62話 勇者の杖
「うらうらうらー」
ジャージ男の掛け声でゴブリンが吹き飛んでいく。
いや、掛け声で吹き飛ばした訳ではないんですけどね
あのジャージ男、予想以上に強い。
掛け声の方を向けば魔物が吹き飛んでるんだもん
現在僕らは王都の西門から外に出て魔物退治をおこなってる。僕の両手には棍棒が握られてる。
あ、ゴブリンから奪ったものです。
今朝は寝過ごしてしまって集合時間ギリギリに西門に集合した。幸い僕らのことは誰も気にしていなく、とくに絡まれたりしなかった。
所詮、雑魚冒険者Aとかそんな感じだろう
「【爆撃打】!」
チョコ様が右手でゴブリンの事を殴り飛ばす。
ゴブリンは少し吹き飛ばし文字通り爆散する
この子、女王さまですよ?
街の外の荒野では遠距離魔法が使えないから、
ゼロ距離で魔法を放つスタイルに変えたようだが怖いもの知らずなのかな?
一応左手には[勇者の杖]を持っているが今のところほとんど使ってない
本人曰く
「剣は使った事ないから、黒龍おじさんみたいにはできないのよね。だったら、チョコッと経験のある格闘術に魔法を、乗っけた方がいいかな?って、思ったのよ」
との事だ。
まぁ、今のところ相手はゴブリンだから問題は無いだろう
(ソラさん後ろ!)
(ありがとうございますー)
後ろを振り向き棍棒を横に薙ぎ払うように振り抜き、奇襲を狙っていたゴブリンを跳ね飛ばす。
いやー、【身体強化】のお陰でかなりの飛距離で飛んで行った。
冒険者カードを新しくしたので【パーティ】魔法による念話ができるようになった。
パフェさんは後方から【遠視】魔法を使って戦場を確認して、今みたいに僕らのフォローをしてくれてる。
遠距離魔法が出来ないのでどうしても接近戦をせざるおえない。かなり助かってる。
「うらうらうらー、そこのお前は邪魔だー」
ジャージ男が両刃の大剣を振り回してこちらに近づいてくる。ゴブリンに苦戦するチョコ様の手を引いて場所を開ける。
「え?なによっ?」
「わりーな!」
チョコ様が苦戦していたゴブリンをジャージ男が瞬殺する。ペース早いなー
「ふー。狩った狩った。」
「ウインドさんおつかれ様です」
この辺りの魔物は今のゴブリンで最後だったのかな?
ジャージ男の取り巻きが、現れてタオルを渡している。
「さっきは悪かったな。でも恨みっこなしだぜ」
「いえいえ、大丈夫です。むしろ助けてくれてありがとうございます」
「ちょ、私はま…
(チョコ様、落ち着いてください。ここで正体がバレてもいいんですか?)
なんでもないです。ありがとうございました。」
仮にもチョコ様はこの国の女王様だ。多少は認知度が、あるかもしれない。ならちょっとでも正体がバレるリスクは負うべきではないかもしれない。
「おう。お前さんたちは2人パーティか?」
「いえ、もう1人偵察係がいます。あ、この子です」
「おまたせしました。」
綺麗な髪をなびかせパフェさんが合流する
すでにこの辺りには魔物がいな……
「お、俺と付き合ってくれ!」
「はい?お断りします」
「な、なんだったー」
ジャージさん改ウインドさん。突然の告白。
そして爆沈
まぁ、パフェさん綺麗だからなー
「ブランド様が女性に告白だと!」
「しかも振られたぜ」
「あの女、何者だ?」
取り巻きがうるさいな。
「そんな事言わずに、俺と結婚してくれ」
「は?なんでですか?」
「俺は嫁にするなら鬼人族って決めてたんだ。強い奴がいいからな」
「はぁー。、そうですか…ちょっとソラさん!助けてください」
「え?」
突然のキラーパス。
いやいや、面倒なんで自分でなんとかしたください。
「お前が、このお嬢さんのフィアンセか?
悪いことは言わない俺に譲れや。」
ほらほら、こうなると思いましたよ
14歳の子が出て行ったって素直に譲ると思わないもん
むしろ婚約者だと思われただけましですよ
弟って言われるの思ったもん
「いや?お前弟か?おねーさん譲れや」
言われちゃったよ
どうしようかな?
別にパフェさんが誰と付き合おうが僕はあんまり関心がない。なんだろう?普段よく怒られてるせいなのか、なぜかそう言う感情にはならない。
「あー、別に僕はパフェさんの婚約者でも、兄妹でもないんですが」
「あ?ならいいよな?」
(コソッと私を妹みたいな表現しませんでした?)
