今年のチャイコフスキー国際コンクールピアノ部門って激戦ですね。
と、勝手に考えるころーんさんです。
何も知らない人のためにルールを説明します。第一次予選は45分のソロ、第二次予選は55分のソロ、本選は2曲のピアノ・コンチェルト(もちろんチャイコフスキーは必修だよ)です。
まぁその、、レヴェルが無茶苦茶に高すぎるということですよね。ほかのコンクールなら、大して苦も無くファイナルに残れるだろうという人も一次でドベで落ちる、それが常態化してるってことです。「音楽院大ホールは鬼門だ」って人もいます。
前回からmedici.tvの全面的な協力を得て全編ライブ通信です。こういうことはそこら辺のブログでもあるだろって突っ込みもありますが、誰も気が付いていない点を少し。
1、課題曲が易しくなっている。
これは間違いありません。過去にはコンチェルトを3曲演奏しろという無茶苦茶な規約で話題でしたが、2曲に戻っています。練習曲を3曲ってのもロシア式というよりはヨーロッパ式ですし、第二次予選はロシア物が入ってさえいれば何を弾いてもいいので、損になるような曲目が取り上げられることがありません。
2、第一次予選からグラチャン大会。
今年は去年と異なりマイナーかメジャーの優勝者じゃなければ出場コネを疑われるほど、優勝者同士の戦いです。モンテカルロマスターズのシステムに近い。なので、第一次予選で話にならない人は誰もいません。普通のコンクールは第一次予選に参加する人の80%は話にならない人なのです。
3、中国のピアノメーカーが初めて参加。
中国のピアノメーカー「長江」が長いコンクールの歴史の中で初めて採用され、安天旭さんと吴羽翀さんの二人が選んで弾きました。
やはり自由なリサイタルではなくコンクールなので、第一次予選からアクセル全開でどばーとかいうのはやっぱり斬られます。例年の恒例行事と化している感がある。しかし、日中韓勢は第一次でアクセル全開って人はあまりいません。
これで、ハンブルク・スタインウェイ、ファツィオリ、長江、ヤマハ、カワイ、と公式ピアノは5つに増えました。
4、ピアニスト藤田真央さんが日本人男性として61年ぶりに本選に進出。
これって気が付いている人がいると思いますが、日本人男性の準本選進出ですら16年間誰もいませんでした。久しぶりということもあって、ジャパンアーツやエイベックスは固唾を飲んで見守っています。
もちろん私もですよ。第一次予選はモーツァルトのソナタ以外危険な瞬間も多々ありました。でも第二次予選のショパンは、第一次予選では見えない良い点も、ありました。どうしても、ちょっと右手偏重からくる物足りなさ、恣意的テンポ設計が気になりますが、まだ若くこれからの課題でしょう。
個人的にはあの中国人ピアニスト安天旭さんの演奏がずば抜けて感心できる水準でありました。20歳でここまでできた!中国のメーカーをあえて選び、そのピアノの美質を最上の形で伝えた彼の姿は、多くの聴衆の心に残ったでしょう。モスクワのお客さんはノリが良いので、普通にブラボーも出しちゃいます。
藤田真央さんも第二次予選では、お客にも受けが良かったようでした。(ロシアでは甘美なタッチでショパンを弾ける人が少なく、こういう人が出てくると思い切り受ける)
出た演奏が審査員に評価されるかどうかはまた別の問題です。
課題曲を易しくしたのは聴衆にとってはよかったってことになるでしょう。前回のように泡を吹きながらギリギリセーフの人もおらず、演奏の水準は守られる。なるほどめでたしめでたし。
でもですね、これピアニストとしてはちょっと不満が残るんじゃ、、、?かつてのチャイコフスキーコンクールはベートーヴェンとプロコフィエフが必修だったのに、それをモーツァルトとスクリアビンでもオッケーって言われると、ジュニアでもクリアできちゃうじゃんって話になる。
ロシア人はかつてソ連人だったころ、スパルタ教育で知られておりました。サン=サーンスの第2協奏曲すら認めない恐怖教育であったと聞いております。つまり協奏曲はプロコフィエフかラフマニノフかの二択でしかない。この選択肢の狭さはソ連の文化統制下から生まれたものでした。
今のロシアはそうではなく、「もう本選がショパンの1番でもいいではないか」「本選でバルトークの3番でも悪いってことはない」と変わっていきました。これからももっと柔軟に変わるでしょう。
最近過去のチャイコフスキー参加者も参加当時のドキュメントを商品にして売る人がおり、その中でも有名なのがアントン・バタゴフさんとシプリアン・カツァリスさんです。バタゴフさん(惜しくも一点差で入賞を逃して特別賞)のドキュメントも面白かったですが、
強烈だったのがカツァリスさんです。
アクセル全開なのに完璧にコントロールされた非の打ちどころのない演奏。これを知ってると頭の風景が変わる。今年の第一次で落とされた人の中に、このレヴェルはいなかったようです。




