスクス……ごめんなさい。遅れちゃったわ。アリア、反省」
『人魚のアリア』
「嘘つけ。抜け駆けして、味見しようとしたんだろう?……止めろ止めろ。最初の試練はウチの役目よ。勝手に割り込むなアリア。燃やすぞ!!」
『火島ノ神 カグチ』
ここに今、渋谷ダンジョンを司る土、雷、木、水、火の″五大厄災″が勢揃いした。
「………クスクス。ごめんなさい。カグチちゃん。でも安心して、ちゃんとあの子達には一切の手出しもせずに休息できる場所を提供したもの、だから安心して全力を尽くしてね」
「ほう。そうかいそうかい……なら良かった。なら、全力で復讐してやろうか。ウチを倒したクソ野郎「天照陽光」に復讐をな」
「……クスクス……頑張ってね、カグチちゃん。(面白そうだから、あの子達がものすごく強いのは黙っておこう。だってワタシは、この渋谷ダンジョンから脱出できれば良いんですもの。……クスクス)」
「それでは皆集まりましたし、会議を始めましょうか。……我らを裏切り捨てた「不死鳥」及び、我らを1度殺した「天照陽光」をこの渋谷ダンジョンで葬るための作戦会議を」
「了解だっ!」「…………どうでもいいよ」「一番槍はウチだろうが!」「……クスクス。勝手にどうぞ~!」
個性豊かな渋谷ダンジョンの五大厄災たち。
彼らは密かに集い、戦い敗れた天照陽光への復讐を叶えるために静かに動き出し始めた────