(気のせいです)
「いえ、それとこれとは別です。だって同じパーティメンバーですもん」
「あん?なら俺のパーティに入れば解決だな?」
「いや、だなと言われましても…」
あー。もう面倒くさい
これ以上付きまとわれても困るしなー
どうしようかな
「オラオラ。俺と決闘だ!」
「はい?」
「俺が勝ったら俺のパーティに移れ」
「パフェさんどうしますか?」
「私がお相手するわ」
「「え?」」
やべ、ウインドさんと被ってしまった。
「ウインドさんでしたっけ?私に勝てたら考えてあげます」
「お、パフェさんって言うのか。可愛い名前だな」
(考えてあげます。って、移動するとは言わない所がいいですね。)
(そうね。さらって流す所がいいわね)
(念話で話したらわたしにも聞こえてますよ)
そうでした。
パフェさんから荷物を受け取る
「大丈夫ですか?」
「はい。これでも【遠視】で見ていました。普通にやれば負けないですよ」
「そうですか…」
「それじゃ、降参するか、気絶したら負けって事でいいか?」
「はい。問題ないです。」
荒野の人だかりの中央に2人の男女がたつあ。
周りの観客からは男性の方への応援が多い…気がする
まぁ、そりゃそうか。
高ランク冒険者と今日出会ったばかりの冒険者なら前者を応援するか…
(本当に大丈夫ですか?)
(はい。この程度、問題ないですよ)
(お、おう。そうか)
「準備は、いいか?」
「いつでもどうぞ」
おおー。パフェさんが構えて指でクィックィッってやつやった!めっちゃくちゃかっこ良い!
今度僕もやってみよう!
「うららー」
ウインドさんが大剣を上段に構えながら突進する
そして【縮地】を発動させながら距離を詰めて斬りかかる
いや、おい、殺す気かよ
対するパフェさんは…
「武器が欲しいですね。チョコ様、その杖貸してください」
「え!?」
バックステップ一回で5メートル近く飛びチョコ様の横に移動。
その手から[勇者の杖]を奪い取る
「俺の斬撃をかわしただと?!」
驚愕のウインドさん。
僕はパフェさんに今の斬撃を放った事が衝撃ですよ。
地面に刺さる大剣を抜きながらパフェさんに向き直る
「ますます気に入った!俺の嫁にしてやる!」
おー。負けフラグたちましたね
憤怒するウインドさんは再度【縮地】を発動させて距離を詰める。今度は下段からの切り上げだ。
パフェさんは体を左にひねる事で斬撃をかわして杖を剣のように持ち、ひねった体を元に戻しながら一太刀浴びせる。
「なんとー!?」
華奢に見える腕から振られた杖はしならながらウインドさんを強打して吹き飛ばす。
うわー、ミシミシ言ってるよ
「その程度ですか?
それで良くソラ様のパーティから私を引き抜けると思いましたね」
なぜに“様”付け?
パフェさんは吹き飛ばされて倒れているウインドさんに追撃をするように上から杖を振り下ろす
一応上級冒険者のウインドさんもそれには反応して反撃する。
大剣と杖がぶつかり合い鍔迫り合いに発展する
「【フレイムソード】」
ウインドさんが武技を発動させる。
手に持つ大剣が炎に包まれる。
僕の【炎剣】と、同系統の武技のようだ。
しかしその炎はパフェさんの握る[勇者の杖]に吸収する。
勇者系の武器には全て【魔力吸収】と言うスキルが内蔵されている。
それは武器が触れた魔法を自動で魔力に吸収して武器の所持者に還元するのだ。
「剣術で勝てないなら魔法ですか?あさはかですね」
「な!?」
「では、こちらからも行きますよ」
自身の必殺の武技を無効化されて焦るウインドさん。
そこにパフェさんが杖を横に流しながら距離をとり魔法の発動の準備をする
ウインドさんもそスキに立ち上がり大剣を構える
荒野では遠距離魔法は発動できない。となるとさっきのウインドさんのように近付いて魔法を発動させる必要がある
ならば待ち構えて向かい打てば良い
そう考えたのだろう
正直ビビってる
今までパフェさんが戦っているところは見た事が無かった。
ダンジョンの竜の山も基本的には荷物持ちに徹して、さっきの魔物との戦闘も【遠視】魔法を使った偵察に徹していた。
ここまで戦えるなら最初から戦って欲しかったな…
「行きます!【身体強化】」
今日から魔法の基本中の基本。
少し練習すれば誰でも習得できる魔法だ。
まぁ、熟練度によって強化倍率が変わるので初心者とベテランでは効果量が全然違うのだが…
パフェさんはその【身体強化】を、勇者の杖の魔法性能の高さを利用してかけた。
もともと鬼人と言う事で身体能力は良かったのだ。
それこそウインドさんの【縮地】を、使った斬撃を素で避けられるほどに…
「そんなものですか?」
それは地獄絵のような光景だった。
驚異的な移動速度でウインドさんの後方を取り背中に蹴りを入れる。
会えて追撃せずに立ち上がるのを待つ。
後方を警戒するウインドさんを今度は真正面から剣を避け、杖を軸に回転蹴りを首筋に叩き込む。よろけたところに杖で脳天へ一撃。
しかしこちらは大剣を横に構え、その下へ隠れるようにしてガードされてしまう。
「ガードばかりでは勝てませんよ?」
杖を左手に持ち、右手でウインドさんの大剣の束を掴み奪いとる。
必死に耐えるが大剣を放り投げらようにして奪い取られ、
ウインドさんが宙を舞う。
「この剣いいですね」
剣を空中で回転させて右手で剣を握り直す。
右手に身長と同じくらいある大剣。
左手に木の魔杖
なんだこれ?
