義父よ、あなたは強かった。
お世話になっている楊家は軍門だけあって3日にいっぺんの頻度で義父である楊 昌済氏の鍛錬に付き合わされる。
「婿殿、文官をお志とはいえ腕が立つほうが出世も早いものですぞ」
いかにも軍人な義父の豪放磊落な性格は娘に受け継がれているに違いない。
たまにその娘も鍛錬に付き合い、その見事な長剣の型を見せてくれる。
型に素振り、そして手合わせ。相手は昌済氏と楊家の書生の摩周だ。この書生、お前のような書生がいるかと言わんがばかりにごついし強い。市場に言った時に付き人として同行したのは彼だ。
「婿殿のような小兵はもう少し間合いを取りませんと…」
書生にこういわれるが、俺はこの世界に来てかなり背が伸びた(みたいだ)が、お前はもっと背丈がありごつい。俺が小兵だったらお前はなんなのだ。
「婿殿、もう一本!」
義父の誘いには応えねばならない。本日3本目、ルールは木剣が体に触れたほうが負け。しかしその「触れる」が「ちょっとした痣が残る」程度のものなので鍛錬でこのダメージはたまったものではない。すでに摩周との手合わせもあって体には3箇所も痣ができている。
巌のような体の義父と向かい合う。
この世界の俺はそれなりに武術の心得があったらしいが、剣なぞ高校の剣道の授業で3回竹刀を触った程度の俺はこの義父に木剣の端も当てられるわけがない。
木剣を構える義父の「圧」は凄まじい。やっぱりこの人は俺に娘をくれてやるのは嫌で嫌でたまらなくて、隙あらば鍛錬中の事故として俺を亡き者に…。
少し思案して俺は動いた。踏み出した左足を軸に相手の右に回りこむ。いままで真っ直ぐ突っ込んで行ったからすぐに決着がついていた。相手の側面に回り込めば勝機もあるのではないか?
義父の右肩に木剣を振るう、が流石に読まれていたのかその峰で受け流されてしまった。
すぐに体勢を立て直さねば…と思っていたところにわき腹に重い感覚が。義父の木剣の柄が見えた。
「少しはやるようになりましたな、婿殿」
喰らった衝撃にひざを突いた俺に義父が言う。どうも最適解を出してたらしい。
「摩周!今日は仕舞いじゃ!」
「茶の用意ができているようです」
庭を去る巌のような背中を見る。
開慧が「祝言を挙げられない身」と言ってたのを思い出した。あの巌を崩さなくては祝言を挙げられないのだろうか…。
武術以外であの巌を崩す方法を検討すべきだろうな。




