とある書生の浪人生活。
「二度目でもこの雰囲気はなれないですね」
巨漢の書生がつぶやく。とうとう科の受講日が来てしまったのだ。
摩周は科の浪人だった。共に書架で書物を漁っていた時に細々と彼の背景を聞くことになった。
都から少し離れた郡の出で、苗字がない。しかし勉学に秀でていたため、親戚に金を出してもらい都に科を受けに来たのが去年だという。
「でも受からなくて、路銀も使い果たしてしまって…」
そこにあの巌のような義父・楊氏が出てくる。部下に摩周と同郷がいたとかで、書生として屋敷に住まわせてもらえることになったそうだ。
俺としては先輩がいて、科の詳細を聞けたり参考になる書物を教えてもらったり大助かりだった。
楊家の屋敷から歩いていける距離に役所があるのもありがたい。都から一番近い郡に行くにも徒歩なら半日はかかるほどだ。
「仙術で移動手段を作るかなぁ」
この世界の地理を理解していくにつれて移動手段の重要性を考えるようになる。
「しかし咒力はどうするのです?」
摩周の言うことはもっともだ。回復可能というだけで他のパワーリソースとあまり変わらない咒力、今のところ一般に普及しているのは自動書記ぐらいだ。
考えはなくはない、が倫理的にどうだろう?
この考えを摩周に話すのは得策ではないな、そう感じて言葉を濁した。
しかし今日は科、仙術の専門家との面接がある。この世界の俺が故郷にいた時に師に聴いたりできなかったであろうこの考えに答えを出せる仙術士がいるかもしれない。
とりあえず、受けるしかない。この世界での最初のクエストなのだ、多分。
俺は摩周と共に役所に足を踏み入れた。