「では、行きますよ」
ウインドさんの着地地点へ先回りして片手で持つ大剣を使い回転斬りを放つ。
本当、すごいな。僕も【身体能力】ように魔杖持とうかな?
って!
慌てて自身に【射出】をかけて両者の間に立つ。
右手で濃度の濃い物理障壁を貼って大剣を受け止める
左手で風魔法による突風を起こしてウインドさんを減速させる、
この土地の特徴により魔力が拡散されて物理障壁の効果が消える前にウインドさんを受け止めて、大剣の剣撃を回避する。
「それは危ないですよ!」
「え?殺しちゃダメなんですか?」
「ダメですよ! いきなりどうしたんですか?」
「ソラさんの事を悪く言ってる気がして、なんか吹っ切れちゃいました。」
お、おう。可愛い事いうじゃねーか。
やってること可愛くねーけどな!
「ほら、起きてください!」
ウインドさんを地面に下ろして顔を蹴る
「気絶してねーよ。」
「あ、起きてたんですね。あまりにも悲惨な負け方だったので起きないのかと思いましたよ」
「お、俺は負けて……」
「はい?」
「申し訳ございませんでした!」
一瞬。パフェさんの目が赤く光った気がする。
それと同時にウインドさんが土下座をする
あ、この世界にも土下座あるんだ。
「許して欲しかったらこの剣くれますか?」
「そ、それを取られたら俺は冒け…」
「ピカッ」
「どうぞ差し上げます」
今、口で言ったよね?
ぱっちり見ましたよ
そして光ってましたよ。
「ソラ様。どうかソラ様に無礼を働いたこの冒険者を許してあげてください。この通り心を入れ替えて一生我々には尽くすそうですし。
どうか命だけは…」
「………」
「ほら!図が高い!」
顔を上げて僕の方を見ようとするウインドさんを足で頭を踏んで地面にひれ伏せる。
こえー
「別に僕は…そこまで求めたないですよ」
「ほらお前の謝りが足らないとさ!」
「ひぃー」
うわー地面に顔が埋まってるよ
足でグリグリやるたびに地面にの花を顔面で、削っている。
「あー。もういいですよ。許します。許してます」
「あ、ありがとうございます」
「声が小さい!」
「ありがとうございます!」
ふぅ。やっと終わった。
てか、パフェさんはこんな性格だったのか。
いつも穏やかで優しかったのに、人って怒らせると怖いんですね。
僕も気をつけよう
「次はてめーらです?」
「「「ひぃー!」」」
まあ、まだ取り巻きをやるのね
ほどほどにしてくれないかな。
冒険者に絡まれた結果が予想外の結果になって焦っている。
あ、そういえば、僕がアイネモ王国の王都に着いた初日にも冒険者に絡まれたな。
争ってる本人以外からしたら可愛そうと言う感情しか抱かないな。
てか、今回のことって怒ることなのか?
正直、ウインドさんに非があるとは思えない。
あるのはパフェさんに声をかけてしまった悪運だけだ…
どんまい。ウインドさん
そして取り巻きの皆様。
その日は結局、パフェさんが冒険者を一人一人ボコボコにしていって交代の時間になってしまった。
その責任を取ってウインドさんはD班のリーダーから降りるのであった。
え?パフェさんはお咎めなしかって?
そもそも上級冒険者にタイマンで勝てる実力があることが証明されてしまったので今後ウインドさんの後任でD班のリーダーをすることになった。
まぁ、その事が罰なのかな?




