軍門の細君の憂鬱。
科の期日が迫ってきた。なんてリアルな夢だ。
市場で買いあさった書物や書架から持ち出した書物を離れに持ち込んで頭に知識を詰め込む。
文官の科は仙術の知識を問われるものと法律の知識を問われるものがあり、どちらも専門家の面接なのだ。
もう少し理系によった役職とかはないものか。数学と理科だけが取り柄だった高校1年の成績表を思い出す。
しかし武官となれば…あの義父の直属にもなりかねない。それはご遠慮願いたい。
「お勉強は捗っていらっしゃいまして?」
劉夫人が離れに夜食をもって訪れた。あの巌のような義父の細君とは思えないほど柳のようなしなやかな人だ。
「自分は法律は苦手なもので…仙術ならなんとかなるものですが」
言い訳のように夫人に応える。実際仙術は電子工学に近い。
咒力はエネルギー、仙術はそのエネルギーが通る回路を作る技術。そう考えればすんなり理解できた。徹底的な違いはバッテリーが人間なだけだ。
「仙術は我が楊家には縁が薄いですわね。早文を出す時くらいしか使いませんわ」
自動書記の仙術の応用で電報のように文書を遠方に伝える方法のことだろう。ともかく仙術はコストが悪い。使える人間が少ないし、リソースである咒力が少ない。
「黄家と縁を持つことで楊家も仙術に明るくなるとよいのですが」
劉夫人の言葉に今までに疑問に思っていたことを明白にしよう、そう決意した。
「縁といえば…開慧との祝言のことですが」
やはり仕官が決まるなり、あの巌のような義父を倒さねば叶わないことだろうか?
この世界に来て日々開慧と接することで愛着ともいえる感情が湧いてきた。彼女が望んでいるなら、俺はそれに応えたいという気持ちが強くなってきたのだ。
「でも…あの子は…」
劉夫人が言葉を詰まらせる。かなり難しいことなのだろうか?
「まだ、女になっておりませんもので」
劉夫人のその言葉に俺は拍子抜けした。
女になっていない。その言葉だけが脳裏をぐるぐるする。
開慧は女の子だ。それなのに劉夫人は女でないという。俺と年は同じくらいだろうし、成人していないといえばそうなのかも知れないが。
「まだ、御印も来てませんのよ? そんな子供を嫁に出すわけには…ねぇ?」
開慧の体型を思い出す。義父の元で鍛錬しているだけあって引き締まった四肢だが、それなりに曲線のある。
なのに彼女はまだ…
「急過ぎたようで、申し訳ない。今のは、忘れていただければ」
たどたどしくそう返すのが精一杯だった。
「いえ、お若いですもの。お考えはわかりますわ」
劉夫人の理解ある笑顔が眩しい。そんな下心があっての事ではないと言い訳したいが気まずさが増すばかりなのが目に見えている。
「でもその時が来たら…銀雄様、あの子をうんと幸せにしてやってくださいませ」
母としての言葉だろう。
「はい、微力を尽くします」
俺はその言葉に応えなくてはならない。そう感じた。




